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〔それぞれの思惑…〕



第17話〔それぞれの思惑…〕



次の日の朝、僕は朝食もそこそこに、イブレド宿を後にした。

なぜか、胸騒ぎがしたからだ。


ダシールは寂しそうにしていたが、「すぐに帰って来るからね」と、頭を撫でると笑顔になり、元気に手を振り見送ってくれた。


僕は、そのままチェスハの店に向かい、何か情報がないか聞いてみようと思っていた。


店の前に着くと、見覚えのある馬車が止まっている。


「あれ?この馬車って…」


「コンコン…カチャ…」


「おはよう、チェスハ。」


すると、返事をしたのはチェスハではなく、ロコナのおじいさんだった。」


「おはようさん。今日も「オリアン」に会いに行くんじゃろ?わしの馬車に乗って行け。」


「え?おじいさん、なんでその事を?」


僕が不思議そうにたずねると、


「あたしが教えたんだよ。」


チェスハが店の奥から、パンをくわえたまま、出て来た。

そして、手の平を僕の前に差し出すと、


「ほれ、早く『ジャム』を出しやがれ。持って来てるんだろ?」


チェスハは僕の目の前で、手の平を動かしながら催促をした。

僕は、チェスハの上から目線に、少しカチンときて、


「あ!ごめん!急いで来たから忘れてた!」


その瞬間、チェスハの動きがピタッと止まり、口にくわえていたパンが、口から離れ、テーブルの上に転がった。


そして、チェスハは崩れ落ちるように、床にしゃがみこんでしまった。


下を向いたまま膝を抱え、まったく動かなくなったチェスハを見て、少し可哀想になり、


「チェスハ…、ごめん。本当は持って来てるんだよ。」


僕は鞄の中から『ジャム』の入ったビンを取り出しテーブルに置いた。


するとチェスハは、しゃがんだまま顔を上げ、


「本当~?」


と、ひと言呟いた。

そして涙目のまま、上目遣いで僕を見た。


いつもと違うチェスハに、僕の方がドキドキして、顔が赤くなるのが自分でもわかった。


「ご、ごめん、ごめん。いつもからかわれているから、ちょっと意地悪したくなって…今度いっぱい『ジャム』を持って来るから許して。」


僕は両手を合せ、チェスハに謝った。


すると、チェスハは唇をとがらせ、「ウ~~」と可愛い「うなり声」をあげた。


いつもは「お姉さん」っぽいチェスハが、今日は年下の女の子のように見え、思わずダシールにするように、チェスハの頭を「ヨシヨシ」と撫でてしまった。その瞬間、


「ガシッ!」


チェスハの右腕が、「ヨシヨシ」をしていた僕の右腕を力強く握った。

そして、そのままゆっくりと立ち上がると、


「さて、遊びはこれくらいにして、タロン!さっきの約束、忘れるなよ。」


と、チェスハは僕を見ながらニヤリと笑った。


僕は、あっけにとられ、


「え?え?え…?」


すると、すかさず、


「どうだ!可愛らしかっただろう?

惚れ直したか?アハハハ、女の武器は色気だけじゃダメなんだ。可愛らしさとのギャップが必要だからな。」


どうやら、チェスハは男の扱いを熟知してるようだ。

僕は、意地悪をしようとして、逆にからかわれたのを、ごまかすように、「コホン。」とひとつ咳払いをし、


「それで、チェスハさんの方は、何かわかったんですか?」


すると、


「ふ?ひょっとはて…」


チェスハは、いつの間にか、ジャムをつけたパンを口一杯に頬張っていた。


僕は、その姿を見て、


「ハァ~、さっきはあんなに可愛かったのに…」


と、ため息をつきながら呟いた。


そしてチェスハは、パンを食べ終えると、


「まあ、そんなに焦るな、と、言いたい所だか、そんな悠長なことも言ってられないみたいだぞ。」


「え!何かわかったんですか?」


「ああ、まず「オリアン」の言っている事はたぶん本当だ。それからミウは、家族と一緒に城に居る。そして明日の朝、遠征に出発するみたいだ。」


「え!?ミウが城に?」


「ああ、今回の遠征に、あたしも誘われたって言ったよな。

ちょうど昨日、遠征の出発時間を教えに衛兵がこの店に来たから、何も知らないフリして、いろいろ聞いてみたんだ。


ーーーーーーーーーーーー


衛兵「チェスハ、明日の朝9時に出発するから、それまでには城の裏に来るように!」


チェスハ「明日とは、急なんだな?まだ旅の用意が出来ていないんだけど…」


衛兵「必要な物はこちらで用意する、お前はついて来るだけでよい。」


チェスハ「でもな~、親父が心配なんだよな~、やっぱり行くの辞めようかなあ。」


衛兵「い、いや、それは困る…国王様も、お前が来るのを楽しみ…いや、期待されておる。

それに、お前の友達「ミウ」とか言ったな?その「ミウ」も一緒に行くんだぞ、家族も一緒だ。」


チェスハ「え!?ミウが?」


衛兵「ああ、ミウもお前に会えるのを楽しみにしてる。」


チェスハ「そうなんだ…じゃあ、行こうかな…

でも…あたし、長い旅はしたことないから心配なんだ…盗賊とかに襲われたりするかもしれないんだろ?…」


そう言うと、チェスハは上目遣いで衛兵を見つめた。


衛兵「だ、大丈夫だ、俺達衛兵が守ってやる!」


チェスハ「本当~?でも…出来れば…あたし貴方1人に守ってもらいたいな………もちろん夜も……なんて無理だよねて……」


チェスハは衛兵にすり寄り、指で衛兵の胸を円を書くように触った。


すると、衛兵は興奮しながら、


衛兵「も、もちろん守ってやる!もし、君さえ良ければ、俺はい、一生君を守ってやるぞ!」


チェスハ「え!?そ、それって?」


衛兵は方膝をつき、


衛兵「お、俺の妻になってくれ!ずっと好きだったんだ!」


チェスハ「で、でも…お父さんの事が…」


衛兵はチェスハの肩を両手で掴み、今までにない真剣な顔で話し始めた。


衛兵「いいか、よく聞け、親父さんはすぐにこの国から、避難させろ。

国王が出発したあと、隣国の「ジプレトデン王国」がこの国を占領する。だから、すぐに父親を逃がせ、そして君は明日は、必ず俺の馬車に乗るんだぞ、そして2人で逃げよう。ほとぼりが冷めたら父親に会いに行けばいい、わかったな?」


チェスハ「うん!わかった。ありがとう、オアン!」


チェスハはオアンを抱き締め、頬にキスをした。



ーーーーーーーーーーーーー


「と、いうわけだ。」


チェスハは、ビックリしている僕をよそに、あっけらかんと話を終えた。


「チ、チェスハさん、結婚するの?!」


すると、


「はぁ?結婚だぁ~?

あたしが結婚するわけないじゃないか。」


「い、いやだって、さっきの話の流れだと…」


「何を言ってる、あたしは一言も『結婚する』とは言ってないぞ?」


「で、でもだって、抱き締めてキス…って…」


「なんだ、その事か、それは「貴重な情報ありがとう」のキスだ。

なんだ?お前もキスして欲しいのか?

お前なら『ジャム』をくれたから、口にしてやってもいいぞ。」


チェスハは唇を突き出しながら僕に近づいて来た。

僕は、もうこれ以上からかわれるのは嫌だとばかりに、チェスハの体を両手で押し返した。

すると、チェスハは、


「なんだよ、つれないなぁ。で、お前の方は何かわかったのか?」


「うん、イブレドさんが、森で衛兵達の話を聞いたみたいなんだ、隣国が攻めて来るから、家族を逃がせとか、新しい橋が間に合うとか。」


「新しい橋?」


チェスハは少し考えて、


「そういえば、城の西側は土砂崩れとかで、しばらくの間『立入り禁止』になってたな。

あの方角は湖の幅が1番狭い場所だから、橋を作るにはうってつけの場所だ。

なるほどな、正面の橋に兵を集めて、そちらに注目をさせといて、その隙に裏から逃げるって作戦か。

で、お前は「オリアン」 の所に行って何をするんだ?

まあ、お前の事だから、何かとんでもないことを企んでいるんだろうがな。」


チェスハは悪人を見るような目で僕を見つめた。しかし顔は微笑んでいる。


「そんな、『企む』なんて人を悪者みたいに言わないでくださいよ。ちょっとした考えがあるだけですから。」


「お前の『ちょっと』はとんでもないんだよ、アハハハ。」


「と、とりあえず、明日の朝オリアン達が攻めて来ると思います。

チェスハさんは、イブレドさんの所に行って、ダシールちゃんや、エティマスさんを頼みます。あと、街の人達に家から出ないように言ってください。

僕はオリアンに『出発の時間』と『新しい橋』の事を伝えます。

で、半分の仲間を『新しい橋』の所に行くようにしてみます。全員が行くと気付かれてしまうので。」


「わかった、お前もオリアン達と街に来るんだろ?」


「もちろんですよ。ミウを助けるのは『勇者』の役目ですから。」


「きっとだぞ!絶対ミウを助けろよ。」


僕はチェスハの目を真っ直ぐ見つめ頷いた。


「それじゃ、僕は行きますね。

おじいさん、お待たせしました。行きましょうか。」


すると、ロコナのおじいさんは、


「やっと出番か、忘れられとると思ったわい。ハハハハハ」


そう言うと、


「よっこらしょ」と椅子から立ち上り、入り口に歩いて行った。


「じゃあ、ちょっと行ってきます。」


僕はチェスハに手を振り歩こうとした瞬間、


「ガシッ!」


チェスハは僕の手を掴み、自分の方へ引き寄せた。そして…


「チュッ…」


チェスハの唇が、僕の唇に触れた。


「お前は、あたしの命を救ってくれた、お前が居なかったら、あたしもどうなっていたかわからない、ありがとう。これはそのお礼だ…

気を付けてな、あ!それから、今のは「ミウ」にはナイショな。」


チェスハは顔を赤らめながら、口に人さし指をあてウインクをした。


僕も真っ赤になり、コクコクと頷いた。


こうして僕の『ファーストキス』は、異世界の、しかも年上の女性に奪われてしまった。


僕はチェスハの店から出ると、ロコナじいさんの馬車に揺られ、街から出た。


まだ僕の唇には、チェスハの唇の感触が残っており、ドキドキしていた。そして、口の回りにはイチゴジャムの甘い匂いが漂っていた。



橋のふもとには多くの衛兵や、傭兵達が集まり、厳重な警戒がされていた。

どうやら『明日の朝、出発』というのは本当みたいだ。

門の警戒も厳しいみたいだったが、出るのは比較的簡単だった。

橋を渡ると、これまた大勢の獣族が、今にも突撃しそうな勢いで集まっていた。

中にはオリアンの仲間も何人か居るようだ。


そして橋の監視塔から馬車が見えなくなる場所まで来ると、


「さあ~飛ばすぞ~!」


言うと、ロコナじいさんの馬車は、一気に加速した。

僕は「あ、やっぱり… 」と思い、歯を食い縛り、馬車の手すりにしがみついた。


すると、ほんの5分も経たないうちに、オオカミ族の村に着いた。


僕は、ロコナじいさんにお礼を言うと、早速『獨酒どぶろく』を作っているファンの家に向かった。


ロコナじいさんは、騒ぎが収まるまで、アイガの店に居るらしい。

『おじいさん』とはいえ、男の人がいると、イムとサプも安心するからだ。


ファンの家に着くと、ほんのりとお酒の匂いが漂っていた。


「なんとか間に合ったみたいだな。」


僕は心の中で『ガッツポーズ』をしながら、家の扉を叩いた。


「ファンさ~ん!居ますか~?」


すると、家の裏の方から、僕を呼ぶ声がした。


「お~い!裏に居るから、勝手に入ってこ~い!」



「失礼しま~す。」


僕は、家の回りをぐるりと歩き、ファンの居る裏庭に行った。

そこで迎えてくれたのは、なんと「オリアン」だった。


「あ!オリアンさん。おはようございます。来てたんですね。」


「お~!太郎、来たな。お前、その「さん」づけやめろって言ったよな。」


「す、すいません…つい…」


「まあいい。ここではお前が『ボス』だからな。」


「い?え!?ボ…ボス?」


僕はビックリして、思わず聞き返した。


「い、いや…あ、あの、ここのボスはオリアンさ…いや、オリアンじゃ?」


「ふん!とぼけやがって、お前が俺達より遥かに強いのはわかってるんだよ。」


「いや…強いというか…硬いというか…軽いというか……」


僕が困って返事をすると、


「俺だって、伊達に『最強』と呼ばれているんじゃないんだぜ。

わかるんだよ、強いヤツは特にな。お前は今まで会った中でもダントツだ。」


オリアンの目が「ギラッ」と光った。

僕はその眼光の鋭さに、


「ま、まあ、その話は後でちゃんと話しますから…

ちょっと時間が無いんで、急いで仕上げにかからないと。」


「ん?時間が無いって、どういう事だ?」


「そうそう、その事も話そうと思っていたんですよ。

明日の朝、国王達が出発するらしいんです。」


「なんだと!明日だと!?

どおりで最近、橋の向こうに人が集まってると思ったぜ。」


「それから、もう1つ、国王達は、あの橋を渡らずに、新しい橋を渡るみたいです。」


「新しい橋だと!?」


「なんでも、城の西側に新しく橋を作ったみたいなんですよ。

オリアンが、橋で戦ってる間に、新しい橋を渡って逃げるみたいですね。

それから、国王が国を出たと同時に『ジプレトデン王国』が攻めて来ると言ってましたよ。」


「何?ジプレトデン王国の奴らまで絡んでるのか!

よし!今すぐ橋に居る奴等を新しい橋に向かわせる。」


「ち、ちょっと待って下さい。ここは騙されたフリをしてた方がいいです。

国王を油断させておいて、一気に叩きましょう。」


僕は手の平に拳を当てた。


するとオリアンは納得したように、


「わかった、お前がそう言うなら、そうしよう。

それで、これからどうする?あまり時間がないぞ。」


僕は樽を指差し、


「これを完成させます。 」


僕は『獨酒 』の最終行程に取りかかった。


ご飯と水とカビを混ぜて一晩おいた物を、もう1つの樽の上に布を広げ、その上に移した。


そして3人で搾ると、樽の中には、どんどん白く濁った水が溜まっていった。


鼻の効くオリアン達は、


「この匂いは毒水みたいだが、少し違うな。」


僕はニコリとしながら、


「もちろんですよ、『最強の毒水』ですから。」


と、ウインクをした。


「それで?この毒水をどうやって『ドラゴン』に飲ますんだ?

ドラゴンの棲み家は誰も知らないんだぞ。」


オリアンの問いに、僕は、


「大丈夫です。きっと彼の方からやって来てくれますよ。

この辺りに、見晴らしのいい所ってありますか?」


するとファンが、指をさしながら、


「それなら、ここを少し行った所に丘があるぜ。」


「じゃあ、そこにましょう。」


僕達は、出来上がった獨酒を、その丘まで運んだ。


回りに木々もなく見晴らしの良い場所だった。


僕は、樽の蓋を開けると、オリアン達は隠れているようにと頼んだ。


「人が多く居ると、ドラゴンが警戒するかもしれませんから、オリアン達は、隠れて見ていて下さい。」


「お前1人で、大丈夫なのか?」


ファンが心配そうに、僕に尋ねて来た。

すると、オリアンは呆れ顔で、


「心配するだけ損だぜファン、太郎に任せておけば大丈夫だ、そうだろ?太郎。」


僕は親指を立て、頷いた。


ちょうどいい具合に風も吹いている、これなら匂いがすぐに拡がるだろう。

僕は匂いが早く拡がるように、小さなコップに獨酒を入れ、空に向かってばらまいた。


僕がドラゴンを待ってる間、茂みの中で隠れているファンは、まだ僕の事を心配していた。



「なあ、オリアン、太郎は本当に大丈夫なのか?相手は、あのドラゴンだぞ。

確かに俺達の知らない事を知ってるみたいだが、まだ子供じゃないか。」


「いいや、見た目はガキでも、あいつは俺より遥かに強い。

俺にはわかるんだよ。お前だって、あいつとやり合ってわかっただろ?」


「そうだが…でも、あれはオリアンも聞いてたじゃないか、上手く避けて、金棒にヒビを作ったって。」


「バカヤロ、冷静に考えてみろ、そんなことが出来るヤツが居るか?

俺にだって出来ねえぞ。

それにだ、お前が作った武器で今まで失敗したことがあるか?」


「………いいや、ないな…」


「だろ?太郎は本当に『金棒』を素手でへし折り、粉々にしたんだ。

たぶん子供達を助けた時も、アイツがドラゴンに何かしやがったんだ。

運良く岩が飛んできて、ドラゴンの頭に当たり、しかも太郎がちょうど下を歩いてるなんて、万が一も無いからな。」


ファンは、驚きながらも、


「でも、もしそれが本当なら、俺達の力なんか必要無いんじゃないか?

1人でも、ドラゴンを力づくでも仲間に出来るだろう?」


「さあな、アイツの考えは俺にもわからない。

でも、太郎が居れば国王は倒せる。

この国を変えることが出来るんだ。俺は太郎が『伝説の勇者』だと信じてる。」


「『伝説の勇者』か……もし、本物なら、俺達は『伝説の勇者』と一緒に戦う事になるんだな。」


「ああ、そういう事だ。」


「なんだか、鳥肌が立って来たぜ。」



その時!いきなりドラゴンが空中から舞い降りて来た。

しかし、ドラゴンは太郎の姿を見るや、2、3歩後退りした。

それを見ていたオリアンは、


「見ろ!ドラゴンがビビってやがる。」


『獨酒』の匂いにつられて、やって来たドラゴンだったが、油断してたとはいえ、自分を気絶させるほどのパンチを放った相手が目の前にいるのである、さすがのドラゴンもビビるのは当然だった。


僕は、ドラゴンが来ると、静かにあぐらを組んで座った。

そして、ドラゴンが2、3歩下がったのを見ると、そのままの姿勢で、頭を下げ謝った。


「この間は、いきなり殴ってゴメン!

僕は、君と友達になりたいんだ。これはその印だ!」


僕は隣に置いてある樽を、ポンポンと叩いた。


ドラゴンは、僕に戦う意思が無いとわかったのか、樽に近づき除き込んだ。

が、匂いを嗅ぐだけで、飲もうとはしなかった。

初めて見る水に警戒していたのだ。


僕は、持っていたコップに獨酒を入れ、ドラゴンの目の前で、一気に飲んだ。


「だ~!やっぱりにが~!」


ドラゴンを安心させようと「ウマイ!」と言う予定だったが、あまりの苦さに思わず顔が歪んだ。


しかし、僕が飲んだのを見て安心したのか、

僕がもう1回コップに入れて、ドラゴンに差し出すと、器用に爪で掴み、口の中に流し込んだ。

すると、ドラゴンは目を丸くして僕を見つめた。


僕が、大きく頷くと、ドラゴンは両手で樽を掴み、そのままひと口飲んだ。

するとドラゴンは上を向き、


「プハァ~!」と白い息を吐いた。


そして、もうひと口。

今度は『目』が少し赤くなった。


さらに、もうひと口。


今度は、体の色が更に赤くなった。

ドラゴンが獨酒を飲む度、体の色はどんどん『赤黒く』なり、

最終的には、ドラゴン目は『真っ赤』になり、体は『真っ黒』になってしまった。

しかも、吐いていた息も、徐々に白から灰色の煙になり、ついには『火』を吹くようになってしまっていた。


しかし、その怖そうな見た目とは裏腹に、目は笑い、小さなコップに獨酒を入れると、僕に「飲め」と差し出して来た。


僕は、コップを手に取り、一気に流し込んだ。

しかし、初めて飲む酒に、一気に酔いが回り、後ろにひっくり返って寝てしまった。



そんな光景を隠れて見ていたオリアン達だったが、


「オ、オリアン…み…見ろ!こ、黒龍だ…!」


「あ、ああ…『赤眼の黒龍』だ……ほ、ホントに居やがった。」


オリアン達が驚くのも無理はなかった。

『赤眼の黒龍』は勇者伝説より遥かに前、この世の始まりから居ると言われていた、超伝説の生き物だったのだ、もちろん見た者は誰も居ないとされていた。

そして、獣族の間では『神』と崇められていたのだ。


オリアンは、思わず立ち上り、フラフラと黒龍の前に歩いて行った。

そして土下座をすると、頭を地面スレスレまで下げた。


ドラゴンは首を傾げながら、オリアンを見ていたが、ちょうど僕が酔い潰れ、一緒に酒を飲む人が居なくなったので、ちょうどいい所に来たとばかりに、

爪で「コンコン…」と、オリアンの頭をつつき、オリアンが頭をあげると、さっき僕が飲んでいたコップに獨酒を入れ、オリアンに差し出した。


オリアンは丁寧に両手でコップを受け取ると、「グイッ」っと獨酒を飲んだ。


「パッはぁ…~!!なんだこれ!?

サタンとは全然違う!!喉が一気に熱くなりやがる!」


興奮してるオリアンを楽しそうに見つめるドラゴンは自分もひと口飲んで、炎を吐いた。


あまりの衝撃に、オリアンは隠れているファンも呼び寄せた。


「おい!ファン!お前も飲んでみろ、凄いぞ!!」


「何をそんなに興奮してるんだ、米だぞ米。」


ファンは、ご飯を炊くところから見ているため、米から出来る飲みものが、まったく想像出来ていなかったのだ。


ドラゴンは飲み仲間が更に増え、躍りながら喜んだ。

いつもは、独りで人を拐って来た褒美として、湖の水を城の衛兵達に貰っていたので、大勢で自由に飲めるのが嬉しかったのだ。しかも湖の水より格段に美味い酒ならなおさらだった。


ファンもおそるおる、ひと口飲んでみた。


「お~~~!!こりゃいい!これを飲んだら、『サタン』なんか飲めねえぜ!」


「だろ!だろ!ドラゴンも飲め!」


オリアンは、すっかり出来上がっていた。

しかし、2人と1匹で飲むと、樽はすぐに空っぽになってしまった。

するとオリアンは、


「おい!ファン!もう獨酒は無いのか!」


するとそれを見ていたドラゴンも、オリアンの真似をするように、ファンに向かって、


「ガァ~~オ~~~!」


と小さく吠えた。


「それみろ、ドラゴンさんも、まだ飲みたいってよ。」


するとファンも、赤い顔で、


「へっへっへ、まだあるぜ。太郎が、いっぱいあった方がいいっていってたからな。」


「よし、取りに行こうぜ。ちょっと待ってろよ、ドラゴン。 」


オリアンは、ドラゴンの足をポンポンと叩いた。


するとドラゴンは、翼を広げたかと思うと、オリアンとファンをチョンと摘まむと、空に飛び上がった。


「お~!こりゃ楽チンだ!」


はしゃぐオリアンとは対象的にファンは、


「ヒイィィ…!!俺…高い所ダメなんだぁ~!!」


と、ドラゴンの足にしがみついた。

そして一瞬のうちに、ファンの家の庭に降り立った。


「樽はどこだ?ファン。」


「ふぅ~…生きてるっていいな…こっちだ、こっち。」


ファンが向かった先には、樽が2つ置いてあった。


「まだ絞ってないから、ドラゴンにも手伝わせるか。」


ファンの提案にオリアンも、


「そうだな、『働かざる者、食うべからず』だ。」


そして2人は布に包んだご飯をドラゴンに握らせた。

ドラゴンが空の樽の上で「ギュ~」っと握ると、


「ボタボタボタ~~!」


あっという間に、樽はいっぱいになった。


そして2つ目の樽がいっぱいになる頃には、村人がファンの家の前に集まっていた。


中には泣きながら、手を合わせる老人もいた。


「おお~。黒龍様じゃ、ありがたや…ありがたや…」


集まった村人の中には、イムやサプ、ストリアの姿もあった。


ストリアはオリアンに手招きをし、


「オリアン、これは一体なんの騒ぎだい?あの黒龍は?」


「聞いて驚くなよ、あの黒龍は、俺のマブダチだ。」


「マブダチだって?」


するとストリアの隣にいたイムが、


「やっぱりオリアンおじちゃんは凄いや、ドラゴンが怖くないの?」


「アハハハ、怖くなんかないぞ。さっきも一緒に空を飛んだんだ。」


するとサプも、


「僕も友達になれるかな?」


「もちろんだ、ちょっと来てみろ。」


と、オリアンはイムとサプを連れて、ドラゴンに近づいた。


ドラゴンは、手に付いた獨酒をペロペロと舐めていたが、オリアンに気が付くと、オリアンを爪で掴み、オリアンごと子供達を背中に乗せた。


そして、ファンも掴もうとしたが、


「いやいやいや、俺はいい歩いて行くから…」


と、首を横に振った。


するとドラゴンは、両手に樽を1つづつ掴み、ゆっくりと空に舞い上がった。そしてオリアンは、


「お~い!みんな~!俺達はあの丘で飲んでるから、ドラゴンと友達になりたいヤツは来いよ~!」


「ガ~オ~!」


ドラゴンも一声鳴いて、丘に飛んだ。


それを見たファンは、


「ふぅ~、もう高い所はコリゴリだよ。

さて、俺も行くかな。早く行かないとアイツらだけで、全部飲んじゃいそうだからな。

お!そうだ、子供達に太郎が言ってた「子供のサタン」を作って持って行ってやるか。」


そして丘の上には村に残っていた人が殆ど集まり、飲めや歌えやの宴会が始まった。



しばらくして、僕は賑やかな声で目が覚めた。

辺りを見回すと、空は薄暗くなり初めていた。


「ん~~…う~…頭いて~…

ん?なんだか賑やかだな…」


やっとの思いで体を起こすと、そこにイムとサプが走り寄って来た。


「お兄ちゃ~ん!」


「ドン!」


2人に体当たりを食らった僕は、また後ろに倒れた。


まだ、何がなんだかわからない僕に、サプが尋ねて来た。


「ね~ね~、お兄ちゃん。あの『サタンさん』はお兄ちゃんが考えたの?」


「『サタンさん』??なんだ?その優しそうな悪魔は?」


と思いながら、僕には、まったく意味がわからなずに首を傾げると、


今度はイムが、


「これだよ、これ!」


コップに入ったオレンジジュースを見せてくれた。


「オレンジジュース? 」


「子供でも飲める『サタン』だよ。ファンおじちゃんが作ってくれたんだ。

お兄ちゃんに「教えてもらった」って言ってたよ。」


僕はやっと2人の話の意味がわかった。


僕は、イムとサプに手を引かれ、


「オリアンおじちゃ~ん!お兄ちゃんが起きたよ~!」


と、イムとサプが大声で叫ぶと、


「お~!やっと起きたのか!死んだかと思ったぜ!ハハハハハハ!」


オリアンが手招きををしながら叫んだ。


僕はオリアンの隣に座ると、


「もしかして、あれからずっと飲んでたんですか?」


ドラゴンが現れてから、もうかれこれ半日以上が過ぎてる。

獣族だから、『お酒』には強いだろうと、予測はしていたが、まさかここまでとは思わなかった。


「ドラゴンのヤツがな、獨酒が「足りねえ」って言うからよ、ファンの家まで取りに行ったんだ。

そんとき、「ドラゴンと友達になりたいヤツはついて来い!」って言ったら、こんなになっちまった。ハハハハ!」


そこには、村人全員の笑顔があった。中には泣きながら飲んでる人も居た。

ドラゴンは、大人と獨酒を飲みながらも、尻尾で子供達の相手をしていた。


「ところでオリアン、この『サタンさん』って?」


「ん?お前がファンに教えてやったんじゃないのか?子供でも飲める『サタン』てやつを。」


「ええ、まあ、作り方は教えましたけど、名前までは…」


そこに、ファンがやって来て、


「お~!太郎!やっと起きたのか、死んだかと思ったぜ!ハハハ!」


「そのセリフ、さっきもオリアンに言われましたよ…

ところで、この『サタンさん』て名前、ファンが考えたの?」


「ふふん!!いい名前だろ。子供でも飲める優しいサタンで『サタンさん』!」


「ハハハ…ん?」


僕は、愛想笑いをしながら、おもしろい事に気が付いた。


「あの…僕の国では、こんな風に泡の出る飲み物を『タンサン』って言うんです。似てると思いませんか?」


するとオリアンが、


『サタンさん』と『タンサン』か、確かに似てるな。

なあ、ファン、俺は『タンサン』が飲み物っぽくていいと思うんだけどな。」


「う~ん、そう言われればそうかな……

でも、せっかく考えたんだけどな。」


ファンは、自分の考えた名前が、ボツになりそうで少し元気が無くなった。

するとオリアンは、


「そう、ガッカリするなファン。

お!そうだ!お前の名前も入れたらどうだ?

お前が作った飲み物なんだし、

そうだな、ファンが作ったタンサンだから、『ファンタンサン』…ちょっと言いにくいな、短くして『ファンタン』!どうだ!いい名前だろ!」


「いいんだけどよ、なんだか『赤ん坊言葉』で呼ばれてる気分だ…」


「そ、そうか、じゃあ更に短くして『ファンタ』はどうだ?」


「ブッ!ゲホゲホ…」


僕は2人の会話を聞いていて、聞き覚えのある名前が飛び出して来たので、口に含んでいた『サタンさん』を、思わず吹き出した。


僕がむせたのを見たオリアンは、


「な、なんだ?そんなに変だったか?」


自信なく問いかけて来るオリアンに対して、


「いやいやいや、変じゃないですよ、むしろピッタリというか、これ以上の名前は無いっていうか …。」


オリアンの顔が一気に明るくなった。


「そうだろう!そうだろう!

どうだファン、これが世界中に広まれば、お前の名前も、世界中に知れ渡るぞ!」


ファンは、目を輝かせながら、


「『ファンタ』か、いいな。よし!決めた!こいつの名前は『ファンタ』だ!!」


この異世界に『ファンタ』が誕生した瞬間だった。


喜ぶファンを見て、僕はある事を思い出した。


「ねえ、オリアン?

そういえばさ、ファンの名前って、「ファカーゴン」じゃなかったっけ?


「ん?まあいいじゃねえか、本人が喜んでいるんだからよ。

それより、明日の作戦は考えてあるんだろ?

ドラゴンも仲間になった事だし、聞かせろよ。」


「そうですね。それじゃ作戦会議をしましょう。」


「よし、ファン!みんなを集めてくれ!」


「了解!いよいよだな!」


「ああ、今度こそ国王を倒して、みんなを取り返してやる。」



それから僕はみんなの前で、明日の作戦について

話した。


そして、夜は明け、いよいよ運命の朝が訪れた。





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