229 杠
「それで? 年齢と初恋は?」
「『その年齢っちゅうんは死亡時でええんやな?」
「あっ、あと死亡理由も」
「付け加えんなや。なんでそんなことも話さなあかんの? 恋バナだけにしときぃや』と言っているの」
「……ならいいわ。年齢と初恋をどうぞ」
筮がため息交じりに言う。
五番は『命令すんなや』とつぶやきながらも渋々年齢を言った。
「『……たしか十三か十四や。初恋は……恥ずかしながら、死んだ後やねん』」
「後?」
「『せや。生きとることは親父と一緒に世界中飛び回っとったから、恋愛なんてしとる暇なかってん。志望理由は言いたないけど、親父の仕事にやっと一息ついて日本に帰ってきたところで死んでしもたから、こっちでも好きな人は……』……の? 六番、彩の勘違いかもしれないけど、なんとなく初恋相手分かる気がするの」
「え!? 彩華さんも!?」
彩華に声をかけられた桜子は驚きの声をあげる。
もちろん二人だけではなく、白銀も、彩華越しに聞いてる七番も清華にも、瑞祥の恋には心当たりがあった。
「『旧、七不思議三番の、杠っちゅう奴や……』」
きっと今瑞祥がここにいるならば、真っ赤になった顔を両手で覆っているだろう。
「杠? 珍しい名前ですね」
「彩もそう思うの。どうなの五番?」
鏡は彩華につられて彩華の肩に乗るアルバトロスを見る。
「えーっと何々……なの『ゔ……も、もうええやん話したんやからーーー!!』……だそうなの。――の!?」
すると突然、アルバトロスがテントを飛び出した。
鏡は
(照れたのかな?)
と思うと同時に、いつか自分にも飛び火が来るんだろうなぁとあきらめの表情を浮かべていた。
・・・
「さて気を取り直しまして! 次は彩華さ――じゃなくて七番さん! お名前と年齢と初恋をど――」
「嫌なの」
筮に言われて即答した彩華に、桜子からのブーイングが襲う。
「ブ~、彩華さんには聞いてないですぅ~。七番様に聞いてるんです~」
「………………七番様曰く、彩華はともかく、なんで俺まで話さなくてはならないんだ? だそうなの」
「いやそんなこと許しませんよ!? 俺だって好きでここにいるわけじゃないですし!!?」
「そうよそうよ! 私と鏡くんは半強制的にここに連れ込まれたのよ!?」
ついでに、冷静さをギリギリで保っていた鏡と凪の怒りも爆発。
しかしそこで、筮が裏切る。
「まあいいです。もともと七番さんにはあまり期待していませんでしたし……それなりの理由もあるのかもしれませんしね。じゃあ、せめて名前くらい――」
「無理だ――なの」
「そうですよね~。じゃあ初恋の話に変わる面白い話してくださーい」
「面白い話? ……それも無理……だと思う」
「は? 何もできないんですか? じゃあいいですなんでも。心配事とかないんですか? ま、七不思議最強の七番様に、心配事なんかないんでしょうけど――」
「ある。……心配事ならある。それでいいなら」
「え、七番様悩みあるんですか? 意外です」
桜子が純粋な驚きを見せ、白銀に「白銀も知らなかったよね? 七番様の悩み」と聞いていた。
ナ「杠ちゃんってどんな子? 美人? 何が得意?」
うわっ、ナレーターさん、悪いけど、ナレちゃんには教えられないよ。……また、『ナンパ』するつもりでしょ?
ナ「なん……ま、ナンパと言っちゃナンパだけどぉ……」
白「私が代わりに教えましょうか? 杠ちゃん、とってもいい子だったから。それに、五番の瑞祥君とも仲が良くて、でも杠ちゃん、今は――」
ストップストップストーップ!! 何も言わないで! ナレちゃんが何するか分からないから!
ナ「俺の事女の子なら何でもいいチャラ男みたいに言わないでくれる!!?」
作「まあまあナレーターさん、私もキキの言いたいこと分かるよ。どうせろくなことしないんでしょ? 正直に言いなよ」
楽になるよ。
ナ「何もしないから! ………………場合によってはね」(ボソッ)