237 猫殺しの常習犯、その弟と兄の影
「さ、桜井……?」
僕は驚いてその場に立ち尽くすしかできなかった。
佐藤を見ると、コクリと頷いていて、本当に弥一さんのいとこの息子はこの学校にいたらしい。
佐藤とヤムさんを交互に見ると、ヤムさんに気づかれて「なんですか?」と聞かれた。
「いや……その、ちょっと聞きたいことが――」
聞きたいことがある、そう言おうとしたとき、廊下の奥から「あ、いたいた、陸ー」と、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
こ、この声は……!
僕は苛立ちを隠せず、勢いよく後ろに振り返った。
「もー! 邪魔しないでよ兄さん!」
「え? ああごめん。なんか重要な話だった?」
そこに居たのは僕の兄、西村空。
サッカー部、野球部、バスケ部など……数々の運動部を兼部し、その中でも常に上位の座を維持しているため、スポーツの神に愛された者と噂される男。
おまけに、両親が元アイドルだからか顔が良く、世界的に見れば珍しい赤髪赤眼。
はぁーあ、兄さんさえ来なければ弥一の情報が手に入ったかもしれないのに……。今日はついてないなぁ!!
そんな兄さんは、ヤムさんを見るなりピタッと動きを止めた。
「緑がかった髪に、赤色のカラコン……桜井漆雅?」
うわっ、まーた新しい名前が出てきたよ。誰? その人。
「……兄さん、知ってるの? この人」
「いや? 全然」
「なんなの?」
僕が兄さんと話していると、そこに光莉が割って入ってきた。
「はいはい。喧嘩になる前に止めさせてもらいますけど、何言ってるんですか? この人……桜井さんは漆雅なんて名前じゃないし、そんな真っ青になっちゃうほど怖い人でもないよ?」
光莉の後ろで、葵がコクコクと頷いてる。
あ、そうだっけ? 光莉と葵はヤムさんと同学年だった……のか。
「いやそりゃそうだけど……。そっか、君は弟の捌夢くんか」
「漆雅って人……知り合いなの?」
「……今からニ・三年前に死んだ人らしい。俺も部活の先輩から聞いたからよく知らないんだけど、どうやらその漆雅って人、猫殺しの常習犯だったらしいんだよ。……それに、その時のクラスメイトの弱みを握ってて、駅のホームで人を線路に突き落とさせてたらしいよ。まあ、ほんの噂だけど」
その言葉を聞いて、僕は思わずゾッとした。
「それなのにその漆雅さんのごきょうだい、精神を病むわけでもなく……。特にお兄さんは、今も元気にこの学校の生徒会長やってるんだから、すごいよね」
生徒会長と言えば……桜井翔伍先輩か。
とその時、授業のチャイムが鳴った。
ヤバッ、もうすぐ授業は始まるじゃん、という事で、その日は解散。
弥一さんの事については何も聞けずじまいというわけです……。
白「猫殺しの常習犯だなんて猫がかわいそうだろうがあ゙゙あ゙゙ん゙?(ドズ黒い声」
ちなみに、完全犯罪だったらしいよ。警察も彼が犯人だとは気づけなかった。それなのに彼が猫殺しの常習犯だと分かったのは、彼の遺品整理の時、彼のきょうだいが見つけた彼の日記。その日記に書かれていたんだよ?
白「その完全犯罪もできる天才さを猫殺しに使うなよ!」
ナ「翔伍、漆雅、捌夢……。これって、5、7、8じゃない?」
ん? さすがナレーターさん。これは昔の数字……なのかな? そうだよ。彼は八人きょうだいです。
作「八人かぁ……。他のきょうだいの名前は?」
うーん、この後に登場するかもだから教えたくないなぁ。登場しちゃったら一発で彼のきょうだいだってわかっちゃうでしょ? だからダメ。
作「チッ」
は?