211 怪異のアイデンティティ
この三連休万博なので、三連休分(三話)先に投稿しておきます。
一話目
僕は洗濯籠を持って外に出て、空を見上げた。
太陽の光が眩しく、思わず手で光を遮った。
指の間から、眩しい光が差し込んでくる。
もわっとした暑い空気が、僕の体を包んでいた。
「……今日も特別暑くなりそうだなぁ」
全くいやになる。早く洗濯終わらして、中に戻ろう。
そう思って僕は、籠の一番上にある服を引っ張った。
数分後・・・
「洗濯物干してるんの?」
そう言って兄さんが玄関から顔を出し、こちらに歩み寄ってくる。
今日はいつもより洗濯機まわす時間が遅かったから、そんな質問をされた。
……そう言えばこの前、桜さんにも同じような質問をされたな。
・・・
「洗濯物干してるんですか?」
物陰から顔を出した桜さんが、小走りで近づいてくる。
そしてこてんと首を傾げた。
「でもなんで陸さんのお母さんがやらないんですか? お父さんには会ったことありますけど、お母さんには会ったことないです」
「うちの親は共働きでお金を稼いでるんだけど、まあ、二人の性格でしょ? 父さんは家に戻りたくなったら部下に仕事を押し付けるか先に片づけるか。母さんはやると決めた日にやるタイプだから」
「そうなんですね……。それにしても共働きとは、お金が足りないんですか? それなのに頻繁に洗濯機を爆破されるとは。……大変ですね」
「いや別に戦後と同じように芋とかしか食べれてないわけじゃないから、哀れまないで……?」
やっぱり、生きていた・生きている時代が違うと、やはり感性も少しズレてくるって事が分かった。
あ、違う違う。兄さんと話してたんだった。
「……兄さん、どこか行くの?」
「ん? ああ、ちょっとね。シャーシン無くなったから買いに……あ、そういえば、桜さんの服ってあれしかないけど、どうする?」
兄さんは思い出したようにそう言った。
服? ……あ、そうか。
「桜さんの服ってあれ一着しかないもんね」
僕は桜さんの服を思い出す。
「それでこの前、そう言ってみたんだけど、こう言ってたんだよね……」
『……別に、服はこれで十分です。それに、一着しかないわけじゃありません。『えみ』という”怪異”はこういう服を着た怪異ですから、これが一番落ち着くんです。ほら、花子さんがおかっぱに赤いスカート以外を着ているイメージはあまりないですし、変な感じしませんか?』
なるほど……? つまり、『えみさん』という怪異は、その服も加えて『えみさん』ってこと?
しかし僕が見るに、桜さんが遠慮しても、兄さんが納得する様子は今のところない。
近いうちに、また言われるだろう。
「それにしてもあの服、デザインが古すぎるよ。それに、この前桜さんと散歩に行ったとき、虐待か? ってちょっと変な目で見られたのに……本人は気づいていなさそうだったけど」
そう言ってため息をつく兄さんに、僕は少し苦笑した。
確かに桜さんは、少し薄汚れた服を着ている。
それに、今は夏だ。布が薄いとはいえ、長そでを着ている子供はあまり見ない。
それは、服を買ってもらえないようにも捉えられるわけだ。そう見られても仕方ないのかも。
「さすがに、白銀? さんは気づいてたでしょ? 佐藤淳を助けた時、俺らと年の近い女性の姿だったんだから」
兄さんが振り返ると、そこには桜さんの蝶、白銀が飛んでいた。
心なしか、白銀は驚いているように見える。自分が話しかけられるなんて思わなかったんだろうな。
蝶はひらひらと飛び回る。そんなことはない、とでも言うように。
兄さんはがっかりしてため息をついた。
「そうなのかー、確かに、あの時白銀さんは子供に追いかけまわされて大変そうだったもんね」
蝶にも蝶の苦悩がありそうだ……。
♢ ♢ ♢
「……ってきまーす」
数分後、兄さんはある程度話をした後にシャーシンを買いに行く。
雑な『行ってきます』を聞き届けて、その背中を見送った。
兄がいなくなった後、ただひたすらに蒸し暑い空気に触れながら、洗濯物を干している――。
「………………」
……まあいい。そんなどうでもいい事考えてる暇があったら、さっさと終わらせて涼しい部屋で本でも読もうっと。
ちょうど佐藤に借りた本があったんだよね~。名前は確か……『奴隷、ミアの月下物語』だ。
その後、洗濯物を片付けた僕は、二階の部屋で佐藤に借りた本を読んでいた。
ミアは空を見上げた。そこには、満天の星空が広がっていた。キラキラと輝く夜空の星が、ミアにエールを送っているようだった。
心地よい風が吹く。
「……フフッ」
自然と声がこぼれ、無意識に頬が緩む。奴隷だった彼女には、身寄りも、金も、何もない。それでも、生きようと思った。
それに、まだこの国にはほかの奴隷たちが星の数ほど――ん?
そこで僕は、何かの気配を感じた。
ふと、洗濯物の様子が気になり、窓から覗いてみる。
「――あっ」
桜さんの布団のシーツ……落ちてる!
そして僕は、シーツを拾いに下に降りた。
地面に落ちたシーツを拾い、土をはらう。玄関に戻って、ドアに手をかけた、その時――
「兄上っ!」
後ろからの大きな声に驚いて、僕は振り返る。
――そこには、大きく、重そうなリュックを背負った、赤い髪の少年が立っていた。
少年は玄関柵の隙間から細い腕を伸ばし、こちらに手を出していた。
「逃げましょう兄上。ここにいてはいけない!」
「――はっ」
はあぁぁぁ??
ナ「誰? あいつ。兄上って、人違いじゃね? ほんとに弟?」
ノーコメント。
白「というか陸が読んでた小説、地味に気になるね」
今回は弟(?)に邪魔されてしまいましたけど、ね。
作「その弟(?)が逃げようと言ったわけは!?」
謎。
ナ「謎?」
白「謎なの?」
謎だよ?
作「だから! その謎を解き明かすために、次の話を書いてください!」
えー? ぃや。
作「ヤダじゃない! 次回、212話『(212話書き終えたら埋める空白)』。