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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
幕間
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幕間4 とある文官のひとりごと

「ラルフ先輩、最近お弁当が普通ですね。何かあったんですか?」


「ああ、これね。妻が住み込みで働く事になって、お義母さんが作ってくれたんだ」


 そう言いながらラルフは肉団子をひとつ摘むと口に放り込んだ。僅かに香辛料がきいた美味しい肉団子の味がする。


「へぇ……てっきり夫婦喧嘩でもしたのかと」


「ははは……まさか」


 そんな恐ろしい事しない。


 ラルフは笑いながらまともな色した弁当を、色々な思いと共に咀嚼し飲み込む。ラルフの妻はかつて魔法師団で連隊長にも抜擢されたトンデモ豪傑なのだ。それに、色合いはさておき、愛妻ナタリーの手製弁当は美味いのだ。


 ラルフの愛妻は今、五大魔術師の一人、ネイサン・ヴァレンタイン伯爵の下で働いている。彼女が働き始めた時には想定していなかったが、最近何かと話題の多い家だ。

 伯爵は第二王子襲撃事件に巻き込まれ意識不明の重体。時を同じくして二十年ぶりに目覚めた伯爵令嬢シャロン様といえば、かつて国王陛下のお相手候補にもあがった事のある魔力保有量を誇る御人と聞く。


 これならナタリーが魔法師団員だった頃の方が適当な理由をつけて会えたなぁ。


 二人で過ごす時間を増やすためにと、ナタリーが魔法師団を辞して以前世話になったヴァレンタイン伯爵家で働くと言い出した時にはこの事態は全く予想していなかった。ラルフ自身が第一王子の外交帯同者に抜擢された時から、二人の時間がどんどん減り始め、今や会う事さえ叶わず五日が経過していた。ラルフはまともな色した弁当を見ると、味が想像できない極彩色が無性に食べたくなってしまうという、ナタリー弁当ロスにも陥っていた。


 そこに湧いて出たシャロン様への家庭教師依頼。何でも伯爵令嬢としての記憶が全く無く、良家へ嫁げるよう淑女教育を再び行うのだと言う。それを聞いたラルフは快諾したのだが、後々になってシャロンの歳を考えると嫁ぐのは難しいのではと思い始めた。見目麗しいご令嬢だったとの噂だ。せめてあと十年早く目覚めていれば望みもあっただろうに……と、同情的に思っていた。


 しかし、そんなラルフのヴァレンタイン伯爵家訪問の行く手を阻む男が二人いた。一人は第三魔法師団長。そしてもう一人は第一王子のエリック殿下だ。

 第三魔法師団長からは第一王子と帯同の上護衛を行う為だと呼びつけられては情報提供を求められる。


 これは……もしかして師団長もナタリー狙いだった……とか?


 お堅い印象の第三魔法師団長が自分に嫉妬していると自意識過剰気味なラルフだが、ナタリーが第三魔法師団に在籍していた頃は言わなくてもやって来て情報を落としていった彼が来なくなった為だと自身で気が付いていないだけの事であった。


 そして、もう一人の行く手を阻む男である第一王子はと言えば、アーテル国外交関係の用ではなく、何故か二十年前のヴァレンタイン伯爵令嬢殺害未遂事件の調査の手伝いをラルフに命じるのだ。

 長い物には巻かれる男のラルフは、文句を言いながらも手は動かす種類の人間だ。断れる筈もない第一王子の指示で、午後から過去の事件を調べに文書保管庫まで来ていた。シャロン・ヴァレンタイン伯爵令嬢の殺害未遂事件の調書を見つけると、回収ついでに覗き見する。これから家庭教師をする女性が殺されそうになった事件だ。興味が無いなんてとても言えない。


 何だかペラッペラな調書だなぁ……真面目に調査したのか?


 事件は当時の王太子アルヴィン殿下のコルデリア第二王太子妃の離宮にて発生。被害者ヴァレンタイン伯爵令嬢は意識不明。加害者はコルデリア妃のメイドで自室にて被害者に飲ませたものと同じ毒物で自殺していたところを発見。加害者は茶会の準備で茶器に毒を塗りヴァレンタイン伯爵令嬢に飲ませた後、自室に戻り、同じ毒物を入れた茶を飲み自死したものと思われる。

 それ以上の情報はなかった。


 他にも調べる事色々あるだろう。メイドの名前に紹介人とか、毒の入手経路とかさぁ……

 いや、めっちゃ権力ありありのお貴族様ご令嬢なら伏せるのかも……?!


 ラルフは貴族の出生・死亡の申請書を漁り始めた。お目当ては、当時メイドとして働いていてもおかしくない年頃の未婚女性で過去二十年の間で死亡した女性だ。修道院なんかに出ている記録後に死んでいれば当たりの可能性大だろう。


 死亡時期なんてずらしておいた方が目立たなくて良いもんなぁ……


 しかし、ラルフの予想に反して怪しげなものは見当たらない。未だ死亡申請されていなければお手上げだ。それにしても、調書にメイドの名前すら記載していないなんて事は信じ難い。


 続きがあったのを抜き取られたとか……


 調書を改めて見るも、抜き取られた痕跡は探せそうにない。二十年も前の事件だ。保管庫の入出記録も膨大だろうと諦めかけた。


 メイド……王城の雇用者記録ってどうなっているんだ……?


 王城至る所に張り巡らされた結界に阻まれないよう、入手可能な場所に登録が必要だ。ラルフも登録されている。しかも王太子妃のメイドともなれば、登録者が少ない離宮にも入れる。


 記録……残っているんじゃないか?……コレ?


 ラルフは結界維持関係の文書を漁り、“リサ”というメイドの名まで辿り着いた。家名は無かった。


 嘘だろ……


 離宮に入ることができる人間に家名が無いという事があるのかと驚いた。後ろ盾が無い人間を王城の要所に入れる事などあり得ないのだ。貴族でなくても後見人の家名は載せるものだ。文官として、申請書類を処理していた経験からは、例外の方が思い浮かばない。


 リサって何者よ……


 ラルフは下働きの雇用者情報まで手を伸ばす事にした。どうせペラ一枚の調書をエリック王子に渡した後、同じ事をさせられるのは明らかだ。そして何よりもラルフが気になるのだ。その厄介な性分故に、重宝もされ、面倒臭がられる男なのだ。ラルフが下働き採用者の中にようやくリサの名前を見つけた頃にはすっかり日が暮れていた。


 リサの事を知っていそうな年長の下働きがいるなら良いけどね……


 駄目で元々気分で下働きの宿舎へと足を向けるラルフがそこからリサの生家へ辿り着いたのは翌日の事であった。





 気になり出したら止まらない厄介な男ラルフは、リサの生家である食事処に来ていた。

 足の不自由な兄の治療費を捻出する為に王城の下働きになったリサという娘は、王城に来て数ヶ月でメイドになる。最初は魔法師団の小間使い的な役割だったようだが、そこから何故か王太子妃付きのメイドに昇格する。その怪しげな人事が誰の采配かは判らないままだ。行き詰まったラルフは思い切りよく、開き放たれた食事処の入口を抜け、中に入った。


「いらっしゃい」


 中から出て来たのは白髪の目立つ茶色い髪を無造作に一纏めにした男だった。年齢からすると、リサの兄と一致するが、その足には不自由な印象がないし、店内も手入れが行き届いており、足が不自由な男が一人で切り盛りしている感じではない。中途半端な時間の為か、客はラルフ一人だ。ラルフは初めて来たので、人気のあるメニューを出して欲しいとその男に言った。


 さて……何をどう調べれば良いのやら……先ずはリサの兄かどうかだよなぁ。

 ナタリーならこう言うの得意なんだろうけど。


 ラルフは人気のメニューを待ちつつ、男を観察していた。食事処にしては珍しく、厨房までよく見える。そこへ別の客がやって来た。


 うわー。綺麗な兄ちゃんだなぁ。


 歳はラルフより少し上だろうが、女性と見紛う美しさだ。黒髪から淡い青色の双眸が覗く。

 男が入店すると、馴染みの客らしく厨房から『いらっしゃい、いつもので良いですかい?』と声が上がる。


「うん、それでお願い」


 客の男は町民らしい服を着ているが、第三魔法師団と交流が長いラルフには違和感を感じた。実は身分の高い男が、お忍びで来ているのではと見たほうが、ラルフには納得感があるのだ。ラルフは二人の会話に集中する事にした。


「最近奥さん見ませんね。お仕事ですかい?」


「そうなんだ。長期出張ってやつだよ。たまには会いたいね」


 客の男はそう言うと、頬に手を当てて溜息を吐いた。所作すら美しい。

 ラルフはこの美しい男が自分と似た境遇である事に驚いた。


 奥さんいるのか……きっと兄ちゃんに負けない美女だろうな。


 ラルフはナタリーを思い出し、溜息を吐いたのだが、給仕が遅いと勘違いしたのか『すみませんね、お待たせして』と言いながら料理が提供されたのだった。同時に後から来た美形の客にも同じ料理が出された。


 美味い。


 ラルフは黙々と食べ進めつつ、男たちを観察した。

 美形の男はゆっくりと食事を堪能しつつ、最近の天気など当たり障りのない話題に応える。


「そういえば旦那、今日はいつものお土産包みますかい?」


「いや。娘も旅行で空けていてね」


「そいつは寂しいっすね」


 娘いるのかぁ……きっとめちゃくちゃ綺麗な子なんだろうな。


 ラルフはすっかり平らげて、お茶をすすって時間を繋ぐ。今のところリサ関連の情報は何も得られていない。ここは後数回ほどここで食事をするのも悪くないと思い始めていた。粘り強い性分なのだ。お陰でナタリーとも結婚できた。


「ああ、そうだ。ついでに魔力込めてあげるよ」


「あぁ、すいやせん。国家事業のオコボレで足が動くようになったのは有難いって思うんですがね、魔力供給だけは定期的に必要なもんで……ホントいつも助かってますよ」


 そう言うと、てんしゅは足首に手を伸ばし、美形の客に何かを渡した。

 そして、何かを受け取った美形の客は当たり前のように魔力を込めて返してやったのだ。


 魔石かぁ。


 美形の客に返してもらった魔石を足首に戻すような仕草の男。足は魔道具の助けをかりているようだ。リサの兄で間違いないだろう。


 食事を終えたラルフが文書保管庫に戻り、国家事業を片っ端から調べ上げてパトリック・オーウェン子爵の名前を見つけ出すのはあと少し先の話である。


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