239 先生、私の発言が今朝の夢日記と一致してるって?
僕は動き出したバスの中で、お題カードを慎重に選んでいた。
「ちょっと、いつまで選ぶつもり?」
「いや、だって……」
変なの引きたくないもん。
そんな考えが滲み出てしまったのか、しびれを切らした馬場さんが「早く」と急かしてきた。
「早く、早く、早く、早く、早く」
馬場さんの声で集中力が……!
あーもう! これでいいよ!
僕は適当に一枚引いた。
そのカードに書かれていたお題は……
陸・・・お題カード、『朝のルーティーン』
なんだ、よかった、簡単じゃないか。
僕はホッとし、朝のルーティーンを話した。
「朝は基本的に六時起きで、起きたら洗濯物と朝ごはんを……」
そうやって朝のルーティーンをしゃべると、馬場さんが「大変なのね……」とつぶやいた。
僕が話し終えると、馬場さんが袖を撒くった。
「次は私の番ね! よーし……」
そう言って馬場さんが選んだカードは……
輪音・・・お題カード、『先生に言われた”謎すぎる一言”』
「ムズイ……」
輪音はカードを見た瞬間そうつぶやいた。
先生に言われた一言、しかも『謎すぎる』でしょ? そんなのパッとは思いつかな……あ、あった。
「ああそうだ、この前音楽の田村先生に言われたんだけど……『馬場さん、君の発言、今朝読んだ夢日記と一致してる。何か知ってるね?』って……」
「うわぁ……やっぱアーティストって変わってるのかな? 佐藤どう思う?」
「え? さあ……。でも、それは先生のキャラ作りって可能性もあるよ。思いつくのは永遠の中二病とかだけど……」
「まだあるわ。家庭科の鈴木先生に言われた『馬場さん、あなたの席だけ時間が“尊い”で止まってるわ』とか……」
「こわっ」
「ホラーじゃん」
「ホラーで言えば、『馬場さん、君の机から“概念”が漏れてるよ。ちゃんと蓋してね』とか、『このプリント、君の推しに渡しておいて。……君の脳内で』…………ちなみにそのプリントの内容は、謎の怪文書だったわ」
「で? 輪音はその推しに渡したのか? 脳内で」
「まさか。あんなよく分からない文章、私の尊き推し、東条稔様に渡せるわけないでしょ? 東条稔さまは怖がりなんだから」
「あ、馬場さんは推しの事をフルネーム呼びなんだね」
陸は先生の謎発言を聞いて(馬場さんって不思議だなぁ)と思った。
啓介(本名、鬼桜啓)・・・『隣の人の第一印象と今の印象』
啓はそのカードを見て、一瞬困った。
隣の人……輪音か。第一印象……。
「輪音の第一印象は、校則って概念知ってるかな? で、今の印象は、腐ってる……だけど?」
「酷いわね。じゃあついでに、陸くんと淳の印象も!」
え!?
啓は今度は本気で困った。なぜなら、本音で答えられないから。
本来なら陸の護衛である彼の陸の第一印象は『この人を守るのが仕事か……』だが、そのまま伝えれば怪しまれる。
「うーん、西村の第一印象は、えっ赤髪だ、珍しっ! で、今の印象は、赤髪地毛なんだ……。淳の第一印象はなんだこの失礼なやつ、今の印象はそう言えばこいつも赤髪だな」
輪音は頬を膨らませて「つまらないわ」と言った。
淳・・・『今までで一番“勇気を出した瞬間”は?』
淳は顎に手を当てて考えた。
うーん……。今までで一番勇気を出したのは……。
淳がパッと思いついたのは、部屋に忍び込んだ愛莉から逃げる時だ。
ただ、そのまま伝えれば怪しまれる!
「うーん……父親と大喧嘩して、そのことを謝るときかな……」
もちろん、父と大喧嘩なんてしていない。そもそも喧嘩できるほどの距離感にはしていない。
「そうなの。つまんない」
「あはは……」
ナ「馬場さんこわ……」
いや怖いのは先生でしょ。絶対おかしいって。
白「この会話、二年ズは入ってこないの?」
作「二年ズとは、永来君とヤムくんの事です」
ああ、入ってもいいかもね。バスの中では自由行動とか。でも陸たちはもうやったし……男子チームの会話にでも入ってもらおうか。次回、240話、男子チームと二年ズ。