第88話 立食パーティー
フェリシア達を見送り、僕達はこの町に作られた領主様の御屋敷へやって来た。
御屋敷の執事さんに案内され、一旦ギルベルト様とは別室に通され、暫く待たされる。
お茶と茶菓子が用意されていて、待ってる間は3人でのんびりティータイムを楽しんだ。
「王宮で食べさせて貰ったお菓子も美味しかったけど、これも美味しいね」
「…ん、美味し…い」
「うむ、茶と合うのじゃ」
ルーナとエリーも本当に気に入ってる様なので味覚えて作ってみようと思う。
材料の割合までは解らないけど、どんな材料が使われているかは解るのでなんとかなるだろう。
持ってて良かった食材鑑定スキル。
ティータイムのお陰でリラックス出来た僕。ルーナとエリーは立食パーティーになんの緊張も無いようだ。
食材鑑定で調べたお菓子の材料をメモしていると、ドアをノックして、ギルベルト様が入ってきた。数人の使用人さんも一緒だ。
ギルベルト様に促され、ギルベルト様が用意してくれた正装に着替える。
僕達に合わせて作られたようなフィット感……と思ってたら、本当に僕達に合わせて作ってくれていたらしい。
よく服のサイズなんて知ってたな……なんて思ってたらルーナ御用達のホルン洋裁店で作ってもらったらしい。
ホルンさんには僕の鎧下も作ってもらった事があるのでサイズは問題なかったらしいけど、エリーは服とか作った事ないのにどうやってサイズ調べたんだろう?
着替え終わって間仕切りが取り払われると━━
ルーナは薄い青の可愛いドレスで髪は下ろして後ろ髪を一部綺麗な髪止めで止めている。ルーナの可愛らしさがより引き立てられとても良い。癒されるなぁ。
エリーは真っ赤な色気のあるドレスで髪を上げてティアラの様な装飾を着けていた。胸元が開きぎみでエリーのセクシーさが際立つ。ってか、つい、胸元に目が行ってしまう……
「なんじゃ? そんなに見たいなら見せてやっても良いぞ?」
「アステルのエッ…チ」
「いやっ、違うんだよ。これは……そう、本能的なもので、じゃなくて……ええっと……」
「アステルも男だって事だな。健康な証拠だ」
つい見とれてたらエリーが胸元をチラッと開いてうっすら笑み、ルーナがジト目で僕を見る。ギルベルト様は何かを理解したかの様にうんうん頷いていた。
違うんだよ、僕は悪くないんだ。あんなセクシーなドレスを用意した人が悪いんだよ……
そんなこんなで、着替え終わった僕達はパーティールームに案内された。
エリーはギルベルト様と、僕はルーナとペアになり腕を組んで部屋に入ると、既に多くの人が来ていて、会話を楽しんでいたようだ。
ギルベルト様とエリーが部屋に入ると、一瞬、場が静まり返り、数人の生唾を飲む音が聞こえた気がする。
どうやらエリーに見惚れている様だ。
男性も女性もエリーに視線を送りながら少しポーっとした表情を浮かべている。
初めてエリーが家に来た日の事を思い出すな。
招待された全員が集まると、オルタナル領の領主様。ケントニス・オルタナル様の挨拶から始まりゲートの発案、開発者エリーの紹介、オルタナル領の主要貴族の挨拶……かれこれ1時間、退屈な時間を過ごした。
町の名前はブランシュネ。この町を治めるのはケントニス様の長男で次期領主様のノレッジ様、アイスヘルのダンジョンに作られた冒険者ギルドの管理、つまりはこの町の冒険者ギルドマスターを次男のイルム様が務める事になるという事だ。
ギルベルト様と一緒に挨拶させてもらったけど、僕が今まで会ってきた王族や貴族の人達と違って3人ともかなり寡黙で生真面目な感じで威厳があった。
別に国王様やギルベルト様に威厳が無いわけではないのだけど……あの人達は何処か気楽に話せる雰囲気があって、あまり緊張しないのは本人達には言えない。
アレン達の誘拐事件の時に会った、砦の3人組(一応男爵位らしい)とも全然違って爵位を笠に着た感じもなく、平民である僕達にも偉そうにしない。
ケントニス様達への挨拶が終わって、エリーはギルベルト様に連れられ、この領地の他の貴族や商人組合の御偉方に挨拶しに行き、僕達は自由にして良いと言われたので、早速食事開始だ。
ルーナは大きなお皿に山盛りで色んな料理を乗せモリモリ食べ初める。
「ほら、口の回りにソース付いてるよ。ドレス汚さないようにね」
「…ん、ありがと…う」
ルーナの口をおしぼりで拭いて一言注意する。
高そうなドレスだから汚したら大変だ。
僕も片っ端から少しずつ料理を食べて味を覚えていく。流石は貴族お抱えの料理人が作った料理と言うべきか、どれもこれも美味しい。
食材も僕達には滅多に見ることの出来ない高級食材ばかり使われてる。
うーん、味の再現は難しく無さそうだけど、材料集めが厳しいな……幾つかは、この国で狩れる獣やモンスターだから、自力でなんとかなるだろうけど、貴族御用達の農場の食材や国外から取り寄せしてる高級食材は値段的にも流通的にも手が出せないな……まあ、何かで代用すれば作れるか?
「楽しんでますか? アステル君」
「あ、エルガー様。お久しぶりです。正直、挨拶とかは眠たかったですけど、料理が美味しいから楽しめてます」
「はははっ、相変わらずバカが付くほど正直者ですね。わたし以外にそんな事言っちゃダメですよ?」
「あっ……すいません……」
つい、口走ってしまったけど、本当にヤバいよね? あんな事言ったら……
「楽しめているのなら良いのですよ。また、暇な時にでも王都に遊びに来て下さい」
「はい、お伺いさせて頂きます。ありがとうございます」
社交辞令的なお誘いなのだろうけど、こう言ってもらえるのは素直に嬉しい。僕は深く頭を下げてエルガー様の背を見送った。
僕達から離れると、エルガー様は色んな人に挨拶されまくって料理を食べる暇も無いようだ。
「君はエルガー様のお知り合いなのかい?」
エルガー様が僕達から離れると、数人の若い人達(たぶん貴族)が話し掛けてきた。
「はい、知り合いと言うほどでは無いですが、以前少しだけ会う機会がありましたので」
「へぇー、若いのにエルガー様に会う機会が持てるなんて、何かの官職に付いてるのかい?」
おや? 転送施設の起動式典の時に紹介されたのに覚えて無いのかな?
「いえ、式典の時に紹介して頂いたのですが、僕達は只の冒険者です。エルガー様には新ダンジョン発見のご報告の時にお目にかかっただけです」
「……ああ、そう言えばそんな奴が居たな……只の平民か……チッ、声かけて損した」
僕達が平民だと解ると、興味を失ったのか、ボソッとそう呟き無表情に舌打ちして皆散らばって行く。
うーむ、この人達はなんだか感じの悪い貴族って感じだな。本当に偉い人はいい人ばかりなのに、なんでそうでも無さそうな人はあんなに感じ悪いんだろ? まあ、気にしても仕方ないか……食べよ食べよ。
僕達が只の冒険者だと解ると、それ以降話し掛けてくる人は誰も居なくなり、気楽に食事が出来るようになった。うん、有難い事だ。
エリーはと言うと……まだ挨拶回りしてる。
エリーも扱い的には平民なのだけど、あのゲートを作った主要人物ということもあり、商人組合の御偉方や貴族の人達から色々なお誘いを受けている。
聞き耳を立ててみると、どうやら職業的なお誘いから求婚的なお誘いまで、男性を中心に結構しつこく迫られているようだな……
と、少しエリーを気にして見ていると━━
不味いな……愛想笑いで話を合わせてるけど、そろそろエリーの我慢も限界近そうだ……
少しずつ、不快そうな気配が漏れだして来てる……
「ルーナ、そろそろエリーの我慢が限界近そうだ。止めに行こう」
「…ん、そうだね」
僕達は人混みをすり抜けながらエリーとギルベルト様の側に移動する。
僕はギルベルト様の左側へ、ルーナはエリーの右側に━━
「ギルベルト様、そろそろエリーの我慢の限界が近そうです。挨拶回りはその辺で終われませんか?」
僕は小声でギルベルト様に伝えた。
「そうだな。そろそろ切り上げるか」
僕が声を掛けると、ギルベルト様もその言葉を受け入れてくれ、挨拶回りを切り上げてくれた。
僕がギルベルト様に声を掛けるのと同時にルーナはエリーの右の手を握り、腰の上辺りを軽くぽんぽんと叩き、気分を落ち着かせていた。
それだけで、エリーから暴れだしそうな気の高ぶりは無くなり雰囲気も穏やかになった。
凄いな、この2人は言葉を交わさなくても通じてるようだ。
エリーを休ませる為に、パーティールームから出て最初に案内された部屋に移動する。
「疲れたのじゃ……」
部屋に着くなり、エリーは椅子に座り、テーブルに突っ伏した。
「お疲れ様、何か食べる?」
「…ん、色々持ってきた…よ」
「うむ、ありがとうなのじゃ」
ルーナはパーティールームからエリーの好きそうな料理をお皿に盛って来たらしい。
それと、ワインやらブランデーやら酒類も各種ボトルごと持ってきてる。
流石はルーナって感じだな。
「すまないな、エリー。気づいてやれなくて」
「構わぬのじゃ。しかし、もう良いじゃろ? これ以上無駄な事には付き合えぬのじゃ」
「解った。料理や飲み物はこっちに運ばせるから、満足したら宿の方に戻っても良いぞ。宿は此方で用意してあるから、うちの者に言ってくれ、案内させる」
ギルベルト様は使用人さんに一言二言声を掛けると、またパーティールームに戻って行った。
「ごめん、エリー。僕達の為に気を使わせて」
「…ん、エリー、ありがと…う」
「気にするでない。昔、王宮に住んでいた頃にはこんな事、日常茶飯事だったのじゃ」
僕とルーナが気分よくパーティーの場に居れるように気を使ってくれたエリー。エリーのお陰で仲間の僕達は貴族や商人達から殆ど認識されず、気楽に食事が出来た。
さて、明日からは新ダンジョンで大暴れだ。




