ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2⑤
文学フリマ用の短編書いてたら遅れました(言い訳)
蠱毒は完成した。
少なくとも、神霊はここに誕生した。
それはいい。戦力が増えたってのは喜ばしいことだから。
でも問題はその神霊が寄生虫の詰まった箱で、攻撃力皆無で、動くこともできなくて、幸運がマイナスに振りきれてて……
自壊したらきっと寄生虫が溢れるんだろ? それなんて化学兵器。いや、生物兵器か。バイオハザードが思い出されるな……うちのダンジョンでやらないでほしい。
街中に放り込んで自壊させるとか、そういうのなら使えるんだよ。未攻略のダンジョンの中に入れて自壊させ、入り口を塞ぐとかなら最高峰の兵器だよ。
だけどさ、ダンジョン防衛においては、確実に持て余す……むしろ自滅する兵器だろ、これ。
眷族が、眷族に寄生する……うっ、さっきの蠱毒が思い出されるな……。
「……どうしよう」
いや、そもそも名前が物騒なだけでミミックみたいな感じの普通の魔物なのかもしれない。
うん、たぶんそうだ。本能が『絶対違う』と叫んでる気がするが……きっとそうだ。ナズナに聞いてみれば同じ意見かもしれない。
ナズナの走っていったコアルームへと目を向ける。
扉がはめられていない通路の先には、ダンジョンコアが見えるものの、ナズナは見えない。
ボス部屋へ繋がる先には扉があり、そこが開けられた音はしなかったのでコアルームのどこかに隠れているんだろう。
ナズナに相談してみよう。
そう考えるのは簡単でも、実行に移すのは難しい。
ナズナのトラウマを抉っておいて、向こうから話しかけられたら俺がテンパって。
スキルを使ったらナズナに意地悪ばかりして、仕舞いにゃ逃げられて。
……考えれば考えるほど死にたくなってくる。
会ったら即土下座レベルだ。いや、土下座で許してくれればいいが……
「ええい! なるようになれ!」
パンパンと自分の頬を叩くと、少しは気合いが入る。
ナズナの好感度なんて召喚時に裸見てガタ下がりなんだから気にすんな! むしろあれ以下に下がらないんだから今回は横這いだろ、きっと!
勇気を出してコアルームへと足を踏み入れる。
案の定、隅っこのところにナズナがうずくまっているのが見えた。住居エリアから見えないところの隅を陣取ってるあたり、偶然ではないんだろうなぁ……
「ナズナ……あー……えっと、その……悪かった……」
「────」
意地悪なことして悪かった、なのか。捕虜に酷いことして悪かった、なのか。自分でもわからなかった。
けれど、少なくとも俺の台詞は歯切れが悪く、本当に悪いと思っていても誠意が伝わらないものになっていた。
ナズナからの反応がない。声をかけたときに肩が跳ねたので、寝ているというわけではないらしいが……
「……ごめん、ナズナ。ナズナが嫌がるってわかってても、やってしまった。全面的に俺が悪い、本当にすまなかった」
「ますたーは」
泣き腫らした目が俺を見上げる。
散々に擦ったのか、可愛い顔が台無しになるほどに目が真っ赤だった。
「……ますたーは、私にもあんなことをしますか?」
「あんな、っていうと。女魔法使いにしたようなことか?」
こくり、と小さな肯定。
つまりそれは、見ないでと言ったにも関わらず、ナズナが見ていたということであり、俺が軽蔑されたということだった。
……ああ、納得した。
男剣士の四肢を折って一階層の牢屋に移した後、ナズナが「力になりたい」なんて、そんなことを言ってきたのはそういうことか。
俺に有益な存在だと認められないとゴブリンの苗床にされると怯えた結果なのか。
「……ナズナには、しない」
「────なんで?」
当然の疑問だろう。
サポートキャラだから? 眷族だから?
……きっとそれは、違う。その場の嘘で切り抜けるのは、問題を後回しにするだけだ。
今。今答えを見つけるんだ。
俺はなんでナズナを優先する?
「きっと、その方が『らしい』から……だと思う……」
「────」
ナズナは何も答えない。俺の答えを噛み砕いているかのように、ゆっくりと目をつぶって、目を開けると俺を見た。
「……そっか」
「最低だよな。ごめん、ナズナが外に出られるように、できる限り早く頑張るよ」
「……外に?」
「追い出すって訳じゃない。ナズナがここにいたいならずっといてくれていい、ずっと俺に頼らせてほしい。でも外に出たいってなら、俺は全力でその願いを叶える…………あくまで選択肢の一つとして考えてみてほしい」
ナズナの前世の地球に送ることは今は無理だけど、この異世界で平和に過ごせるかもしれないんだぜ、なんて言えなかった。
……言いたくなかった。心の底では、ナズナに残っていてほしいと思っている。俺が外に出られないのにお前だけ出るなんてズルい……なんて、考えてしまっている。
『らしい』から。その方がゲームや絵空事『らしい』から。
ゲームのような世界で、本当にゲームのシナリオのようだったから。
自分の命を守っているという意識は、いつしかヒロインを守っているんだとすり変わっていた。
ナズナは無条件で俺を好いてくれて、ハーレムの一員になるものだと思い込んでいた。
……どこまで楽観視してんだよ、バカか。
いや、バカか。スキルで心だけじゃなく思考回路まで凍ったのかもしれない。
「──私はここにいる。ここにしかいられないんだよ」
「どう、いう……?」
「私も、日向君も。外に出られるのはずっと、ずーっと先なの」
俺が今、ダンジョンの外に出たら、心臓の無くなったこの体は生命活動を維持できずに、死ぬ。
レベル50で疑似心臓を与えると、機械音声さんは言っていた。
つまり、ナズナも心臓がない? いや、ナズナの体温は……鼓動は確かに存在する。
なら、あれか。眷族は外に出たら死ぬ? まて、眷族のゴブリンは外に出したが死んでない──斥候にいまだに出してはいるが、めぼしい収穫はない──。
なんだ、なぜナズナはダンジョンから出たら死ぬ……?
「日向君」
「……ナズナ?」
「……うんう、なんでもない」
まただ。
ナズナは口を動かし、確かに何かを喋った。しかしそれは空気が漏れる程度で、音になり得なかった。
神による介入だ。ナズナからの情報が意図的に遮断された。
……くそ、なんなんだよ
「私にはね、選択肢なんてないんだよ」
「あるさ」
「ないの。ない。日向君がくれているだけで、それ以外私に自由なんてないの」
ナズナは、そう告げると、立ち上がった。
ふらふらと俺へと近づき、まだ泣き足りないというかのような顔を、俺の胸へと埋める。
「……私は、どうすればよかったのかな」
それは、何についてのことなんだ。
前世か、今世か。俺のことか、はたまた俺が知らない誰かのことか。
……聞き返せる雰囲気でもなければ、ナズナが言いたくても言えない部分の話なんだろう。
俺はそっと抱きしめ、頭を撫でてやることしかできなかった。
俺にこんなことする権利なんてないっていうのに、なんで俺に甘えてくるんだよ、ナズナ……
数分間、ナズナはずっと泣いていた。
恨み言を漏らすこともなく、後悔を口にすることなく。ただ泣いて、一人で立ち直った。
俺が撫でていたから立ち直れた……なんて、そう思い込みたいけれど、そんなことはありえないだろう。
胸を押され、ナズナが離れる。
その顔は少し赤く、目元はさらに赤くなっていた。まるで何も会話をしていなかったように、さきほどまでの涙が嘘のように、笑顔を向けられた。
「お昼ご飯にしないっ?」
「……あぁ、うん、そうしようか」
ナズナに手を引かれて、住居エリアへと戻る。彼女は痛々しい笑顔を浮かべてお昼のメニューを考えている。
俺はできる限りテンションと話を合わせつつ、頭では別のことばかり考えている。
疑問が増えた。神への不信感が増した。
……侵略者以外で、手一杯だ。俺の胃が潰れてしまいそうだった




