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〔ニーサとダシール〕



第21話〔ニーサとダシール〕



その日は、夕方から宴が始まった。


場所は、オオカミ族の村のあの丘の上だ。しかしそこにラウクン王子の姿はなかった。


ケガもそうだが、知らなかったとはいえ、国民を犠牲にしたお金で育てられていた事が、我慢できなかったのだ。


首謀者だった国王は地下にある独房に監禁された。

シクサードも同様に独房に入れられ、国王の悪事を知っていて手伝っていた衛兵達は牢屋に入れられ、処分を待った。



ジプレトデンの兵達は、城の警備も兼ね、城の裏にある平原にテントを設営し野宿をした。

と、いうのも、どうやら国王は、僕達の想像を遥かに越える悪党だったのだ。


チェスハの親父さん「ティージー」の情報によると、あの『ジプレトデン王国』の兵さえも、国王の持ち駒の1つに過ぎなかった。


国王が仕掛けた本当の「シナリオ」はこうだ。



まず、国から逃げる国王を止める為に、オリアン達が街に攻めこんで来る、それを王子の軍勢が迎え撃ち、戦い疲弊する。

そこにジプレトデンの兵が攻めて来る。


それに気付いた王子とオリアンは、おそらく国を守るため、一次休戦をしてまでも、ジプレトデンと戦うだろう。


ジプレトデンのスライン将軍にしてみれば、「城は空っぽで数人の衛兵しか残してない」と聞いていたので、たいした警戒もせずに街に乗り込んで来るに違いない。たしかに娘まで連れて来てた事を思うと、さしずめハイキング気分だったのかもしれない。


そこに疲弊してるとはいえ、王子の軍勢、オリアン達の仲間が居たら、いくら三万の兵といえど、簡単には勝利しないだろう。

半分くらいは兵を失うかもしれない。そこに『ルアスティ』の5万の兵がやって来るのだ、結果は見るまでもない。

ユーリセンチ王国はルアスティ王国に乗っ取られていたであろう。


さらに、主力のスライン将軍の軍勢を失った『ジプレトデン王国』も『ルアスティ王国』のされるがままだ。

もともと、ユーリセンチの国王は、ルアスティ王国でも、かなりの力を持っていた。ルアスティの国王はユーリセンチ国王の腹違いの弟であり、よく2人で国を大きくすることを話していたのだ。


しかし、計画通りにはいかず、ユーリセンチの国王が捕まった事を知ると、ルアスティの国王は「我、何も知らず」とダンマリを決め込んだ。

しかし、万が一のため、兵を警護に当たらせたのだ。


城に兵を残し、数人の兵と共に、スライン将軍はオリアン達とお酒を飲んでいた。

もちろん娘のニーサと、付き添いのロレール、レセナも一緒だ。


お酒の飲めない僕は、ミウと一緒に、ニーサ達と「ファンタ」を飲んでいた。


ミウは、初めてこの国で飲むファンタに、


「このファンタって、タロンの国で飲んだ黒い飲み物に少し似てるね。」


「うん、実はねこの国でも同じような飲み物が出来ないか、考えてみたんだ。このファンタはね、冷たくすると、もっと美味しくなるんだよ。」


「そういえば、あの黒い水も冷たかったね。それからあの「パン」みたいなのも美味しかったなぁ。」


僕は、「ハンバーガー」の事だと思った。たしかにこの国には、パンに何かを挟んで食べるという習慣は無いらしい。だから「サンドイッチ」も無かった。


「今度、似たような物を作ってみようか?」


僕がそう言うと、ミウは微笑みながら、頷いた。


と、そこにブツブツ言いながらチェスハがやって来た。


「おい!タロン!なんだ?あの『オサケ』ってやつは、全然美味くないじゃないか!『ジャム』みたいに美味いって言うから飲んでみたけど、喉が焼けるかと思ったぞ。」


「あ~、チェスハさんは甘いのが好きだから、『清酒』は飲めないかも。」


実は、『獨酒』を作ったあと、そのまま放置してあった樽があり、中の不純物が下に沈殿して、綺麗な透明の『清酒』が出来ていたのだ。


と、その時、そういえば、女性の好きなお酒で

「カルーアミルク」というのがあると、雑誌に書いてあったのを思いだした。


「チェスハさん、あの『オサケ』はそのまま飲まなくてもいいんですよ。水で薄めてもいいし、ミルクでもいいし、このファンタで薄めても、また違った味が楽しめるんです。」


「え?!そうなのか?」


「はい、自由な飲み物、それが『お酒』なんです!

試しにミウも飲んでみる?」


僕はミウに「カルーアミルクもどき」を作ってみた。


チェスハは、そのカルーアミルクもどきが気に入ったらしく、コップを片手にオリアンの所に戻って行った。


僕は、ロレールさんや、レセナさんにも、ファンタ割りやミルク割りを進めてみた。


ミウは、薄めたミルク割りが美味しいと言って飲んだ。

白い肌が、ほんのり赤く染まり、虚ろな目で見つめるミウが、なんだか色っぽく見えた。


ロレールさんやレセナさんも、自分の好みにアレンジしながら、お酒を楽しんだ。


ニーサちゃんは、そんな大人達に囲まれながらも、ストリアさんが作ってくれた料理を美味しそうに食べていた。しかし、やっぱり1番は『イチゴジャム』みたいだ。



オリアンとスラインは、談笑しながらも、これからの事を話していた。


今回の作戦は上手くいき、国王が捕まった今、2度と国民が売り飛ばされる事は無くなったが、まだ、大勢の村の仲間が他の国に売り飛ばされたままなのだ。

その人達を取り戻さない限り、オリアンの戦いは終わらない。


そう、オリアンはまだ、戦いの真っ最中なのだ。



スラインは、初めて飲む『オサケ』にご機嫌だった。


「おい!オリアン!こりゃあいい飲み物だ!気に入った、売ってくれ!」


「はあ?お前の所に売ったら、俺達のが無くなっちまう。ダメだ!

また飲みに来ればいいだろ!

それより、ジプレトデンには俺達の仲間は何人ぐらい居るんだ?」


「さあ、ハッキリとはわからんが、5~60人てとこか?

前にも言ったが、俺達は純粋に労働力が欲しかったんだ。だから、売られて来たとはいえ、奴隷として扱った事はないぞ。

働いた分はちゃんと給料も払ってる。とりあえず住むところも提供してあるんだぞ。」


「じゃあ、全員無事なんだな?元気なんだな?」


「ああ、病気で死んだという話は聞いてないから、全員生きてるはずだ。」


「そうか、良かった。じゃあ、返してくれるか?家族に無事な姿を見せたい。あの国王に死んだと聞かされてたからな。」


「ああ、もちろんいいぞ。今までは、国の決まりで、国から外には出られなかったからな。

こうなった以上仕方がない。」


「すまないな、恩にきる。」


「何を言ってる、断れば、『黒龍』と『黒の悪魔』がジプレトデンを滅ぼすんだろ?」


「アハハ、ちげえねえ!でも、タロウは人を殺したりはしねえよ。ただ無茶苦茶はするがな。」


「ただ、こちらも人が減るのは困る、もしジプレトデンで働きたいってヤツがいたら、働かせてやってくれないか?」


「もちろんいいぜ、本人が戻りたいって言うんなら、好きにさせるさ。」


と、そこにチェスハが戻ってきた。するとオリアンが、


「なんだそりゃ?ミルクか?」


「へへ~ん、知らないだろうが、これも『オサケ』なんだぜ。

オサケに「きまり」は無いんだと、自分の好きなように飲む。それが『オサケ』らしい。」


「ほ~、なかなか深いな。」


スラインはチェスハの言葉に感心ていた。


「まあ、俺はこのままがいいな。」


オリアンの意見に、スラインも


「ああ、この喉が焼ける感じがいい。」


するとチェスハは、呆れたように、


「この変態どもが。」


と、毒を吐きながら、ミルク割りを飲んだ。するとオリアンが、


「それはそうと、ジプレトデンに居る仲間を返してくれるそうだ。今、スラインが約束してくれた。」


「本当かスライン!」


「ああ、男と男の約束だ。」


するとチェスハは、


「ところで、スライン。ジプレトデンに「エミナー」って女は居なかったか?年は27ぐらいなんだが。あたしの知りあいでな、姉みたいなもんだ。7年前に連れていかれてた。」


するとスラインは、一瞬顔を曇らせたが、


「ああ、エミナーという女は居る。だがな、少し事情があって、すぐには返す訳にはいかないんだ…」


「なんだと!この野郎!話が違うじゃねえか!さっき全員返すって言ったんじゃねえのか!!」


チェスハは激怒し、スラインの胸ぐらを掴んだ。


「い、いや、待て、違うんだ、話を聞けって!」


「チェスハ、まあ落ち着けって、話だけでも聞いてやろうじゃねえか。


オリアンが、まるで暴れ馬でも扱うかのようにチェスハをなだめた。


「ふん!聞いてやる、なんだ言ってみろ。」


するとスラインは、オサケを一口飲むと、話を始めた。


「俺の娘「ニーサ」はまだ小さい。今、母親が居なくなると困るんだ。わかるだろ?それに俺も…」


「それがどうした!なんで今、娘の話になるんだよ!母親が居なくなると困るだ~!娘の母親の話がどうエミナーと…と?とぉ?…」


チェスハは一瞬思考が停止して「ボ~ッ」となってしまった。

すかさずオリアンが、


「え?じゃあ、ニーサの母親がエミナーなのか?」


スラインは照れくさそうに、


「実はそうなんだ。エミナーは俺の妻だ。

もともとエミナーは、俺の世話係りとして、つれてこられたんだよ。

俺も戦いばかりで、何一つ自分の事は出来なかったからな。

そんな時、エミナーがやって来た。アイツは文句1つ言わずに世話をしてくれたよ。

美人で、器量もいい、何せ飯が美味い。そんな女が居たら、惚れるに決まっているだろうが!」


「え…いや…まあ、そうだが…一応『奴隷』だよな?奴隷と結婚なんて、回りは何も言わなかったのか?」


オリアンは、いきなりの展開に困惑をしながらも聞いてみた。するとスラインは、


「問題ない!何も言わせない!!俺が決めた!」


すると、思考が戻ったチェスハが聞いてきた。


「ち、ちょっと待て、たしか『ジプレトデン』の国王には子供が居なかったよな?それで次の国王の座には、たしか将軍のお前がなるんじゃなかったっけ?」


「ああ、そうだとも。国王から、直々に言葉を貰った。「次の国王は任せる」とな。」


「え!じゃ、じゃあ、エミナーは王女になるのか?」


「まあ、そういうことになるな。」


「な、なあスライン、第2夫人とかは考えてないか?」


すると、オリアンが、


「何考えてんだよ?お前が城におとなしく居られるわけないだろ。」


「アハハ、悪いなチェスハ、エミナー1人で十分幸せだ。」


「ちぇっ、いいな~」


仏頂面のチェスハを見て、スラインはニコニコしながら、


「わかってくれたか?1度実家に帰るように言ってみるよ。もちろんニーサを連れてな。」


「ああ、ぜひそうしてくれ、イブレドやエティマスも喜ぶ。そうなると、ダシールは『おばさん』になるのか?あの年で…アハハ。」


すると、オリアンが、


「ま、まあ「エミナー」の事はいいとして、この国のラウクン王子の力になってくれ。まだラウクンは若い、国を納めるのは頼りないからな。」


「わかった、出来るだけ力になろう、他の国に連れていかれた仲間も取り返しに行くんだろ?俺も行ってやるよ。

まあ、俺が行くより、あの『悪魔』が行った方がいいんだろうけどな。アハハハハハ。」


「ちげえねえ!アハハ!」


「お前ら、タロンに殴られても知らないぞ。」


すると、オリアンは真顔になり、


「しかし、タロウが現れてからというもの、一気に『時』が動いた感じだ。

俺達が何十年かかっても出来なかった事を、アイツは3日そこらでやりやがった。そのくせ、何も欲しがらない、挙げ句の果てには、俺が『伝説の勇者』って事になってるらしい。」


「オリアンが『伝説の勇者』?」


「ああ、ガキ共が聞いたんだと、タロウが「伝説の勇者はオリアンだ」って言ってたらしい。

最初、俺はタロウが勇者だと思っていたが、違うみたいだ、アイツは『勇者』どころか、『神様の使い』だと思うぜ。」


「アイツが『神様の使い』ね~?」


チェスハはミウやニーサと一緒にいる僕を見ながら言った。続けて、


「まあ、たしかにアイツと居るとワクワクしてくるな。お前もそうだろ?オリアン。」


チェスハの問いかけに、オリアンは、


「たしかにな、この『オサケ』に『黒龍』さらに『ファンタ』まで、次は何をしでかすか、楽しみだな。」


「あたしは、次にどんな美味い物が飛び出すか楽しみだよ。」


「お前はやっぱり食い物か。アハハハハハ!」



オリアン達の話は尽きることなかった。

日が傾き、夕暮れになると、僕はミウやニーサちゃん達を、城に送って行く事にした。


「オリア~ン!僕はニーサちゃん達を城まで送って来るからね~!」


すると、チェスハが、


「お~い!お前はどこに泊まるんだ?」


「とりあえずイブレドさんの所に行きま~す!

オリア~ン!また明日来ますね~!」


「お~!わかった~!」


すると、スラインが、


「あれが『神の使い』か…どう見ても、ただの少年だよな。」


「わざとそう見せてるのかもしれないぜ、俺達を油断させるためにな。」


「姿なんてどうでもいい、あたしは美味し物が食べたい!」


「まったく…お前って奴は…アハハハハ!」


「アハハハハハ!


3人の笑い声が、赤く染まった空に響いた。


僕は、みんなを馬車に乗せ、お城に向かった。


王子の計らいで、ミウの家族は城の敷地の中にある家に住むことになった。

そしてミウのお父さんには庭師の仕事を、お母さんには料理の仕事を与え、弟や妹にも衛兵見習いと女中見習いとした。


ミウは、お城で「ナカリー」と再会、泣きながらお互いの無事を喜んだ。

ミウとナカリーの頼みを王子が承諾し、ナカリーは母親と、一緒にお城で暮らす事になった。


僕は、そのままイブレドの宿に向かった。

ダシールが出迎えてくれ、中にはチェスハさんから頼まれたと、あの溺れた若い衛兵達2人が、イブレドさん達を守ってくれていた。


僕は今日あったことを、みんなに話した。イブレドさんはともかく、エティマスさんは、信じられないような顔をした。

国王をなんの疑いもなく、信じていたからだ。


僕は、この時「エミナー」さんが「ニーサちゃん」の母親だとは、まだ知らなかったので、エミナーさんの事は話せなかった。


次の日、ラウクン王子は、今まで国王がやってきた悪事をすべて国民に打ち明け、謝罪をした。

そして、連れていかれたすべての人を取り返すと宣言をした。




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