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天の先に  作者: 真
第二章
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作戦とは?

 一限目の休み時間、零と影月は廊下の隅で額を突き合わせていた。


「ダメだ。そもそも誰に聞いたらいいのかもわからない」


 焦る零に対し、影月はフッと口元を緩める。


「俺は一人聞けたぞ」


「マジか」


「だけど、少し心配だからもう一回聞いてくる。信頼できる奴なんだ」


(珍しいな、影月がそこまで信頼するなんて。まぁあいつが言うなら大丈夫か)


「わかった。じゃあ、決行は放課後な」


 終礼のチャイムが鳴ると同時に、部活の奴らはすかさずそれぞれの活動場所へと向かい、学校は一気に自由行動の空気へと変わる。そんな喧騒を離れた屋上で、とある挑戦が始まろうとしていた。

 屋上には事前に呼び出しておいた夜姫と、準備を整えた影月。零は物置の裏に身を隠し、固唾を呑んで見守っていた。


(影月のことだし大丈夫だとは思うが、やはり心配が勝ってしまう)


 何故零がそんなに心配しているかというと、それは影月の格好がいつもと完全に違っていたからだった。ビシッと決めた黒スーツに、右手にはなぜかピンク色の鮮やかな花束を抱えている。


「夜姫さんですね」


「はっ、はい」


 怪訝そうな夜姫の前に、影月が静かに跪く。


「我は影月。月をこよなく愛する者。太陽のように暑苦しく姿を晒すのではなく、静かに照らしてくれる……だから、月は綺麗だ。だが、それに照らされる貴方はそれ以上に綺麗だ。これを」


 影月は恭しく花束を差し出した。


「これは?」


「これはカランコエです。花言葉『あなたを守る』。貴方を命に代えても守ります。だから、仲間になってくれませんか」


•••?


 零の顔は真っ青になる。


(ヤバい。終わった)


 屋上の空気が絶対零度まで凍りつく。零はその場に崩れ落ち、頭を抱えた。


(影月、オマエならこんなに大きく外れた間違いには気づくべきだろ。キャラがぶっ壊れてるぞ。一体誰だ、こんな入れ知恵をした奴は?)


 「はぁ」とため息をついて、諦めモードに入った零が、このまま屋上から飛び降りて帰宅しようとした、その瞬間。夜姫から信じられない言葉が返ってきた。


「……はい。喜んで」


 物置の裏で、零は思わず「はっ!」と素っ頓狂な声を上げる。


(おいおい、今何て? 『はい』って言ったか?)


 耳を疑うとはまさにこのこと。当の影月は、何事もなかったかのようにホッと胸を撫で下ろしている。


「それはよかった」


 すると、ガチャリと屋上の扉が開き、一人の生徒が軽い足取りで影月に近づいていく。


「良かったなー!言っただろ?これで行けるって!」


 聞き覚えのありすぎるその声に、零は姿を見るより早くその名を叫んだ。


「灼!?」


「んっ、零?」


 突然飛び出してきた零に、灼は不思議そうに首を傾げる。


「知り合いか?」


 状況についていけず固まる影月。


「知り合いも何も、こいつは俺の親友だぜ!」


 零と灼は、互いの手をガシッと掴んで再会を喜んだ。


「なぜオマエがここにいるんだ?」


「それはこっちのセリフだぜ」


「だってオマエ、あの村どうしたんだよ?」


「弟子がしっかり留守番してくれてるぜ」


「弟子……?」


「おーよ、俺にも弟子ができたんだ。いいだろ?」


 嬉しそうに語り合う二人を余所に、影月がしみじみと呟いた。


「いや、それにしても上手くいって良かったな」


「どこがだよ!!」


 零の鋭いツッコミが炸裂する。


「零、この作戦を考えてくれたのは灼なんだぞ」


「あー、状況から察したよ。だけどな。こいつも学校行ったことないんだぞ」


「えっ?」


「こいつはずっと村の守護をしてたんだ。だから、学校なんか行っていない」


「マジか……」


 影月の顔が今さら青ざめていく。


「よく思いついたもんだ。あんなよくわからない設定」


 呆れる零に、灼は少し寂しげに笑った。


「昔、姉貴が教えてくれたんだよ。『女の子を口説く時はこれくらい情熱的じゃなきゃダメだ』ってさ。……若くして死んじまったけどな」


「あ……それは、悪かった」


 しんみりした空気を破ったのは、おいてけぼりにされていた夜姫だった。


「あのー」


「おっと、ほったらかしにして悪かった。俺たちも仲間になっていいか?」


 灼の言葉に、夜姫は小さく微笑んで頷いた。


「はい」


「じゃあ、自己紹介といこうか。俺は灼、2年2組だ」

「俺は零、2年1組」


「影月、2年2組だ」


「私は夜姫、2年1組です。よろしくお願いします」


「「「よろしく」」」


 全員が晴れやかな笑顔を交わす中、零だけが遠い目をしていた。


(これで本当に解決なのか?)



「何か報告は?」


 皆無は教卓に肘を突き、四班の面々を見渡す。


「えーっと、一応友達にはなりました」


 零はあの屋上での出来事を思い出すと、寒気が止まらなくなる。


「それは良かった」


 皆無は深く追求せず、満足そうに微笑む。


「残念ながら、こちらは何にも無しだよーー」


 るながつまらなさそうに髪を弄りながら、犯人の捜索状況を告げる。

 すると、じっと拳を見つめていた影月が、鋭い目で皆無を見上げた。


「先生、稽古つけてくれませんか?」


「いいよ」



「今日から通常授業かよ。だるいな」


「だな」


 翌朝、青星学院の校門へと続く並木道。影月が制服のネクタイを緩めながら、大きなあくびを噛み殺した。


「そういえば、影月。昨日先生とはどうだったんだ?」


「フルボッコにされた」


「それは気の毒に」


「でも……掴めてきてる」


影月が静かに拳を握りしめた。その瞳には、敗北の悔しさよりも、さらなる高みへの確かな手応えが宿っている。


「零、夜姫を頼むぞ。後、目立つなよ」


「オッケー」


 零はひらひらと手を振り、二年一組の教室へと向かう。



一限目……

「今日は2年全合同体育だーー!」


 体育教官の十枝先生の野太い大声が、巨大なフィールドに響き渡る。


(暑苦しい)


 綺麗に整列した生徒の大半が、心の中でそう思った。


「君たち全員、最近体を動かしていないだろ。だから、今日はガチンコ1対1をするぞーー!」


「「「うぉーー」」」


「「「えーーー」」」


 やる気満々の体育会系と、非戦闘系の生徒たちの二つの悲喜交々が重なり合う。


「今回は強制で呼んだから、やりたくない奴は観戦に回れ」


 その言葉を合図に、大半の女子と少数の男子がシールドの張られた観客席へと移動を始めた。


「よーーし、相手は自由に決めろ」


(影月と組むか)


 零が隣を振り返ろうとした、その時。目の前に大きな影が立ちはだかる。


「2年4組、つぎとだ。オマエと試合がしたい」


 零の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。


「あの時の……いいぜ乗った」


 一方、影月の方では……


「やろうぜ、影月」


「あー、いいぜ」


 灼が拳を突き出し、影月がそれを軽く睨みつけながら受けて立つ。


「さー、みんな位置につけ」


(確かここのフィールドは、ランダムで環境が生成されるんだったよな)


 零が定位置に立つと、瞬く間に周囲の光景が書き換えられ、青々とした草木が生い茂り始めた。


「森林か」


「じゃあ、怪我しない程度にぶっ放せ。レディーゴー」

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