旅人 白鳥 恵子 Lv.9 ①
バベルver1.2アップデート情報
魔法性能の調整
固有スキル、および称号の調整
モンスター増加
今回のお詫びの品はありません。
鳥の鳴き声が聞こえる。
それに何かが私の頬を舐める……って普通に考えたらクロノスだよね。まだ少し頭がぼんやりする、と同時に胸が抉れたんじゃないかと思うほど痛い。あと打ち付けた背中も痛い。
クロノスの舌、ザラザラしてるなぁ……ピュイピュイ鳴きながら私の頬を舐めてるのを想像するだけでも可愛い。クロノスの写真集とかバカ売れしそう。
──って痛い痛い!やめてクロノス、肩を踏むのは良いけど髪を引っ張らないで!
「クロノスっ!?」
『ピィ!ピュイイ!──ガァァァ!!!』
ってブレスまで!?クロノスがご乱心だ!
と思ったら魔物が来ていたみたい。
クロノスの放った炎がその鳥の魔物を焼く。鳥といっても怪鳥の部類に入りそう、羽を広げるとおおよそ1メートルになるその鳥は私たちを啄もうと嘴を向けてクロノスに焼かれた。
その緑の体毛が一部焦げて黒ずんだ。……森の緑が保護色になって見にくいな。私が槍を構えたところで距離を開けられてしまう。
ステータスだってまだ確認してないのに!
『ギュァァ!!』
怪鳥が雄叫びを上げながら突進してくる。その嘴の先に、刺突を使ったときのような赤い螺旋エフェクトがついているので大げさに回避して避ける。あれだけ堂々と突進してくるならギリギリで避ければ反撃できそうだったけれど、スキルがあるとわかっていたらリスクを高める必要はないよね。
『ピィ!ピュイイ!』
クロノスが私の持つ槍を止まり木にするかのように器用に立つ。それで大体の意図は察した。
掬い上げるように。例えるならラクロスで玉を飛ばすようにしてクロノスを怪鳥へと振るう。
クロノスの爪が怪鳥の首を切り裂く。
私と目があってから、ゴボォと血を吐いた怪鳥に攻撃を仕掛ける。無慈悲に思うかもしれないけれど、痛みを感じるまま放置の方がきつそうだ、早く倒してあげないと。
『ゴギュァ……!』
現れたのは魔法陣、そこから出てきた不可視の刃に斬られる。咄嗟に顔を庇ったから良かったけれど、両腕がジンジンと痺れる。
クロノスが怪鳥の片足を殴り飛ばす。流石にそれは耐えられなかったようで怪鳥が転倒する。
転倒したからといって魔法が途切れるわけではないけれど、敵が立ち上がるための時間を必要としたことはラッキーだと思う。もはや台風レベルの暴風の中、飛ばされてきたクロノスを抱き止める。
『……ピュイ』
ごめんなさい、かな?軽く撫でることで返答する。
『ピィ、ピュピュイ』
硬い、厄介……かな?翻訳というよりも意訳に近い気がするけれど、そっか、クロノスからしても堅いんだ。
やっぱり狙いはさっきクロノスが切り裂いた喉元の傷かな?
私は槍を投げつける。スキルを使わなくても傷に刺されば良いし、そうじゃなくてもクロノスがダメージ与えられないなら私でも無理だろうし。
おお!狙い通り首の傷に刺さった!
『ゴ、ギュァア……』
そんな悲鳴を最後に、怪鳥は息の根を止めた。意外すぎることに止めは私の一撃だった。
うーん、これ完全に寄生だよね。クロノスが削って止めだけ私が貰うって。あんまり良いとは言えないかなぁ。ステータス的に仕方がない気もするけれどね。
『てーてれてってってってーっ』
聞こえてきたクロノスのファンファーレに少しだけ嫉妬しながらお金を拾う。
「ステータス」
────────────
名前:白鳥 恵子
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
職業:旅人
レベル:9/99
経験値:2240/6287
体力:123/174(185/261)
魔力:48/96(72/144)
攻撃力:60(90)
防御力:117(185)
敏捷:65(98)
精神力:73(110)
幸運:35(53)
所持金:3,619ロト
・装備
右腕:スピアー(攻20)
左腕:
身体:ローブ(防10)
胸当て(防20)
・アイテム
手斧(攻15)
短弓(攻20)
・スキル
槍術3 体術1 投擲1
回避4
魔物語2
隠密1 威圧1 直感1 看破1
・武技
刺突2
首折1
・固有スキル
滅槍グングニル3
流浪▽
歪な器▽
・従魔
クロノス(ベビーファイアドラゴン)
・称号
頑丈▽
────────────
また小さな変化がたくさんある。順番に上から見ていくね。
レベルの下、経験値が表示されるようになったんだね。でも普段は消してる──消えてる?──けれど視界の上にもきちんと残り経験値は表示されるし残り時間も視界の左下に表示されている。
まあ、ちょこっと便利になったと思えば良いかな。
能力値は流浪があってやっと100前後になった。このままレベルアップしたら素の値でもヨコシマさんを越えたり出来るのだろうか……。
というか!他の魔物のステータスがクロノス位しか分からないせいで強いのかいまだにわかんない!
お金に関しては良いかな?1万ロトが大金貨だろうからそこまでいったら確認しよう。
アイテムや装備も変更なし……ってそうだ、あのリザードマンの塊拾ってない!
移動してないしここら辺に落ちてるはずなんだけど、くまなく探しても無い。塊にならなかった?いや、多分……。
「クロノス?」
『……ピュイ』
クロノスが目を伏せて謝ってくる。
うん、また食べちゃったんだね。反省してる、やらないとは言ってない。って感じだし、私ももう諦めようかな。使い道無いし、クロノスが強い原因かもしれないしね?
特にリザードマンなんてクロノスと同じ爬虫類だし、きっと強くなる元なんだよね。うんうん。
スキルは軽く整理されてるみたいだけど、そこまで見やすくなったわけでもないからなぁ。
あ、新しく『看破』のスキルが増えてる。それとグングニルがレベル3になってることくらいかな?
『歪な器』が称号から固有スキルに移動してるけれど……うん、まだ説明文は黒いままだね。くらいかな。
『ピィーピッピ』
────────────
種族:ベビーファイアドラゴン
名前:クロノス
レベル:2/5(成長限界で進化)
経験値:652/1500
体力:189/189(207/207)
魔力:144/144(154/154)
攻撃力:115(121)
防御力:186(198)
敏捷:207(214)
精神力:214(222)
幸運:1(5)
・スキル
爪術2
回避3
体力自動回復2 魔力自動回復1
剛胆1
・武技
下級魔術(火・風・光)1
裂壊1
変身魔法1
・固有スキル
ドラゴンブレス3
・称号
従魔▽
虐げられし子▽
繰り返す者6
────────────
ん……?
クロノス、ステータス下がってる?あぁ、レベルリセットの影響かな?赤ちゃんドラゴンって2レベルでも強いんだなぁ、最初あったときクロノスと戦わなくて本当に良かった。
『ピィ』
クロノスが心なしかドヤ顔をしてる気がする。頭を撫でてあげると嬉しそうに鳴いた。可愛い。
『ピィ~』
「……そう、だね。進もっか」
木々の隙間を縫って道なき道を進む。
獣道すらないこの空間は、目を凝らすと敵意あるなしに関わらず生き物が顔を出し、耳を澄ますと確かに生き物が生きてる音がする。
……こういう雰囲気、とても良いと思う。そんな私、旅人。
レベル上げが終わったら。この短い、一時しのぎしかできない寿命から解放されたら、この世界を見て回ろう。クロノスと、出来れば隆昭くんと。その時には仲間が増えていたりするのかな。
『ピィ……ガァ、ガアァ……!』
クロノスが鳴く。どこか殺気だった声に、嫌でも警戒心を持つ。
右、かな?
現れたのはタンポポの綿毛、それと緑の体皮をした赤ちゃんドラゴン。クロノスの赤い体皮と見比べると目が痛くなっちゃう。
「クロノス、ブレス!」
『ピィ!──ガァァァ!!』
『ガァ!』
クロノスの吐いた炎は、赤ちゃんドラゴンの使った魔法……多分風の魔法で受け流され、周りの木を炙る程度しかダメージを与えられなかった。
『ガァ……ガガァ?』
なぁ、逆らうなんて分かってるんだろうな?
みたいないじめっこの顔をしている赤ちゃんドラゴンのせいでクロノスが怯えちゃってる。クロノスって元々この層に住んでて苛められてたんだと思う。
そういえばさっきのステータス確認の時にその話をするはずだったのに!ついでに私の話もさらっとするつもりだったのに!忘れてた!
槍を構える。敵の確認だけはしっかりしておきたい。
まず綿毛、タンポポの綿毛部分の球体がそのままふわふわと浮いてる感じだね。目とかあるわけじゃないからどうやって敵を察知してるのかとかわからないけどきっと魔法でなんやかんやしてるんだね。魔法すごい。
その球体に乗ってるのがクロノスと同じ見た目の赤ちゃんドラゴンくん。同じ見た目って言ってもさっき言ったみたいに鱗の色が緑色をしていて、風の魔法を使う辺りきっと属性ごとに鱗の色があるんだろうね。
クロノスが持ってる魔法は火、風、光の3種類……ってあれ?クロノスが魔法使ってるところ見たことないや。
ええと、話がそれた。多分魔法は6種類か7種類だと思う。
火と水、風と土、光と闇。そして無属性かな。
冒険者ギルドに言ったらまずはこの世界の常識を聞こう……!
意識を目の前に戻す。
敵は2体、さてどちらから倒そう?
クロノスが戦えるならまだ良かったけれど、今じゃ戦えるか分からないほどに震えてしまってるからなぁ。
赤ちゃんドラゴンを敵にしたくはない、んだけどなぁ。
「刺突ッ!」
綿毛の上に座ったまま、いまだにクロノスを見下すいじめっこへとスキル付の攻撃を叩き込む。大半の威力はその鱗で削がれるけれど、確かに穂先が鱗を突き破り青い血を吹き出させる。
それに怒ったのか爪を振るってくるけれど、クロノスに比べたら相当遅い動きを余裕を持ってかわす。次に綿毛の攻撃を……してこない?
綿毛はただそこをふわふわと浮いているだけで、動こうとしない。もしかして、敵じゃない?
いつまでも来ない攻撃を警戒していたら赤ちゃんドラゴンが飛びかかってきたので刺突で弾き飛ばす。ぽてっと不時着した赤ちゃんドラゴンはすでに満身創痍だった。
「クロノス、とどめをお願い!」
『ピ、ピィ!?』
「お願いクロノス、自分の手で倒して!」
クロノスは私を見た後に血だらけの赤ちゃんドラゴンを見た。……その後また私を見た。
『ガァ……』
クロノスが爪を振り上げ、首をはねようとするけれど、睨まれるとどうしても出来ないみたい。
『ガアアアア!』
今まで倒れていて動けないはずの赤ちゃんドラゴンが急に立ち上がり、爪を振るう。咄嗟に足を出してクロノスを庇う。
……ねえ、痛くないんだけど。
爪を弾く乙女の生足って何。
怒りを込めて刺突。
まだ息はあるみたいだけど、これでもう動けないでしょ。刺突3回も必要になるとは思わなかったなぁ。魔力温存したいんだけど、出来るかなぁ。
クロノスを抱き抱える。まるで謝るかのように小さく鳴いて頭を頬に擦り付けてくるので撫でて返す。
「ねえ、クロノス、この子を楽にしてあげて?」
『……ピィ』
「お願い、クロノスの過去も大体察しがついてるけど、それでも」
『ガァァァ!』
クロノスのブレスが赤ちゃんドラゴンと綿毛を包む。もう魔法で受け流すってことも出来ないでしょ……!?
チリッ
小さな、それでも確かに嫌な音が聞こえた。
目眩、それと無音。
どうやら地面にうつ伏せになっているみたい。
起き上がろうとして、腕に力が入らない。
見てみると、リザードマンにへし折られ直ったはずの左腕が再び変な方向を向いて折れていた。
ああ、なんか視界が変だと思ったら血が目に入ってたみたい。左目が開きづらいし赤く染まってたのはそういうことなのね。
「……クロ、ノス?」
『ピィ!ピィィ!』
伸ばした右腕に棒状の感覚と、クロノスの翼の感覚。
……槍は手離さなかった、みたい。それにしてもクロノスは流石だなぁ、あの大爆発でも、無傷かぁ。
そう、何があったのかというと綿毛が爆発しただけ。
たったそれだけで私の体力は55、流浪ありで85まで落ちた。ざっと100ダメージくらった。
正直、もうこのまま寝たい。
『残り時間8時間33分37秒』
5時間くらい寝たいけど、ここダンジョンなんだよね。クロノスが見張りをするにしても寝れて2時間かな。
ばしゃあ。
と、何か液体をかけられる。その瞬間に痛みが若干和らぎ、傷がじゅくじゅくと再生し始めた。
その次にばちゃっと、先程よりは少ない量の液体をかけられる。
どうやら、あの爆発の後に宝箱を見つけてそこにあった回復薬をかけてくれたみたい。
大分、楽になった。特に左のおでこの辺りの出血が止まったのが良かった。
「ありがと、クロノス……」
『ピィ、ピィィ』
「ん、少し、寝るね……?」
クロノスの返事を聞くこともなく、私の意識は闇に飲まれた。




