第57話 王都ウォルタナ
「うわぁー! ここが王都ウォルタナかぁ凄いなー!」
エリーさんの希望で王都に付いて来た僕とルーナさん、ギルベルト様が一緒ということもあり普通は乗れない国賓の人達が乗るような豪華な馬車に乗って王宮へと向かっている。
王都ウォルタナはアタランテの町から南に50km程の位置にあり、人口はなんと100万人以上、この国の冒険者ギルドの本部、学問ギルド、商人組合の本部等があり、全ての産業の中心にもなっている。
ちなみにグランセルの町の人口は約20万人でアタランテの町の人口は約15万人だ。
ここを中心に王家直轄の領地が広がっていて、アタランテの町も王家が治める町の1つなのだ。
フェリシアとアリシアはグランセルに残ってダンジョンの第1階層~第5階層で修行を兼ねてクエストをこなしている。ティガはと言うと、最近寒いからと部屋魔法に引きこもりだったので、運動不足解消を兼ねて2人の護衛をやってもらっている。
今回は流石のギルベルト様も都内に直接エリーさんの竜形態で降りることはしなかった。エリーさんがいたずらっ子っぽく町中に降りなくても良いのか尋ねたけど、ギルベルト様は手を合わせて「勘弁してください」と、頭を下げていた。
まあ、そんなことやったら騒ぎどころの話じゃなくなるもんね。
防壁の門を抜けると、馬車4台はすれ違えそうな広い大通りが延びていて、両脇は見上げるほど高い建物が建ち並び、カフェや服屋等の商業施設が続いている。大通りと建物の間は歩行者専用の通路になっている。
「入って直ぐに商業区域になってるんだ。凄いねルーナ」
「…ん、そうだ…ね」
「アステル、ここは商業区域じゃなくて居住区域だぞ?」
驚く僕達の言葉をギルベルト様が冷静に否定する。
「うそっ!? でも商業施設が並んでるじゃないですか?」
「あれは1階部分だけで2階からは居住施設になってるんだ。ちょっとした買い物をするのに商業区域まで足を運ぶのも大変だからな」
これで居住区域? 確かにグランセルの居住区域にもカフェやちょっとした商業施設はあるけど、この数kmも続いている大通りの建物の1階が全部商業施設になっている。ここが居住区域……じゃあ、商業区域ってどうなってるんだろう?
ギルベルト様の話によると、王都は中央に王宮、それを囲むように王族や貴族の住む居住区、王族や貴族の居住区との防壁を挟み南側は一般居住区、西側は商業区、東側は学問ギルドや冒険者ギルドの本部、研究施設、国家工房等、北側は正騎士団の宿舎や訓練施設等があるらしい。
僕がひたすら驚き騒いでいるのにルーナさんもエリーさんもいつもと変わらず冷静な態度で町の景色を眺めている。
数km続く大通りを進み王族や貴族が住む区域との防壁に到着。門を抜けると、これまでの建物とは違った豪華な造りの広い庭付きの屋敷が建ち並ぶ。
今、居る辺りの屋敷は殆どが貴族の別邸で、本邸は治めている領地や町にあるらしい……
ここが別邸……普段は使ってないなんて勿体ないよね……
少し進んで王宮に到着、王宮はこれまた1段と豪華な造り。豪華さの中にも気品があり、外装内装共に芸術的な造りに目を奪われ、驚きすぎて「凄い」とすら言えなくなった。
「何を呆けておるのじゃ。口を開けてぽかんとしておるとアホの子みたいじゃぞ?」
「行く…よアステル」
今度は呆け過ぎて呆れられてしまった……ルーナさんに手を引かれて王宮に入る僕。
それにしてもアホの子は酷くないか?
ギルベルト様は僕達と別れ国王様に謁見。僕、ルーナさん、エリーさんは王宮の1室に案内されギルベルト様の報告が終わるまで待機する事になった。
「王都はやっぱり凄いね。門を抜けてから驚きの連続だよ……ってなんで2人はそんなに普通にしてるんだよ」
「王宮は初めてだけ…ど、王都には来たことあるから…ね」
「我もこの程度の町は見慣れておるのじゃ。この国ではないが王宮に住んでおった頃もあるからのう」
うーむ、2人ともそれで落ち着いてるのか……あまり騒ぎ過ぎると本当にアホの子認定されかねないな……とりあえず落ち着こう。
待っている間に、メイドさん? って言って良いのか解らないけど、そんな感じの人がお茶とお菓子を用意してくれた。
「旨っ! めちゃくちゃ美味しいねこのお菓子。材料なんだろ? 作れないかな?」
「うむ、中々の美味じゃのう」
「…ん、アステル味覚えて作…って」
「が、頑張るよ……」
このお菓子にはルーナさんもエリーさんも感激したみたいだ。
しかし……作れるかな?
お茶とお菓子を食べてすっかり気持ちも落ち着き、2時間ぐらい待っていると、部屋の扉が開きギルベルト様が部屋に入って来た。
それに続いて、数人の鎧を纏った騎士らしき人達、白衣を着た髭を生やした白髪のお爺さん、そのお連れさんらしき白衣の人が2人、その後ろから貴族らしき格好をしたインテリそうなおじさん? お兄さん?
最後に入って来たのは……国王様!!
僕とルーナさんは直ぐに椅子から立ち上がり、床に片膝を付いて頭を下げる。
ちらっと横目でエリーさんを見ると、珍しくエリーさんも僕達と同じように頭を下げていた。
「畏まらなくても良い、頭を上げよ」
国王様に促され僕達は頭を上げて立ち上がる。
ウォルディンヴァル第138代国王メリウス・ハイド・ウォルター様。肖像画でしか見たことなかった国王様が目の前に居る。本物の国王様は絵より若々しく精悍な顔つきで体を鍛えているのか? 体格も良い。
あれ? 肖像画には髭が描いてあったのに髭が無い……でもこっちの方が似合っててカッコいいと思う。
確か今、34才だったはず……20代って言われても信じれるくらいに若々しい。
「ここは公の場ではない、そんなに緊張しなくても良いから肩の力を抜くといい」
そうは言われてもそんなに簡単に切り替え出来ないよ……ってルーナさん、エリーさん素直すぎ、なんで普通に椅子に腰掛けてんの?
「お前達は外で待っておれ、この者が緊張しているではないか」
「陛下、それは騎士達の所為ではないかと……」
国王様の言葉で騎士さん達は外に出て行き、国王様の横に立っていた貴族らしき人が小声で突っ込みを入れている。
「なんだ? 俺の所為でこの者が緊張していると言うのか?」
「陛下、口調を崩すのが早過ぎると思いますが?」
おや? なんだか国王様の雰囲気が変わったぞ?
「堅い事言うなよエルガー、嫌いなんだあの堅苦しい口調は」
「好き嫌いの問題では無いでしょう? 兄上……はぁ……いい加減慣れて下さいよ……」
なんだなんだ? 兄上? 国王様の弟? ってか国王様のイメージが想像してたのと全然違うんだけど……
「今日1番驚いてるなアステル」
「はあ……まあ、驚きますよね。普通……」
「はっはっはっ、肩の力が抜けて良いだろ?」
「もう少し威厳ある態度を示して下さいよ。全くこの馬鹿兄」
「貴様! 宰相の分際で国王に馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは!」
「馬鹿と言われたくなかったらもっとしっかりして下さいよ! 兄上がボロ出す度にフォロー入れてる私の身にもなって下さい!」
うーむ、国王様からギルベルト様と似たような匂いがする……エルガー様の苦労が目に浮かぶようだ……ひょっとしてエリシオ様と気が合うんじゃないだろうか?
「喜劇はその辺で止めにしてそろそろ話を始めんかのう? アステルの緊張も解けたようじゃしな」
「エ、エリー失礼だよ? その言い方は」
「問題ない、メリウス様はこういう方だ。そのくらいの事は気にも止めない」
「そうだ、俺は懐が深いからな」
「自分で言わないで下さい」
力無く項垂れるエルガー様。白衣の人達は見慣れた光景なのか、ただただ静かにやり取りが終わるのを待っている。
「さて、話を始めますので皆さん席に付いて下さい」
エルガー様に促されて僕達は椅子に座る。
「まず、新ダンジョン発見の話ですが、発見者はそちらの2人で間違いないですか?」
「は、はい」「…ん、間違いない…よ」
「場所はオルタナル領、スターリット山脈、ウィルブルム山の山頂」
「はい」
1つ1つ順を追って確認をして、話を進めていく。
正確な場所、内部の様子等、僕とルーナさんが知り得た情報を説明し、次に転送魔方陣の話になった。
「━━で、移動には転送魔方陣という物を使えば問題ないと?」
「うむ、そうじゃな」
転送魔方陣の質疑に入り、エリーさんが詳しく説明し始めると、その場に居た説明を初めて聞く人達の目の色が変わる。特に白衣を着た人達は子供の様に目を輝かせ話に聞き入っていた。
「革新的技術だ。エリー殿、是非学問ギルドで詳しい話を━━」
「他にも何か我々の知らない知識をお持ちか?」
「……う、うむ、それはあると思うのじゃ」
白衣を着た人達のテンションが気持ち悪いくらいに上がって、いつも冷静なエリーさんが少し気圧されていた。
「ではこれから直ぐに我らと来て頂けますか? エリー殿」
「「「是非に、是非に」」」
「い、いや、もう少し後でも良いのではないか? まだ話も終わっておらぬようじゃし」
「1人残っていれば問題ない、先に行ってて良いぞ」
エリーさんは珍しく……いや、初めてか? 僕達に目で助けを求めて来た。
「…ん、私が一緒に行く…よ。アステルこっちはお願…い」
「解った。ルーナ、エリー、頑張って」
白衣の人達に手を引かれてエリーさんとルーナさんが部屋から出ていく。
エリーさんなら力で振り払えるとは思うんだけど、それをしなかったって事は僕達に気を使ってくれたんだろな……ありがとう、エリーさん。
エリーさん達が出ていって直ぐに建物内で発見した装備や道具についての話になる。
「拾得物は規定通りアステル達の物にして良い。その権利を奪っては冒険者をする者が居なくなるからな。ただ1つ頼みがあるんだ」
「な、なんでしょう?」
「お前達が必要ないと判断した物を買い取らせて欲しい。勿論値段はその辺りの商人より高く買い取らせてもらう」
「え? それで良いんですか? それなら別に買い取っていただかなくても献上品って事で大丈夫ですよ?」
「ははは、無欲も良いがほどほどにしておかないと逆に怪しまれるぞ? こちらが買い取ると言っているんだ。タダで差し出すことはない」
「はい、ありがとうございます。では美術品なんかは僕達に必要ないのでお願いします。装備品やアイテムはまた仲間と相談して決めさせて下さい」
「ああ、ゆっくりと相談するが良い」
「あ、それでお願いなんですが?」
「なんだ?」
「これらの物を鑑定出来る鑑定士さんを紹介してもらえないでしょうか? ギルド鑑定士さんでは詳しい鑑定が出来ないみたいなんです」
「そんな事か、直ぐに呼んでやろう」
国王様の指示で鑑定士さんが呼ばれ、十数分後数人の国家鑑定士さんが部屋に入って来た。
「ほう、これはまた凄い物が揃ってますね」
鑑定結果は
・狂戦士の大剣。人を斬る度に切れ味が増すが、その度に精神が高揚し、次第に回りが見えなくなり辺りに居る生き物が居なくなるか、体力が尽きるまで攻撃性が抑えられなくなる。
・神滅の剣。闇属性のオーラを放ち斬った相手に腐食の状態異常を与える長剣、鞘から抜いている間激しく魔力を消費し、魔力が無くなると生命力を消費して能力を発揮し続ける。
・心滅の魔槍。肉体だけではなく精神にダメージを与える槍、防具で攻撃を防いでも精神のダメージは防ぐことは出来ない。使い続けると自身の精神にもダメージを受け最終的に廃人の様な状態になる。
・反魔の盾。受けた魔法を弾き返す盾、弾き返せる魔法の強さは使用者の魔力量に依存する。
・断絶の大盾。起動句を唱えると盾を起点に幅50m高さ30mの透明な防壁を出現させる。防壁の強度は魔力量に依存する。
・騎士王の鎧。頭から爪先までほぼ隙間なく防護されたアダマンタイト製の黒鎧、衝撃斬撃魔法耐性に優れ、見た目に反して動きを邪魔しない造りになっている。騎乗時馬に安心感を与える特殊能力が付加されている。
・疾風の鎧。兜は無く、胸、腰、前腕、膝下を防護する軽装鎧。アダマンタイトとミスリルの合金で出来ており保護部位の防御力は高い。加速の特殊スキルが付加されており、起動句を唱えると瞬発力が1.5倍から3倍になる。長時間のスキル使用は体に負担が大きく加速し過ぎると動けなくなる事もある。
・無刃の服。斬撃耐性が高く刃を通さない服。衝撃は防ぐ事が出来ないので物理攻撃を受けると痛い。男性用
・覇魔の服。魔力増加のスキルが付加されており、魔力を使用した行動に補助が付く服。男性用
・防魔の服。魔法耐性が高くどの魔法に対しても高い防御力を発揮する服。女性用
どの服も着る人に合わせてサイズが変わりどんな体型の人でも着れる。
・次元結界。使用者を一時的に異次元に隔離し効果終了後元の位置に戻る魔道具。1度使うと壊れる。
・黄泉帰りの宝珠。死後1日以内の生物の魂を黄泉から連れ帰り死者を生き返らせる宝珠。1度使うと壊れる。寿命による自然死の者は生き返らせる事は出来ない。
・生命の神珠。ネックレスの先に付いた宝石が起動句により使用者の魔力を糧にして傷、体力を回復させる。回復量は魔力に依存する。
・溜魔の腕輪。身に付けていると少しずつ腕輪に付いた宝珠に魔力を溜める魔道具。起動句により溜めた魔力を本人に戻す。溜められる魔力量は数値にして最大500ほど。
武器は扱いが難しいな……それ以外の装備やアイテムはかなり有用な物ばかりだ。どれを残してどれを売るか……まあ、ルーナさん達に相談して決めたら良いか。
「あの、鑑定料はいくらになりますか?」
「そうだな、タダでも良いがそれだとアステルも気を使うだろう? 美術品の買い取り額から適正な額を引かせてもらう」
「はい、ありがとうございます」
鑑定を終えた僕達は、エルガー様に連れられエリーさん達が行った学問ギルドに移動する事になった。
「アステル、なんでこんな所に居るんだ?」
王宮を出て学問ギルドに向かっていると聞き覚えのある声が僕を呼び止めた。
「親方? 親方こそなんでここに?」




