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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
5 第一王子の外遊
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1 訪問者たち

 アーテル国の監査官オリヴィエが辺境伯の館から突如出奔してから半日後に、辺境伯の館に見慣れた魔法師団員や文官達がやって来た。その中にいる『王子の玩具』ことラルフが此方に気付き、満面の笑みを浮かべてやってくる。


「いやぁ、心配しましたよ。ご無事で何よりです」


「……ご心配をおかけしました」


 私は師匠ジャックに教わった返答を思い出しつつ、ラルフに笑みを返した。


「……ところで、そのお姿は?」


 ラルフは、躊躇いがちにそう言った。私は未だにアデルの侍女役で着せられた簡素なドレスを身につけている。見習いの制服は、女子供達の救助で忙しくしているリュカが身に纏っているのだ。私は『ちょっと事情があって……』とだけ言うにとどめるのだった。



 魔法師団員と文官達が到着した事で、辺境伯の館は一層賑やかになった。

 ちなみに、オリヴィエの一言で更迭されたルルーシュ辺境伯は、助け出された女子供達と入れ替わるようにして、地下の牢屋に入れられ、その後、元辺境伯の秘書官二名が更に加わる事になった。どうやらオリヴィエの残した手紙に何か情報があったようだ。

 ルルーシュ元辺境伯と秘書官達は、余程の衝撃であったらしく茫然自失の体で牢の中で座り込んでいた。


 そして、そんなルルーシュ元辺境伯達を世話する役を買って出たのは、彼の姪アデルであった。他の使用人に任せると、牢から出してしまうかも知れないと言うのが彼女の言い分であったが、その言葉と裏腹に彼女の双眸はどこか悲しげである。


「人身売買ですって?!……あの男にはそんな甲斐性は無いのよ!」


 アデルはそう言いながらも、何故か魔法師団員達の手を借りて、牢屋内に寝床を入れてやるのだった。そして私はと言えば、魔法師団員達が運んでくれた荷物の中から着替えを手に入れ、やっと見習い姿に戻る事ができた。それを目敏く見つけたラルフが私に声をかけた。

 

「あー。もう着替えちゃったんですね」


 私は少し笑うと頷いた。たった数日だが、彼の呑気な言い方が懐かしい。 

 エリック王子は、ヘイワード師団長とドラン男爵改めドラン伯爵の二人と人払いの上話し込んでいる。オリヴィエの手紙に関してだろうか…途中休憩もあったようだが、かれこれ半日近くだ。ヘイワード師団長は魔法師団員達に女子供達の救助を手伝うよう指示を出したが、文官達は特にする事が無く、暇を持て余している。そして、王子に放置された私も同様だ。

 私は、ルルーシュ元辺境伯の使用人達を手伝い、手持無沙汰な文官達にお茶を振舞うのだった。


「そうそう、エリック殿下がクザン伯爵の館からいなくなった後に、使用人から聞いた話ですがね……クザン伯爵は若い頃コルデリア第二王妃にご執心だったそうですよー」


「それは……よく教えてもらえましたね」


 お茶の入ったカップを片手にラルフが私に話しかけた。同じくカップを手にした私が、ラルフの入手したゴシップ話にやや感嘆の意を込めて返すと、使用人達と厨房で仲良くなったのだと教えてくれた。そして、先代のクザン伯爵は勘当した次男と同じ轍を踏ませまいと、半ば強引に今の伯爵夫人と結婚させたそうだ。


「クザン伯爵夫妻に御子が生まれないのは、結婚を強要されたからではないか……なんて話でしたよ」


「……まあ」


「勘当されたミハエルに子供がいれば、養子縁組なんて事になるのでしょうが……今は何処にいるのやらですもんねぇ」


 うーん、執務室にいるけど……子供はいないだろうな。


 私はアデルに叱責されるドラン伯爵の顔を頭に浮かべつつ苦笑した。そして、第一魔法師団長オスカーの使い魔に頼り王子に追いついたのだと濁した上で、王子と私が此処に来た経緯をラルフに教えた。その中には、ミシェル・ドランが辺境伯代理になった事も入っている。


「ふぇー。思わぬところで件のドラン男爵……じゃなくて、ドラン伯爵が出てくるなんて驚きですねぇ。……クザン伯爵の弟なんでしょうかねぇ?」


「訊いてみることはできそうですよ。気さく……と言うか、まあ、おっとりした方なので」


 私がそう言うと『へぇ……人は変わるものなんですね』と、ラルフは言った。どうも、彼と同年代の文官からミハエル・クザンの印象を聞いていたらしく、その話では典型的な権力至上主義者てんじょうびとだったそうだ。思えば、オリヴィエに出会った時の彼自身がそんな事を回想していた節があった。


「そうですね……。二十年あれば、人は変わるかも知れません」


 ラルフは私が持つ謎の能力を知らないので、彼の感想には曖昧に頷いておくのだった。



 陽も落ちた時分に、ようやくエリック王子とヘイワード師団長、ドラン伯爵が執務室から出て来た。案の定、ドラン伯爵はげっそりとしている。そこへ、辺境伯の執事が控えめながらも近づくと、来客を告げた。


「……この様な状況ですので、明朝に改めて頂きましょうか?」


「いや、大丈夫……監査官殿のお知り合いだろう」


 ドラン伯爵はそう言うと、げっそりした顔色のまま日中に悲鳴を上げてすっ転んだ応接間へと向かうのだが、何故かヘイワード師団長とエリック王子も一緒だ。こうして見ると、ドラン伯爵が王子と師団長に連行されているように見える。


 ……ぽちゃりちゃん、ガンバ。


「……あれがドラン伯爵ですか?」


 隣のラルフにそう訊かれ、私は黙って頷いた。するとラルフは『クザン伯爵とは似ていませんねぇ』と、しみじみと言うのだった。 


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