転校生
二週間前ーー
「君たちには高校に潜入してもらう」
「やっぱりか」
零の予感は的中する。それでも影月は疑問を抱く。
「でも、やっぱり何で俺たちなんですか?」
「まず、高校生って何歳?」
「十五から十八」
「警察にそんな年の奴は」
「いない」
「そんな奴がいると考えられるのがお前らなんだよ」
「なるほど」
先生の遠回しの言葉の誘導に零は乗ってしまう。だが、影月は冷静に考える。
「先生が先生として侵入したらいいんじゃないですか?」
(なんかややこしいな)
「俺とるなで犯人の捜索を行う。だから、その間護衛してほしい」
「仕方ないか」
「頼んだよ」
始業式は体育館で行われ、意外と長くない校長の話は終わり、直様教室へと戻る。
(と言われてもどうしたらいいんだ)
零は始業式中にそればかり考える。
「零さん」
(まあ、影月と話し合うか)
「零さん!」
「はい」
零は集中し過ぎて担任の呼び声に気づいていなかった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
担任は教卓に戻り終礼を行う。
「これで今日は終わりです。また明日元気よく学校に来てください。さよなら」
「「「さよなら」」」
生徒全員の挨拶と共に静まり返っていた教室は賑やかになる。
「さてと……影月に会いに行くか」
零は教室を出ようと扉に手を置いた時、和が「あのー」と声をかける。零は「ん?」と振り向く。
「学校案内しましょうか?」
「あっ、そっか。ちょっと待ってて友達呼んで来るから」
「ここで待ってるね」
零は教室を出て影月を探しに行く。
「あかり」
「何?」
「一緒に学校案内してくれない」
「いいわよ。あの人には助けてもらったし。それにイケメンだし」
「ハハハ……」
和は苦笑いする。
その頃、校内で迷子になった零は、偶然体育館へと辿り着く。
「ここどこだ?」
零は興味本位に近寄る。
「何で一人足らないんだ?」
「仕方ないよ。体調不良もいるんだから。それに先輩たちは大事な進路の説明を受けてるんだからさ」
「十一人か。まあ、ハンデとして俺のチームは五人でやるか」
そこではバレーボール部が練習試合をしようとしていたが、人数が足りず困っていた。
「おいお前。バレーできるか?」
バレーボールを片手で掴み、零に指差す。声をかけてきたのは、主将のつぎと。日本屈指の高校生プレイヤーとしての圧が、零を突き刺す。
「ルール知らないけど。スポーツならそこそこ……」
(最近体動かしてないし、遊び程度にするか)
零はこの気持ちを後で間違いだったと思い知らされる。
「今から教えるからよく聞けよ」
「はい」
零はルールを聞いていると一人の部員が近寄ってくる。
「つぎとさん。流石に危ないですよ。あなたは日本きっての選手なんですから。素人を混ぜるのは……」
「いや、大丈夫です。強い奴ほど燃えるタイプなんで」
二年二組では影月が零を待っていた。
「遅い」
影月は教室で待ちくたびれていた。
「まさかあいつ迷子になってるんじゃないだろうな」
影月は待ちきれず扉を開けて廊下を確認する。
「仕方ない。行くか」
影月は零を探しに廊下を出る。
「ルールはこれだけだ。簡単だろ」
「まあまあだね」
(少ししかわからなかったが……まあいっか)
「早速ゲームを始めよう」
つぎとは部員の方に行って、メンバー分け始める。
つぎとと交代で零へと近寄ってくる部員が一人いた。
「ごめんな。無茶言って。俺たち全国大会が近くてさ。あいつも焦ってんだ。無理ならすぐ辞退していいから。俺、守裏。よろしくな」
「心配ありがとうございます。だけど、大丈夫です」
チームはつぎとと守裏に分かれて、零は守裏のチームに入る。コートに十一人の選手と零が立つ。
そして、戦いのホイッスルが鳴らされる。最初のサーブはつぎとのチームから始まる。サーブは守裏のいる方向へと落ちる。
「おーらい」
守裏はレシーブし、ボールを上げる。そして、セッターがトスして右のスパイカーがスパイクを決める。
零は感動する。
(俺の知らない世界。ワクワクしてきた)
サーブ権は守裏チームに変わる。つぎとチームは綺麗にレシーブしてセッターに持っていく。すると、零から見て左サイドに強烈な圧を放つ者がいた。それはつぎとだった。つぎとは高く飛び上がり、セッターからのトスを思いっきりぶち抜く。それに反応できるものは守裏チームには一人もいなかった。
(動けなかった。悪魔と戦っている時とは違う強者の恐怖)
零は深呼吸して一旦心を落ち着かせる。サーブ権はつぎとチームに戻る。守裏チームは一人を除いて絶望の空気に包まれる。それはサーブを打つのがつぎとだからだ。
つぎとは助走を確保するため後ろに下がる。コートを背にするつぎとの姿は大きかった。つぎとは定位置に着くと視線を零の方へと向ける。それを感じ取ったのは零自身と守裏だった。
(まさかあいつ……)
つぎとは片手に持っているボールを空中に高く投げる。そして、助走をつけて高く飛び上がる。その時、さっきの圧が零を襲う。つぎとのジャンプサーブは真っ直ぐ零めがけて飛んでくる。だが、そのサーブは零には見えなかった。零は直感的に動いたが、サーブの威力に耐えきれず、身体ごと後方の壁まで弾き飛ばされる。
「大丈夫か?」
守裏が心配して駆け寄って手を伸ばす。零は守裏の手を掴んで立ち上がる。他の選手は零を見て少し恐怖を感じる。何故ならつぎとのサーブを初見で反応した奴など見たことがなかったからだ。
(俺のサーブに反応した)
つぎとはサーブの位置につき集中する。
「もう一度だ」
つぎとは再び、高くボールを投げ、より高く、より鋭く跳躍する。
(俺の勝ちだ)
さっきのサーブよりも速いボールが零を襲う。だが、零は微動だにしなかった。零は完璧にコースに入り芯を捉える。ボールは高く舞い上がる。
(確かルールは……一ゲーム二回、自分のコートからのみ能力を使うことができる)
「トス!」
零はセッターに呼びかける。零の足元で炎が爆ぜる。加速した零は重力を無視して高く跳び、空中でトスを待つ。セッターは零にトスをする。その瞬間零はスパイクを打つ。その零のスピードに追いついてきたのはつぎとだけだった。だが、ボールはコートの外に出る。
「クソが」
つぎとはいつもに増して悔しがる。同じチームである守裏は驚いて思わず「君何者?」と聞く。
「俺は零。ただの転校生だ」




