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〔惹かれ会う者達〕



番外編17〔惹かれ会う者達〕



イサッチはタクシーを降りると、小さく会釈をし、小走りに店の入り口へと向かった。

智恵葉も運転手に手を振り、イサッチの後を追った。


1人残った運転手は、車から降りると、車の屋根に付いているタクシーの標示灯を外し、トランクの中にしまった。


そして車内に戻ると料金メーターにも黒い布を被せ、タクシーの乗車場所から移動し、一般の駐車場に入った。

そして、シートを少し倒すと、鞄からスマホを取り出し、ダッシュボードの上に置き、イサッチからの連絡を待った。


彼は、イサッチが自分に関心が無いのは感じていたが、もうすぐ居なくなると聞いて、なぜか少しでも一緒に居たいと思っていたのだった。




そのイサッチはというと、デパートの入り口で立ち往生していた。


土曜日ということもあり、店内は物凄い人で溢れかえっていたからだ。


イサッチはこれだけ大勢の人間が1つの場所に集まっているのは見たことがなかった。


しかも端が見えない位の建物の広さ、この中から1人の男性を見つけるのは不可能と思われた。


するとイサッチを追ってきた智恵葉が、イサッチの腕に抱きつきながら、


「ねえイサッチ、その『王子様』に会ったのって何階なの?」


するとイサッチはキョトンとして、


「『何階』?といいますと?」


イサッチは前に来た時、エスカレーターに乗ることが出来ず、エレベーターで上に行ったので、自分が何階に居たのかわからなかったのだ。


するとその時、智恵葉が「ポンッ」と手を叩いた。


「そういえば、イサッチ?この間は『眼鏡』を作りに来たんだよね?その階で『王子様』に会ったの?」


「あ、はい。そうですが…そうそう、眼鏡屋の前で、セラさんを待っている時、『王子おうし様』(おうし)様を見つけておもわず追いかけてしまったんです。」


と、イサッチが答えると、


「眼鏡屋なら2階だね。」


智恵葉は、そう言うとイサッチの手を取り、エスカレーターに向かって歩き出した。


智恵葉は小さい頃から父さんと母さんに連れられて、よくこのデパートに来ていた。

だから、どの階に何の店があるのかほとんど把握していたのだ。


手を引かれて歩いて行くイサッチだったが、目の前にエスカレーターが現れると、智恵葉の手を引き、足を止めようとした。


「ち、智恵葉様、わ、わたくしあ、あの動く階段は…」


しかし智恵葉はお構いなしにイサッチの手を引っ張り、


「大丈夫、大丈夫。ほら、あんな小さな子供だって乗れてるんだから。あたしが手を繋いでいるから大丈夫。」


と、エスカレーターに向かって一直線に歩いた。


2人がエスカレーターの前にたどり着いた頃には、回りからも人が押し寄せ、イサッチが怖がる暇もなく後ろからの人に押され、自然とエスカレーターに乗って上の階に上がって行った。


「お、お、お~~……」


最初は怖かったイサッチだったが、上に近づくにつれ、回りの景色を眺められるようになっていた。


しかし、頂上が迫って来ると無くなっていく階段を見て自分も吸い込まれそうになっていく感じがしてまた怖くなり、智恵葉に握られている手に力が入った。


「イサッチ、「せ~の」で降りるよ。


「は、はひ…」


「せ~の」


「ひ…」


智恵葉は、掛け声と共にイサッチの手を引きながらエスカレーターを降りた。

イサッチも、智恵葉に引っ張られながらも智恵葉の後に続き、エスカレーターを跳ぶように降りた。


智恵葉は、イサッチと眼鏡屋に向かおうとしたが、2階には可愛い小物や、洋服を売っている店がたくさんあったのでついつい目で店を追った。


智恵葉も年頃の女のコだ、そんなお店に興味が無いわけがない。

案の定、智恵葉は足を止めると、


「ねえ、イサッチ。ちょっとこのお店に寄ってもいいかな?」


その店は、可愛い小物が置いてある、中高校生に人気の店だった。


「え?は、はい。構いませんが…」


すると智恵葉は、店の前に置かれているワゴンの中から、ウサギの帽子を取り出し被ると、


「ホラホラ、イサッチ。見て見て。」


と、ウサギの耳をピクピクと動かしてみた。

それを見たイサッチは、


「え!?え?耳が?勝手に?ち、智恵葉はウサギの生まれ変わりだったのですか?」


と、触ってもない帽子の耳が動いているのに驚いた。


「イサッチ、ちょっと中を見てくるから、そこで待っててね。」


そう言うと、智恵葉はウサギの帽子を脱ぎ、イサッチに手渡すと、店の奥に入って行った。


残されたイサッチは、手渡された『ウサギの帽子』を見つめると、いろいろ触って見たが、なぜ耳が動くのか理解出来なかった。

そして、イサッチは帽子を被ると、


「ん~~~う~ご~け~~。」


と、頭に神経を集中させ、力んでみたが、耳が動く事はなかった。


そして我に帰ると、回りの視線が自分に集まって来てる事に気が付いた。


イサッチは「コホン」と、ひとつ咳払いをし、被っていた帽子をワゴンに返すと、店から少し離れ辺りを見回しながら、


「あの御方が、この建物のどこかに…

このお店の回りぐらいなら…すぐに帰ってくれば…」


イサッチは、智恵葉の居る店の回りぐらいなら大丈夫だろうと思い、少し歩いてみた。



イサッチは少し歩くと、後ろを振り向き、店の場所を確認していた。が、角をひとつ曲がった所で、智恵葉の居る店がわからなくなってしまった。


「え?え?え~!た、確かこ、この角を…」


イサッチは後ろを振り返り、自分が通って来たであろう角を曲がると、全く別の景色が広がっていた。


「い、いや…こっちだったかしら…」


イサッチは小走りに、思いつく方向に走り回った。

何度か智恵葉の居る店の前を通ったが、頭の中が混乱しているイサッチには、全ての店が別の店に思えてしまってるのだった。

唯一の手掛かりである『ウサギの帽子』も、ほとんどの小物を扱っている店がメインで置いていたので、もはや手掛かりすらならなかった。


店を探して歩き回っていたイサッチだったが、徐々に足が止まり、ついには立ち止まってしまった。


「ど、ど、ど、どうしましょう…ち、智恵葉とはぐれてしまったら、あの人を捜すどころか、ここから出られなくなってしまうではないですか…」


ケイタイを持っていないイサッチは途方にくれ、前回同様、半べそでウロウロするしかなかった。


小さい子供が、半べそで1人ウロウロしていたら、大人が「どうしたの?」と、声をかけてくるのだが、大人のイサッチに心配して声をかけてくる人は、誰も居なかった。



前にも言ったように、これだけの大勢の人の中から1人の男性を見つけるのは不可能と思われたが、

片や、迷子の天才イサッチ。片や、何年もデパートの警備員をし、何人も、いや何百人という迷子を見てきた王子おうし彼にはもはや迷子を捜すというより、迷子に引き寄せられるという能力が備わっていた。


そんな2人が、この状況で『出会うな!』という方がムリなのである。



イサッチが、ガックリと肩を落とし下を向いていると、目の前に見覚えのある制服のズボンが見えた。


すると、


「あの、どうかなされたのですか?」


と、聞き覚えのある優しい声が、イサッチの耳に飛び込んで来た。


イサッチは「は!」っと顔を上げると、そこには紛れもなく、探していた警備員の王子おうしが心配そうな顔で立っていた。


「あ、あ、あ…お…王子おうし様~~!」


イサッチはおもわず王子おうしに抱きつき号泣した。


「捜したのです!捜したのです!怖かったでず~~!」


実際には捜す前に迷子になっただけなのだが…


王子おうしはイサッチが落ち着くと、顔を見て、


「あなたは確か『ただの伊佐江』さん?」


「あ"い…ぐす…」


イサッチは顔をクシャクシャにしながら頷いた。

そして王子おうしは、イサッチの回りに人が居ない事に気付き、


「もしかして、またお友達とはぐれてしまったのですか?」


王子おうしの問いに、顔を赤くして頷くイサッチだった。


一見不可能と思われたイサッチと王子おうしの再開は、イサッチがデパートに入って、ものの30分程で達成された。


すると王子おうしは「ニコッ」と笑い、


「大丈夫ですよ、伊佐江さん。またすぐにお友達と会えますよ。」


と言うと、持っていた無線機で前回のように迷子センターに連絡をとった。


「もうしぐ放送があるはずですから、それまで一緒に居ますので安心してください。今日はお買い物ですか?」


王子おうしはイサッチが不安がらないように話し掛けた。


「わた、わたくしの事を覚えていてくれてたのですか?」


すると王子おうしは笑顔で、


「はい。あまり大人の人が迷子になることはないので…そ、それに眼鏡が印象的な綺麗な人だったから…」


王子おうしは後半になるにつれ、声が小さくなっていった。


「そ、そんな事…」


イサッチも照れて下を向いた。

そしてイサッチは、意を決して、


「あ、あの!」


「は、はい!?」


王子おうしは、いきなりイサッチが大きな声を出したのでビックリしながらも、


「ど、どうかなされましたか?」


するとイサッチは王子おうしの目を見ながら、


「今日、ここに来たのは、貴方様に…王子おうし様にお話があったからなんです。」


「僕に話ですか?何でしょう?僕には迷子を捜す事ぐらいしか出来ないですよ。」


王子おうしはキョトンとしながらも、イサッチに尋ねた。するとイサッチは、


「迷子…そう、迷子なのです。わたくしの心が…」


王子おうしは少し考え、


「心が迷子…、何かワケありみたいですね。

あの!もし良かったら、あと2時間ぐらいで仕事が終わるので、それから話を聞くというのはどうでしょうか?」


思わぬ王子おうしさからの提案にビックリしながらも、


「え?…は、はい、わたくしは構いませんが…」


すると王子おうしが、


「あ、そうだ。時間も遅いですし、ついでに食事もご一緒にどうですか?もちろんお友達もご一緒に。そのまま家までお送り致しますよ。」


「も、もちろん良いですわ。お、王子おうし様さえ良ければ…」


と、その時、イサッチは『家まで送る』という言葉を聞いて、待たせてあるタクシーの事を思い出した。


「あ!で、でもわたくし『たくしー』を待たせてあるので…」


それを聞いた王子おうしはビックリして、


「タクシーを待たせてある?そんな勿体無い事しなくても。

僕が家まで送りますからタクシーには帰って貰って下さい。」


するとイサッチは、オドオドしながら、


「え?で、でもわたくしど、どうやって連絡をすれば…

あ!ち、智恵葉様が『ケイタイ』というものを持っているから、それなら…」


すると王子おうしは、


「一緒に来たお友達の事ですか?それなら急いで合流しないと…

でも、おかしいな…あれから、ずいぶん経つのに館内放送が流れない…」


なかなか館内放送が流れない事に気が付いた王子おうしは、再びセンターに連絡を取ろうと無線機を手に取った。

するとセンターからの着信が何件か溜まっていた。

イサッチとのやり取りに夢中でセンターからの呼び出しに気が付いていなかったのだ。


王子おうしはすぐに押し返しの連絡を取った。すると、


「はい、はい。了解しました。すぐに伺います。」


と、無線機を切るなり、


「伊佐江さん、安心してください。お友達の智恵葉さんが、この階のサービスセンターでお待ちです。」


実は智恵葉が店から出ると、イサッチの姿は無く、辺りを捜したが見つからなかったので、すぐにサービスセンターに行き、はぐれた事を伝えていたのだった。


小さい時からここに来ていた智恵葉は、父さんから、


「もし、お父さんやお母さんとはぐれたら捜さずに、すぐサービスセンターに行って、お姉さんに「迷子になりました。」って言うんだよ。」


と、もし迷子になった時の事を教えられていたのだ。


智恵葉がサービスセンターの前にあるイスに座って待っていると、警備員と一緒にイサッチが歩いて来た。


智恵葉はイサッチを見るなり、近くまで駆け寄り、


「も~、イサッチったら、「待ってて」って言ったのに~」


と、少し怒り気味で言った。


が、警備員を見るなり、


「か、カッコいい…あ、あの!イサッチがご迷惑をお掛けしました。」


と、丁寧にお礼を言うと

頭を下げた。


すると王子おうしはニコリと笑い、


「いえいえ、これが仕事ですから。伊佐江さん、彼女が今日、一緒に来られた方ですか?」


「はい。セラさんの娘さんで、智恵葉様です。」


「そうでしたか、会えて良かったですね。じゃあ、すぐにタクシーに連絡をしないと。」


するとイサッチは思い出したように、


「あ!そうだ、智恵葉様、タクシーに帰ってもいいよ。って連絡をして貰えますか?」


すると智恵葉は、驚きながら、


「え~!なんで?せっかくタダで家まで送ってくれるって言ってるんだよ?」


お気に入りの運転手の車で帰りたかった智恵葉だったが、次のイサッチの言葉で気が変わった。


「ち、智恵葉様。じ、実はこの方が、探していた『王子おうし様で、もうすぐ仕事が終わるので、一緒に食事でもどうかって誘われているんです。」


と、ここに言葉を被せるように、王子おうしが、


「もちろん、智恵葉ちゃんも一緒にね。家にもちゃんと送って行くよ。」


すると智恵葉は、


「あ、あなたが王子様…良かった、イサッチ会えたんだ。」


王子おうしと話をしたかったイサッチは、


「ち、智恵葉様、セラさんも、「晩ご飯は食べてきなさい」と言っておりましたし、ここは王子おうし様に甘えてはいかがで御座いましょう。」


「でも…2人の邪魔をしちゃ悪いしな~」


そんな智恵葉に王子おうしは、


「大丈夫だよ、智恵葉ちゃん。もうすぐ弟が迎えに来るんだ。いつも弟と2人で食事をするんだけど、大勢の方が楽しいでしょ?

もちろん、僕から誘ったんだから、食事はおごりますよ。」


と、ウインクをしながら智恵葉に言った。


すると智恵葉は、


「まあ、オゴリならいっか。ちょっと連絡するね。」


智恵葉は運転手に会えない寂しさもあったが、王子おうしの『弟』というのも楽しみであったのだ。


「あ、モシモシ、智恵葉です。イサッチと一緒に居た。それで、イサッチが捜していた人と会えて、送ってくれることになったので、タクシーには帰って貰っていいよ。って事になったんです。

待ってて貰っていたのにごめんなさい。」


すると運転手が、


「伊佐江さん、会えたんだ。良かったね。智恵葉ちゃん。が謝る事はないよ、僕が勝手に送るって言ったんだからね。じゃあ、今日は帰るけど、またタクシーが必要な時には連絡してね。」


「はい、お母さんにも言っておくね。それじゃバイバイ。」


「ピッ」


智恵葉はスマホをしまうと、


「タクシーには帰って貰ったよ。」


するとイサッチが、


「ありがとうございます。智恵葉様。」


と、智恵葉の手を取り頭を下げた。


すると今度は王子おうしが、


「じゃあ、僕は仕事に戻ります。18時に仕事が終わるから、その時間にここに集合でどうかな?」


「はい。わかりました。智恵葉、よろしいですか?」


「18時か~、まだ少し時間があるな~、ねえイサッチ、もう少しお店を見てまわろ。

今度はイサッチも一緒にね。また迷子になったら困るもん。」


「は、はい。わかりました。それじゃ、王子おうし様、のちほど。」


イサッチは王子おうしに会釈をし、智恵葉と一緒に人混みに消えていった。


王子おうしもイサッチ達を見送ると、自分の仕事に戻った。



それから2時間経ち、王子おうしは仕事を終えると私服に着替え、弟にLINEを送った。


『仕事が終わった。いつもの場所に頼む。それから今日は、友達も一緒だから、オススメの食事があれは教えてくれ。』


するとすぐに、


『わかった、すぐに行くよ。兄さんが友達なんて珍しいね。」


と、返事が来た。


王子おうしはイサッチ達との待ち合わせ場所に行くと、2人を連れ外に出た。

そこは賑やかな表玄関ではなく、裏にある従業員専用の出入口だった。


建物を出ると、ちょうど目の前に道路があり、そこに計ったようなタイミングで、1台の車が近付いて来た。


その車を見た智恵葉は、


「あれ?あの車って…」


その車は、3人の側に止まると、運転席から男性が降りてきて、


「お待たせ、兄さん…ん?…伊佐江さん?智恵葉ちゃん?」


すると今度は、イサッチと智恵葉が、


「運転手さん?」

「タクシーのお兄さん!?」


さらに王子おうしが、


「え!?え!?2人供、弟の知りあい?」


4人は顔を見合わせ、


「え~~~~~!!!!!!」





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