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現地派遣

ノリで書いたもの。

蛾もものによってはとても可愛らしいですよね。


いつものように糸を吐いて紡いでいると、母様が綺麗な衣装をまとった貴人を連れてきた。


『これが、神格化できそうな個体かえ?』


「左様にございます。妾の娘で、突然変異で口を持ち成体であるにも関わらず糸を吐くことが出来ます」


『ふうむ……』


貴人の方が折りたたんだ扇子で私の顎をクイッと持ち上げた。

この方、母様より強い。

力強いエネルギーが眩くて目を細めるとお方も目を細めて笑った。


『おしらと違ってどこまでも白いな。真っ白であるのに目だけが漆黒でとても愛らしい。くれてやるには少々惜しいがこれにするか』


そう呟くとお方はパンっと扇子を開いて口元を隠した。


『真白。そなたは真白じゃ。妾が直々に名と力を与える栄誉に感謝するがよい』


真白。そう呼ばれた瞬間思考がクリアになる。力がみなぎる。

真白、真白。私は真白。



その日、突然変異の蚕の私は虫神の一柱になった。






ふさふさの触覚

白目の存在しない真っ黒な眼

膝まであるふわふわの白い髪

白い着物は身体を変化させたもので動くとキラキラと鱗粉が舞う。


『外の世界の者が世界の育成に失敗したようでな、虫も獣も人に淘汰されて神となり得る個体が居らんらしいのじゃ。それでそなたにはそこで神として獣達の環境を整えてやって欲しいのじゃ』


「かしこまりました」


椅子に座らせられた私の前で、獣神と思わしき銀の髪の男性が主上に頭を下げる。

わかりました、という時はああやればいいのか。


銀の男性の動きを見て、椅子から下りて見様見真似で頭を下げると主上は嬉しそうにコロコロと笑った。


『頭を下げずとも良いぞ真白。銀流よ、これは真白。妾が先程名を付けたばかりの蚕神よ。真白もお前と一緒に行かせるゆえ手助けをしてやってくれ。何せ真白はまだ赤子も同然ゆえな』


主上に手招きをされて近づくと、主上は楽しげに私の頬を撫でた。

擦り寄るように頭を寄せると主上はますます楽しげに笑った。


「ましろです。よろしくおねがいします」


銀の人に頭を下げると、銀の人は細い目をさらに細めて笑った。


「御使いの銀流です。白き姫、大変な任務ですが共に頑張りましょう」


笑うと、目が無くなった。

見えているのだろうかと気になって彼の頬をぺたぺた触ると驚いた銀の人が目を開いた。

目、あった。


『どうやら真白も気に入ったようじゃの。では飛ばすぞ。二人とも息災でな』


主上がそういうと私と銀の人の身体が光った。

光ながら銀の人が主上に頭を下げるので私も真似して頭を下げる。




そして次に顔をあげると、石造りの建物の上だった。


「失礼、姿を隠します」


あ、人だ。

そう思った瞬間、銀流に抱き寄せられてふわんと鱗粉が舞う。


何かを呟く銀流。まあ任せていればいいだろうと気を取り直して眼前の街並みを見る。


人、人、人。

終わりの見えない石造りの家と、人。

前を見ても、右を見ても、左を見ても人と家だった。

緑が一切ないその様子に知らず知らず眉間に皺が寄る。


「少し飛んで様子を見てみますよ」


そういうと銀流は私を抱いたままふわりと身体を浮かせた。

そして、私が飛ぶより数百倍の速さで空をかける。

………決して私の飛ぶ速さが遅い訳では無い。


どこまでも人と家。

そう思えたのは一瞬で。


当たる強い風。触覚が折れそうな強い風。目も開けていられないけれど、人のようなまぶたは無いため触覚も目も痛い。

とても痛いので銀流にへばりつくようにくっつく。


すると触覚も銀流に当たることで折れるような角度ではなくなり、複眼も銀流の方に向けることで痛くなくなった。


「怖いですか?」


「めとしょっかく、いたいの」


「ああ、それはすみません」


そういうとふっと風は止んだ。

銀流から顔を離して辺りを見ると移動はしていた。どうやら風を避けるために結界を張ってくれたようだ。


「ありがとう」


「どういたしまして。しかしどこまでも行っても人と家ですね」


そこそこな距離を飛んだけれど、まだ木一本見えない。

これほどだと、食事とかはどうしているのかと心配になってくる。


虫も、どこにいるんだろうか。

いや小さな虫の気配はそこかしこでするけれどもね。


「とりあえず、場所を確保したいですけど…どこをどうすれば良いのやら。人間達の駆除はしてもいいんですかねえ」


「良いよ!」


銀流の呟きに、頭上から返事があった。

街の上を飛ぶ私たちよりさらに上。

そこには人型の子供の……神が居た。


「これはこれは。初めまして日ノ本より来ました狐神の銀流です」


挨拶をする銀流をちらっと見る。


「これはこれははじめましてひのもとよりきましたかいこがみのましろです」


こう?こう?

確認するようにもう一度銀流を見ると、銀流はまた目が無くなる笑い顔で頭を撫でてくれた。

触覚が触れてこそばゆい。


「初めまして!現地神のアレイトです!もうね、人が増えすぎて世界そのものまで食われてきちゃって凄い困ってるんだ。だから人を間引いても良いし、土地も奪っていいよ。やりすぎだってなったら僕が止めるから!」


好きにして良いようだ。

と言われても、神になったばかりの私はどんな風にすればいいのか分からない。


「真白、やってみますか?」


「やったことない。から、できるかわからない」


「出来なくても良いのでやってみましょう?やらないと分からないままですからね」


確かに。やらないと分からないものだ。

納得して、一歩前に出る。銀流から離れて落っこちそうになり慌てて羽を出してパタパタと飛ぶ。


銀流は態勢を崩した私を支えようと手を出してくれていた。


ありがたいなあと感謝しつつ、そのままパタパタとゆっくりと、現地神よりも上へと舞い上がる。



風は、操れる。

羽からこぼれる鱗粉。

これに術をかけられそうだ。

口から吐く糸にもかけられそうだけど、より広い範囲に術をかけたいから………鱗粉に眠りと、術無効を施して飛ばす。


パタパタと、静かにゆっくり鱗粉を飛ばす。


キラキラとした光が広がり、薄まり。

……けれどどんなに薄まっても威力は絶大だった。



その日、大国が滅んだ。




「ん、上出来上出来。あとは任せろ」



また頭を撫でられて、触覚こしょばく感じながら下にある建物に座り込んだ。壁にピッタリと背中をくっつける。


うん、なにかにくっつくのは落ち着く。


銀流はふわっとひかるととても大きな狐になった。

しっぽの数は八つ。私よりも大きなしっぽだ。

というかとにかく大きい。銀流の頭だけでも私よりも大きい。


そんな大きな狐がーーーーーードガシャーン!!!と目の前の建物を殴り飛ばした。

大きく揺れる大地、大音量、そして真横を吹き飛んできた石。

あとちょっと横に座ってたらと思うと血の気が引く。


ゾッとして固まっている間にも銀流は暴れて、尻尾で、前足で建物を壊して土地に戻していく。

その度に揺れる身体、どこから飛んでくるか分からない石。


怖い。とても怖い。安全な場所を探す。

近くは瓦礫、瓦礫、瓦礫。あと瓦礫の隙間からチラ見する大地。


「いやー君も凄いけど彼も凄いねえ。この建物結構強度あるはずなんだけど羽虫みたいに蹴散らしちゃってるよ」


あはははーと笑う現地神の周りには結界がはってあった。

結界…!張れる気がしない…!銀流も張っていたけれど、自分で作った物に術を付与する以外のやり方が分からない。


現地神に張って貰うことも一瞬考えたけれど、彼はダメだ。


私も彼の言うは羽虫だ。弱くて悪うございましたねとイラッとする。


安全な場所を考えて……パタパタと空を飛ぶ。その速度はやはりゆったりとしていてーーーー後に銀流に聞いたところ幼児が初めて立ったような覚束無いよろよろとした飛び方で怖いらしいーーーー即座に暴れる銀流に見つかった。


『どうした?ウロウロとすると危ないぞ』


この時の銀流は飛ぶこと自体が落っこちそうで危ないと言っていたらしい。

けれど私は彼なりに気遣ってくれていた今まで座っていた建物も充分危ないわ!と思うけど、文句を言って関係が悪くなるのも嫌だなあと考えて……



パタよろパタパタ



銀流の背中に張り付いた。サラサラの銀の毛は掴んだ傍からツルツル滑ってくっつきにくかったけれど、こっそり糸を吐いてしっかりと絡みつく。


「あそこもこわすのでしょう」


『まあ、そうですね。そこなら安全だからくっついててくださいね?』


「はい」


ふわふわな毛並みは壁と違って落ち着かないけれど、ふわふわなおかげか銀流が暴れているのにあまり振動がない。


『なあ、植物は自然に生えるのか?』


「人がいなければ多少は生えるかと。多少生えたら生き残で移動できる植物、虫、動物はここに来るように促すつもりですよー」


『そうか。ならば獣や虫が回復するまで人が入れぬ結界を敷いて置くか』


じゃあ私は成長を促す術をかけた鱗粉でも飛ばすか。

ガシャンガシャンと破壊の限りを行う銀流の背で羽を震わせる。



銀流が確保した土地は世界の五分の一だった。

それもこれも仕方ない。兎に角緑が無さすぎたのだ。

人も五分の一ほど減ったけれどまだわんさかいる。


保護した虫の100倍以上いるってなんなんだ。獣も似たような状況で、本当に人以外の全てが死に絶える直前であった。


数千の日を重ねてテリトリーを確保し、そこに保護した生き物達を解放する。

獣、虫、さらに植物妖精(ドライアド)妖精(フェアリー)……これは真剣に悩んだけれどのだけど長耳族(エルフ)小人族(ドワーフ)と言った人に近い種族も保護した。彼らもまた人に迫害されて絶滅危惧種だったからだ。

植物妖精(ドライアド)妖精(フェアリー)を保護したことによりテリトリー内は一気に緑化が進むことになる。


その反面人族は植物系の食料も失いその数をさらに減らすことになるのだが、五分の四でも多すぎるのだ。

現地神はそのあまりの減らしように引きつった笑顔を浮かべていたけれど、彼がこんなんだから私たちが呼ばれたのだ。



テリトリーが出来て、落ち着いて。


数千日ぶりに銀流の背から降り、久しぶりに人型の銀流を見る。

細い目。笑うと消える目。そうだ、銀流はこんな顔だった。


「何とか落ち着きましたね。あとは時間をかけて育てればいい」


こくこくと頷くと久しぶりに頭を撫でられた。やはり触覚がこそばゆい。


「そういえば真白は赤子同然と聞いてましたけど、産まれてからどれほどなんですか?」


「…おとなになって、おかみがきて、なまえをもらって、ぎんりゅうにあった」


幼虫だった時は記憶が無い。主上に会うまでは自我すらあやふやだったのだ。

名と力を頂いた今もどこかふわふわしているが。


思い起こせばもう虫生の半分以上を銀流の背で過ごしたなあとか思っていると銀流が目をぱっちりと見開いていた。

赤い瞳がしっかり見えて私も驚く。

そしてその顔はやがて引き攣り笑顔となった。


「え、それって私にあった時は名を拝命したばかりと…」


「うん」


「……本気の赤子じゃないですか!そのくせに力は潤沢で……どんだけ主上に気に入られてるんですか。いやそんな赤子を保護者の居ない異世界にやるなんて何を考え…保護者は私か!?」


突っ込んで、納得して、また突っ込んで納得した。


忙しそうな銀流は深い、ふっかーーいため息を着くとテリトリー内の生き物から献上された果実と花が入った籠を差し出した。


「はあ。とりあえず久方ぶりの食事としましょう。真白は何を食べるんですか?」


「たべない」


「はあ!?」


「かいこは、せいちゅうになったらなにもたべない。たまごうんでしぬだけ」


私は突然変異で口があって喋って糸を吐けるけど、この口はもう食事をするための機能は無い。

そういえば銀流はポカーンと口を開いた。


「……まさか食事の介助も私が……?」


何やら銀流は大変そうだ。

まあ、頑張ってもらおう。


とりあえず私はニコニコと笑っといた。

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