第18話 エルク狩りの日
赤い札の緊急クエスト「大型エルクの角の納品」を受注したタケミとアリーシャは、
ナレフカから少し北の、大きな池のほとりに来ていた。
シノスからナレフカへ向かう途中で見つけた池だ。この辺りで巨大なヘラジカ「エルク」を目撃したからだ。
ヘラジカは魔物では無いため、核の魔力を感知する「エコーロケーション」では発見出来ない。
タケミは耳栓を外し、目を閉じて耳を澄ませた。
動物の息づかい、熊や狼の唸り声、ゴブリンの声や足音、木々の騒めき、色々な音が混ざり合う。池の周囲が静かなのが救いだった。
日はまだ高く、大型動物は見当たらない。夜行性だろうか。
ゴブリンやリザードを狩りながら、エルクを探して池のほとりをグルっと探索していると、なにやら戦闘音が聞こえてきた。
「いたぞっ!そっちへ追い込め!」
一人が声をあげ、大きな足音が聞こえた
「あっちだ、行ってみよう」
声と音のする方へ近寄っていくと、冒険者の一党が、エルクを追い詰めていた。
「よし、足を封じる。両側から追い込め!トドメはミリアだ!」
弓使いの男が足元を弓で射かけて動きを誘導している。風魔法の弓使いはディックやエルフの時に見たが、この弓使いの男は氷魔法を使っているようだ。
矢が刺さったところから氷のつららが噴きだしてエルクの脚に突き刺さる。
逃げ惑うエルクが動きを誘導された方向に、一党の仲間が待ち伏せている。
「よぉおし!!」
トカゲ人間のような男が左手に持った大刀でエルクの前足を斬りつける
「こっちもだ!!」
反対側には小柄なアリ型の虫族の男が待ち構えて、その手に持った槍で反対側の前脚を攻撃する。
ズゥゥゥゥンンンンン・・・・
派手に転倒した巨大なエルクが、前脚を封じられて立ち上がれずにもがいているところへ、細身の女魔導士が魔法を放つ
「土の精霊、滅びた大樹、褐鉄鉱の鱗、沈殿する結晶よ事象の牢獄へ誘え!石化魔法 ピケンオーレン!」
巨大なエルクの4本の脚が光を浴びて徐々に石化していく
「おお、すげえ。石化魔法とかあるのか」
タケミは驚いた。
「誰だ!!!」
タケミがぼそっと呟いたのに気づいて、弓使いが反応する
弓使いは矢を向けながらタケミの方をジッと見つめる
「あ、すまない。声がしたから見学に来ただけだ。邪魔する気も横取りする気も無いよ」
タケミは慌てながら両手を前で左右に振りながら弁解した。
「・・・・」
弓使いはゆっくりと矢を降ろした。
「紛らわしい真似はよすんだな。緊急クエストの出ていたエルク討伐。他のパーティに出くわしたら距離を取るのが礼儀だ。横取り目的とみなされて攻撃されても知らんぞ」
やはり横取りだと思われたらしい。
「ああ、すまない。昨晩ナレフカに来たばかりで、この辺りに詳しくないんだ」
タケミはそう言ってその場を立ち去った。
全員手練れだ。Dランクか、それ以上かもしれない
「よし、俺たちも早くエルクを探そう」
気を取り直してタケミとアリーシャはエルクを探した。
昨日の夜は3~4回見かけたのにな、、、
なかなか見つからずに、夕方になってしまった。
他のパーティに狩られてしまっているのかもしれない。
薄暗くなり始め、池のほとりで腰を降ろした二人は、肉バンズを口にしながら休憩した。まだ春を過ぎたばかりで暖かい。冬になればマイナス20℃にもなるというのだから、想像するだけで恐ろしかった。
肉バンズを食べながら、タケミはぼーっと池の方を眺めていた。
ふと、少し遠くでずっしりとした足音が近づいてくるのに気づいた。
「アリーシャ、見つけたかもしれない!」
タケミはそう言って耳を澄ます
ゆっくりと、そしてずっしりとした足音が、近づいている。200mほどの距離だ。
一歩、また一歩と歩いてきている。
タケミは音のする方をジッと見つめる。薄暗くなった池のほとりで、背の高い木々が揺れる中、大きな影がゆっくり動くのを見つけた
「あれだ!」
行こう!
タケミは音のする方を指差し、アリーシャを促すと音を立てないように進みだした。
その影は間違いなく巨大なヘラジカ「エルク」だった。
昨日見たのと同じく、二階建ての家が歩いているかの如き大きさだ。
タケミは昼間別の一党がしていたように、前脚を攻撃して転倒させてから倒す事にした。
「くらえ!!」
タケミは一気に走り寄り、そのエルクの前脚に突撃する
ドォォォォン!!!
いきなり左の前脚をへし折られて、エルクは派手に転倒して悲鳴をあげる
「ビィィィィィィィィィィィ!!」
少し甲高い声でエルクが鳴いた
「ここだっ!!」
苦しませないよう、タケミはすかさずエルクのノド元に思い切り打撃を加えた。
エルクはその一撃で絶命し、ゆっくりとその首を地に落とした。
(そうだ。ヘラジカや熊、猪は魔族のゴブリンたちとは違う。僕らの都合で狩るのであれば、なるべく苦しませずに仕留めるべきだろう)
タケミはファンタジー世界とはいえ、動物を殺す事への躊躇いがあったが、冒険者として生きる以上、生きるために殺す事を割り切るしかなかった。
エルクの巨大でリッパな角を頭部から採取し、肉や蹄も剥ぎ取って収納した。
「安らかに眠ってくれ」
タケミは両手を合わせ、エルクの前で弔いをした。
アリーシャもエルクのために祈りを捧げた。
「せめて、肉は一片も残さずに食料として持ち帰ろう」
タケミはこの世界でも弱肉強食があり、喰う者、喰われる者がいる事を学んだ。
タケミLv6⇒7
アリーシャLv5⇒6
(魔物の討伐は20匹。動物は経験値を得られない)
所持金 銀貨124枚
収穫 大型エルクの角2本(銀貨30枚分)
大型エルクの肉50kg(銀貨50枚分)
ゴブリン、リザードなどの魔物の核(小)20個(銀貨40枚分)
狼、猪、熊の肉15kg(銀貨15枚)
狼の牙4本(銀貨2枚)
熊の手2本(銀貨4枚)
収穫合計 銀貨141枚(70枚ずつ)
所持銀貨 194枚
収納魔法を持っている人が居ないパーティは、肉を持ち帰る事が出来ない。
地味に不便だし、収納魔法って大事だなとタケミは感じた。
動物の肉がこんなにも手にはいるなら、調理師がパーティに居るといいかもしれないとも思ったが、パーティの人数が増えれば取り分は減る。
このまましばらくアリーシャと二人でいいかな、、、、とタケミは思っていた。
手強い敵に遭遇しない限りは、それでいい。
昼間出会ったパーティも、4人組だった。となると、エルクの角と肉を合わせても一人あたり20銀貨だ。
稼げる強い冒険者が、弱い魔物や動物しかいない地域に滞在しない理由が良く分かった。
タケミはまだLv7だがすでにDランク並みの強さだ。そのうちナレフカでも物足りなくなるだろう。
しかし、強さだけで言えばアリーシャとの差は開くばかりだ。
この二人旅も、長く続くものではないのかもしれない、そう思い、タケミはアリーシャと一緒に居られる残りの日々を少しでも楽しく過ごそうと決めた。
「今日のご飯も美味しいですね!」
宿場で見つけた料理屋はシノスよりずっとご飯が美味しかった。
肉の種類も豊富で、味付けもアジア料理に近い。肉の臭みも消臭魔法などで取っているのだろうか、全然臭くない
(料理に魔法を使うのは反則かもな。。。)
冷やすのも燃やすのも臭みを取るのも、魔法で出来てしまうのだ。
タケミとアリーシャは、その日初めて奮発して「バフ料理」を食べた。
食事をすることで「体力強化」「力強化」などのバフ効果が得られる食事は、通常の食事よりも高額だが、生死に関わる日々を送る冒険者にとって重要なポイントになる。
これから狩りに出かけるわけでは無かったので、「リラックスと快眠」のスープ料理を選んだ。(滋養強壮の肉料理なんてメニューでドキドキしていた事はアリーシャにバレていないだろうか)
食事 銀貨10枚 宿泊費銀貨3枚
所持銀貨 181枚




