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旅人 白鳥 恵子 Lv.10 ③

左の道を進む。

すると大きめな空間へと出た。そこは特殊な部屋だった。咄嗟にマリーちゃんの目を隠す。


「ケーコさん……?」

「マリーちゃんは、見ない方がいいよ」


……吐き気を抑え込んで、部屋の中へと視線を戻す。

酷い有り様だった。

そこにいたのは2体のゴブリンメイジ、4体の武器も持たないゴブリン。それと牢屋に繋がれてる数人の女性。……今もなおゴブリンに嬲られている女性が、3人。

その3人の女性は全員が裸に剥かれていた。全てを諦めたような顔をしていたり、泣き叫んでいたり、聞き方によっては嬉しそうに啼いている。

気分悪い。


「マリーちゃん、今から私が悪いゴブリンを倒してくるから、ここに隠れてるんだよ?」


そういってポケットから蠍の外殻を取り出して床においた。

半円を描くその黒光りする甲羅?は設置型の盾として優秀だった。クロノスも守ってくれたし、きっとマリーちゃんだって守ってくれるはずだ。


「うん、わかった……」

「通路の方を見ててくれるかな?それで誰か来たら大声で私を呼んでね」

「……」こくこく


頭のなかで戦術を練る。

まずよく観察しないといけないのは相手の立ち位置。

ゴブリンたちの数は6体、さっきと同じ数で3、3で2つのグループを作っている。片方は女性たちに腰を振っていてこちらを見向きもしないし、奇襲をかけられるだろうけれど、問題はゴブリンメイジのいる方だ。

普通のゴブリンなら弓で一撃、最悪殴っても一撃で殺せる。

けれどゴブリンメイジの方は違う。刺突ありの槍を使ってもギリギリ耐える。そんな敵がいつこちらに気づくのか分からない、仕掛けるなら早くしないといけない。

それにゴブリンたちをなんとかあの女性陣から引き剥がしたい、人質にでもされたら勝ち目が薄くなる。


ポケットから弓を取り出す。

弦を引く、矢は1本で良い。狙うのは普通のゴブリンのうち、唯一女性の近くではなく、ゴブリンメイジの近くにいる方だ。


──ヒュガッ。


風切り音を立てて矢は、壁へと突き刺さった。まずい、外した。

すぐさま第2射を射る。ギャイギャイと騒ぎ始めたゴブリンたちのうち、狙っていたゴブリンを射抜くことに成功した。きっとあのゴブリンは即死したはず。


「ギィ!ギギッ!」「ギィ!ギィ!」


ゴブリンメイジたちが怒ったように声をあげる。すると3体のゴブリンたちが女性から離れのろのろとこちらの方へと向かってきた。近づかれる前に矢を射つ。

急いで3連射……その全てがそれぞれゴブリンに当たる。

右肩、喉、右足。その全てがゴブリンの体力を削りきったから万事OK!

弓を仕舞う。そうして槍を取り出して挑発するように手元でクルクル。

飛んできた水の魔法は2つ。片方は避けてもう片方は槍で叩き落とす。そして捕まってる女性たちに近い魔法使いへと接近し、槍を振るう。

穂先で斬れたらしく頭から結構な量の血を流しているけれど、ゴブリンメイジは倒れることなかった。 その半狂乱のゴブリンメイジが突き出した杖を槍で殴るようにして向きを変える。狙いはもう片方のゴブリンメイジの杖だ。

魔法がどこに飛んだかを確認することもなく再び槍を突き刺し、死にかけのゴブリンメイジをきっちりと殺す。残りは1体だけ、人質でも取られない限り負けはしないかな。


ゴブリンメイジの杖の先をけしてこちらに向けさせないように、と弾き上げる。穂先が上を向いてしまうので無理に戻すのではなく思いっきり振り切って石突きを向ける、そうして肩を狙っての突き。杖を握っていた片腕を肩ごと吹き飛ばして攻撃手段を奪ったところでさらに太刀打ちで側頭部を横殴り。

見事にゴブリンメイジは絶命してくれたみたいだ。

ゴブリンたちの落としたお金を拾ってるときに、変なものを見つけた。多分、ゴブリンメイジが落としたものなんだろうけれど。


「巻物……?」


簡単に言っちゃうと巻物。もっと簡単に言うならペラ紙をくるくる巻いて筒状にしたもの。

とりあえず名称確認だ、ポケットに仕舞う。


『スクロール(下級魔術・水)』


……やばい、分かんない。

あれかな、紙に下級魔術を発動させる魔方陣が書いてあって、使うと紙を消費して魔術を発動させられるってやつ。

あれ?でもなんで筒状になってるんだろう?魔方陣が書いてあるだけなら丸める必要ないよね?……開けるだけ開けてみようかな。魔力を流さなければ発動しないよきっと。発動したとしても避ければ良いんだし。


「えいっ」


スクロールと呼ばれてたその紙を開くと、光の粒になって消えた。……はぇ?


「あの、あなたは……?」

「ん?」


声をかけられてそっちを見ると、牢屋の中にいる女性が声をかけていた。探るような目線で、私のことを見ている。

……そういえばここ、ゴブリンの巣だったね。しかも捕まったマリーちゃんのお姉さんを助けに来たんだったね。やだなぁ、忘れてないよ?


「私は恵子って言います、貴女たちを助けに来ました」


そういうと安堵の息が漏れたり、歓喜でなのか泣き出す人たちがいた。……けれど私が最初に近づいたのはゴブリンに嬲られていた3人の女性たちだ。


「先程も言いましたが、助けに来ました。もし、もう生きていたくないと言うのなら、私が手伝いますが」


意外なことに死を求めたのは1人だけだった、それも嬉しそうに啼いていたあの女性だった。狂ったような笑顔で早く殺してと言ったので、槍で心臓を突いて殺した。

……死体は光の粒になって消えたけれど、10分の1位の大きさで踞った姿のゴブリンが残ったので、踏みつけてそれも殺した。


「……ありがとうございました」

「いえ、私はマリーちゃんに依頼されてきただけですから」


俯いた顔でお礼を言った女性。……この人さっき「もっと早く来なさいよグズ」と言っていたのを私は聞き逃していなかった。いい加減ここから出たい。私のメンタルがボロボロだ。


牢屋に繋がれている女性たちも解放していく。その時に一人一人に「マリーちゃんのお姉さんですか?」と聞いていくと、該当者がいた。

比較的小綺麗で、まだゴブリンに弄ばれていないと分かったのが、救いだった。私はマリーちゃんに依頼されてきただけ、他の人はついでだ。だからこれで良かったのだ、と言い聞かせる。

牢屋に入ったついでだと大きめの布……バスタオルみたいなものとボロボロの衣服を見つけた。全裸の女性が2人いるからね、流石にそのままは可哀想だし。


「マリー!」

「!?お姉ちゃんっ!」


抱き合う二人を他所に、私は蠍の外殻を回収した。今回もしっかり守ってくれたみたい。表面を撫でるついでに心の中でお礼を言っておく。


「ケーコさん、ありがと」

「本当にありがとうございました……」


マリーちゃんとそのお姉さんが頭を下げてくる。私は助けた5人の女性たちに向けて言う。


「これからナチャーロへ向かいます、私と行動したくないというのならご自由にどうぞ。私は止めませんので」


言ってから少し言葉にトゲがあったかも、と反省する。そうだよね、どれだけ嫌なことがあっても八つ当たりはいけないよね。深呼吸、深呼吸……。

結果、女性たちは全員がついてくることを選んだようだ。流石にゴブリンに捕まってた人たちがゴブリンのうじゃうじゃいる森を単独で突っ切ることはしないよね。


「ケーコさん、だいじょぅぶ……?」

「大丈夫だよ、マリーちゃん。それよりもナチャーロまでの道案内とか、できるかな?」


そんなに心配されるほどの顔をしてるだろうか?

自分の頬をペタペタと触ってみるものの、特に強ばってるわけでもなさそうだ。深呼吸をして気持ちを戦闘モードへと移行させつつ、槍を片手にゴブリンの巣を出る。

女性たちは特に騒ぐわけでもなく付いてくる、けれど時折聞こえるひそひそ声が私を悪く言ってるのではないかと心を蝕むけれど意図的に無視する。あと少しの辛抱だ。






「……ケーコ、さん。なんか変なのが、来てる」

「マリーちゃん、お姉さんたちを守ってあげてね」


その気配に最初に気づいたのはマリーちゃんだった。私に小声で声をかけてきて、気配を探ると、確かに魔物が迫ってきてるようだ。


ぺちゃん、ぺちゃん……と水溜まりの跳ねるような音が近づく。女性たちに止まるように指示を出して槍を地面に刺す。最初は牽制の弓で行ってみよう。

ポケットから取り出した弓を構えて弦を引く。……魔力、きつい。

ひゅっ、と矢を放つが、そいつは無傷で現れた。


一言で言うなら赤黒い粘液、だろうか。流動しているスライムのような粘液は人型を形作っていて、おおよそ顔だろう位置を私の方へと向けたまま進んでいる。

大きさはゴブリンくらいで、大体1メートルちょいなのに、なんでこんなに威圧感があるんだろう。リザードマン並み、最大限の警戒をしておこう。

弓をポケットに仕舞うと槍を掴む。手元で遊ぶことなくそのまま構える。


サイドステップ。私がいた位置が抉れる。赤黒い粘液の攻撃みたいだ。──こいつはスライム亜種と呼ぼう。

そのスライム亜種が右腕に当たる粘液をしゅるっと伸ばし、鞭のように振るった。その鞭の動きは私の目では追いきることが出来なかったけれど、回避スキルの補助があって避けることができた。

……回避スキル5ってすごいね、ここまで上げておいて良かった。


「せ、りゃぁ──ッ!」


太刀打ちで頭を殴り飛ばす。けれど相手は粘液の塊だ、一部の液体を吹き飛ばしたくらいで、すぐに頭が再形成される。それだけじゃない、殴ったとき、威力を吸収されたような違和感があった。……これ、勝てるのかな?


ちらりと後ろを見るとマリーちゃんが不安そうな目で見ている。他の女性たちも怯えたように身を縮めている。


……大丈夫、私が負けるわけにはいかない。

回避スキルは高い、攻撃を避けられる。当てられる。それなら時間はかかるが倒せる、大丈夫だ、焦るな。

横凪ぎに振るわれる鞭をしゃがむことで回避する。


「刺突ッ」


その低い姿勢をバネのように利用する。一気に胸元へと槍を突き刺し、さっきとは比べ物にならないほどの粘液を吹き飛ばす。

しかしスライム亜種は意にも介さず鞭となった腕を振るう。地面を転がって回避。

回避先で槍をぶん回しスライム亜種を攻撃、脇腹の辺りを吹き飛ばすものの、その時には先ほど開けたはずの胸元の穴が塞がってるのを見た。再生持ちだったら、厄介だ。


鞭を槍で後ろへと受け流すと同時に左足を軸に回転、遠心力を乗せた太刀打ちでの一撃を肩口へ叩き込む。まるで剣で切ったかのように粘液を引き裂くが、それも一瞬で元に戻る。

……あ、でも少し体格が小さくなってるかな。つまり吹き飛ばした分の粘液を取り戻して回復してたりはしないみたいだね。良かった。


「ケーコさんを、苛めちゃダメーっ!」

「ちょっ……マリーちゃん!?」


マリーちゃんは、渡していた剣でスライム亜種へと斬りかかってしまった。当然のように避けられる。

その鞭となった腕がマリーちゃんに迫る。それを庇うために前に出ようとして──どうしてこんな時だけ上手くいかないのッ!


私がマリーちゃんを庇うために前に出たように、もう一人マリーちゃんを助けようとする人がいた。


お姉さんがマリーちゃんを抱き抱えて庇うように背中を向けた。スライム亜種の振るう鞭は、その背中を強かに打ち付けた。

彼女の着ていた服と皮膚が切り裂かれ、血が飛び散る。けして少なくない量の血。

マリーちゃんを抱き抱えたままお姉さんが倒れる。


「こ、の──刺突ッ!」


私はとどめを刺すべく、スライム亜種へと接近、即座に刺突を放つと蹴り飛ばす。右肩からそこそこな量の、キックがお腹から数滴程度の粘液を吹き飛ばすものの止めを刺すには至らない。大人しく死ねば良いものを。


右腕がなくなったからか、左腕が鞭のように変形し、襲いかかるが回避するのもめんどくさいのでその腕へと太刀打ちを叩きつける。ビチャン!と音がして左腕を消し飛ばす。


「いい加減、死ねッ!」


刺突を放つ。スライム亜種の胸元を再度吹き飛ばす。今度は穴が塞がることはなく、スライム亜種はただの赤黒い水へと変わり、地面に水溜まりを作った。


「マリーちゃん!お姉さん!大丈夫ですか!?」


慌てて2人に駆け寄る。マリーちゃんは土がついている程度でほぼ無傷。お姉さんの方を確認すると、さっき見た通り背中がばっくりと開いている。傷は思ったよりも深い、今も血がドクドクと流れ出し続けている。

息は……してる!


「マリーちゃん、回復薬まだ持ってる?」

「ぅん……ある、けど……お姉ちゃんが……」


マリーちゃんから回復薬を受け取り、お姉さんの背中にかける。すると淡く緑の光と共に、傷が塞がっていく。しかし完全に塞がったわけではなく、止血程度には、なったかな。いや、きっとなったんだ。早くナチャーロへ連れていこう。


「誰か、布とかありませんか……?」


女性陣4人は誰も持っていなかったようだ。……いや、正確には持っているんだけど、それを奪ってしまうと全裸の女性が生まれてしまう。それは良くない。

……マリーちゃんのお姉さんを担ごうとして、気づく。私が担いだら戦闘できる人がいない。


「誰か、この人を背負ってくれませんか?」

「……あ、じゃあ私が」


誰も手をあげない状況に見かねたのか、一人の女性が手をあげた。他の人と比べると腕は締まった感じで、少し筋肉質?身長も私よりはある。年齢は大体30代後半、かな?

ただ、この人はさっきまで全裸で全てを諦めたような顔をしてた人だ。


「……大丈夫なんですか」

「フリーネでいいよ。……それに、守ってもらってるならこれくらいはさせておくれよ」


少し考える。精神的にはキツいだろうに、本当にいいのだろうか、と。でも、武器を持ってるのは私くらいなものだろうし、仕方ないか。


「すいません、フリーネさん」

「フリーネで良いって……よいしょっと」


フリーネさんがマリーちゃんのお姉さんをおんぶして進む。牢屋で捕まっていた女性はだんまりなのは良いとして、他の2人が何かこそこそと話しているのが不安になる。

……武器を隠し持っていて裏切られたら、と考えたところで頭を振って考えを打ち切る。




「……ケーコさん、また、ゴブリンだと思う」


弓を取り出して、マリーちゃんが指を指した方向を見るが、敵は見えない。……いや、今微かに草の揺れるおとがしたかもしれない。

少しそちらを睨んでいると、ゴブリンメイジが見えた。

構える。弦を引く。矢が生成される一瞬のタイムラグを待って、手を離し矢を放つ。

ゴブリンメイジはその手に持っていた杖を掲げ、矢を受け止めた。カツン、と音がした。ゴブリンメイジが矢を掴もうとするが、その矢はすでに光の粒となって霧散している。


──接近。


すでに弓はポケットの中で、槍を持っている。

槍を長めに持って降り下ろす。しかし踏み込みの際に木の根っこを踏みつけてしまい微妙にタイミングがずれる。ゴブリンメイジはその隙に慌てたように横っ飛びして回避した。

転がったまま杖の先を私に向けている辺りに殺意を感じるね、杖の先から出た水の魔法を避けて次は素直に突きを放つ。

ゴブリンメイジの胸元を抉った槍を引き戻す。ゴブリンメイジの行動は予想できる。ここまでバカみたいに同じ行動をされると流石に、ね。

ゴブリンメイジが杖を向けようとするけれど、その杖を無理やり掴み下げさせる。そして短く持った槍を再び胸元へと突き刺すと、絶命した。

やっぱりゴブリンメイジは一撃で倒すことは出来ないみたい。


「……また、この紙だ」


紙と言うか巻物と言うか。ペラ紙をくるくると丸めて出来た筒状のスクロールと呼ばれた何か。とりあえず開く、すると……やっぱり消えた。

なんなんだろう?経験値にでもなってるのか、残り時間でも増えてるのか。あ、能力値が上がってるとか?それなら先に能力値見てから開くんだったなぁ。

落としたお金を拾うと適当にポケットへと仕舞う。ついでにもう武器も持ち変えておこうか。槍を仕舞って弓を取り出しておく。

十メートル程度しか離れてないけれど、早めにフリーネさんたちのところに戻ろう。


「あ。……あー、ケーコさん、倒したかい?」

「ええ、フリーネさんたちは大丈夫ですか?」

「な、何がだい?」

「いえ、怪我とか」

「ああ、なんだ。うん、大丈夫だよ」


なぜだか焦った様子のフリーネさん。少し首を傾げつつ進むように促す。問題なくフリーネさんたちはついてくる、けれど変な動きをしないように最大限の警戒をしておこう。

みんなで揃って私をハメる計画でも立ててたのかな?

……ああ、だめだ。なんか思考がマイナス方向にしか行かない。


そのあとも森を進んでいくが、普通のゴブリンは見かけるものの、ゴブリンメイジや剣持ちゴブリン、盾持ちゴブリンに会うことは無かった。

弓を使って見かけたゴブリンを射て倒す。少しでも経験値稼ぎがしたいっていうのと、少しでもゴブリンに捕まる人が少なくなれば良いなって思う。……でも、ゴブリンたちも必死に生きてるんだよね、ってところまで考えが進んだところでフリーネさんが声をかけてくる。


「ここら辺まで来たらもうそろそろ着くよ、ありがとうねケーコ」


──ヒュガッ。


「いえ、私も目的地は一緒だったので」


私が射ることでゴブリンがまた1体絶命した。そのあと近づいてきたゴブリンを射る。……あ、外した。

もう一発射ると、それはゴブリンの頭に当たり、絶命させた。


ついに森を抜けた。数十メートル先に大きな壁があり、関所?みたいな門がある。警備員みたいな人が2人いるのでゴブリンが来たときに対処する人たちなんだろうね。


ここまで来たら、とマリーちゃんのお姉さんを引き取る。フリーネさんは遠慮して渡さないようにしていたみたいだけれど、流石に疲労が見てとれたので強引に引き受けた。

おんぶしてみると、ねちょり、と血の感覚がした。息はまだあるみたいだけど、早く行かなきゃ。



「そんな大人数でどうした、パーティーって訳じゃあ無さそうだ」


門番?警備員?に声をかけられる。

フリーネさんが何か言おうとしたみたいだけれど、少し躊躇って口を閉じたので私が変わりに口を開いた。


「この人たちを森で保護しました。後は、これを」

「……これは、討伐記録か。確認しても?」

「ええ、もちろん」


渡したのは『イーグルの討伐記録』これにはイーグルさん?を倒したときの情報が乗っている。身分証が無い現状、少しでも身の潔白を証明できるもの、と考えたらこれしかなかった。


「……なるほどな。少し話も聞きたい、交番の方まで来てくれるか?後ろの女性たちも保護しよう」

「この人は怪我もしてるんです、治療をお願いします」

「分かった」


よかった、いい人そうだ。

そう思いながらぞろぞろと進んでいく。そんなとき、こんな声が聞こえてきた。




『始まりの街に入ったため、ボーナスで残り時間2時間の特別猶予が与えられます』



「……へ?」










私が解放されたのはおおよそ15分後だった。


マリーちゃんのお姉さんを助けるためとして回復魔法……は誰も使えないし、魔法使いの人をいちいち呼ぶとすごく高くなるらしいので門番さんから回復薬を買うことにした。

『回復薬(体20)』は1つ100ロトということが判明した。これが高いのか安いのかはまだ分からないけれど、とりあえず2つほど背中にかけると傷はすっかり無くなった。

痕も残らなかったようで、良かった。女性の肌は大切にしないといけないもんね。


そしてあの女性たちの処理は、女門番さんがいたのでその人に事情を説明し、一任することにした。

休憩時間だったらしいのに申し訳ない。


そして私自身の処理だ。

私は遠くの村から来た旅人ということにした。当然のように身分証は無い。そういうと門番さんは水晶玉を持ってきた。

これはこのナチャーロの地下にあるダンジョン『始まりにして終わりの地』から発見されたものらしい。効果は犯罪経歴のある人が触ると赤く光る、というもの。

……ゴブリンの巣であの女性を刺し殺したことが犯罪になるんじゃないかとひやひやしながら触ってみても──反応することはなかった。

どうしてそんなに怯えていたんですか?と聞かれたけれど魔道具を初めて見たんです、と半分嘘みたいなことを言って誤魔化した。



盗賊団の団員を1人倒したこと。

ゴブリンに捕まっていた女性たちを助けたこと。

その2つについては報酬が支払われることになるらしい。冒険者ギルドに渡すと報酬と引き換えになる、と言う手紙を渡された。

普通にポケットに入れると『依頼達成証』となっていた。

また、冒険者になろうと思って来たという話を聞いてなのか、冒険者ギルドへの紹介状も書いてくれた。ポケットに仕舞うとキチンと『紹介状』となっていた。ありがたく貰っておこう。



そんなこんなで15分。


『残り時間9時間13分21秒──始まりの街ボーナス残り時間1時間44分39秒』



私は大通りを通っていく。

お祭りの時にあるような屋台が並んでいる。並べられているのは串焼きや大福、焼きそばなんかの定番系が多い。

屋台の他には普通のお店もある。八百屋、武器・防具屋、酒場、ご飯屋が並ぶ。

そんな道を進んでいくと、大きな噴水のある広場へとたどり着いた。


「たしか、噴水のある広場を右」


門番さんに教えられた道を辿る。

ちなみに噴水の広場をまっすぐいくとお城のような建物の方向へ、左にいくと宿屋やご飯屋などもある住宅地となるらしい。


「ここ、かな?」


看板には『冒険者ギルド』という文字がある。日本語ではないけれど、一応読める。……なんだろう、簡単な英文を読んでる感じかな。ゆっくりと考えながら文字を見ると理解できる感じ。


きぃ……と音を立てて扉を開ける。学校の体育館かと思うほどに広いその室内は大きく分けて4つになっているみたいだ。

入って左手側にあるのはテーブルと椅子の群れ。ちらほらと厳つい人たちが酒を飲んでご飯を食べている。ご飯屋さんも併設されてるのかな?

そして正面。2階への階段。それと大きめのコルクボードのような板にたくさん紙が貼り付けられている。あれが依頼書かな。

そして最後、受付カウンターのようでたくさんの職員さんたちと少なくない行列が出来ている。

……あれ?でも2、3個空いてる列もある。あ、受付ごとに内容が違うのかな?


とりあえず一番近い、空いてるカウンターへと近づく。

ぼーっとしていた受付のお姉さんがこちらに気づくと立ち上がり頭を下げてくる。慌てて私も頭を下げるとくすくすと笑った。


「冒険者ギルドは初めてですか?」

「はい、えっと、これ紹介状です」

「……紹介状?」


受付のお姉さんが怪訝な顔をして紹介状を受け取った。あ、ついでに依頼達成証も渡しておこう。

そのどちらにも目を通した受付のお姉さんが人の良い笑みを浮かべた。


「分かりました。それではギルドカードの作成に移らせていただきます。よろしいですか?」

「はい」


ここでも魔道具に手で触れることでステータスを読み取るようだった。交番では水晶だったけどここでは直方体だけど。

すると受付のお姉さんが少し慌てたように後ろへと引っ込んでいってしまった。それも一瞬のことですぐに戻ってきたけれど。


「……ええと、場所を変えますのでこちらへどうぞ」

「どちらへ?」

「ギルドマスターのところです」


そういってカウンターの中へと入れてもらい、奥へと進む。

『ギルドマスターの部屋』と書かれているのでノックしたあとに入る。受付のお姉さんは仕事があるからと戻っていった。


「初めまして、恵子さん。私がギルドマスターのセドリックだ」


中に居たのは40代くらいの渋い系イケメン。あぁ、でも、すごいなぁ。私よりも遥かに強い。ヨコシマさんくらい強いから、レベル90くらいかな。

敵対することにならなければ良いけど。なんて考えてたら座るように促されたので素直にソファーに座らせてもらう。


「本来ならね、こんなところへは来るはずではないんだけれど。……君は神技を持ってるよね?」

「神技……?」

「ああ、神が与えし唯一の武技だ。神話に基づく名前になっていて、誰かが持っていると誰もその神技を持つことはできない」


滅槍グングニルのことかな?たしかグングニルってギリシャ神話の槍のことだよね?

……あ、そういえばあの骸骨さんって霧隠タルンカッペを使ってたよね。後は、破滅剣ティルヴィングも。なんだろう、痛々しい漢字の後にむず痒くなるような片仮名の武技は神技ってことなのかな。

刺突。三段突き。首折。滅槍グングニル。

うん、一個だけ変だもんね。多分これのことだよね。


「グングニルのことですか?」

「ああ、それだ。神技というのは保持者を最後に殺した人に引き継がれる。もし寿命や魔物によって死んだ場合はランダムで引き継がれる」

「それじゃあ神技を集めてる人とかは……?」

「今のところいないはずだ。少なくともギルド上層部は保持者には注意を促し、一般に公開しないように情報統制を行っている」


この神技?を手にいれたのは何時だったっけ?確かレベル5以下だったはず。

それも唐突にゲットしたんだよね。


「神技を集める意味はありますか?」

「いくつ集めたところでもて余すだけだろう。少なくとも神技とは魔力消費も多いが強力なスキル、という認識だ」

「じゃあなんで情報統制を?」


そこまで事態を重く見てる意味が分からない。私が質問攻めをしてるせいだろうか。セドリックさんは少し押し黙ってしまった。

なんかもうさっさとギルドカード作って帰ろうかな。眠いし。


「ざっくりとした説明をすると、だな。昔、神技を集めようとした者が居たんだ。そいつは何やら7つ集めると願いが叶う、などとほざきながら襲いかかってきて、私が殺した。そこで私は神技が7つになったのだけれど、特に何が起きるわけでもなかったよ」


セドリックさんは私が話に飽きていることに気づいたのか、ため息1つ吐くとこう締めた。


「噂には尾ひれが付くものだ。だから完全にとは言わないが言いふらしたりはしないように。……さて、これが君のギルドカードだ」


あの直方体の箱からガチャコン、とカードが出てきた。見ると黒色のカードに何やら文字が掘ってあるらしい。


「ギルドランクの説明をしよう。君を含む新人はGランク、黒色だ。そしてFランクの赤、Eランクの橙……という風に上がっていく。Aランクまで行くと次はSランク、SSランク、SSSランクとなる。ちなみにSSSランクは今のところたった5人でそのうち3人はここ1年以内に全員Gランクから登り詰めている」

「分かりません」

「……後でギルド規約などを纏めた紙をあげよう。ああ、そうだ。一応ギルドでは魔物の素材買い取りも行っている、何かあれば下の素材買い取りカウンターに行くと良い」


40代オジサンの長話を聞いて私の眠気は最高潮に達していた。ギルドカードも貰ったしとりあえず宿を取って一眠りしてから考えよう。残り時間はなんとボーナス合わせて10時間あるし。



そのあとセドリックさんにおすすめの宿を聞き、ふらふらとそこまで向かった。受付の女の人に部屋を借りると早々に部屋へと向かった。

うん、結構綺麗なんだね。部屋の施錠をするとボロボロのローブを脱ぎポケットへと……ポケット、ローブにしかないや……。

いいや、もう床に置きっぱなしで。

おやすみなさい。


やっとナチャーロに着いたぞ!

けどとりあえず魔力使いすぎて眠いから回復の意味も込めて休息だ!


……次はギルドの説明回になりそう。

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