第55話 ウォルディンヴァル第3のダンジョン
魚とフロストバーンを回収した僕達は、発見した建物の調査は一先ず置いておいて、小屋に戻ることにした。
寒さに耐えるのも限界が近い体を温めなくては……
━━全力疾走する事1時間、エリーさん作の土の小屋に戻ってきた。
小屋は高さ3m直径5m程の円柱状で屋根部分は雪が積もらないように円錐状になっていて、小さな空気穴と中には暖炉(当然煙突もある)を作っている。
小屋にはドアは無く土操作で壁に穴を開けて出入りし、土操作で閉じる方式にしている。これも修行の一環だ。
小屋に入り暖炉に火を灯す。薪には氷樹を仕様、氷樹は乾燥させなくても普通の木で作った薪と同じくらいよく燃え、有害な煙も殆ど出ない。魔道具で火を付け暖炉の前にルーナさんと一緒に毛布を被って氷樹で作った丸太の椅子に座り体を暖める。
「大物が捕れて良かったね。とりあえず魚は鍋にして食べようか?」
「…ん、温まって良い…ね」
さて、どんな味付けが合うかな?
暖炉に背を向け、収納魔法から魚を取り出し鑑定してみる。
ウィレム湖に住んでるだけあってかなり皮下脂肪が多く表皮には凍結耐性もあるようだ。身は全身霜降り状、水が無くてもこの魚の水分だけで鍋が作れそうだな。
……あ、まずいな、収納魔法内部は15℃くらいの定温になってるからこの魚の保存適温に合ってなかったみたいだ……少し痛みかかってる。
僕は素早く魚を捌きヒートプレートに鍋を置き魚を放り込む……が4分の1も入らない。
「ルーナ、氷魔法で残りの切り身閉じ込めて」
「…ん?」
僕の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げるルーナさん。首を傾げながらも切り身は氷に閉じ込めてくれた。
「この魚、零度以上になると痛んじゃうみたいなんだ。もう痛みかかってるから氷に閉じ込めとかないと食べてる間に完全に痛んじゃいそうだったんだよ」
「…おぉっ、危なかった…ね」
珍しく少し驚くルーナさん。やっぱり食べ物絡みだと他の事より感情が刺激されてるな……
5分程で鍋がグツグツ音を立て湯気が立ち上がる。蓋を取ると、良い感じに水分が出て魚が煮えてきていた。
水分が出ると身が半分ぐらいの大きさに縮み鍋には金色に近いスープが満たされている。
味付けは塩とピンクペッパーを少々、黄金出汁の旨味と適度な酸味とピリ辛さが利いて良い感じの仕上がりになった。
「…ん、美味し…い」
ルーナさんも気に入ってくれたみたいだ。最初に入れた魚を食べ終わり、この辺りで取れた雪花等の野草がこの鍋に合うみたいなので軽くしゃぶしゃぶして食べると出汁が絡んで野草の旨味が引き立つ。
魚と野草を交互に茹でながらあっという間に50kg程あった魚は僕達の胃袋(9割以上はルーナさん)に収まった。
「あー食べ過ぎたぁ」
「美味しかった…ね」
「帰りにもう一匹捕まえて帰ろうか? 氷に閉じ込めておけば痛まないみたいだし」
「…ん、皆で食べるな…ら、2匹は必要だ…よ?」
「そうだね……そうだ、ギルドに審査してもらう分も要るから3匹は要るね」
「…ん、そうだ…ね」
体も温まりお腹も満たされ、この日は休むことにした。
━━翌朝
暖炉の番をしながら交代で休んだ僕達、朝になり昨日の建物を調査しに行くことにした。
「やっぱりあの建物ってそうだと思う?」
「…ん、グランセル…やアタランテの…と、よく似てるか…ら、そうだと思う…よ」
昨日見た建物はグランセルやアタランテのギルド会館によく似ている。つまりは新しいダンジョンの可能性が高いのだ。
ギルド会館は元々、ダンジョンが発現した時に現れた大きな神殿の様な建物の内部を改装して出来た物だから外観がよく似ている。これは他国のダンジョンも同じで、ダンジョン内部や出現モンスターは異なるけど外観は殆ど同じになっている。
「もしそうだとしたらこの国3つ目のダンジョンだよ」
「…ん、もしかしたら2つ目だったか…も」
そうか、そうだよな。エターナルアイスヘルの調査が50年前で止まってるんだからアタランテダンジョンより前に発現した可能性もあるんだな……まあ、調べようが無いんだけどね。
話ながら走ってる間にも僕は氷魔法の修行をしている。
修行とは言っても、水袋から取り出した水に魔力を流し水が凍っていく感覚を魔力で感じとる作業だ。
右手で凍る感覚を感じとり、その感覚を左手に水魔法で作り出した水で再現させる。
昨日までにだいぶ感覚は掴めてきてるからあと少しだと思うんだけどな……
右手の水を捨て、両手で集中してやってみると魔法で作り出した水が氷の塊に変化した。
「おおっ! やったよルー━━ふべしっ!」
「ちゃんと前見…て走らなきゃ、ダメだ…よ」
あいたたた……余所見してたら氷樹にぶつかってしまった……
「ははっ、でも成功したよ。氷魔法」
「…ん、頑張った…ね」
体を起こし地面に座ったまま作り出した氷をルーナさんに見せるとルーナさんは僕の頭に優しく手を置いて一緒に喜んでくれた。
ここまで出来れば水魔法と同じ様に氷の刃や壁を作り出したり生き物や物を氷に閉じ込めたり出来る。次は第2段階、冷気を生み出して物体を凍らせる氷結魔法の修行だ。
水と似たような感覚で凍らせれるならそんなに時間はかからない気もするけど、ルーナさんが結構時間かかってるし難しいんだろな……気長にやろ。
━━それから30分程走り建物の前に到着
「やっぱりギルド会館にそっくりだね」
「…ん、違うのは扉の上のマークだ…け?」
そういえば、グランセルもアタランテもあそこの部分は違うよな……何が書いてあるのかは解らないけど……
「とりあえず入ってみようか?」
「…ん」
僕は扉を開け……とーびーらーをー!! おもいっきり引っ張るが扉が凍りついているようで開かない……
「開かないね━━」
「━━開いた…よ」
「うそっ!?」
僕が全力で開けようとして開かなかった扉をルーナさんがあっさりと開けた……というよりここの扉は押して開けるようだ。
グランセルもアタランテも引いて開けるのに……騙された……
中に入ると外の寒さが嘘のように暖かい。
「暖かいね。20℃くらいある?」
「…ん、外が寒かったか…ら余計に暖かく感じるのか…も」
確かにそうかも、外より暖かいのは間違いない、ここなら火を起こさなくても凍死することはないくらいの温度はありそうだ。
建物内部は改装されているグランセルやアタランテのギルド会館とは違い、飾り気もカウンターも何もない広々とした部屋になっている。
いくつかの扉と、上の階に上がる階段、地下に下りる階段、1階の奥には1つだけ他とは違う大きめの扉がみえる。扉の大きさや形、模様からしてダンジョンに続く階段に繋がってるはずだ。
「どうする? たぶんあの扉がダンジョンに続いてると思うんだけど」
「…ん、先に他の部屋見て回…ろ」
「うん、そうしよっか」
僕達は手近な部屋から順番に見て回る事にした。
最初は1階のの右から、殆どの部屋は何も無いただの空き部屋、例の大きめの扉はグランセルと同じように長めの広い通路になっていて、その先にまた扉、扉を開けると直ぐに地下に下りる階段があった。
そこは後回しにして今度は2階を調べる。
2階は長く続く廊下に等間隔に扉がある。手前から順番に見て回り、丁度廊下の角にある6部屋目の扉を開けると、そこには幾つもの服や武具、よく解らない道具が綺麗に飾られていた。
「保管庫……というよりは展示室みたいだね」
「…ん、どれも普通の武具じゃないみたいだ…ね」
「どうしようか?」
「ダンジョンで見付けた物…は冒険者の物。とりあえず貰っとい…て、ギルド長に聞いてみたら良…い」
「そうだね」
これ全部が魔法武具、魔法道具だとしたらとんでもない価値になる。ここもダンジョンと考えるなら、見付けた物は全部僕達の所有物になるんだけど……アタランテダンジョンに最初に入ったのは王国の正騎士団だったから見付けた物は国庫に入ってるはずなんだよね。
まあ、ギルベルト様に確認取ってダメだったら引き渡せば良いか。
僕達は武具やアイテムに目印になるよう紐を結び付け、収納魔法にしまう。
全30部屋(地下も含め)を見て回り、もう1部屋、展示室のような部屋を発見、そこには壺や絵画等の美術品と、見た事の無い文字が書かれた巻物があった。
それらも収納魔法にしまい、いよいよ例の大きめの扉の向こうの階段を下りて行く。
「やっぱりダンジョンだったね」
「そうだ…ね」
階段を下りると、そこは外と同じような景色が広がる広い空間だった。
最初の空間は氷樹や雪花、その他建物外と同じ植物が生える広い空間。外と違うのは、地面に雪は無く気温も建物内と同じくらい、アタランテの時もそうだったけど、ダンジョン内は環境と生物の法則が一致しないな。
少し歩くと見慣れないモンスターが数匹視界に入った。
「早速戦闘か……初めて見るモンスターだから気を付けてやろう」
「…ん」
そこに居たのは真っ白な猿? が4匹、体長は僕の倍くらいで、瞳は血のような赤、口の外にはみ出した丸みをおびた大きな牙、腕は丸太の様に極太だ。
「グガアアアァァァーーー!!!」
向こうも僕達に気が付き、1匹の咆哮が合図になったのか、残りの3匹が扇状に展開し、右端の白大猿が足元の石を拾う。
僕達は左右に別れて端の2匹に向かって走り出した。
僕が走り出すとほぼ同時に向かう先に居た白大猿が大きく振りかぶって拾った石を投げ飛ばしてきた。
石の大きさは直径30cm程、速度はかなり速かったけどモーションが大きかったので、躱すのは結構余裕だった。
白大猿の足元に踏み込み、魔力を込めて神剣ヴァーリを抜刀し、右足を斬り付ける。
振り抜いた剣は白大猿の右足をあっさりと切断、僕はそのまま白大猿の右側に飛び退き、白大猿が苦痛に顔を歪ませながら両手を地面に付く。
そこへ戻り様に剣を振り抜き右腕を切断、倒れ込む白大猿の首を切り裂き止めをさした。
直ぐに他の3匹の方を振り向くと、1匹につき一撃で切断された白大猿が地に伏しすでに絶命していた。
うはっ! 流石ルーナさん、僕が1匹倒してる間に3匹倒してる……あれ?
「こいつ魔法使ったの?」
「魔法じゃなく…て、ブレスだった…よ」
1匹の白大猿の近くで、地面が3m程凍りついているのを発見。
そうか、氷のブレスを吐くのか……使われてたらちょっと危なかったかも……うん、次から気を付けよう……
とりあえずこいつらも食べられるようなので収納魔法に保管する。
建物内の武具等と合わせて僕の収納魔法はもう一杯になりそうだったけど、ルーナさんはまだまだ入るみたいだ。
僕の収納魔法もそろそろ大きくしないとな、せっかくだから買わずに自力で大きな収納魔法を覚えよう。エリーさんに教わればたぶん出来るはずだ。
僕達はダンジョンを探索しながら内部で1泊して、翌日エリーさんのお迎えを待った。
※捕捉
作中のルーナさんの感情について、アステルがよく「ルーナさんが嬉しそうだ」等、表現している文がありますが、殆どの人には違いは解りません。
表情が変わるのはほんの僅か、コンマ数ミリ目元や口元が動きます。声色も微妙に変わりますが、その違いはアステル以外に見分けられる人は皆無です。
エリーさんやアステル一家は一年近く一緒に暮らしているので雰囲気の違いでルーナさんの感情を読み取りますが、他の人達はその違いに殆ど気が付きません。
アステルは、事ルーナさんに関してだけは他の誰より超人的な力を発揮しているのです。
と、いう事を頭に置いてお楽しみ下さい。〈幸村〉




