旅人 白鳥 恵子 Lv.10 ④
今回はダイスを振りませんでした。なんかすごく物足りない!
私が起きたのは、日が落ちてからだった。
夕方、この宿屋は食堂も併設されていてそっちの方から微かな喧騒が聞こえてくる。ぐぅ、と小さくお腹が自己主張をして寒気と食欲で目が覚めたことを思い出す。
「……あ、そうだった。ローブ脱いじゃったんだ」
私が身に付けているのは白いパンツと髪留めだけ。
床に脱ぎ捨てたままのローブを手繰り寄せると……あれ?汚れも無ければ穴も塞がってる。焦げ付いてる部分もあったのにそれさえも無くなって新品同様になってる。
とりあえず着て、布団を整えたあとに食堂へと足を運ぶ。途中でもう一度ぐぅ、とお腹がなった。周りに誰もいないから良かったけど、恥ずかしい……あぁ、お腹がすいた。
「あの、すいません。夕食って食べられますか?」
「あ、ケーコさんですよね。これお釣りです」
そう言って手渡されたのは500ロト。急にお金を渡されて困惑してしまった。
「覚えてない、みたいですね。朝夕のご飯付きで2泊の料金は銀貨5枚です。でもケーコさん大銀貨を置くとすぐ部屋に行ってしまったので……」
賄賂とかじゃなかったみたい。それにお金を払わなかった、なんてことも無いみたいで一安心だ。
私は店員さんに頭を下げる。
「すごく眠くて、すいませんでした」
「いえ、冒険者さんでしたらそういう方は多いので大丈夫ですよ。あ、夕食でしたよね。すぐ準備するので空いてる席へどうぞ」
私は4人掛けの空いてる席に座りつつ、ステータスを確認する。
『残り時間5時間32分28秒』
大体5時間ほど寝ていたみたいだ。ダンジョンの中で何度か仮眠していたので眠気はバッチリ取れた。武器屋防具屋に行って、ギルドにも行ったらダンジョンへ行くのもありかもしれない。宿は2泊出来るみたいだし。
……あ、街中を歩いて物価を調べるのもやんないと。特に回復薬は買い溜めもしておきたいし。
「ステータス」
────────────
名前:白鳥 恵子
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
職業:旅人
レベル:10/99
経験値:5753/9431
体力:174/189
魔力:72/108
攻撃力:74
防御力:128(135)
敏捷:79
精神力:82
幸運:39
所持金:7969ロト
装備
右腕:スピアー(攻20)
左腕:魔導の弓(攻15+魔力の矢)
身体:ローブ(防10)
想い出の髪留め(幸運20+通信+自動修復)
アイテム
胸当て(防20)
手斧(攻15)
短弓(攻20)
蠍の外殻
タンポポの種
ドリアードの種
鉄の剣(攻35)
魔石(小)
スキル
槍術4
回避5
>見切り
魔物語2
▽スキルレベル1は省略
武技
刺突2
三段突き1
滅槍グングニル3
首折1
固有スキル
流浪
歪な器
称号
頑丈
────────────
職業のところにギルドランクが表示されるようになった。私は登録したばっかりなのでGランクだ。ちなみにポケットに手を突っ込んで『ギルドカード』と念じると黒いカードを取り出すことが出来る。
そしてスキルレベル1が省略されてるけれど、一応目を通したところ、変化してるところがあった。
下級魔術(火)1
下級魔術(土)1
下級魔術(水)1
下級魔術(風)1
私は火と土しか持ってなかったはず。それなのに水と風があるのはおかし……あ、もしかして、スクロール(下級魔術・水)ってこういうこと?
つまりスクロールを使うとスキルを覚えることが出来る、ってことかな。すごいね、結局弓ばっかり使って魔術は使わなかったけどさ。
あーとーはー……うん、特に変わったところは無いね。
と、確認が終わった頃にウェイトレスさんが料理を持ってきてくれた。ポークソテーにサラダ、シチュー。あとはパンが出てきた。
味噌汁と米が恋しくなる気持ちがよくわかる。いつか見つけたら食べようとだけ決めてから手を合わせる。いただきます。
どれも食べたことないような味だったけれど、異世界だから食感が若干変だとか、レタスだと思って食べたものから人参みたいな味がするってこともよくあるよね。
それでも普通に美味しい。地球でも普通にやっていけそうなレベルだなぁ、って思ったけれどなんか上から目線だったので心のなかで謝罪しておく。
「ご馳走さまでした」
食器類を返した後は、街へと繰り出した。
とりあえず近場をブラブラと見て回りつつギルド方向へと進む。
「道具屋?」
小瓶のイラストが書かれた看板にはそう文字が書いてあった。お店は……まだ開いてるみたいだね。入店。
店員のオジサンは特に何を言うわけでもなく、カウンターで本を読んでいる。ので、勝手に並べられている商品を見て回る。
回復薬(体20)……100ロト
回復薬(体50)……300ロト
回復薬(魔10)……100ロト
回復薬(魔25)……300ロト
解毒剤……200ロト
他にも生活雑貨が並んでいるけれど、冒険に使えそうなのはそれくらいだった。ある程度買い込んで道具屋を後にした。
そのままふらふらとしていたら、いつの間にかギルドに着いていた。ドアを押し開けて中に入る。
昨日の受付お姉さんがいたのでそこに向かうと、またあの人の良い笑みで迎えてくれた。
ギルド2階には密談が出来そうな個室がいくつかある。今回はそこで受付お姉さんにギルドについて教えてもらうことになった。
受付で教えてもらうとどうしても他の人の邪魔になってしまう。そこでこの個室が使われるらしい。
「私はフェル・リースリングです。どうぞ。よろしくお願いします、ケーコさん」
彼女は説明を始めた。
ギルドランクは10種類。
G、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS。色は正直覚えられなかった。ギルドランクBへの昇格条件でギルド規定に関するテストで一定以上の点数を取ること。というものがあるので、そこまでには覚えておいてと言われた。多分無理。
次に規則。
犯罪をしなければ基本的にギルドは不干渉。ただし例外はある。
それはギルドに不利益が発生しそうな場合が多いらしい。例えるなら冒険者同士の喧嘩でギルドが壊れそうなときとか、外部機関に│戦力が引き抜かれそうなときとからしいけど……それってほぼ全ての事態で手出しできるよね?
カウンターに関しては、依頼、買い取り、その他、などと担当が決まっているみたいだけど、担当以外でも対応はしてくれるらしい。多少時間はかかってしまうみたいだけど、誤差程度らしい。
依頼の受け方はコルクボードにある依頼を受けるか、指名されるか、常時受けられる依頼を受ける方法があるらしい。
ほかにも、街に向けて魔物の群れが侵攻してる時とかの緊急依頼があるらしい。それの説明を先にしてくれた。
緊急依頼は参加者全員に報酬が支払われる。
また、ドロップアイテムに関しては止めをさした人が貰う権利を持ってるらしく、そのあとに誰かに売るのも自分用に防具を作るのも自由なんだって。
ドロップアイテムや報酬金の問題があるせいでソロの冒険者は少なくないのだとか。あと冒険者が依頼で死亡してもギルドは責任を負わないと念押しされた。
その辺からはもう記憶が曖昧だ。早く規約を纏めた紙がほしい。
「これがギルドカード。そして昨日渡されていた依頼達成証の報酬です」
フェルさんからカードを受けとると無くさないようにポケットへと仕舞う。
そうしているとフェルさんはポケットから小さな袋を取り出すと、渡してくれた。開けると金貨が1枚と大銀貨が3枚──13,000ロト!?──が入っていた。驚いてフェルさんを見ると内訳を説明してくれる。
「保護した女性たちが5人、一人辺り銀貨1枚ですので銀貨5枚。
バグバード盗賊団の団員の討伐で銀貨3枚。バグバード盗賊団のアジトの大体の位置も特定できましたので追加で銀貨2枚。この時点で金貨1枚です。
そこにギルドマスターからの特別報酬の銀貨3枚となります」
「多く、ないですか?」
「確かに。Dランクの報酬とほぼ同じ金額ですね。……無駄遣いはダメですよ?」
と、とりあえずポケットに仕舞う……あれぇ、雑貨色々と買って7000ロトまで減ったはずだったのになぁ。
手持ちのお金を確認するためにステータスを眺める。19519ロト。約2万ロトかぁ……武器、防具を整えるのって、これくらいあれば足りるのかな?
「あ、フェルさん。1つ聞きたいんですけど良いですか?」
「ええ、答えられることなら答えますよ。何でもどうぞ」
私は一旦フェルさんに背中を向け、自分の体で隠すようにしてポケットから胸当てを取りだす。
「それは?」
「森の中で冒険者の女性の遺体から借りたものです、これは遺族なんかに返すべきなんでしょうか?」
この胸当てには何度か命を助けられた。だから返せって言われるのは正直厳しい。……けれど、これは元々持っていた名前も知らない女性の物だ。返せるなら返すべきだろう。
「……いえ」
フェルさんは胸当てをじっくりと見つめた後、悲しそうな顔で首を振った。
「それはケーコさんが持っていてください。ギルドの方では、彼女の死亡報告を受けとることしかしません」
「……遺族の人なんかは」
「冒険者になった時点で、こういう未来は予想できるものです。また、彼女はソロで孤児です。……本当に気に病むというのなら、彼女が育った孤児院への寄付をおすすめしますが」
冒険者になった時点で、魔物に殺される未来は予想できる。そう聞かされると、少し嫌な気持ちになってしまう。……地球は、日本は平和すぎたんだと思う。いや、この世界が残酷なのかもしれないけれど。
私は孤児院へ寄付することにした。
この胸当ては大体2000ロトで買えるということなのでそのまま2000ロトを寄付すると言った。手続きや孤児院への話は全てフェルさんが、ギルドが取り持ってくれるらしい。
「ケーコさんはすでにFランクへ上がる条件の1つ、ゴブリン5体の討伐を済ませています。残りは薬草5束の採取と累計依頼3つの達成です。頑張ってくださいね」
そんなこんなでギルドを後にした。
フェルさんにオススメの武器屋、防具屋を聞いたのでそこへ向かう途中だ。
確か、名前は『シュティ&チュリィ』だったかな。元々が武器屋として、防具屋として隣同士でやっていたけれど結婚を期にくっつけたらしく、他よりも倍近く大きいと聞いている。
「あ、ここかな?」
外観は普通の2階建ての家が並んでいる。しかし、その隙間の部分が継ぎ接ぎされている。
そして一階部。左側は剣と盾のイラストが書かれた看板。ショーウィンドウには様々な武器が値段をつけられて並んでいる。
右側に目を移すと、そのは甲冑のような鎧のイラストが書かれている。こちらもショーウィンドウがあり、そこには2個の鎧が並んでいる。
真っ黒な不気味とも言える甲冑と肩を揃えるのは純金製の鎧だ。
値段は……ひぃ、ふぅ、みぃ……3千万ロト!?私の手持ちの数百倍!?
「おじゃましまーす……」
ゆっくりとドアを押すと、ぎぃ……っと小さくない音をたてて開く。その中は、意外なことに無人だった。
ここ、ホントにお店?大丈夫?
「すいませーん!」
「はーい」「おう、今行くから待ってろー」
と2人の声が聞こえてきた。片方は武器屋の奥から、片方は防具屋の奥から。……結婚してるんじゃなかったっけ?家、くっついてるんじゃなかったっけ?
「お待たせしました、私が防具屋の店主。チコです」
「あ、えと、どうも。私は恵子って言います」
頭を下げられるとどうしても咄嗟に頭を下げてしまう。癖、なのかな?まあ、悪い癖じゃないし直さなくてもいいよね。
そんなどうでもいいことを考えてると武器屋の奥から2メートルを越えるガタイの良い大男が現れた。チコさんがその大男さんに抱きつく。チコさんが小さいのか男の人がでかいのか分かんないけどすごい身長差や体格差があるなぁ……。
「この人は私の主人、ダニエウよ。怖い人って訳じゃないから、安心してね」
「よろしくな。んで、今日は何の用だ」
ダニエウさんと呼ばれた男の人が鬱陶しそうにチコさんを押し退ける。けれどチコさんは離れる気が無いのか、腕に抱きついて必死の抵抗をしていた。ラブラブアピールかな。
「ええと、1つ聞いても良いですか?」
「ええ、なにかしら?」
「シュティさんやチュリィさんって、いないんですか?あ、それともお二人の本名がシュティさんとチュリィさんとか?」
そういうと、彼らは一度顔を見合わせて笑い出した。いや、あのね?言い訳だけど、なんか気になるじゃない?
自分たち夫婦の名前を店の名前にしちゃうほどのラブラブなのかなって思ってたのに、そうじゃないみたいだし。親の代からある店だから?って考えたけど結婚したのはこの二人なら、親の名前を並べるはずはないだろうし……。
あ、子供さんの名前かな?親バカの方だったかな?
「ケーコさん、貴女って『シュティ&チュリィ』の登場する童話は聞いたことない?」
「童話?」
それって、桃太郎的な?
聞いてみた話だと、悪逆非道な魔王討伐に向かう勇者に武器と防具を授けた精霊の名前らしい。
勇者も使えるほどの武器と防具を取り扱ってますよ、という宣伝になるらしく。事実いまSSランクの冒険者『ビューティー・ジョンソン』さんの短刀を作ったのはダニエウさんなのだとか。
「んな話は良いんだ、今日はなんだ。買うのか、売るのか、それとも依頼か?」
「依頼?」
ダニエウさんは少し気が短いらしい。……というよりもちらちらと後ろを気にしているみたいだし、奥に戻りたいのかな?職人気質って奴なのかな、多分違うけど。
「うちではオーダーメイドや持ち込みなんかもやってるのよ。鍛冶屋は初めて?」
「昨日冒険者になったばっかりです」
前々から考えていたことを口にする。ポケットから取り出すのは正式に(?)私の物となった『胸当て』と『蠍の外殻』。
「この胸当てを強化って出来ますか?」
「出来なくはないがよ、嬢ちゃん。この胸当てボロボロじゃねえか、耐久残り1まで使い込むんじゃねえよ」
「……耐久?」
私が首を傾げると「本当に何も知らないんだな」と溜め息を吐かれた。なんだかすごく悪いことをした気分になる。
「いいか、嬢ちゃん。武器や防具には全て耐久値が存在する。それを見るためには鑑定スキルか鍛冶スキルが必要になる、その様子だとどっちも持ってねえんだよな?」
「持ってません……」
「1000ロトで鑑定のスクロールを売るが、どうする」
所持金は17519ロト。宿代は明日泊まる分まで支払ってある。
20時前だし、最悪は今からダンジョンに行って4時間ほどお金稼ぎをするのもありだよね。鑑定は、必要になることだし。
ポケットから1000ロト……大銀貨を1枚取り出して渡すとペラ紙を筒状に巻いた物を渡される。これがスクロールなんだと思う。
それを開くと、やっぱり光の粒になって消えた。
「よし、嬢ちゃん。この胸当てを見てみろ」
言われた通りに胸当てを見る。しかしそれでは何一つ変化がない。詳しく見たい、鑑定したい、と念じながら見てみると、ウィンドウが浮かび上がる。
『胸当て(防20)…耐久1/5』
名称が分かるだけじゃなく、その隣に耐久が表記されていた。
これでいちいちポケットに入れてステータスを開く必要が無くなったね。
「耐久5分の1って書いてるこれですか?」
「ああ、使えたようだな。鑑定は魔力を含む物だと抵抗される場合がある。人なんかに使おうとすると特にな。だが鑑定のスキルレベルが上がると詳細な説明を見ることもできれば相手の抵抗をぶち抜いてステータスを覗き見することもできる」
「ステータスを……?」
「ああ、道具の耐久値ってのはステータスの体力だと思ってくれれば良い。自動回復は基本的にしないがするものもある。……ああ、ステータスを鑑定されたとき成功、失敗に関わらず鑑定された側は気づくから無闇に見ようとするなよ?」
言われるのが遅かったらダニエウさんに鑑定をするところだった……危ないあぶない。あ、この鑑定って道具のステータスも見れるなら魔物も見えるはずだよね?今度からはステータスを見て戦うか決めようかな。
「んじゃ、商売の話に戻すがよぉ。胸当てを強化する方法とこの外殻を使って1から作る方法がある。安く早いのが強化、高く遅いがたまに予想以上の出来になるのが製作だな」
「予想以上の出来……?」
「例えるなら防御力が高くなったり、意外な特性が付いたりする。んでその偶然を出せるかどうかは俺らの腕によるってな」
ダニエウさんが腕をポンポン、と叩いた。つまり鍛冶スキルが高い人が作った銅の剣と、鍛冶スキルを持ってない素人が作る鉄の剣が同じ性能になったりするってこと?
けど強化だと元の装備に依存するってこと?なら迷う必要はないね。
「製作をお願いします。値段はいくら位になりますか?」
「これなら……ボディアーマーになる。そうだな5、いや大銀貨4枚でいい。この胸当てのメンテナンスもするが良いよな?」
「はい、それでお願いします。……後は武器の売却って出来ますか?」
「出来なくはない。出してみろ」
ポケットから
『手斧(攻15)…耐久4/5』
『短弓(攻20)…耐久5/5』
を取り出した。それぞれ800ロトと1000ロトで買うと言われたのでそのまま売った。
あとすることと言えば、槍を新しくすること位だろうか。そのためにも予算の確認をしないといけない。小声でステータスを唱え、所持金を確認するときに気づいたことがある。
右腕:スピアー(攻20)
左腕:魔導の弓(攻15+魔力の矢)…耐久7/8
身体:ローブ(防10)
想い出の髪留め(幸運20+通信+自動修復)…耐久10/10
ステータス上からも耐久値が確認できること。耐久値が表示されてない武器があること。
スピアーを取り出してみる。
「それも売却か?」
「いえ、違うんですけど。これ、耐久値が表記されてなくて」
「鑑定が弾かれただけじゃ──ねえな。嬢ちゃん、これどこで手に入れた?」
「……え、えっと、拾いました」
急に睨まれたのでタジタジになってしまった。その恐怖感が伝わったのか、ダニエウさんは目頭をグリグリと揉みほぐした。
「作った奴がわからないってなら詳しくは聞かねえが。耐久値が存在しねえ……こりゃ神器に並ぶレベルの出来だな。攻撃力があればなお凄いがこの完成度でこの攻撃力ってのも逆にすげえ。嬢ちゃん、これを金貨3枚で買いたいんだが」
神器?なにそれ、って思ったら3万ロトを出しても良いくらいの価値があるらしい。
けれど、うーん。初期装備だし、耐久値を考えなくても良い武器かぁ。……いや、今のところお金に困ってはいないんだし焦る必要はないかな。
「ごめんなさい、まだ使う予定なので……」
「だよなぁ。買うもん決めたら声かけてくれ、メンテくらいささっと終わらせてくる」
そういうとダニエウさんは奥へ引っ込んでしまった。ずっと隣で話を聞いてたチコさんが苦笑いしている。
「ごめんなさいね、武器のことになるといつもあんな感じで……」
「本当に好きなんですね」
「ええ、そうね」
私はお店を見て回る。そこそこな広さの部屋をくっつけているのか、お店は相当に広い。そんな広い空間なのに所狭しと置かれた武器や防具を見ていく。
流石に全部見る訳じゃない、槍が置かれている所と防具の軽装の所だけを見ておく。
『ランス(攻60)…耐久8/8』8,000ロト
『ランス(攻55+刺突強化)…耐久8/8』10,000ロト
『ハルバード(攻50)…耐久10/10』7,000ロト
『ハルバード(攻60+敏捷20)…耐久10/10』12,000ロト
『ガントレット(防20)…耐久5/5』2000ロト
『鉄のガントレット(防御35)…耐久8/8』4500ロト
『グリーブ(防20)…耐久5/5)』2000ロト
『鉄のグリーブ(防御40)…耐久6/6』4000ロト
目についたのはこれくらいかな。ランスは馬上?の物らしく持ち手意外は全て円錐形をしていて、本当に突きにのみ特化させているんだと視覚的に訴えてくる。大きさは全長で、大体1メートルくらい?
ハルバードは今まで使っていたスピアーの形に近く、穂先が短くなっている代わりに斬れるようにと横のところに刃が大きく追加されている。他の太刀打ちや石突きは変わった感じがない。けど敏捷20がついているハルバードは──きちんと許可を取った後に──手に持つと風が発生し空気抵抗を減らしてくれる。
その分が敏捷20なんだろうけれど、これ魔力込めたら敏捷上がったりしないかな。やらないけど。……やらないけど?
槍は他は高すぎて買えなかったので一旦置いておいて、防具の方を見ていく。
手甲であるガントレットは2つとも変わらなく見えるけれど、名前が違っている。固さは……コンコンと叩いてもどちらも同じ音に感じる。鉄のガントレットは分かる、鉄製なんだなって分かるけれど、ただのガントレットは何で出来てるんだろう……?
チコさんが目を合わせてくれない!……え、っと。怖いから、放置で……。
次にグリーブなんだけど、脚甲だね。これは膝下までの、ブーツみたいな感じで、膝当てが付いてくるんだって。
ちなみにこれも素材が分からない。
グリーブを見ていたら、他とは違うデザインのものを見つけた。
股下までの脚甲らしく、膝を曲げられるようにその部分だけが布になっているものの、その布でさえも丈夫な素材を使っているみたいだ。よく伸びる謎素材。
全体的に黒い脚甲なんだけれど、白っぽい紫色が雷のように描かれている。時たま静電気のようなバチッバチッという音がしていて、触るのがとても怖いです。
鑑定してみると……
『雷燕の脚甲(攻25+防45+雷属性+雷耐性…耐久10/10)』15,000ロト
と表示された。ちなみにさっきから値段も一緒に見えてるけれど値札タグをつけると鑑定で見えるようになる、みたいな感じなのかな?
ああ、話がズレた。
このかみなりつばめ?の脚甲は高いけれど性能もすごく良い。この攻撃25はキックの時に補正になるのかな?それとも槍での攻撃にも適応されてたりして。
「その雷燕の脚甲は魔物からのドロップアイテムでね、在庫があるからその値段なだけで本来はもう少し高いんだよ?」
「……ちなみに、何の魔物が落とすんですか?」
チコさんはあんたのレベルじゃ倒せないから辞めといた方がいい、と忠告しながらも教えてくれる。優しい人だなぁ。
「ゴブリンの森を抜けた先に竜がたくさん出るダンジョンがあるらしくてね。そこの花弁が雷で出来た魔物華が落とすらしいよ」
……あ、その魔物倒したことある。というか竜がたくさん出るダンジョンって私がレムさんから髪留めを取り返すために突入したダンジョンだよね。手こずったけれど、やっぱりレベル高かったんだ……。
「しかも100体ほど倒して3つしか出なかったって嘆いてたからね、期待するだけ無駄だと思うよ」
「そう、みたいですね」
それから数分後、迷った末に私は買うものを決めた。
『鉄のグリーブ』と『刺突強化のランス』、合計で14,000ロト。これで私の全財産は319ロトとなった。新しい武器の具合も確かめたいし、レベルアップもしたりしないとね。……依頼、行かなきゃ。
金貨1枚と大銀貨4枚を支払うと、心なしかポケットの中身が軽くなった気分になる。ポケットに入れると重さなんて感じなくなるんだけどさ。
もう帰ろうかというところでダニエウさんが後ろから出てきた。彼はさっき渡した胸当てを持っている。
「毎度あり、嬢ちゃん」
「ダニエウさん、依頼したボディアーマーはいつ頃出来そうですか?」
「今日明日は特に依頼が来てる訳じゃねえからな、明日までには仕上げておく。んで、メンテしといたぞ。今度からは壊れるギリギリまで使い倒さずに定期的にメンテしとけよ」
と言って胸当てを返してくれた。表面は傷だらけだったはずなのに顔が写り込むくらいピカピカになっているし、留め具もきちんとつけ直されている。鑑定してみても耐久が5/5まで回復している。
「ありがとうございます」
「商売だからな。んじゃ、完成したボディアーマーは10日ほど保管しとくが取りに来なければ死んだと思って売りに出すから気を付けろよ」
「……はい、また来ますね」
最後の最後で嫌なことを言われたけれど、この世界だとそれが普通らしい。魔物がいて、いつ襲われて死ぬかも分からない。安定した仕事を出来る人の方が少なく、冒険者のように命をかける仕事や盗賊のように犯罪に手を染めないと生きられない人もいる。
……そういう私もほぼ無一文で、明日のご飯も危うい。
とぼとぼと冒険者ギルドへと向かっていく。何か良い依頼があるといいな。




