204 くすぐり地獄
父さんが帰った後、一番に口を開いたのは、千代さんだった。
「と、とりあえず、お風呂入りましょう、ねっ」
そういえば、まだ入ってなかったな。
無理に笑顔を作りながら言う千代さんを見ながらそんなことを考えた。
複雑だった。父が隠していた物は、とても大きく、重いものだと思ったから。
おそらく母も、この事を知ってる。
共犯者。
ギリ……と歯を食いしばる音がした。
そしてボソッと、独り言をつぶやいた。
「……なんで……隠すんだろう」
頭に浮かんだのはただの疑問で。家族として、悲しむとかじゃなくて。
これは無意識じゃなく、意図的だと信じてる。
一人一人お風呂に入る時間もないので、二人でパパッと入っちゃうことにした。
一緒に入るペアは、
佐藤、陸
優斗、空
千代、筮
紗代、光莉
光流、桜子
となっている。
ちなみに、千代は酔っ払いである筮さんの面倒を見るのを最後まで嫌がっていた。
入浴時間が短いから、という理由で葵と桜さんが一番に入り、その次に僕と佐藤が入る。
「っはぁ~……お湯あったか……」
僕は白い煙が立ち込める部屋の中で、ザプンと肩までお湯につかった。
お湯につかる僕の隣で、佐藤はシャワーを手に取った。
……なんだろう。なんとなく嫌な予感がする……。
「……佐藤、何する気?」
「そりゃ、暖かいお湯が出るまで出しておかないと。水がもったいないから、もちろん、湯舟の中にね」
そう満面の笑みで返されて、僕は固まった。
逃げる間もなく佐藤は水を僕めがけて勢いよく出した。
「ひゃあ! 冷たい! あ、でも意外と気持ちいいかも……」
「チッ、つまらん反応よのぅ……」
「何その言葉使い。でも冷たいのには変わりないし、止めてくれない?」
つまらなそうに目をそらした佐藤に苦笑いで言うと、佐藤はニヤリと笑った。
「えー何言ってるの? いい湯加減のお湯が出るまで♡ だよ?」
「ちょっ、それはさすがに……」
数分後・・・
「お湯がすごく熱く感じる」
「そりゃあんだけ冷水浴びせればね」
お湯に指先を付けて佐藤を睨むと、あからさまに目をそらされた。
数秒睨んだ末、あきらめて一度ため息をつき、もう一度お湯につかる。
「あったかーいというよりは熱いかな?」
「どちらかと言えば?」
「温熱い」
「何それ」
声だけでも、佐藤が笑っているのが分かる。
愛莉がいた時とは、似ても似つかないと言い切れる気がする。
そろそろ出ようかな……。
口までお湯につかってボーっと考え事をしながら、ふとそう思った。
お湯から出て、立ち上がろうとしたその時――
「つ、冷たっ!」
シャワーの冷たい水をかけられた。
黙って前髪をかき上げる。
「佐藤、やったなぁ~?」
一周回って笑みが浮かんでくる。
目の前でニコニコともニヤニヤともいえる笑みを浮かべている佐藤の持つシャワーをサッと奪う。
まさか盗られるとは思ってなかったのか、佐藤が驚いた顔をした。
「え!?」
「ふふん。黙ってやられる僕じゃないんだから。やり返してやるー!」
「あ、ちょっと待っ――つ、冷たい!」
思い切りシャワーの蛇口をひねって、水をぶっかてやった。
逃げようとする佐藤の腕を掴んで、壁に押し付ける。
「ふふふーー、さらに水だけじゃなく、くすぐりも足しちゃおうかな~アッハハ」
「……陸って、お父さんにだよね」
下から睨まれても無視。躊躇なくくすぐり始める。
「ふふ……あは、あはははは! ちょ、ホントに……あはははははは!」
「この恨み、晴らさでおくべきかーー!」
そう言ってくすぐる力を強くする。すると笑い声はもっと大きくなった。
「ちょ、ほんとに、もう、お腹痛いからぁ~!」
涙目でそう言われて、もうそろそろいいかなと思った瞬間――
――がらっ
「ねえ、こっち待ってんだけど」
お風呂のドアが開いて、兄さんが呆れた顔で立っていた。
その後ろにはもちろん、優斗さんも立っていたが、心なしかあきれ顔の気がした。
作「この二人、仲良すぎでは?」
だって従兄だもん。片方は覚えてなかったとしても、もう一人は確実に覚えてる。相手に思い出されることのない、悲しい記憶だとしてもね。
ナ「いや今回伏線っぽいのあったぞ?」
お? さすがナレーターさん。目の付け所が違うねぇ。そうだよ、探してみてね!
白「いやなんなの今回の冷水→壁ドン(?)→くすぐり地獄の流れ何!?」
ナ「止めてくれてありがとう優斗&兄さんペア。このまま一生続くところでした」