233 母さんからの難関問題『桜井弥一について調べろ』 章終わり
そして、もやもやしたままキャンプが終わり、下山。
車に揺られながら、僕は小声で、隣に座る母さんに聞いた。
「ねえ母さん、弥一って誰?」
母さんは何も知らないかもしれない。でも、知っている可能性もあるという思いで聞いた。
すると母さんは、目を見開いてこちらを見た。
「え……陸、なんでその名前を知ってるの?」
「昨日、トイレに行こうとしたら父さんがつぶやいてた」
「ああ……なら何も知らないのね? じゃあ、これ以上の詮索はやめた方がいいわ」
「でも……」
僕が珍しく簡単には引かずに聞き続けることに興味を持ったのか、もしくは折れたか。
母さんはため息をついて、僕の耳元でささやいた。
「わかった。そこまで言うなら教えましょう。……でも、すべては教えません。これは、母さんからのテストです」
「テスト?」
「答えが知りたければ自分で調べて、答えが分かれば母さんに言ってみて? 採点をしてあげる」
母さんはニヤリと笑った。
僕は勉強はできる方だけど、そういう調べもの系はあんまり得意じゃないし……何よりヒントが『弥一』という名前だけじゃ……。
「おっと、ヒントは名前だけじゃないわ。そこまで鬼畜じゃないわよ。そうね……弥一君の名字は、『桜井』。桜井弥一」
桜井……。
「でも、ヒントが足りないよ母さん」
「じゃあ、ヒントは答えを教えた後、答えが間違ってたら追加で教えます。それと、人に聞くのもいいけど、水上紀章のように、鏡くんの部下は基本的にダメ。鏡くんにバレたら調べられなくなる。闇に葬られるわ」
でも、と母さんは付け加える。
「淳君は大丈夫じゃないかしら? すでに支配下から逃れているから。あとは……そうね、啓さんなんかどうかしら。陸の知ってる名前で言うと……安藤君。でも、彼も難しいのよね……。もしかしたら見方じゃないかもしれないから、慎重に」
「は、はい」
桜井弥一……。忘れないようにしないと。
それに、今確定で味方なのは佐藤だけか……。
僕は脳内のメモに『桜井弥一』と書き込む。
すると、母さんが助手席に座る父さんに向かって声をかけた。
「鏡くーん、せっかくだからお土産買って帰らないと。私、会社の社員にお土産渡す約束しちゃったのよ~……」
「え? そうなの? じゃあ買いに行こうか」
「うん! どのくらい買えば足りるかしら……」
「どうだろう、結構いるよね……」
「そうね! 前みたいにお店の在庫全部買わないようにしないとだからね……」
僕は会話を聞きながら、そんなことがあったのかと驚いていた。
ナ「!!?? 弥一君の名字って、桜井なの!!?」
いや、同じ血筋かどうかはまだ分からないけど。
白「どうしたの?」
ナレちゃんは過去に、桜井姓に会ったことがあ――って、何言わせんじゃい!
ナ「こんなにも理不尽なビンタ初めてだ!」
作「今日はテンション高めだね! 何があったの!?」
うん! 今日、いつも行く本屋で買いたかった本を見つけられたからうれしくて!
ナ「そのハイテンションのせいで俺は叩かれたの?」
作「まあまあ、ナレーターさんはそういうキャラでしょ?」
「いつの間にそんなキャラにされたんだよ」(Byナレーター)