209 自白剤の効き目
投稿遅れてすみません。父の手伝いで車の中で作業してました。汗だくです。
困りました……。
私の名前は江見桜子。七不思議の六番です。
第二次世界大戦の核爆弾で死んだ、四歳の女の子です。
そんな私は今、一応偉い人に頭を撫でられています。
「いやーんかわいー!」
「お、奥様……」
「その方はお客様のお連れ様で……」
「何よ、当主である鏡くんに許可が取れたからいいでしょー?」
「「で、ですが……」」
頬を膨らませる女の人に、眉を下げて話しかける着物の女性二人は、顔を見合わせ、数秒目で会話してから、逃げるように部屋を出て行った。
……どうしましょう。私、四歳のフリをしろと筮さんに言われていたのですけれど、逃げ出したい気分です。荷が重すぎます。
誰かー、助けてくださーい。
……なんて、心の中に話しかけても、私の心には私しかいないので、返事なんてありませんよね……。
「ね、あなた」
涙目になりそうになった時、奥様と呼ばれていた女の人が話しかけていた。
「お名前なんていうの? 私は凪。媿野凪よ」
きの……。
筮さん曰く、『媿野』姓は、ここで一番偉い人の名字らしい。そして、媿野を名乗る人は全員、陸さんの親戚だと。
「あ、えと……」
子供のフリ子供のフリ……あっ、橘? っていう人と会ったときに使った猫かぶり術があった!
「さ、桜のお名前は、桜子っていうの~」(棒)
「そう、桜子ちゃんっていうのね~。今何歳?」
「よ、四ちゃい!」
指を四本立ててナギさんの前に突き出す。
ナギさんは一瞬驚いた顔をしたけど、やがて悲しそうににこりとほほ笑んで言った。
「……そう」
私は固まった。
なんでそんなふうに笑うのか、わからなかったんです。
どうせなら、もっと幸せそうに笑ってほしい。
一瞬、人間だったころの母の笑顔がぼんやりと浮かんだ。
お金もご飯もないのに、骨の浮かんだ顔で無理に笑っていた。
その時、一つのふすまがゆっくり開いた。
ふすまの間から、綺麗な長い黒髪を持つ高校生くらいの女の人が覗いていた。
「あの……凪様……」
凪様? 他の人の奥様呼びと違う。なんででしょう。何か特別な立場なんでしょうか?
……あ、もしかして、親戚とか。
「あら和歌ちゃん。どうしたの?」
「実は、妹の咏が、凪寽様と喧嘩してしまって……。大したケガではないのですが、わたくしどももっと早く気づけていれば……申し訳ございません」
そう言って和歌と呼ばれた女性は深く頭を下げた。
ナギさんはきょとんとした顔をして首をかしげる。なぜ謝るのか、と顔が語っている。
「喧嘩の理由は何なの?」
「おやつの取り合いです。もう少し多く用意していれば」
「いいのいいの。結局食べ過ぎてご飯食べられなくなっても困るし、これも大事な人生経験。でも、凪寽はお説教ね。でも私今忙しいから、勉強させるか運動させるか、どっちかにして」
「わかりました。咏にも言っておきます」
そしてもう一度頭を下げ、和歌さんはいなくなった。
だれもいなくなった部屋で、私はナギさんに聞く。
「なんでお説教するんですか? おいしいものもっと食べたいのは当たり前なのに」
「……ああ、まあ、確かにね。でも、凪寽たちは、誰かに何かを譲れる精神を持たなきゃダメなの。……そうするのが、二人のため」
そう言って彼女は、一度目を伏せた。
「でもまあ、桜ちゃん随分大人っぽいのね。四歳児には見えないわ」
ギクッ
「……桜ちゃん?」
「……何にもないよ。あはははは……」
……私、こんな調子で大丈夫かな……?
――さあ、――本題に移りましょうか――。
「本題って……というより、なんで自白剤飲ませたんですか!? そんなことしなくても隠し事する気なんてありませんよ!」
「いやいやあったでしょう。今、貴方の完ぺきだったポーカーフェイスが崩れているのがその証拠だ」
佐藤は確かに、と納得する。
それとは反対に、筮はしまった、とでも言うように目を見開いた。
「あはははは! 面白いですねぇ、自白剤を飲ませなかった時は今より随分大人に見える。薬を飲んでやっと年相応に見えてきました」
大笑いしながら話を続ける当主は、自白剤を飲ませたら多少は年相応の落ち着きを得るだろうか……。
「ちょっと、それじゃあ何のために私はここに呼ばれたかわからないんですけど。目的がないなら、ちょっと質問してもいいですか?」
「あーお腹痛い。ああ、質問か……別にいいけど?」
当主は涙をぬぐいながら筮さんに質問を許可した。
「ありがとうございます。早速ですが、佐藤くんはどのような立場だったのですか?」
「おお……。自白剤のせいか隠す気がなくなってきたね」
そう言って鏡は苦笑いを浮かべた。
「そうだなぁ……ま、淳君だけじゃないよ。淳君の立場は、次の当主の側近。今は、当主の側近として働くための訓練……練習? みたいな感じ。実際、今の僕の側近たちも、僕の親のそばに使えてたみたいだしね」
「なるほど……では、その側近は何人なのですか?」
「四人から六人。そのうち四人がSP兼……いや、側近というより従者かな? SP兼従者。他二人が……ごめんね、説明は苦手で」
そう言って鏡は眉を下げ、頬をポリポリとかいた。
「ほお……。では、SPの四人は誰と誰と誰と佐藤くんですか?」
「……それは、リーダーの鬼神谷来夢、鬼屋敷海斗。今はもういないけど、河東藤……が偽名だった、鬼嶺滝淳」
「へー……」
筮さんはそうつぶやいて佐藤を一瞬見た。
そういえば、偽名と本名について話してなかったな……。
「………………」
「………………」
数秒、部屋を沈黙が包む。
「いやなんか喋れよ!」
「ええ!? 今あなたが喋るターンでしょ!?」
筮のツッコミに、鏡は驚く。
「いやいや、SPは四人ですよね? 来夢、海斗、淳くんは分かりましたけど、もう一人は誰ですか?」
「んーいい質問だ」
「どこが?」
当主は困り顔を浮かべてから冗談を言った。まあ、その冗談は筮さんに真顔で流されてしまったけど。
彼は珍しくすねたように唇を尖らせて頬杖をついた。
「うーん、最後の一人の彼はねぇ、ちょっと複雑なんだよ。でも、名前は伝えとくね。彼の名前は――」
――鬼桜 啓
ナ「あー、彼ね? 彼か~……」
何なのその反応。そうそう。クラスメイトのあの彼だよ。
白「ちなみに後書き執筆日は『8月6日』です」
作「え? 8月6日って報告するほどのなんかあったっけ?」
うーん……知らないならいいや。
ナ、白「うんうん」
作「え!? 何!? なんで教えてくれないの!?」




