旅人 白鳥 恵子 Lv.8 ②
『武運を』
骸骨さんにそう言われて言われた道を進む……少し歩いたところでステータスを開き体力や魔力を確認していたら戦闘音が聞こえてきた。どうやら本当に近くに冒険者がいたみたい。
……あの骸骨さんは勝てるのかな。出来るなら、今度は楽しい話をしたいな。
一本道を進んでいく、30秒もかからないくらいの道の先には、先程よりは若干小さい空間があった。さっきの部屋を中部屋とするならここは小部屋なのかな?
『ピィ!』
「ん?……あ、階段」
クロノスが見つけたのは壁に開いた穴、その先にある地下へと進む階段だった。ほんとうにさっきの部屋はボス、もしくは階層守護者?の部屋だったみたい。倒さずに来ちゃったけど、納得してもらえてたしいいよね?
風切り音。
クロノスを胸に抱いていたのに、肩口を狙われて慌てたせいかクロノスを落としてしまった。クロノスは翼をパタパタとさせてもがきながらなんとか着地を成功させた。
よかった。
……攻撃してきた魔物を見る。それはいつぞや見たことのあるミノムシだった。天井近くにぶら下がっていたせいで気づかなかったみたい。それに先制攻撃を許してしまった、ダメージ無いけど。
もう不意討ちを食らわせたからだろうか、ゆっくりと糸を伸ばして降りてくる。私と目線が合う高さに期待がミノムシに対して、槍の穂先を向ける。
「クロノス、私一人で戦ってもいい?」
『ピィ!?』
「駄目そうだったら助けてね?」
『……ピィ!』
それはクロノスに頼りすぎないために。
攻撃力が弱いからといって、役割分担だからといって。クロノスにもたれ掛かる形でレベルアップを繰り返していたら、きっと私は弱いままだ。夢で見たような、3人が対等で、大切な家族になりたいのなら、私は頼りすぎないべきだ。
ミノムシが葉っぱの擦るような音を立てたかと思うと、魔方陣が現れる。私はその身を突き刺すためにも走り出している。
──ヒュガッ!
不可視の攻撃……多分、風の魔術だと思うそれが私の顔面へと直撃する。咄嗟に眼球を守るために目を瞑った。頬に一筋の血が流れているのを感じる。けれど、どこから出血したのかまでは分からない。そんなことよりも敵を殺すこと。
まるで避けることなど微塵も考えていないかのようなその魔物の目に当たるだろう部分に槍を突き刺す。
『──ィィィィィィッッッッ!!!』
断末魔。
その声を聞きながら、やっぱり即死させられないのだと落胆すると同時に、これが私の実力なのだと納得する。
クロノスならばブレス1つで簡単に消し飛ばせるような相手。
私は槍を引き抜くのではなく手離し横っ飛びをする。武器を引き戻す行為をするよりも次の武器で攻撃する、それが手早く終わらせる手段であり、回避行動でもあった。
側面に回り込んだ私はミノムシをお姫様だっこのようにして横向きに持つ。何をするかと言うと膝で蹴りあげて折るんだよ。
これも『首折』の範疇らしい。
ミノムシの首なんてどこか分からないけど確かに固いものを折った感覚が膝に響く。ああ、気持ち悪い。
『ピィ!?ピィィ!』
クロノスがバタバタと駆け寄ってくる。どうやら私が怪我をしたことが不安らしい。大丈夫だよ、という意味をこめて撫でておく。可愛い。
どうやら、右目のちょっと下、頬を怪我したみたい。血を拭うと……もう止まってるみたい。回復薬があればいいよね、とりあえずは放置だね。
「クロノス、先行こっか」
『ピィ?』
「うん、大丈夫だよ」
『ピュイ~』
階段を降りる。
降りた先は──森だった。
今私たちが降りてきた階段があるのは大きな樹の幹らしく、階段が終わり小部屋にでも出たかと思うと急に森だった。
空を見上げようにも、木々や生い茂る葉によってとてもその先まで視線が通らない。これって高く飛んだり、地面を掘ったりしたらどうなるんだろう?
『ガァァッ!ガァッガァァァ!!』
「わっ!?クロノス、どうしたの?」
『……ピュィ』
急に暴れだしたクロノスを撫でると、諦めたかのように静かになった。むぅ、こういうときのための魔物語じゃないの?
何かの走ってくる音。大方、クロノスの叫び声で寄ってきた魔物だろうけれど。
『──ピッ』
クロノスを足元に降ろしたら、バランスを崩したのか、はたまた立つ気力も無いのか倒れた。
でも、クロノスを抱き上げる余裕はもうない。クロノスへと飛来する花弁を足で全て受け止める……というより蹴り返す?足が濡れたけどダメージはやっぱりない。
花弁だと思ったけれどどうやら水魔法で出来た小さな針?みたい。防御力を上回るほどじゃないけれど……飛び道具は厄介かな。
近くの木からは蛇が落ちてくる、それは私の肩狙いらしいけれど、槍を手元で回し太刀打ちで叩き落とす。
「クロノス大丈夫?」
『……ピィ』
元気のないクロノスがピィピィ、ピュイピュイと鳴き続ける。その独り言にスキルが発動する。
『やめて……ごめんなさいごめんなさい……叩かないで。強くなるから、誰よりも強くなるから……ッ』
それは、弱い自分を嘆く言葉だった。
何があったのか分からないけど、称号の『虐げられし子』が答えなんだろう。
とりあえず考えるのは後にしよう。クロノスを守りながら、コブラみたいな蛇とシスルみたいな形をしているけれど青い花を倒すんだ──。
私はクロノスへの射線を遮りながら走る。飛び道具も怖いけれど、あの蛇の方が怖いかなぁ。日本でも蛇が毒を持っていて噛まれた人が苦しんで死んじゃうこととかあるしね。
「──ッ。刺突!」
槍を突き出すがそれはフェイント、完全に突き出す前に避けるのが見えたので強引に引き戻して……さらに強引にスキルで突き出す。
スキルを使うと多少強引でも攻撃できるみたい。……でも、下手すると手首とか痛めそうな感じかな。今のも少し痛む。
『ッシャァァァ!!!』
すぐさまバックステップ。私に噛みつこうとしてくる蛇の首元を太刀打ちで掬い上げる。その浮かび上がった蛇の身体へ突き刺さるのは青い花が撃ってくる水の弾丸だ。
青い花が放ったその水は蛇の身体を容易く貫通し、私へと迫るけれど首を傾けることで避ける。
耳元をシュンッて通り抜ける音が中々に怖い!
けれどアドレナリン?が出てるのか恐怖で動けないと言うよりは身体のエンジンがさらに昂った。
「ぁっ!?」
地面に着地と同時に踏み込もうとして、足元の水溜まりで滑る。転倒とまでは行かないけれど足に込めたエネルギーが盛大に空回りする。なんとか片膝をつけて静止。
『シャァァァ!!!!』
蛇が血だらけなのに噛みつこうと牙を見せるので、槍を噛ませる。しかし噛みつくだけでは止まらずに、その尾が私の腕を叩く。痛みは無いけれど叩かれた衝撃で槍を落としてしまいそう──って左腕に身体を巻き付けてきた!?
ビシャビシャと胸当てに水の弾丸が飛んでくるけれど、正直蛇の尾よりも痛くないので放置。クロノスに飛んでいかないだけマシかな。
蛇に巻きつかれていない右腕は槍を手離す。そして蛇の胴体……頭の方を持つ。噛まれないようにしないとね?
「首折ッ!」
イメージは雑巾絞り。
胴体と頭を反対方向へ捻りながら引っ張り、ある程度伸ばせたところで膝で蹴り上げる。ゴムチューブみたいな感じかな?
骨を折ることは出来なかったみたい。でも蛇は左腕の拘束も投げ出して私の手から離れた。
また水の弾丸が来たので今度はサイドステップ。弾がクロノスへと行かなそうだし受け止めなくてもいいと思う。
次いで解放されたばかりの左腕をポケットに突っ込み手斧を取り出す。そして青い花へと投擲。
……当たりはしたけど持ち手の部分だったらしい。切り裂いたり刺さったりすることを願ってたけどそうもいかず、地面に落ちた手斧が金属音を立てた。
槍を払うようにして殴りかかるけれど、蛇は上体を反らしたことでギリギリ当たらない。……あれ、威嚇のポーズだっけ?
そのまま飛びかかってきた蛇が私の脛へと牙を立てるが……やっぱり乙女の柔肌に弾かれていた。なんとか振り払う。
「刺突」
足で踏んづける。首?の辺りを踏まれた蛇がうねうねしてるので大人しくさせるためにも刺突を使って突き刺す。
青い花の放つ水を避けない。今避けたらこの蛇を解放することになる。……というか今気づいたけどこの靴──スニーカーなんだけど──私の持ってたものじゃない。それに装備やアイテムとしてカウントされてない。
そんなことを思いながら蛇をグサッグサッと刺して殺す。1回刺すと元気がなくなり、もう一回刺すと死んだみたい。
数枚の銀貨と銅貨へと変わったので放置して青い花を殺しにいく。
地面から生える蔓が手斧を持ってるけれどただ降り下ろすだけの軌道を避ける。
本体を攻撃しようとすると邪魔な蔓を蹴ってどける。そのまま隙間から狙って刺突ッ!
茎の半分を吹き飛ばすけれど、その傷口は水に覆われてじわじわと回復し始める。こいつも回復スキル持ちか……めんどくさいなぁ。こんなときクロノスがいればーって考えちゃうから更にダメ。頼らないようにしないとね。
水で出来た花弁って綺麗だなーと思いつつ、胸当てで受け止める。少しの衝撃と胸当てが濡れるけれどそれだけ。衝撃だってあの骸骨さんの数倍は軽い。
あ、でもこの胸当てや槍も手入れしないといけないよね。槍は使い始めて1日目だから大丈夫だと思うけれど、胸当ては遺品だし?錆びちゃったらあの名前も知らない女性に悪いもんね。
「刺突」
先程傷つけた所をもう一度攻撃する。他と比べて半分も繋がってない茎を突くと千切れて周りに生えていた蔓が動きをやめて萎れた。あ、手斧返してね。
「──ひゃんっ!?」
お尻がびちゃっと濡れる感覚に変な声が出た。
後ろを見ると殺したと思っていた青い花の花の方がぴくぴくしながら私に水の花弁を飛ばしてくるところだった。
……精神攻撃とは、やるね。
ダメージ入らなかったとしても、お尻の部分のローブだけ色が違うとお漏らししたみたいで情けないもんね?
槍をポケットへと仕舞う。そして両手で抱えるようにして青い花を持ち上げる。手が濡れることも攻撃されることも構わないでその花の中心、将来実になる──のかなぁ?──部分をむしりとる。
ぶちぶちっと音をさせながら黄色っぽいそこを千切り続けていると、途中で花弁を形作っていた水が重力に引かれて落ちた。
……どうやら死んだらしい。
地面に出来た水溜まりで手を洗い流して、落ちてるお金を拾う。
小銀貨2枚、大銅貨13枚、小銅貨15枚……345ロト?
結構多い、のかな?とりあえずポケットへ入れておく。
『……ピィ』
「ただいま、クロノス。今回は怪我しなかったよ?」
『ピュイ』
「うん、次行こっか」
空も見えず、光も届かないのに、不思議と暗くはない森のなかを進む。クロノスがまったく喋ることはなく、ただただ不安げに周りを見回すだけ。
──ガサガサッ。
草むらが揺れると私よりも先にクロノスがそちらを向く、そしてすごく怯える。私もそっちを確認するとそこには2体のムカデがいた。やっぱり大きさは50センチくらいあって……目を逸らしたい気持ちになる。って、後ろからも音がした。
見てみると洞窟で一度倒したカメレオンだった。
3対2……?いや、クロノスが戦えないとすると最悪3対1の可能性もあるね。
いつかはこういう複数人を一人で相手にすることは予想してはいたけれど、もっと強くなってからだろうと考えてたんだけどな。
このダンジョンを出たらゴブリン相手に複数人を同時に攻撃できるスキルを作って──探って?──みようかな。
『ピィ……ピュイッ』
クロノスが私の腕の中から飛び出した。その口には火が漏れていて、翻訳スキルを使うまでもなく戦う意志が見てとれた。
『ガァァァ!』
そのいつもより猛々しく荒れ狂う業火はムカデ2匹へと向かい周りの木ごと呑み込んだ。
が、その炎を突破してきたムカデがいる。身体中に火傷を負いつつもクロノスへその爪?脚?を突き立てる。そのムカデの前足?がクロノスの鱗とぶつかり火花を散らしながら弾かれ合い、2人──2匹?──に若干の距離が開く。
それを隙と見たのか身体の一部が炭化してしまっているムカデ1の方がクロノスへと攻撃をしかけ、それに続いてムカデ2も飛びかかる。
クロノスは最初に来たムカデ1を受け流し、その身体を盾にしてムカデ2の攻撃までも防いだ。
うん、私も負けてられないね。
カメレオンに向かって槍を突き出す、刺突もつけておこうかな。オーバーキルだったとしても、クロノスへの援護に早く迎えるならそれがいい。
──バゴッ。
とおおよそ槍が生き物に当たった音ではない音をたてて穂先がカメレオンの左足を吹き飛ばす。その千切れて吹き飛んだ腕は空中で光の粒へと変わって消えた。
そしてその腕を見たあとにカメレオンへと視線を戻すと……消えていた。血溜まりがてんてんと続いてはいるから死んだ訳じゃなくて変色か隠密のどちらかで姿を消したんだろうけれど……失敗した。
──ヒュン。パシュン。
と風切り音。カメレオンの舌かな?不可視の鞭を避ける、2発目
も避ける。骸骨さんは音もなかったから、それに比べちゃうと楽だね。
……どんどん人間をやめていってる気がするけれど、肌から金属音した時点で今更かな。
ん、クロノスが1体倒したみたい。
ファンファーレが聞こえてくる。後ろへと飛び退いたクロノスが私の足元へと着地する。羽をぱたぱたさせて飛距離を稼いでるのが可愛い。
私もカメレオンに止めを刺す。刺突で貫かれたカメレオンが変色したまま死んで、光の粒へと変わる。血の色まで変えれるのはすごいと思うけど、血が地面に滴るのをどうにかしないと普通に位置分かっちゃうよ?
「クロノス、大丈夫?」
『ピィ。ピ──ガァ!』
クロノスがブレスを吐き、生き残ってる方のムカデを炙る。私も槍を構えて走り、ムカデへと刺突を放つ。
穂先が軽く滑るけれど節目を狙って無理矢理に突き入れると、そこから殻といっても違和感がないほどに堅い体皮に亀裂が入り、頭が千切れ飛ぶ。
……まだ、触覚がうねうねと動いていた。
やっぱり、ステータスがあると、頭だけでも生きてられるんだね。
魔法を放とうとして来たのでその頭を踏んで殺す。足をあげるとお金だけになっていた。
……なんとか3対2でも勝てた。
労いの意味を込めてクロノスを撫でる。でもクロノスは私が撫でてることなんかどうでも良いかのように森の奥を睨み付けている。
この先で、クロノスは何をどうするつもりなのかな。
それを私は、受け入れられるのかな。
更新頻度落ちるかもしれません…
出来るだけ落とさないように頑張りたいと思います




