〔百聞は一見にしかず〕
番外編18〔百聞は一見にしかず〕
「え~~~~! !!!」
4人はお互いを指差し声をあげた。
すると王子が、
「待たせてあったタクシーって、零二のタクシーだったんだ。」
すると今度は零二が、
「伊佐江さんの探していた男の人って、兄さんの事だったってこと?」
イサッチは少し顔を赤らめ下を向いた。
すると智恵葉が、
「良かった~、あたし、この車にまた乗りたいと思ってたんだ。」
智恵葉は当分会えないと思っていた零二と再会出来たので上機嫌だった。
「ま、まあ、こんな所で立ち話もなんだし、とりあえず食事に行くか。
伊佐江さんは、何か食べたいものありますか?」
王子は下を向いているイサッチを横から覗き込むように聞いた。
王子の顔に気付いたイサッチは、おもわず顔を反らし、
「い、いえ…わ、私、あまりこの国の食べ物の事を知らないもので…お、お任せ致します…」
「あ、そうでしたね。日本に来て、まだ日が浅かったんですよね。」
王子は頭をかきながら、イサッチに謝った。
すると今度は零二が、
「じゃあ、智恵葉ちゃんは何が食べたい?」
「う~んとね、あたし、『グラタン』か『ドリア』が食べたい!」
それを聞いたイサッチは、
「『ぐらたん』『どりあ』?そ、それは料理の名前なのですか?智恵葉様。」
と、聞いたことない料理名に興味津々だった。
「兄さんは何がいい?」
「そうだな、仕事も終わった事だし、肉がいいな。ガッツリしたやつ。」
すると零二は「フフフ」と笑い、
「なんだよ、バラバラだな。俺は麺類かと思っていたんだけどな。
じゃあ、ファミレスにでも行こうか、ありきたりだけど。」
零二の提案に智恵葉が、
「やった~!ファミレス~!ねえ、お兄さん、ドリンクバー頼んでもいい?」
と、零二に上目使いで甘えた声で聞いた。すると零二は、
「もちろん!ファミレスと言えば、ドリンクバーでしょ!」
と、智恵葉の頭をポンポンと撫でた。
2人の会話についていけないイサッチは、
「あ、あの…お2人は何の話をしていらっしゃるのでしょうか?」
すると王子が、
「アハハ、伊佐江さんは料理はお好きですか?」
と、イサッチに尋ねて来た。
「は、はい。お城では料理の手伝いとかしてましたから。あ、もちろん、自分でもしますわ。」
「じゃあ、これから行く所は気に入ると思いますよ。いろんな種類の料理がたくさんありますから。きっと伊佐江さんの好きな料理もありますよ。
とりあえず、行きましょうか。」
王子の言葉に、4人は零二のタクシーに乗り込み、ファミレスへと向かった。
店に着くなり、イサッチは目を疑った。
明るい店内だけではなく、ズラリと並んだ柔らかそうなソファー、お城の中でも、こんなにソファーの並んでいる部屋は見たことが無かった。
さらにイサッチは『メニュー』を見て、さらに目を丸くした。
まるで本物のような写真がたくさん写っていたからだ。
王子はメニューをイサッチに見せ、
「伊佐江さん、好きな物を注文していいですよ。」
と、ニコリと笑いながら言ってきた。
が、どれもキレイな器に盛られ、本当に食べ物かと思ってしまう、イサッチであった。そして、
「さ、先に王子様や、零二様が決めて頂いてよろしゅうございますよ。 」
と、ごまかしながら、精一杯の笑顔で答えた。
すると智恵葉が、
「じゃあ、あたし、この『温玉ミートドリア』」
と、メニューを指差し答えた。続いて零二が、
「じゃあ、俺は『なすとほうれん草のミートスパゲッティ』にしようかな?兄さんは?」
王子はパラパラとメニューをめくると、
「俺はこれだな。」
と、『ハンバーグステーキ』を指差した。
すると零二は「プッ!」と吹き出し、
「なんだよ、兄さん。「肉が食いたい」って言うから、てっきり分厚いステーキでも注文するのかと思ってたら、『ハンバーグ』かよ。ハハハハ。」
すると王子は、少し「ムッ」っとした表情で、
「べ、別にいいだろ、これもれっきとした肉料理じゃないか!」
「アハハハ、お子ちゃま兄さんは放っておいて、伊佐江さんは何にします?」
「え~っと、あの~…」
イサッチは、とりあえず『多田野家』で食べた事もあるものを探したが、あまりにもキレイに作られているため、全部初めて見る食べ物に見えた。
すると、さっき王子が開いたページに目が止まった。
「あの…この丸い塊も、お肉を焼いた物なのですか?」
と、王子に尋ねた。すると王子は、
「伊佐江さん、『ハンバーグ』は初めてですか?」
イサッチは『肉料理』と言えば、『切って焼く』か、『切って煮る』しか知らなかったのだ。
「わざわざ丸く切る意味があるのでごさいましょうか?もしかしてより美味しくなるとか?」
すると王子は、
「『百聞は一見にしかず』とりあえず食べてみてはいかがですか?」
と、イサッチに言うと、
「ひゃくぶん?」
と、首を傾けた。
すると今度は智恵葉が、
「イサッチ、『百聞は一見にしかず』だよ。『人に100回聞くより自分で1回確めた方が確実』って事。」
すると零二が手を叩き、
「パチパチパチパチ、さすが、現役の学生さんだ。よく知ってるね。」
「エヘヘヘ、まあね。」
智恵葉は頭をかきながら照れた。
「じ、じゃあ、この『ハンバーグ』にしようかしら、でも食べきれるでございましょうか…それに、こんなに種類が一杯…」
すると智恵葉が「プッ」っと吹き出し、
「イサッチ、何をいまさら少食のフリなんかして~、あたしの家族で1番食べるくせに~。」
智恵葉の言葉に、王子と零二は顔を見合わせ、そのままイサッチを見た。
イサッチは2人に見つめられて赤くなり、
「い、いやですわ、智恵葉様ったら、あ、あれはですね、セラさんのお作りになられた料理が美味しすぎて、ついつい食べ過ぎただけなのでございますよ。」
「毎回ね~。」
と、智恵葉は笑いながら付け加えた。
すると王子は、
「じゃあ、これなんかいいんじゃないかな?『チーズインハンバーグ』」
「ちーず!?」
イサッチは『チーズ』というワードに敏感に反応した。
と、いうのも、初めてデパートに来た時、チーズハンバーガーを食べて以来、『チーズ』の虜になっていたからである。
「い、今、王子様は『ちーず』とおっしゃいましたか?」
イサッチは王子に顔を寄せ詰め寄った。
王子は、イサッチの思わぬ勢いに、少したじろぎながら、
「え?ええ…ハンバーグの中にチーズを入れて焼いているんですよ。」
「な、な、なんと!お肉の中に『ちーず』を??」
イサッチは初めて食べたハンバーガーを思い出していた。
「そ、そういえば、あの『はんばーがー』と言う食べ物も、『お肉』の上に『ちーず』が乗っかってました。それであんなに美味しかったのですから、中に入れるとなると…こ、これは……」
イサッチは口を半開きに開け、遠い目をしてどこかを見つめていた。
その姿をみた智恵葉は、
「イサッチはそれで決まりね。」
と、言うやいなや、テーブルの呼び鈴を押した。
すぐに店員が来て、王子がメニューを見せながら、
「これと、これと、これと、これ。あとドリンクバーを4つ。」
「かしこまりました。」
店員が注文を聞き居なくなると、イサッチが、
「す、凄い!あの女の人、あれだけの少しの時間で全て覚えてしまったのでありますか!?」
イサッチは尊敬の眼差しで店員を見送った。
「それから、あ、あの、その『ドリンクバー』というのは?」
イサッチが誰となく尋ねると、智恵葉がドリンクバーを指差し、
「あそこにある飲み物をいくらでも飲んでいいんだよ。」
その『いくらでも』の言葉に驚いたイサッチは、
「え!?いくらでも?!全部飲んでしまってもいいって事ですか?
で、でもそんな事をしたら、お店が困るのでは…」
すると零二が、
「アハハハハ、大丈夫ですよ、伊佐江さん。そんなに飲み物ばかり飲む人はいませんから。」
イサッチは、一瞬、自分なら、全部飲み干せてしまうかもと思い、恥ずかしくなった。
「ねえ、イサッチ、ドリンクバーに行こ!」
と、智恵葉がイサッチの手を取り、ドリンクバーに向かった。
「じゃあ、兄さん、俺達も行こうか。」
と、席を立とうとした零二の手を王子が握り、
「ちょっと待て、零二。お前の言っていた、『眼鏡の似合う素敵な女性』って、伊佐江さんの事だったのか…」
すると零二も、
「兄さんこそ、『眼鏡が印象的なキレイな女性』って、伊佐江さんの事だろ?
でも、俺はもういいんだ…伊佐江さんが捜していた男が兄さんって知って、諦めがついたよ。何か話があるって言ってたよな。伊佐江さん、もうすぐ国に帰るって言ってたよ。その事なんじゃないかな?
後で2人っきりにしてやるから、安心しろって。」
「バ、バカ、そんなんじゃないからな!」
と、そこに、飲み物を入れたコップを持って、イサッチと智恵葉が帰ってきた。
イサッチは、少し興奮した表情で、
「あ、あれが全部飲み放題なんて!お家に持って帰りたいですわ!」
すると智恵葉が、
「イヤイヤイヤ…家に持って帰っても意味ないから…」
すると零二が智恵葉の持っているコップを見て、
「智恵葉ちゃん、それは?」
すると智恵葉の代わりにイサッチが、
「そうそうそう、智恵葉様ったら、黒い飲み物に白い飲み物を入れてしまったんです!」
智恵葉は平然と席に着きながら、
「コーラのカルピス割り、美味しいんだから。」
「伊佐江さんのは?」
今度は王子がイサッチに聞いた。
「私は『コーラ』が飲みたかったのですが、智恵葉様がもっと美味しくなると言って、緑の飲み物を…」
「『メロンジュース』割りだ!」
王子と零二が一斉に答えた。
すると智恵葉の顔が「パァ~」っと明るくなり、
「お兄さん達もやるの?」
すると零二が、
「もちろんだよ。ファミレスに来るたびにやってるよね?兄さん。」
「俺は、零二に付き合わされてイヤイヤだがな。」
王子は少し不機嫌そうに答えた。続けて、
「お前が美味しい物は全部混ぜても美味しいって言うから、全種類混ぜたら、不味くて飲めた物じゃなかったぞ!」
「アハハハハ、まあ、失敗もまたにはあるさ。ね、智恵葉ちゃん。」
「そうそう、あたしもカルピスにコーヒーを混ぜたら、物凄く不味かった。」
「あ~、あれな~。色はミルクティーみたいでいいんだけどな。」
と、零二が智恵葉に共感していた。
4人がドリンクバーの話で盛り上がっていると、頼んでいた料理が、目の前に置かれて来た。
イサッチは目の前に置かれたハンバーグを見て、
「こ、これが、『ちーずいんはんばーぐ』…」
イサッチはさらに顔を近付け匂いを嗅いだ。
と、その時!
「め、眼鏡が、眼鏡が曇って!…?曇って?くも~?」
イサッチは、いつも温かい物を食べる時、湯気で眼鏡が曇っていたので、いつものようにそのフレーズが出てきたのだが、一瞬曇りそうになった眼鏡が、すぐにキレイになり、ハッキリとハンバーグが見えたのだった。
するとイサッチは、
「こ、この『はんばーぐ』という食べ物は、温かいと見せかけて、実は冷たい食べ物でごさいますか?」
と、指をハンバーグに当ててみた。
「あっつ!!あっち!熱っぃ~~!!!」
「だ、大丈夫ですか!?伊佐江さん!!」
すぐに王子はイサッチの手を取り、自分のコップにナプキンを浸し、イサッチの指を冷やした。
「も~、イサッチってば、「何にでもすぐ触らないの」ってお母さんに言われてるでしょ?」
「ハハハハ、伊佐江さんは、頭より体が先に動くタイプなんだ。」
と、零二が笑いながら言った。
「す、すいません…智恵葉様、王子様…いつもは湯気で眼鏡が曇るのに、今回は曇らなかったものですから…」
「それって『眼鏡』を新しくしたからじゃない?」
智恵葉の言葉に王子も、
「きっとそうですよ。最近のレンズには曇り止め効果の入ったレンズもありますからね。」
そして王子は、イサッチの指を見て、
「大丈夫、ヤケドはしてないみたいですよ。
さあ、冷めないうちに食べましょう。」
王子の言葉に、4人は手を合わせ、
「いただきます。」
と、声を揃えて食べ始めた。
イサッチは、王子の真似をし、ナイフでハンバーグの真ん中を切った。
すると、中から「トロ~リ」と溢れ出る『チーズ』を見て、
「うおおおおお~~~!!」
と、思わず声をあげた。
すると、智恵葉が、
「も~、イサッチったら大げさなんだから~。」
と、笑いながら言った。
「で、でも智恵葉様、こんなに柔らかいお肉は初めてなので、ビックリしてしまいまして…いったい何の肉でございましょう。」
すると、王子が、
「伊佐江さん、これはただの牛の肉ですよ。」
と、ニコリと笑いながら答えた。
「ま、まさか。牛の肉が、こんなに柔らかいはずが…」
すると、今度は零二が、
「あ!もしかして伊佐江さん、『ひき肉』を知らないとか?」
「『ひき肉』?」
「肉を細かくした物なんですよ。それをもう1度集めて丸くしたのが、この『ハンバーグ』なんです。」
と、王子が丁寧に教えた。
「わざわざ1度細かくして、またそれを塊に?どうしてそんな面倒な事を…」
イサッチが不思議そうにしてると、
「まあ、食べてみればわかりますよ。」
と、王子がイサッチに食べるよう勧めた。
「そ、それでは…」
イサッチはさらにハンバーグを半分に切るとフォークで刺して口に運んだ。すると、
「ん?!んま~い!!『ちーず』と『お肉』がこんなに合うなんて!
そ、それに、口の中でお肉がバラバラになるような食感…こんなに柔らかいお肉なら、小さな子供でも食べられますよね。」
ユーリセンチでは、肉は料理をしても固かったので、噛みきれない子供が多く、あまり人気がなかったのだ。
すると、智恵葉の『ドリア』からも『チーズ』の匂いがしてることにイサッチは気付いた。
「も、もしかして智恵葉様のそれも『ちーず』でございますか?」
すると、智恵葉は、
「うん、そうだよ。イサッチ、食べてみる?」
「よ、よろしいのでごさいますか?」
「うん、いいよ。はい、あ~ん。」
智恵葉はドリアを、ひとすくいすると、スプーンをイサッチの口の前に持っていった。
「パクッ」
「ん~~、これも美味しい~~。ご飯ですね!『ちーず』は『ご飯』とも合うのですね。」
2人のやり取りを笑顔で見ていた王子は、
「やっぱり大勢で食べると楽しいよな、零二。」
すると零二も、
「そうだね、兄さん。」
と、少し寂しそうに微笑んだ。




