208 自白剤の一杯
「は、はあ……」
状況をうまく把握できていない筮さんに、佐藤はコソッと話しかける。
「筮さん、あんま飲みすぎないでくださいよ?」
「わ、わかってるわ」
少しは飲まないと失礼に当たるだろうが、飲みすぎもよくない。
しばらくして、筮さんの前に日本酒が目の前に置かれている。筮さんは、今すぐお酒を飲みたいのを我慢しているのか、よだれを飲み込む小さな音が聞こえた気がした。
会話がない。しかし、重い空気ではない。
目の前に座るのが、何の威圧感もない細めの男だからだろうか?
その男も、警戒した様子もなくただ微笑んでいる。
佐藤は口を開かなかった。
それは、自分の仕事ではないから。
佐藤に頼まれた仕事はあくまで筮との面会の予定を入れておくこと。そして、筮を本家まで案内する事。
それ以上の事は、命令されていない。ましてや今は、気軽に発言できるような立場に置かれていない。
話を振られたらもちろん答える。だが、それ以上の発言権はない。
そんな状況で一番に口を開いたのは、筮だった。
酒を飲みたいのを誤魔化すように話し出した。
「……お、お久しぶりですね。数年ぶり……でしょうか?」
一応笑みを張り付ける。
相手もにこりとほほ笑んで返す。当たり前の仕草なのに、ずいぶん久しぶりに見て佐藤の背筋に冷たいものが走った。
ああ、結局またここに戻ってきてしまったのかという、諦め。
「そうですね。あの時の事はまだ覚えてます」
あの時の事、とは、前に筮さんが落とし穴に何回も落ちたときの話に出てきた『何年たっても学習しない人』の事だ。
「そりゃそうでしょうね。幼稚園の頃に一回目、小中生の時に二回目、高校大学の時に三回目、そりゃ覚えますよ」
「いやーあの時上を見上げたら成長した見覚えのある顔がまた覗き込んでいるもんだから驚きましたよ。その後の第一声がキレ気味の顔で『今晩は人間鍋かしら』ですからねぇ」
これは……談笑……なのか?
「ええ、懐かしいですねぇ。あの頃の私は『人間の肉を食べたら死ぬ』という噂が本当なのか確かめたくて。一族を頂点に立つご当主様にとんだご無礼を」
胡散臭い詐欺師みたいなしゃべり方に聞こえるのは俺だけ?
「いえいえ大丈夫ですよ。どうやら人肉を食べてもあまり腹は膨れないらしいですけど? そういうのは事前に調べた方がいいのでは?
「こちらにもいろいろ事情がありましてね。一応あの後少し調べましたが、一人当たりのカロリーは成人男性25人の半日ほどしか腹持ちしないそうですね」
「そうなんですか? でも我々はご存じの通り人間ではなく鬼なので、数日何も食べなくても……」
笑顔で会話を続ける二人を、少し離れたところから見てる。
……なんだか、笑顔でちょっと怖い話してるな。
その時、筮さんが目の前に置かれた日本酒入りのおちょこを手に取り、少し口に含んだ。
「……あ、意外と飲みやすい」
「そうですか。それはよかった」
いつも通りの笑みを崩さぬまま、鏡は返した。
鏡はそのままおちょこを手に取り、自分も酒を飲んだ。
そのままクルクルとおちょこの酒を揺らす。
そして一度目を伏せ、鬼特有の赤い目で筮を捕らえる。赤い目の中で、筮の水色の髪が薄く映っていた。
「ああ、言い忘れてた。そのお酒――自白剤入りなんですよねぇ……」
「んぶっ!」
彼はすぐにニパッと笑う。
せき込む筮を見てふぅ、と息をつき、手を組んでその上に顎を乗せた。
「非道だなんて言わないでください。これも俺の仕事だし、第一言われ慣れている。意味のない罵倒をして、相手に届かずに俺の部下に捕まえられる。それが今までの流れです」
さあ――
ニヤリと怪しい笑みを浮かべ、言葉をつづけた。
「本題に移りましょうか」
……後書きに書くネタないので、裏話します!(唐突)
ナ「うわ、何何? もしかして深夜テンション? あ、どうもナレータさんと申します」
白「今回は自己紹介ありで行くの? 白銀(略)です」
作「どーも作者です」
深夜テンションかもしれませんが、話を進めましょう! 今回は光莉の弟である光流、通称葵の裏話をしようと思います。
白「うーん、彼? についてはあんまり明かされていないよね。七不思議編で魔法を使ったけど、その際にちょっと魔法について明かされたくらいかな……」
最初、この物語で一番最初に作られたキャラは、光莉でした。その後に双子のきょうだい作ろうってなって、初め妹でその後ショタに成ったりイケメンに成ったりした後に、今の葵に収まりました。
ナ「え? 一番最初に作られたキャラ陸じゃないんだ」
そうだよ。ま、その辺については作者が詳しいかな?
作「そうそう。一番最初に生まれたのは光莉。その後に葵。
(その後彼らに兄弟姉妹が生まれたが、そのことに関してはネタバレなので……)
その時、姉がパソコンで小説を書き始め、自分もやりたくなり、主人公のイメージにピンとこなかった光莉より、新しく作ったキャラクター、『西村陸』が誕生しました。
初めは陸は人間だったし、もっとほのぼのした日常系にしようと思ってたし、優斗さんもうちょっと喋ってたしで、平和な方でした。それなのにキキのせいでこんなに重い物語に……」
(ちなみに光流、の呼び名が『葵』なのはキーボードに成れてない時代から書き始めてたので書きやすかったため)




