222 スキー場の思い出
「――ん?」
鏡は焚き火で燃やす薪を持ちながら東側にある山を見ていた。
それを鏡の隣にいた安藤こと鬼桜啓は疑問に思い、「どうしたんですか?」と聞いた。
「いや……ねえ筮、あの山って……」
「え? ああ、冬はスキー場として使われてるみたいね?」
スマホを見ながら答えた筮に「ふぅん……」と返し、鏡は長すぎると判断した木をちょうどいい長さに折った。
「あのスキー場、行ったことあるの?」
「いや……俺たちは、あの山にはなるべく、近寄らないようにしてて……ねえ凪」
「ええ、あんまり……行きたくなくて」
言葉を濁した二人に、筮は少し腹を立てた。
「……それにしても、鏡さんは私の目を見て話せるようになったんですね。前は見れていなかったのに」
「え!? あ、ああ。………………大丈夫になったんですよ」
そう言って鏡はぎこちなく微笑む。
鏡はそのまま地面に置かれた長すぎる薪を拾い、バキ、と折った。
「今までは克服する必要性はなかったんですけど、いろいろあるので、ね。克服したんですよ。……啓さんにも手伝ってもらって。ほんと、二度とやりたくなかったんですけどねぇ……」
――バキ
鏡に名前を呼ばれた啓は一瞬こちらを見たが、何の話か理解すると、自分の左目の少し下を、優しく指でなぞった。
――バキ
鏡も鏡で一瞬悲しそうな眼をした後に、「まあ、これであと数年は大丈夫でしょう」と言って笑った。
――バキッ!
さっきよりも大きな枝の折れる音が響く。
彼は膝で枝を折りながらも、笑って。下を向いているせいで顔に影がかかり、暗く見える笑顔は、影のせいなのだと筮は必死に自分に言い聞かせた。
長い薪を折り終えた鏡は筮に言った。
「そうだ。あとであの山によりたいんですけど、できますかね?」
山を指さして聞く鏡に筮は少しムッとして、嫌味っぽく言った。
「媿野家が持つ会社の権力を使えばそのくらい何とかなるんじゃないですか?」
冗談で言ったつもりだったのに、鏡は苦笑いを浮かべて
「そうですよね。ごめんなさい」
と謝った。
彼はそのまま折った長い枝と、折らなくてもいい枝をまとめ、運ぶために持った。
するとその枝から虫がニュッと出てきた。
「ん? うわっ! 虫!」
思わず鏡は薪をすべて落としてしまい、思いもよらぬ虫の登場で腰を抜かした彼はしりもちをついた。
意図せず注目を集めてしまった彼は、頭の後ろに手をやって「あはは、恥ずかしいなぁ」と苦笑いを浮かべた。
作「あの山、確実に何かあるね」
おや? 鈍感なさくちゃんまんでもさすがに気づいたかぁ。
作「さくちゃんまん言うな!」
白「まあでも、あんなに暗い演出されたら誰だって気付くよ。
………………。
白「あれ? 今日はナレーターさんしゃべらないね」
ああ、彼なら……。私、221話で彼にパワハラしたでしょ。
作「うん」
あの後、あんまりにも彼がうるさいもんだから腕挫三角固決めたった。だから今腕痛めて家で寝込んでるよ。
白「え? でも大の大人に義務教育中女子が敵うとは……」
私は創造主だぞ? ナレーターさんを動かなくすることも小さくして潰すことも可能!
作、白(怖っ……)