〔新たな国の始まり〕
第22話〔新たな国の始まり〕
次の日、ラウクン王子が、国民の前で謝罪をした後、イブレドの宿にやって来た。
もちろん、目的は『僕』だ。王子が訪ねて来たことに、驚いたイブレドさんだったが、僕が普通に話をしてる姿を見て、さらに驚いた。
ラウクン王子は、昨日行った『人質奪還計画』をオリアンから聞かされていたのだ。
そしてそれらすべてが、僕の考えによるものだと聞いて、お礼を言いに来たのだった。
「タロン、今回の件、本当にありがとう。君が居なかったら、もっと酷い事になっていた。国民を代表してお礼が言いたい、ありがとう。」
僕に向かって、深々と頭を下げるラウクン王子の姿を見たエティマスは、開いた口がふさがらなかった。
ダシールは、さらに僕の事が気に入ったみたいで、側から離れてくれなくなった。
「頭を上げて下さい、ラウクン王子。まだ終わった訳じゃないですから。昨日もオリアンが話をしてたみたいんですが、拐われた人を全員助けないと、終わったことになりませんよ。」
するとラウクン王子は、頭を上げながら、
「その事で相談があるんだ、ちょっといいかな?」
「もちろんですよ。ちょうどこれから、オリアンの所に行こうと思っていたんです。ラウクン王子も一緒に行きましょう。」
「ああ、そうだな。オリアンには今まで酷い事をしてしまった。ちゃんと謝らないとな。」
それから僕たちは、王子の馬車に乗り、オリアンの所に向かった。橋には見張りの衛兵達も居なくなり、自由に行き来できるようになった。
しかし、所々に戦闘の後があり、何のための戦いだったのかと、王子は悔しさをにじませた。
村に着いたが、オリアンは居なかった。
僕は「まさか」と思い、丘の上に行ってみると、大の字に寝ている「スライン」、チェスハを腕枕をして寝ている「オリアン」、そのオリアンに体を寄せて気持ち良さそうに寝ている「チェスハ」の3人が居た。
そして、すぐ近くに大きな岩があると思ったら、体を丸めて寝ていた「黒龍」だった。
「やっぱりここだった…」
僕は、オリアンの体を揺すり、起こそうとした。
「オリアン?オリアン?もうすぐ昼だよ!」
「あ~?誰だ~?」
「僕だよ、タロウだよ。ラウクン王子も一緒だよ。」
「ん~~!もう朝…か…えっ!?」
オリアンが目を開けると、すぐ鼻先にチェスハの寝顔があり、ビックリしたオリアンは、腕枕をしていた腕を引き抜き、飛び起きた。
「ゴン!」
「いて!」
いきなり腕枕を失ったチェスハは地面に頭を打ち、目が覚めた。
「いたたた…もう!オリアンたら、もっと優しく起こせよ。」
するとオリアンは焦りながら、
「お、お、お前はなんで俺の隣で寝てんだよ!」
「なんでって、お前が誘って来たんじゃないか。昨日は、あんなに優しくしてくれたのに…」
「お、俺が誘っただと!?だ、誰がお前みたいな男おん…な……」
オリアンは言葉を詰まらせチェスハを見つめた。
僕は、「あ、出た。チェスハの必殺技…」と思い、オリアンが落ちたことを悟った。
チェスハは目をうるうるさせ、少し頬を赤らめ、しおらしい仕草で上目使いに、オリアンを見つめていた。
オリアンは、「コホン、」とひとつ咳払いをすると、
「ま、まあ、お前も今回は、かなり頑張っていたからな、ま、まあいいとしよう。」
すると、チェスハは、
「なんだよ、その言い方。あたしはあんたの事、好きになったぞ!!」
「え!?」
僕は耳を疑った。チェスハさんから「好き」という言葉が出るとは思っていなかったからだ。
すると、オリアンの表情が少し険しくなり、
「バカヤロウ!女が簡単に「好き」なんて言うんじゃねえ!告白なんてもんは男からするんだよ!」
「え!?!?」
僕はさらに、耳を疑った。今どき、こんなセリフを言う人間…いや、オオカミ…?に会ったことが無かったからだ。
あの、ちょっと変わっていた父さんでさえ、言った事が無かった。
いや、もしかしたら、これがこの世界の常識なのかもしれない。
しかし、オリアンの言葉を聞いて、一瞬「ポカ~ン」としていたチェスハが、
「プッ!アッハハハハハ!!」
お腹を抱えて笑い出してしまった。
すると少し離れた木の陰から、ファン達がゾロゾロと出てきた。
「あ~あ、やっぱりダメか…」
「今どき、あんなセリフを言うヤツなんか居ねえよ、オリアンだけだろうな…」
「ボスなんだから、そろそろ結婚して、身を固めて欲しいんだけどね~…」
「せっかく、最強カップルが誕生すると思ったんだけどな~。」
オリアンはビックリしながら、
「お、お前らなんでそこにいるんだ?」
「ファンさんにアイガさん?ストリアさんにイム、サプまで…いつからそこに居たんですか?」
僕が尋ねるとファンが、
「いやな、昨日、この2人の雰囲気がいいから、スラインに『オサケ』をたらふく飲ませて、眠ったあと、2人きりにして俺達は帰ったんだよ。それでどうなったか気になってな。
するとオリアンは赤くなりながら、
「バ、バカかお前ら!くだらねえ事、考えてんじゃねえ!仲間…そう!まだ全員が帰ってきた訳じゃ無いんだからな!
俺の嫁なんてどうでもいい、まずはそれからだ!」
「わかった、わかった。オリアンに女が出来るのは当分先だな。」
ファンがニヤニヤしながら言った。ストリアさんも、
「じゃあ、あたし達は帰るからね。行くよ、イム、サプ。」
「じゃあね、オリアンおじちゃん。お兄ちゃん。」
「猿姫さん、オリアンおじちゃんは、ちょっと変わってるけど、いいおじちゃんだから、お嫁さんになってあげてね。」
チェスハは2人の頭を撫で、
「わかったよ。考えとくね。じゃあね、イム、サプ。」
「だから、その事はいいんだって!」
オリアンが、急かすように3人を帰した。
僕はアイガさんに、
「ストリアさん達も、ずっと見てたんですか?」
「いや、アイツは俺達がなかなか帰って来ないから様子を見に来ていたんだよ。」
するとチェスハが、
「おい!オリアン!待っててやるからな!お前からの告白をずっと待っててやるからな!
あたしが、おばあさんになっても知らないからな!」
「ふん!お前が「おばあさん」の時は俺が「おじいさん」だ。かわんねえよ。」
「え~!「おじいさん」は嫌だな。やっぱ待つのやめようかな?」
「え!?ちょ、ちょっと待て!わかった、わかったから、もう少しだけ待っててくれ!」
「アハハハハハ!アッハハハハハ!!」
あわてふためくオリアンの姿を見て、僕達は大笑いをした。
その声を聞いて、スラインが目を覚ました。
「ふぁ~~ぁ…、なんだ?やけに賑やかだな、美味い『オサケ』でも出来たのか?」
するとオリアンが、
「お~、やっと起きたか。」
「おはようございます、スライン将軍。」
僕が挨拶をすると、
「あ~、タロウか。ん?隣に居るのはラウクン王子じゃねえか?」
「え!?」
「え!?」
オリアンとチェスハは、同時に驚き、ラウクン王子を改めて見た。
するとオリアンは、
「お前、いつからそこに居た?」
「いやだなあ、僕と一緒に来て、ずっと居ましたよ。」
僕が説明をすると、チェスハも、
「ごめん、まったく気付かなかった…」
落ち込むラウクンに、スラインが、
「お前は、人柄は良いのだが、それだけでは人はついて来ん。もう少し存在感を出さなくては。
例えば、このオリアンのように『カリスマ性』を持てればいいんだかな。」
すると、ラウクンは元気の無い声で、
「私に力が無いのは解っています。どのようにすればオリアンのように、なれるのでしょうか?」
ラウクンの真剣な問いに、チェスハが、
「いやいやいや、こんな奴は2人も要らないよ。コイツのは、カリスマ性っていうか、ただ怖がられているだけじゃねえか?」
「な、なんだと!」
「そうそう、仲間の俺達でさえオリアンには手を焼いてるんだからな。」
「お、お前達まで…」
ファンとアイガがチェスハに賛同した。
「て、いうか、王子は王子で、そのままでいいと思うんですけど…、僕が街の人達に聞いたら、王子の評判は凄く良かったですよ。
ただ、他の人達が目立ち過ぎるんですよ。良くも悪くも。アハハ。」
「タ、タロウもか…」
オリアンは、仏頂面のまま僕を見た。僕は続けて、
「それから、その事でオリアンにお願いがあるんです。さっきここに来るまでの間、王子と話をしたんですが…」
すると王子は手を伸ばし、僕の話を遮った。
「ここからは私が話そう。」
と、言ったかと思うと、いきなり土下座をし、
「オリアン殿!どうか私に力を貸して欲しい!
まだ、他の国に残っているユーリセンチの民達を助ける手助けをして欲しい!」
ラウクン王子は、昨日まで敵であったオリアンに、地面に頭を擦りながら頼んだ。
「お、おい…」
オリアンは、困惑しながらも、
「おい、仮にも一国の頭が、簡単に土下座なんかするもんじゃねえ。他の奴らを取り返してえのは、俺達も同じだ。
それに俺達も「ユーリセンチ」の民だ。
命令すりゃあいいんだよ。「仲間を取り返して来い」ってな。」
「オリアン…」
ラウクンは膝をついたまま、オリアンを見つめた。するとチェスハが、
「そうだぞ、ラウクン王子、今はお前がこの国の頭だ。「ド~ン」と構えてりゃいいんだよ。
ホラホラ、いつまでもしゃがみ込んでないで、シャキ!としろ。」
と、ラウクンの腕を掴み立たせた。と、そこにオリアンが、
「昨日、スラインとも話をしたんだが、「ジプレトデン」に居る奴らは、返してくれるってよ。」
「ほ、本当かスライン!」
ラウクンはスラインの側に行き、確認した。
「ああ、本当だとも。でないと『国が無くなる』からな。」
意味深に発言しながら、スラインはニヤニヤしながら僕を見た。
すると、ラウクン王子は不思議そうな顔をしながら、
「国が無くなる?」
「ま、またまたまた~スライン将軍たら~、まだオサケが残っているのかな~?」
わざとらしく誤魔化す僕に、ツッコむ人は誰も居なかった。
「まあ、1人だけは返してくれないけどな。」
オリアンが、スラインにウインクをしながら言った。すると、チェスハもニヤニヤしながら、
「あたしの1番の親友を返してくれないんだもんなあ。」
困ったように、うつ向くスラインに、何も知らない僕は、
「なになに?何か大切な理由があるの?チェスハの親友って……まさか「エミナー」!?」
「ピンポーン!正解!エミナーが、ジプレトデンに居たんだよ。しかもな…」
チェスハは、僕に手招きをし、耳元でささやいた。
「ごにょごにょごにょ…」
「え~!?エミナーがスラインの奥さん!?」
さらにうつ向くスラインだった。
「え?でも、スライン将軍の娘さんが「ニーサ」ちゃんでしょ?て事は、「ニーサ」ちゃんと「ダシール」は親戚って事!?
どおりで雰囲気が似てると思った。」
するとスラインが、申し訳なさそうに、
「すまんな…家に返せなくて…」
「ああ~いい、いい。下手な男に嫁ぐより、天下のスライン将軍なら、誰も文句は言わないよ。イブレドも喜ぶ。と、思う…」
と、チェスハが最後だけ、自信なさげに言った。
するとスラインは、うつ向いていた顔を上げながら、
「ただな、ラウクン王子、昨日オリアンにも言ったんだが、確かにお前の国の者達は返すが、「ジプレトデンで働きたい」と言う奴がいたら、ジプレトデンで働かせてやってくれないか?
こっちは人手不足なんだ。」
その時、ラウクン王子は何か閃いたように、
「スライン将軍、いい提案がある。昨日捕まえた国王の仲間達だが、処分に困っていて、国王、シクサードは極刑なんだが、他の衛兵達はどうしようか悩んでいたんだ。
ジプレトデンで一生働くってのはどうだろう?もちろん賃金は要らない、食事も必要最低限でいい。ジプレトデンの好きなように使ってくれたらいい。
自分達が、奴隷の身になれば、自分達が何をしてたのかわかるはずだ。」
「それはこちらとしても助かる。しかし、家族が居るものはどうする?」
「残った家族は、こちらで面倒を見る。タロウの考えた『ジャム』とやらを売れば、かなりの儲けになるはずだから。」
と、その時、僕はスライン将軍との約束を思い出した。
「あ!その事なんですけど、スライン将軍に『ジャム』の作り方を教えるって言ったんですよ。」
「何~!本当か!?タロン!」
チェスハが僕に詰めよって来た。
「だって、教えなければ、「兵を退かない!」って言うから…」
僕は、さっきのお返しとばかりに、ニコリとしながらスラインを見た。すると何も知らないチェスハは、
「ま、まあ、それなら仕方がないな…」
と、納得してくれた。
そこで僕は、ある考えをスラインに提案してみた。
「スライン将軍、ジャムの作り方を教えますから、いっそのこと、その『ジャムを作って売る権利』を買っては貰えませんか?」
スラインは不思議な顔をして、
「『作る権利』を買う?」
「はい。その『権利』を買って貰えれば、ユーリセンチで作ったジャムは、他の国には売りません。というより、もともと作る時間もかかるし、量も少ない。他の国に売る余裕なんて無いんですよね。
でも『ジャム』を欲しがる人はたくさんいるはずです。
ジプレトデンは大きな国と聞きました。いろんな国とも交流があるとも。
『ジャム』の美味しさは、ニーサやお付きの2人の反応を見ればわかるはずです。他の国に売ることが出来れば、利益は莫大な物になります。どうですか?」
僕の話が、一通り終わると、スラインは真剣な顔で、
「もし、断れば?…国を…滅ぼすか?」
「まさか!そんな事しませんよ。ただ、『ジャム』作り方を教えて、もしジプレトデンで作ったジャムを売るような事があれば、怒りますけどね。
なにせ僕が最初に『ジャム』を考えたんですから。
申し出を断るのもいいですけど、ジプレトデンがダメだとなると、『ルアスティ』に話を持っていくしか…」
と、僕は笑顔で答えた。するとスラインは慌てたように、
「待て待て待て!いくらだ?いくらで売る?」
僕は、提案はしたものの、この国の相場がまだよく解っていなかった。イブレドの宿も、チェスハの店も、あてにはならなかったからだ。
そこで、逆に聞いてみた。
「いくらで買って貰えます。『ジャム』の売り値はいくらでも構いませんよ。少々高くても、売れるのは保障します。
しかもですね…」
僕はスラインに耳打ちをした。
「ゴニョゴニョ…」
「なに!?本当か!?種類は無限にあるだと?」
「まあ、無限というのは言い過ぎですけど、果物の種類だけ『ジャム』の種類もあるということかな。しかも『ジャム』は食べると無くなります。無くなると、また買いますよね。と、いうことは無限に売れるってことですよ。
さらに、ジプレトデンにしか無い果物で作ったジャムだと、僕達も買っちゃうでしょうね~。」
スラインは腕組みをしながら考え、そして、
「よし!1億出そう!」
指を1つ立てて言った。
僕はその値段を聞いて、こう考えた。
「1億か、ということは4億か5億ぐらいまでなら出してもいいつもりだな。」と。
というのも、僕は、父さんが亡くなってから、自分のお小遣いを少しでも確保するため『メル○リ 』でいらなくなった物を売っていたりした。
その時、売る人は最初に値切られるのを見越して、少し値段を高く設定したり、買う人は断られるのを覚悟して、少し多目に値切ったりするのをよく見かけた。
だから、今回もスラインが、僕が値段を上げて来るのを見越して、安い値段を提示したのだと推測したのだ。
しかし、僕はそんなに甘くない。
「10億!!!」
僕も両手を広げて答えた。
「じ、10億だと!?」
スラインはビックリしたが、すぐにまた考え始め、小さな声でぶつぶつ言い始めた。
「10億か…しかし、ジプレトデンには土地もある、いろんな果物も豊富にある、他国との交流も多い…」
僕は、最終的には7億か6億位で手を打とうと思っていた。スラインが値切って来るのを待っていたのだ。
考え込むスラインに、僕は最後の一押しをした。
「ニーサちゃんの大好きな『ジャム』を、大好きなお父さんが作ることになれば、ニーサちゃんは大喜びするでしょうね。
しかも、その『ジャム』を初めて作ったのが、エミナーさんのお父さんだと知ったら、エミナーさんも喜ぶ…」
僕がスラインを説得していると、なんとも言い表せないような顔のオリアンとチェスハが、
「タ、タロウ!ち、ちょっとこっちに来い!」
僕の腕を掴み2人が囲むように迫って来た。
オリアンが少し焦ったように、
「お、お前?なに考えてんだ?10億だと?」
チェスハも同じように、
「タロンは来たばかりで知らないだろうが、ユーリセンチとジプレトデンでは、同じものでも値段が違うんだ。だから使っている通貨も違うんだぞ!」
「え!?もしかして10億じゃ、安かったですか?」
「バ、バカ!その逆…」
その時、スラインが「ポン」と膝を叩き、
「よし!10億ゴーン で『権利』を買った!!」
「ゴーン?」
僕は初めて聞く通貨に首を傾げた。
するとチェスハが、真面目な顔で僕の両肩を掴みながら、
「い、い、いいか、よく聞け…『ゴーン』ていうのは、ジプレトデンで使われている『お金』の事だ、1ゴーンは約100センチ、つまり10億ゴーンは1000億センチなんだよ!」
「い、1000億~!?…ど、どうしよう?スライン…チェスハさん…」
僕は、まさかの値段にパニクってしまっていた。
「ど、どうするもこうするも…そ、そうだ、ラウクン王子…」
オリアンがラウクン王子に意見を聞こうとしたが、ラウクンもあまりの金額に、放心状態だった。
なかなか返事が帰って来ないので、スラインはさらに、
「なんだ?10億じゃダメなのか?じゃあ、15…」
「はい!!いいです!決定です!!10億ゴーンで決定しました!!」
僕は両手を上げながら、叫んだ。
「お、お、おい…、チ、チェスハ、お、お前、1000億センチって見たことあるか?」
「バ、バカな事言うな、そ、そんな大金、み、見たことあるわけないだろ…」
「お、おいラウクン王子…、ラウクン??ラウクン!!しっかりしろ!」
オリアンがラウクンの肩を揺すり、正気に戻した。
「あ…ああ、悪い…ちょっとビックリしただけだ。」
するとスラインが心配したように、
「どうした?ラウクン?気分でも悪いのか?」
「い、いや、大丈夫だ。しかしいいのか?そんな大金を勝手に動かして…」
「もちろん大丈夫だ!それに『タロウ』とは仲良くなっていた方が、後々よい感じがしてな。ハハハ。」
「ありがとうございます!スライン将軍。」
僕は、改めて深々と頭を下げた。
「それにな、莫大な利益を挙げるであろう『ジャム』の権利を簡単に売るなんて、他にもまだ有るんじゃないか?」
「ハハハ…、さすが、スライン将軍…参りました。」
僕は姿勢を正し、頭を下げた。
「そのうち昨日飲んだ『オサケ』の作り方も教えますよ。」
「お、おいタロウ!俺達も『オサケ』を売って儲けるんじゃないのか?」
オリアンが慌てて聞いてきた。
「大丈夫ですよ、オリアン。『ジャム』の権利を、こんなに高く買ってもらったのに、何もサービスしないのも悪いでしょ?
それに『オサケ』は材料になる『米』や『水』が少し違うだけで、まったく違う味になるんです。
オリアンも飲みたくないですか?ジプレトデンの「お米」や「水」で作られた『オサケ』を。」
「ま、まあ、そう言われれば…そうだが…」
「それにまだ『ファンタ』もあるし、実は、まだ考えてる物…」
すると、いきなりチェスハが、
「何!何!何! まだ何かあるのか!!あるんだな!!!」
「チ、チェスハさん… く、苦しい…」
チェスハは僕の襟元を締め上げながら、詰めよって来た。
「ま、まだ考えてるだ、だけ…なんです…よ…。」
僕は、そのまま気を失ってしまった。
「あれ?お、おい、タロン!タロン!」
チェスハは、慌てて僕の頬を何回も叩いた。
「う……うん…?あ、あれ?チェスハさん?わ!」
僕が気付くと、チェスハは僕を強く抱き締めた。
「タロン~!心配させるよ~…お前が死んだら、もう美味しい食べ物が食べれないじゃないか~!」
「あ、やっぱりそっちか…」
僕は呆れながらも、チェスハさんの胸の柔らかさを、堪能していた。
その時、スラインがラウクンに話しかけた。
「なあ、ラウクン、俺からも提案があるんだがいいか?」
「なんです?スライン将軍。」
「シクサードの事なんだが、『極刑』なんだよな?」
「はい、国王共々、時が来れば処刑します。」
するとスラインは、鋭い目つきでラウクンを見つめ、
「シクサードと闘わせてくれないか?悪事に手を染めたとはいえ、奴も名を轟かせた剣豪だ。
1度は剣を交えたかった。この期を逃せばもう2度と無い!頼むラウクン、シクサードとやらせてくれ。」
シクサードは、国王が若い頃から側に仕え、自分の身長と同じぐらいの剣を武器に、戦においては「一騎当千」の強さを持ち、『大剣シクサード』と名を轟かせていたのだ。
「奴も仕える主人を間違えなければ、こんな事にはならなかったはずなんだがな。」
スラインが残念そうに呟くと、ラウクン王子は、
「しかし、シクサードが了承するでしょうか?確かに昔は、強かったみたいですが、今では若い衛兵の指導しかしてませんし…」
「その点は大丈夫だ、奴も根っからの闘人だ。俺にはわかる、オリアンと同じ匂いなんだよ。
それに、渋るようならこう言えばいい。」
スラインはラウクン王子の近くに寄り、耳打ちをした。
「え!?で、でも、もし失敗したら…」
「お前は俺が負けるとでも?」
「い、いやまさか、そんな事はないと思いますが…」
「仮に俺が負けたら、ジプレトデンは、お前達ユーリセンチの傘下に入ろう。ジプレトデンを好きなように使ったらいい。どうだ?」
すると、ラウクン王子は、スラインの覚悟を受け、
「わかりました。シクサードに話してみましょう。」
「すまない、ラウクン。恩にきる。」
そして、ラウクン王子は城に帰ると、シクサードにスラインの言葉を伝えた。




