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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2⑥

前回のあらすじ

ナズナを虐めすぎたら泣かれて、気まずくなったよ!

 侵入者アラートが鳴った。

 互いに空元気で笑いあったご飯も終わり、弾まない会話をしていた頃だった。

 慌ててコアルームに移動し、いつものようにぬりかべへの上にウィンドウを表示して、準備する。


 入り口付近のウィンドウを注視する。

 そこには斥候に放っていたゴブリンたちが、負傷して命からがら逃げ出してきたようだった。

 ……つまり、侵入者ってのは斥候隊を壊滅させたあげくに追撃してきた相手ってことか。新ボスのコメやパラサイト・パーティって未知の眷族を抱えた今相手にしたくはねぇなぁ……


「ってそうだ、ナズナに聞きたいことがあったんだ」

「っ う、うん、なにかなっ」


 いまだに、というかやっとというか。

 警戒心が見え隠れするナズナのそれを、意図的に無視して話を続ける。


「パラサイト・パーティって名前の魔物を知ってるか? こいつなんだが」


 別ウィンドウで二階層の一室に置いたままの魔物を表示して、ナズナへと見せる。

 ナズナは歪な箱状のそいつを見たあとに、少し顔色を悪くした。


「しら、ない…… けど、なんかすごく嫌な予感がする」

「ああ、俺も嫌な予感しかしない。名前の意味はわかるか?」

「え、えぇと…… うたげ?」


 本気でわかっていないような顔だ。

 ナズナが日本人説は外れか? 年齢的にも義務教育は終えているだろうし、この程度の英語なら意訳できそうなものだが……

 前世はある、しかし地球育ちではない? いや、でもそしたらパーティ=宴って判断はどこからきたんだ?


「日向君、侵入者見えたよっ!」

「お、すまん。ありがとう」


 考え事をしていたら敵を見落としてしまったが、ナズナの声で現実に戻ってこれた。

 ……考えるのは後にしよう。


「敵は、女2人か……」

「──えっ」


 ナズナの少し驚いた表情。


 侵入者は2人の女性。片方は騎士、もう片方は僧侶だろうか?

 騎士は盾と剣を構え、鉄の鎧を着込んでいる。両刃の剣を振るい、安全で確実に、ゴブリンを切り殺す。

 剣術はそこそこに上手い。盾術は剣術ほどじゃないが、上手い。

 攻守のバランスがとれた、単騎でも力を発揮できる騎士の中の騎士といった感じだが……ここはダンジョンだ。必要とされるスキルは騎士が持ち合わせていない可能性が高い。まあ、うちに罠とかそんなにないけどさ。


 もう一人の僧侶は……色々と目立つ女だ。

 まずは何よりも美人だ。見惚れて、魅了されてしまいそうなほどの美貌。各パーツが整っているだけではなく、配置される位置も整っているだけでこうも目を惹かれるものなのか。今までできる限り顔とかを見ないようにして罪悪感を少なくしようとしてきたのに……やるな敵めぇ……!

 それから場違い感。武器を持たず、まるでローブ一枚を纏った村娘みたいななりで、散歩しているかのように歩いている。

 そんな油断しまくりの姿を見て、格好の獲物と思ったらしいゴブリンがこん棒を振りかぶり襲いかかる──が、突如として破裂した。


 僧侶が蹴り殺したのだと理解するのには、少し時間が必要だった。


「なんで、聖女様が……?」

「……せい、じょ?」


 ナズナがウィンドウを食い入るように見ている。画面を覗くと、やっぱり僧侶の方を見ているようだった。

 この世界の聖女様も相手を蹴り殺すのか……いつから聖女様は脳筋って文化ができ始めたんだ。


『マリア様、汚れてしまいます。この剣をお使いください』

『ルージェ、私の体は主に捧げ、この両手は神に祈りを捧げるためにあるのです。ですから私は武器を持つことはしないといつも言っているでしょう?』

 ──パァン──

『……ゴブリンを蹴るのはいいのですか?』

『私は……その、ただ足を前に出して歩いただけなのですが……』

『……控えてください』

『ぷぅ』


 脳筋だ。あとゴブリンの頭部を破裂させる威力で足を前に出しておいて、笑顔なあたりにサイコ系のやばさを感じるんだが。


「ナズナ、騎士の方はわかるか?」

「えっと、たぶん聖女様の近衛隊長だと思うよっ いつも一緒にいるって話を聞いたことがあって」

「強いのか?」

「うん、強いよ。聖女様ほどじゃないけど」

「……」


 ……それ、守る必要ある?


 今回はペコちゃんが使えない。あれは男性特攻なのであって、女性にはどんな至近距離でも当たらないというデメリットがあるから、FFフレンドリーファイアして終わるだけだろう。

 そして新1階層の血統種たちだが……まだ数が増えていない。今減らされるのはけっこうな痛手だ。


「1階層の血統種たちは戦闘を控えろ、ボス部屋まで素通りさせてもいい。コメたちは戦闘準備だ」

「日向君、聖女様は見つけ次第襲ってるみたいっ!」

「……斥候隊の生き残りを使って、ボス部屋に誘導してみよう」


 1階層を探索されて、殲滅されるのは避けたい。それから牢屋にいるダニィたちを連れてかれるのもDP的にやめてもらいたい。

 それなら召喚陣から生まれたゴブリンで脳筋たちを誘導して、コメの戦力実験をしてみよう。


 斥候隊のゴブリンたちに『命令』すると、彼らはボス部屋まで一直線に逃げ出した。

 ダンジョンまで追撃してくるような奴らだ、逃がさないために追いかけるだろうという予想は、少しズレた形で当たる。


『ギャアアッ!?』

『ここは障害物が多くて走りづらいですねぇ……あぁ、主よ……』

『グギャアッ!』

『マリア様、控えてください』

『私は走っているだけです!』

『控えてくださいっ!』


 視界に入ったゴブリンを全て殺しながら追いかけるという、常人場馴れしたスピードでダンジョンが攻略されていく。

 斥候隊の召喚したゴブリンが蹴り殺され、視界に入ったらしい血統ゴブリンが蹴り殺される。

 2階層にいるゴブリンを転移で誘導組に加えて、ボス部屋に着く前に全滅ということは避けているが……DPがちまちま減っていくし、ゴブリンがごっそり減っていくんだが。


「聖女様って、もっとおしとやかなイメージだったよ……」

「そもそもなんで聖女なんて呼ばれてるんだ? 回復魔法を極めてるとか?」

「うんう、違うよ。聖女様っていうのは主に選ばれた人のこと。男でも女でも、老人でも子供でも関係なく、聖女様が死んだら新たな聖女様が生まれるの」


 聖‘女’と言っているのにお爺ちゃんがなる可能性もあるのか。

 選ばれ方も神に勝手に選ばれるなんて、すげえ理不尽じゃん。


「襲名制ってことか?」

「そうだねっ。それでね、主に選ばれた人は背中に光の紋様って呼ばれるものが浮かび上がってきて、強大な力を手に入れるんだよ。……聖女様になると、元々の人格は消えちゃうけど」


 ナズナは、悲しそうな顔でウィンドウ上の聖女を眺める。

 聖女に選ばれると、元々の人格は消える。つまり、聖女としての人格のようなものが肉体を選び、光の紋様として憑依する?

 ……あれ、それ魔物じゃね?


「ナズナ、2つ質問だ」

「うん、なんでも聞いてねっ」


 またゴブリンをが蹴り殺された。これで15体目だ。

 しかし聖女をボス部屋に誘導することに成功したらしい。ボス部屋の扉に触れたゴブリンたちを転移で2階層へ移動させ、あたかもボス部屋の中に消えたかのように見せかける。

 ふむ、侵入されたエリアでは転移ができないが、侵入される前なら敵の目の前でも転移できるのか……? 要検証だな。


「神に選ばれる人の共通点とかってあるのか?」

「えっとね、まず間違えているところがあるよ。選ぶのは神じゃなくて主って呼ばれる存在。この世界を作ったって言われてる人だね」

「……まてまてまて。この世界を作ったのは神だろ?」

「うんう、神っていうのは魔物だよ。進化して、強くなりすぎて、自然災害を越えたレベルの魔物のこと」


 ……どういうことだ。こんがらがる。

 神は魔物? 世界を作ったのは主?

 いや、そうか。神を魔物として捉える……というよりは敵モブとして出現させるゲームは多々ある、神を喰らうゲームとか。

 つまり主と呼ばれるのがゲームの製作者ということだとすると……この世界で‘主’と呼ばれる存在が地球にとっての『神』であり、この世界で‘神’と呼ばれる存在が地球にとっての『裏ボス』ということか。


 な、な、な、なるほど……?

 なんでこの世界では言葉は齟齬なく通じるのに認識、というか定義に違いが出てるんだよ……


「もうひとつは?」

「聖女ってのは、代々同じ性格なのか?」

「えっと……前の代の聖女様を知らないからなんとも言えないけれど……主のために祈り続けるって聞いてるよ?」


 俺の中で魔物説が浮上してる聖女がボス部屋の扉を開いた。

 質問するのは終わりにして、そろそろダンジョン防衛に戻らないといけないな。


 そこそこに広い部屋は、ルージェと呼ばれた騎士が持つカンテラの光が薄ぼんやりと照らしている。

 そこには何もいないように見える。しかし、彼らはゆっくりと降下してくる。

 その影はひとつ、ふたつといったものではない。続々と降りてくる影はおよそ百。

 白い体皮。楕円のような歪な体格。手も足もなく、綿毛のようにふわふわと浮かぶその姿は、まさにコメだった。


 なんちゃって。


『撤退です、ルージェ!』

『えっ』

「えっ」


 ノリノリで描写していた俺は、即決にも近い聖女の判断に、調子を外された。が、それは騎士も同じようだった。


『な、なぜですかマリア様ッ!?』


 聖女はコメたちに背中を向け、必死に扉へと走っていく。

 騎士はコメたちを気にしつつ、置いていかれないようにと走りだす──って聖女足はえぇ……


『だって……だって……ッ!』


 聖女の顔を覗き見る。

 ウィンドウに表示された聖女の顔は、悲しく涙を流しそうにも、逃げることが悔しく再びここを訪れる決心をしているようにも見えた。


 そして、彼女は内心を吐露した。




『だって浮いてたら蹴れないじゃないですか──ッ!』

『酷く最低な世界の最低なお話』


パンデミック物です、興味があればどうぞ。

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