213 鬼桜啓の暴走
三話目! ぴーす!
「はっ、はぁ……く、来るな!」
媿野本家、部下により『鬼桜啓』が暴走状態だと聞いた当主、鏡と筮、淳の三人は部下の案内について行き、鬼桜啓がいるところまでやってきた。
三人が連れてこられた部屋の奥で、震える手でハンドガンを構えた安藤啓介……もとい、鬼桜啓が立っていた。
「もうこんなとこうんざりだ。親も、親戚も、知り合いも全員! ……俺の事を道具としてしか見ていない。俺だってこんなことしたくない。……でも、こうするしかないんだ。じゃなきゃ、っ俺は一生、道具のまま……」
啓の目から光が消え、呼吸が浅く、不安定になる。
その様子を人影から見ていた鏡と筮の二人は、顔を見合わせた。
「……どうするのあれ」
「どうしようねぇ……いつもはあんな様子ないんだけど、隠されてたのかなぁ?」
「それにしても道具、ですって。それで? 今後の部下への対応を見直さなきゃね、当主様♪」
「……まだ、自白剤の効き目は切れてないみたいだね」
この二人、同級生感あるよなぁ……。
淳は、その会話を聞きながらそう思い、少し呆れた。
その時淳は思わず「あ」と声を漏らした。
その視線の先には、七不思議・六番の桜子と、鏡の妻、凪がいた。
騒ぎを聞いて駆けつけてきたのだろう。
「何があったんですか?」
「鬼桜さんが暴走!? ……どうしよう鏡くん」
状況を聞かされていないのか状況を理解できていない桜子は淳に問う。淳はしゃがんで桜子と目線を合わせた。
その横で、凪が真っ青な顔で鏡に語り掛けている。媿野家当主の妻ともあろうかたがあんなに真っ青な顔をするのはよほど大変なことなのだろうと、筮は察した。
鏡も筮と話してる時とは違い、珍しく眉をひそめていた。
もともとここにいた淳なら分かる。筮の時と反応が違うのは、部外者に今がどれほどマズい状況ないのか悟らせないためだ。
そんなことを説明してる間に、啓の暴走は頂点に達し、手から銃を落とした。
その銃の落ちた音で鏡たちは啓の方に視線を戻す。
「だ……めだ、俺には無理だ。こっ、殺すことなんか……できない!」
「お、落ち着け! どうしてそうなったんだ? 教えてくれないか?」
一人の男が、ゆっくり、啓に近づく。
その時、鏡が何かに気づき、そのことを凪に耳打ちした。
凪はなるほど、とでも言うようにうなずき、その数秒後に鏡と顔を見合わせて首を傾げた。
「く、来るなって言っただろ!」
「すっ……みません」
啓はどこかから果物ナイフを取り出し、男の方に突き付けた。
そのナイフは暗い部屋の中でも、廊下の明かりを反射しキラリと光る。
男は思わず、一歩後ずさる。
だが啓の呼吸はさらに荒くなり、果物ナイフを持つ手の力が緩んだ。
「でも……でも、ここでやらないと、一生――っう、うわああァァァァ!」
突然啓が叫び、持っていた果物ナイフを自分の左手首に刺そうとした――その時。
「あっあの!」
その場に、少女の声が響きわたる。
「死ぬ必要は、ないと思います」
桜子が、啓に話しかけた。
啓は「……ぇ?」と小さく声を漏らす。
「だって、だったらそこにいる当主? さんに直接言えばいいのに、なんで解決しようと努力する前に諦めて死んじゃうんですか? ――死んだ後に、後悔し続けることになる方が、つらいのに」
桜子は顔をしかめた。
死者である桜子は、ずっと、見てきた。
残された家族が、友人が、どれほど悲しむのかを。
啓のような学生なら、教師から友人の死を告げられた生徒が、過呼吸になったり、自殺したりしていくのを、七不思議として見た。
生きてるやつにはわからないだろう。
生きられる、生きていられる、生きていいと肯定してくれる家族に、恋焦がれる怪異はいっぱいいる。
そんな奴らの苦悩を知らないとはいえ、ムカついた。
何を自分の事を棚に上げて、そう思う者もきっといる。
でも――それでいい。人間とはそういう生き物なのだから。ましてや、桜子は怪異なのだから。
と、桜子が怒りの炎を燃やしているとき、啓ははぁ~とため息をついて床に座り込んだ。
「はぁ~、もういいよ」
啓が、今までの様子が嘘みたいにそう告げた。
「……へっ!?」
桜子は思わずそう言った。何が何だか理解できない。
混乱してる間にも、啓は両手をあげて観念したように笑った。
「まあいいや。――時間稼ぎは、できただろうしね」
そこにいる全員が、?、と思った。
そんな皆の混乱をよそに、啓はぐちゃぐちゃになった髪を整えながら淡々と告げる。
「もちろん、生鏡様と凪寽様の脱走の手伝い。追っ手は数人行ったけど、今頃二人につけられたGPSを頼りに探してるだろうねぇ」
本家に連絡しようとしても、本家は本家で俺が暴れてたしね、と言って彼はケケケと笑う。
ちなみに言えば、鏡&凪夫妻はなんとなく察してた。
彼が人を殺すことに対する『躊躇い』を見せたときに『何かおかしいな』と思ったのだ。
凪と鏡が視線を交わした時、啓の行動が計画であると気付いた。
それは彼の性格や彼本人から語られている過去の行動から判断できるものだった。
彼は、現在の来夢、海斗、淳の四人の中でも、一番、悪人に対する躊躇がない。
そんな彼が、あんなことを言うはずない。これは、この計画を立てた生鏡のたった一つのミスだった。
そういえば当主って、ナレーターさんにちょっと似てるよね。
ナ「どこが? 全然違うと思うけど?」
白「例えば?」
たとえば、異母兄弟がいるところとか、親に好かれてないとか、あと……ちょっとヤバいやつって事。
作「えっ?」(フリーズ。いつの間に私の作ったキャラクターにそんな設定加えられてたんだ)
ナ「はあ!? 俺ヤバいやつじゃないし~」
いやね?(話題そらし)もともと彼に親友がいて、その親友は雪山の事故で死んでしまうって設定はもとからあったんだけど、物語を作るうえでその死因がつかえなくなったからちょっと変えたら、当主がヤバいやつになったってわけ。
作「どんなわけだよ……」
白「で? その『ヤバイ』はどんなヤバいなの?」
オキュロフィ――あッ違うこれはネタバレだ。う~~……ん……特殊性癖?
(これはちょっとだけ物語の核心に迫る部分だから、詳しくはいつか山に出かけたときに、明かされるよ!)
ナ「俺そんなヤバイ性癖持ってな――」
え?(圧)
ナ「うっ……俺のは純愛だし!」
………え?(混乱)いや、ナレーターさんのは狂愛――
ナ「――じっ、次回214話”たくらみの成功”」