閑話 常連客のつぶやき。
少し遅れました。
とある商店街の一角に、その店はあった。
大きなビルに挟まれた、細い階段の先。「営業中」と書かれた縦長のプレートが、ドアにかけられている。
ここは知る人ぞ知る、噂の喫茶店。老若男女関係なく、多くの人々が訪れる場所。
「今日も来たぞ! マスター!」
「今日こそは、教えてもらうで! マスター!」
『……ん?』
店の扉が立て続けに開き、着流しの男と少し変わった関西弁の少女が相対する。
「こりゃ、珍しい嬢ちゃんだ。こんなところに、迷い込んでどうした?」
「迷子扱いやめぇ! なんやジィーちゃん、ウチを怒らせたいんか!?」
「そんな事はないぞ? まあ、なんだ。席に座って、ゆっくり話そうじゃないか?」
「ふん、ええやろ」
意外とすんなり了承を示して、少女が大股でカウンター席に着く。その後を苦笑を零しつつ、着流しの男が座った。
「……今、笑ったやろ?」
「何の事やら。ただの聞き間違いじゃ、ないかね?」
「なんやと? こう見えてウチ、耳はいいんや。言い逃れさせへんよ?」
「とんだ地獄耳だ。だったら尋ねる必要、なかっただろうに」
「うぐっ、あーいえばこう言う」
「その言葉、そっくりそのまま返すとしよう」
「うがあぁ!」
完全に論破され、頭をガシガシかき回す少女。そんな彼女の様子を、着流しの男がニヤニヤしながら見る。
「まだ、反論するかね?」
「くっ! 楽しげに言うなぁ!」
「全く、近頃の若者はすぐにキレる。堪え性のない」
「だ、れ、がソレを誘発してんねん! よう自分のツラ、鏡で見てみぃ!?」
「はて? どこに鏡があるのかな?」
「〜〜ッ!!」
言葉にならない叫びをあげ、テーブルをバンバン叩く少女。
「騒々しい。少し、落ち着かんか。ここには、他の客もいるんだぞ?」
「……アンタが言うなや!」
「何を言う? 私は、そんな大声出しとらんよ。お前さんが無駄に元気なだけじゃないか」
「いちいち人の神経、逆撫でる奴やな」
「逆撫でているつもりなんて、ないぞ?」
「〜〜ッ、そこへ直れや! ウチがシバいたるわあぁ!」
我慢ならず、拳を構え始めた少女。そんな彼女をのらりくらりと受け流す、着流しの男。
そんな彼らを遠くで見ていた客達は、居心地悪そうに思う。
『早く帰れ!』と。
次回は、水曜の19時更新予定です。




