第41話 アイリスの不安
アイリス視点です。
※アステルとルーナの世界は1日が30時間(お昼は15時)だと念頭に置いて読んでください。
「おはよー」
「おはよう」
私の朝は、お母さんと一緒に皆の朝食とお弁当を作る事から始まる。
本当は仕事があるお母さんには朝はゆっくり寝ててほしいのだけど、お母さんは「子供に任せっきりで寝てられるわけないじゃない」と、任せてくれない。
それどころか「アイリスは子供なんだからもっと自由にして良いのよ」と、あまり私を頼ってくれない。
いつまでも子供じゃないよ? 後2年半もすれば私も16才、もうすぐ成人なんだから……
朝ご飯を作っていると、だいたい最初に起きてくるのはお兄ちゃんとルーナさん、ルーナさんはいつも眠そうにお兄ちゃんの服の裾を掴んで目を擦りながらダイニングに来る。
この姿がとても可愛いくて癒される。お兄ちゃんが夢中になるのも解るわ。
続けて、エリーさんが起きてくる。この人は朝からしゃっきりして、いつでも落ち着きのある大人な雰囲気。私も大きくなったらこんな大人になりたいな。
そして、いつまで経っても起きてこないのがアレン。毎朝私が起こしに行く。
「アレーン! 起きなさーい!」
「ぅーん……あと5分……」
「どこかのおじさんみたいな事言ってないで起きなさい。今日はデイジー達と買い物に出掛けるんでしょ? 早く準備しないと皆来るわよ」
「そうだった……忘れてた……」
「まったく……ご飯出来てるから早く食べちゃいなさい」
「うん」
やっと起きたアレン、まだ寝ぼけているのか、フラフラして壁にぶつかりそうになりながらダイニングに歩いて行った。
朝食が終わると、お兄ちゃん達は今日も冒険者の仕事に行く。お弁当を渡して玄関までお見送り、最近はご近所に引っ越して来たフェリシアさんとアリシアさんも一緒に仕事をしているみたい。
お兄ちゃん達を見送った後は、食器の片付け。
「おはよーなの」
「おっはー」
「はよーん」
「おはよう」
片付けをしていると、デイジー達が転送魔方陣からリビングに入ってくる。最近はデイジーだけじゃなく、他の子達も遊びに来るようになったのだけど、一度に大人数で遊びに来られると家に入れないので順番を決めて遊びに来るようになった。
今日来たのは、デイジー、カメリア、リリー、ジャスミンの四人と、デイジーの両親のオーキッドさんと、ヴァイオレットさん。
デイジーの年齢にも驚かされたけど、その両親の年齢にはもっと驚かされた。見た目はどう見ても二十代前半くらいなのに、オーキッドさんは302才でヴァイオレットさんは256才、エルフ族の年齢って……
オーキッドさんとヴァイオレットさんは、家でお母さんとお茶会。子供達は商業区域にお出かけ。
「皆、竜の腕輪は着けてる?」
「あっ、いっけない忘れてた」
竜の腕輪。竜鱗(エリーの鱗)から作られた道具で、世界中飛び回って何処に住んでいるか解らないエリー達竜族が互いの位置を知るために使っている道具。アタランテでエリーが会いに行った友達もこれを持っている。以前エルフの村を襲ったモスマンがエルフ族は高く売れると、言っていたのを危惧して、エルフ達がエルフ村を出る時は、念のために持たせる事にしたのだ。
「お昼には戻ってくるのよ」
「「「「「はーい、行ってきまーす」」」」」
アレン達を見送って、家に戻ると、お母さんが洗濯を始めようとしていた。
「ちょっとお母さん、お客さん放っておいて何やってるのよ。洗濯は私がやっとくからオーキッドさん達とお茶してて」
「でも……」
「でもじゃないわよ、せっかくのお休みなんだからゆっくりしなさい」
「ふふ、これじゃどっちが母親か解らないわね。ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね」
放っておくと、お母さんは全部1人でやろうとする。毎日仕事で疲れてるんだから、もっとのんびりすれば良いのに……
私が無理やりリビングに押し込むと、やっとオーキッドさん達とのお茶会が始まった。最近、エルフさん達はラテ豆茶にハマっている。
香ばしい香りと、コクと苦味が良いのだそうだ。
私も匂いは好きなのだけど、あの苦味が苦手でそのままは飲めない。たっぷりのミルクとハニーシュガーを入れると美味しいのだけど……
3人がお茶会をしている間に私は洗濯を始める。ほとんどの物は洗濯魔道具に洗剤と一緒に入れておけば洗えるのだけれど、お兄ちゃんとルーナさんの服はモンスターの返り血が付いてるから最初に手洗いしておかないと、他の洗濯物に変な匂いが移っちゃうからちょっと面倒。
まあ、お父さんが生きてた頃にも同じだったから慣れてるけどね。
エリーさんの服は鱗を変化させて服にしてるらしいから、全く洗い物が出ない。服を買わなくてもおしゃれし放題なんて羨ましいわ。
手洗いが終わって、洗濯魔道具に入れたてから、お母さん達に混ざって少し休憩。
「アイリスちゃんは偉いね」
「本当、デイジーにも見習ってほしいわ」
「いつもありがとうねアイリス。でも、もっと友達と遊びに行ったりして良いのよ。まだ子供なんだから」
「いいのよ。同年代の子達と一緒に遊んでも話が合わないもの。こうやってお母さん達とお茶してる方が楽しいわ」
私がそう言うとお母さんは嬉しそうだけど、少し困った様な顔をしている。
お茶をしている間に洗濯も終わったので、洗濯物を干しに庭に出た。
「おはようアイリス、今日も良い天気だね。良かったら僕と出掛けないかい?」
「おはようネイルス、私なんか誘わなくても、あなたと遊んでくれる人は沢山居るんじゃない?」
「いや……君と遊びに行きたいんだけど……」
「ん? 何か言った? もう少し大きな声じゃないと聞こえないわよ?」
「い、いや……なんでもないよ……またね」
「うん、またね」
幼なじみのネイルスは、よく私を誘いに来る。たまにはお茶くらい付き合ってもても良いのだけれど、いつも忙しい時に来るから、つい、意地悪に対応しちゃうのよね。
洗濯物を干し終えて家に入り、お昼ご飯の準備を始める。
今日は大人数だから、早めに支度しないと、お昼に間に合わないわ。
お母さんとオーキッドさん、ヴァイオレットさんも一緒にお昼ご飯の準備をするのだけど、家のキッチンはそんなに広くないから四人はちょっと厳しい……
今日はオーキッドさん達が持ってきてくれた、新鮮な鶏肉と野菜を使って、青野菜炒め、鶏肉のスパイス焼き、オレンジコーンのポタージュ、それとキノコと鶏肉の炊き込みご飯。
炊き込みご飯は皆大好きだから、多めに作らなきゃ。
せっかく作ったのに、お昼になってもアレン達はまだ帰って来ない。
きっと遊びに夢中になってるんだわ。まったく、温かい内に食べないと美味しくなくなっちゃうのに……
帰って来ないアレン達は放っておいて、私達は先にお昼を済ませる事にした。
私達がご飯を食べ終わっても、アレン達はまだ帰って来ない。ちょっと心配になってきたわ……帰り道が解らなくなったのかしら? いいえ、アレンが一緒だものそれはないわ。
もう、17時。お昼の時間に、こんなに遅れた事なかったのに……もしかしたら何かあったのかも……
「お母さん、探しに行った方が良いかな?」
「そうね、ちょっと遅すぎるし、様子を見に行った方が良いかもしれないわね。オーキッドさん、ヴァイオレットさん、私達ちょっと商業区域まで探しに行ってみるから、家に居てもらえますか?」
「ああ、すまないね。世話をかけて」
「お願いしますね」
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
私はお母さんと一緒にアレン達が遊びに行っている商業区域に向かった。




