200 絶望の人質
「………ん?」
誰か入ってきたな。
西村鏡、もとい媿野家現代当主、媿野鏡は、濡れた髪をタオルで拭きながら独り言をつぶやいた。
「気配からして……会ったことない人物かな? しかも、家に入るまで気配感知できなかったし。そんなに強いか?」
そんなことはどちらでもいい。今すぐ助けに……いや、酔っぱらっていたとしても筮が助けるか?
……ま、無理だろうね(笑)
子供たちがピンチの時に何を言ってるんだと笑えるな。
本当は今すぐにでも助けに入りたいが……。
『いいですか当主。跡取り候補は最低でも六人産むのが当主の義務。この家の掟です。』
『わーってるよ。で? それは千年前の事件からできた掟なんだって? まったく、面倒なことしてくれるよね。ご先祖様も。』
『はぁ……。ですから、本来六人いるはずの時期媿野家当主候補がまだ四人しかいないのが問題なんです。』
『やだー字面ムズイ漢字ばっかり……。でもまあそうだね。一子二子が今頃生きてたら、こんなこと言われなかったのになぁ……。』
『そ……れは、仕方ないでしょう。ですので! 危険な行動はお控えください。媿野家の歴史にひびが――』
『――ハッ、いっそ入れてみるのもいいかもしれない。』
『当主……。』
呆れを押さえるように首を振る部下に、ため息が漏れる。ため息をつきたいのはこっちだって同じ。
『俺は、子供に申し訳ないよ。政治の道具みたいで。』
実際、政治の道具だったとしても。
「で? その後十分くらい話をしてこっちが折れたんだっけ? はぁ……俺は、普通の人間として生まれたかったよ。」
当主の立場は、金も、権力も、人だって、用意してもらえる立場で。妖なら、心のどこかで『変われ』とねたんでる。
それくらい、強い立場なんだ。
だが実際はどうだ? 助けに行きたいときに行けないんだ。
「当主の立場って、こういう時邪魔だよな……。」
―――
僕は首に包丁を当てられ、家のリビングで人質にされていた。
痛いのとか無理だから、ここでおとなしくしてるけど……。
まあでもたぶん大丈夫だ。ここには頼れる大人が二人もいる。きっとどっちか助けてくれ……。
頼れる大人① 筮さん →酔っぱらって動けない。
頼れる大人➁ 父さん →入浴中
「………………。」
ダメだ……。
それは、陸にとって最大の絶望であった――。
……ハッ、待てよ? もう一人いるじゃないか!
頼れる大人というより、頼れる怪異――
江見 桜子さんが! ……でも、ならなんで僕が『人質』なんだ?
桜さんは四歳児で、一見非力だ。人質にするなら桜さんの方がいいに決まってる。
それに比べ、僕は愛莉さんより背が高くて、男。愛莉さんよりは力も強いだろう。ならなぜ? ………………。
……子供好き?
「ねえ兄さん、一緒に帰りましょうよ。」
僕がそんなことを考えてる間にも、愛莉さんは佐藤と話をしていた。
「兄さんが家に帰ってこなくなってもう数日たちました。お父さんもお母さんも心配していますし、私だって寂しかったんです。」
……あれ? このセリフだけ聞くと意外とまともな妹だぞ?
ただ……絵面はカオスだけど。
兄と思われる人物の顔は真っ青で、妹と思われる人物は包丁を持っており、人質に刃を向けている。
なんで誰も助けてくれないの? 相手一人でしょ?
……誰でもいいから、助けてくださーい!
ナ「あーあ。助けてあげなよ白銀。」
白「私に全振り!? いやいや、ここは親が助けてあげるべきでしょ。それが家族の義務だから。」
義務、ねぇ……。まあ、幸いにも親は当主ですから。権力最大限に使って助けるつもりですよ。
作「そうですか。彼の部下は大変だねぇ……ってか、陸のきょうだいって兄、空と陸しかいないと思ってたけど、四人きょうだいだったの!?」
そこは……まあ……ねえ?
ナ「そうそう、俺今日普段の復讐の為にガムテープ持ってきたんだ。巻いてあげるよ。」
(キキ・全力無言ダッシュ)
ナ「前回、減るもんないでしょ(笑)とか言ってたの誰だったっけ~?」
やだやだやだーーー!!
ナ「何も減るもの無いんだろ?」(全力ダッシュ)