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天の先に  作者: 真
第一章
28/29

始業式

 きめ細やかな白い綿が日による反射で綺麗に輝きを放つ。寒さも少しずつ溶けてゆき、春が始まろうとしている三月なかば、寂しく置かれた三つの机と一つの教卓がある教室に四班が集まる。


「えっ、護衛ですか?」


 静かな部屋に零の困惑した声はよく響く。


「あー、君たちには護衛任務をしてもらう」


 いつも通り冷静な影月が零の横から姿を表す。


「珍しいですね。護衛任務なんて」


「俺も初めての依頼だ」


「で、誰を護衛するんですか?」


「えーっと……」


 皆無は封筒に手を入れて何かを探す。


「あった。これだ」


 皆無は封筒から一通の書類を取り出す。


「夜姫。年齢一六歳、青星(せいせい)学院に通っている生徒だ」


 零たちは書いてある夜姫という人物の素性を脳に叩き込む。


「青星学院って超エリート校の」


「そう。青星学院、別名シリウス。ここにはエリート級の生徒ばかりが集まる一流校。財閥のお嬢様や世界にも轟く名を持つスポーツ選手、他にも伝説の流派を持った最強剣士、コンピュータのIQを上回る天才がいるとかが噂されているけど……実際は知らない。話を戻すけど、この子現総理大臣の愛娘なんだよね」


「総理の娘……!? マジかよ」


 零は顎が外れんばかりに驚く。


「ちなみにこの情報は極秘だから、万が一漏洩すれば……君たちは死刑だから。そこのところよろしく」


((やばい……))


 零と影月の背筋に、一筋の戦慄が走る。

 その横にいたるなが話を続ける。


「何でその娘を護衛しなければならないの?」


 皆無はまた封筒を漁ってもう一通の書類を出す。その書類には奇妙な大きさと形の文字が散りばめられている文章が書かれていた。


「脅迫状が総理大臣に届いたらしい。内容は『お前が総理の座を降りないと娘の命はない』との文だ」


「娘の存在を知っているのか」


「でもそんなの犯人すぐに割れるんじゃ?」


 皆無の顔が曇る。


「それが娘の存在を知っているのはここにいる俺たちと総理本人、奥さん、秘書、古き友人四人の計十人と今回関わる公安の人たちが少々だ。俺たちと本人と公安を抜くとそれ以外の六人が容疑者になる……んだけど、ここからが問題なんだ。まず、奥さんなんだが……一年前急に倒れて寝たっきりらしい。そして、秘書は一ヶ月前から行方不明になっている」


「行方不明?」


「あー、一ヶ月前総理本人と食事して解散したきり連絡が途絶えてそのまま行方不明になっている」


「犯人の線もあるけど、罠の線もあるな」


 影月は冷静に考える。


「そうだ。だから、捜索はそこそこに手をつけている。そして、他の友人四人なんだが……」


「まだ他にも異例が?」


 零は食い気味に驚く。


「まあな。一人目は外国にいて、二人目は牢獄にいて、三人目は大阪に住んでいる」


「海外じゃほぼ無理でしょ」


 るなは三つの席をくっつけて横たわりながら話に入る。


「牢獄って何があったんだ?」


 零の質問は横にいる影月が資料を見て「飲酒運転だとよ」と応える。零は「馬鹿だな」と小声で言う。


「三人目は大阪って一番まともだね」


 るなは背伸びして言う。


「大丈夫なんですか?」


「あー、もう警備を配置している」


「先生、四人目は?」


「四人目は……この世にいない」


 予想外の解答に言葉を失う。静まり返った空気を打開したのはるなだった。


「それを聞いた感じ、容疑者は絞られるね。一人は秘書、次は外国にいる友人、そして最後が大阪移住の友人ってことになるけど」


「確かにな。外国や大阪にいるからとはいえ、依頼すれば容易なことだ」


 零は一つ疑問を抱く。


「犯人は総理の座をどうしようとしているんだ? 特に不安定な世の中ではないし」


「考えられるのは……」


「総理への復讐ってところですか?」


「正解……と言いたいところだけど、どいつもこいつも動機がないんだよな」


 そして、零にはもう一つ疑問が生まれる。


「先生、何でこんな危険な仕事を俺たちに頼んだんですか? 俺たちより強い奴なんか他にもたくさんいるでしょ」


 零の問いに、皆無はニヤリと笑う。


「それはねぇー。君たちが一六歳だからだよ」


「まさか……」


 四月になり桜が咲き誇る青星学院は綺麗に彩飾られる。青星学院の生徒たちはクラス発表を待ち遠しくしてウキウキの表情を見せながら登校する。


「また一緒になれるかな?」


「なれるといいね」


「そうだね。てか、なんか噂で聞いたんだけど……転校生が来るらしいよ」


「転校生! どんな人だろう?」


「イケメンかな? 美女かな?」


「だったらいいね」


「和はどんな人だと思う?」


「優しい人だといいな」


「だね」


 制服姿の生徒が青星学院の正門を通って入っていく。時間が経つと正門周りの人は徐々に減っていき、大きな正門だけが静かに残る。その中慌てて走ってくる二人の生徒がいた。それはあかりと和だ。


「やばい遅刻する」


「もー、あかりがのんびりしてるから」


「仕方ないじゃない。昨日動画編集してて全然寝れてないんだから」


「いいから、早く行かないと」


 あかりと和が走る目の前に一人の少年がゆっくり歩く。あかりと和はその少年を抜かして正門に向かう。和はすれ違う瞬間少年をチラッと見たがフードのせいで顔が見えない。あかりと和が正門に入った瞬間チャイムが鳴る。チャイムと同時に正門はバリアを張ってゆっくり閉じる。


「危ねぇーー」


「次からは気をつけようね」


「だね」


 和は後ろにいた少年を思い出して振り返るが姿はない。


(あれ、いない)


「クラス発表見に行こう」


「うん」


 和は前を向くとそこには少年が俯いた姿勢で歩いていた。


「えっ!」


 和は思わず大きな声を出してしまう。その声に驚いたあかりが心配する。


「どうしたの?」


「い、いや。何でも」


「早く行くよ」


 あかりは和の手を引っ張ってクラス発表が張り出されている校庭へと向かう。そこにはまだクラス発表を見ている人たちでいっぱいだった。その中をあかりは空いている隙間を通ってクラス発表が見れる場所まで移動する。お互い見える位置に来ると早速組を探し始める。


「えーっと、私は……二年一組だ」


「私もだ」


「えっ、うそ。やったー」


「よろしくね」


「イェーイ」


 あかりと和はハイタッチをする。他の人はクラス発表を見終わると教室へと移動し始める。あかりと和もニ年一組の教室へと向かう。

 この高校では全校生徒千人ほどが在籍しており、その中でもニ年生は一番多く三五八人、クラスは六つに分かれ一組とニ組は五九人、三組から六組は六〇人と一組とニ組だけは一人欠けている中、転校生が一人ずつ入りニ年生は三六〇人になろうとしていた。


「はい、みんな座って」


 クラスが新しくなり盛り上がっている中、担任が扉を開ける。生徒たちは急いで席に戻る。


「おはようございます」


「「「おはようございます」」」


「早速なんですが転校生を紹介します」


 生徒たちはざわつき始める。


(そういえば、あかりが言っていたっけ……)


「入って来な」


 先生の声と共に扉が開き黒い足が教室へと入る。生徒の口から様々な言葉が飛び交う。


「男子だ」


「見えないよ」


「イケメン?」


「みんな落ち着け」


 入ってきたのは和が朝正門前で見た少年だった。少年はゆっくりと足を進めて教卓へ向かう。少年はフードを被っていてまだ口元しか見えない。


「これから二年間お世話になります。能力は炎と氷、あとは……色々ってところです」


 少年は頭に手をおき、フードを取る。


「俺の名前は零です」


「えっ!」


 あかりはあまりの驚きに立ち上がる。


「どうしたんですか? あかりさん」


「あっ、いや何でも」


 あかりは恥ずかしくなって、おとなしく座る。


「みんな仲良くしてあげてね。じゃあ席はあそこね」


 担任が指差した席は和の隣だった。零はその席へと向かう。零は席に座ると和の方を見て挨拶をする。


「よろしく」


「よろしく」


(私のこと覚えていないのかな?)


(何でこいつらがここにいるんだよ。まあいい、任務に支障はでないだろうし。逆に聞きやすいか)


「あのー。学校案内してくれないか?」


「えっ、あっ……」


 和は急過ぎて言葉が詰まる。


「いや、忙しかったらいいんだが……」


「うんうん、いいよ」


「本当か。ありがとう」


 零はホッとする。


(影月はどうしているんだろうか)


 二年二組でも同様、転校生の件で盛り上がりを見せていた。


「影月です。よろしくお願いします」


「じゃあ。席はあそこだ」


 影月は席へと向かう。


「よろしく。わからないことがあったら聞いてくれ」


 隣の赤髪の少年が明るく歓迎してくれる。


「あっ……ありがとうございます」


 影月は慣れない環境に緊張する。

 咲き誇る桜よりも空高くから見守る皆無とるなは風に背中を押される。


「さて、そろそろ任務が始まった頃かな。こちらも動くか。なー、るな」


「はーい」

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