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ダンジョンコア 魔宮 日向 lv.2④

「日向君、私に何かできることはないかなっ」


 俺が住居エリアに帰ってきてすぐに、ナズナは恋人に抱きつく女のように駆け寄ってきた。

 彼女の発言に、仕草に……全てによって心臓を鼓動を早められていく。

 よくよく落ち着いて彼女を見直してみる。


 美少女というにふさわしい彼女は、俺を笑顔で見上げている。その表情には失望や絶望と言った、暗いものは一切見られず、ただただ頼られたい、自分も何かしたいといったもので……心底安堵した。

 あんどした? なぜ?


「……あ、えっと」

「捕虜を2組に分けたんだよね」


 体が震える。おかしい、なんでだろう。寒さなんて、体温なんて感じていないはずなのに。

 ナズナの声がこわい。ナズナの表情が怖い。ナズナの視線が、その指先の動きが……全てが、こわい。

 自分の鼓動がこれ以上ないってくらいに早まっている。うるさいほどに鼓動が聞こえる。やめろ、やめてくれ。ナズナの声が聞こえなくなる……


「マップを見てたらね、一階層に行ったからびっくりしたんだよ?」

「……もう、逃げないように、さ」

「うん、ダンジョンのためなんだよね?」


 ダンジョンのため? ほんとに?

 俺は、いや、でも……考えろ。考えろ考えろ考えろ、俺はどうすればよかった? なにをすればいい?

 最善を尽くせ。やったことは取り返せない。迷うな、話すくらいできるだろ。考えろ。歩き続けろ。今進むためには何が必要なのか考えろ。

 ──いや、考えるな?


「『凍心』……ダニィとシズクは合わせっておくと脱走する。だからダニィの四肢を折って、タバネと一緒に一階層に隔離した」

「っ……あとふたりは?」

「シャーレィの方が完全に心が折れている。問題は無い」


 俺は椅子に座ると、ぬりかべの上にウィンドウを一斉表示させる。

 手元だけで操作するよりもナズナと一緒に全ウィンドウを追った方が効率がいい。


「ナズナには未召喚の眷族を出してしてもらう。全部を一体ずつでいい、俺が咄嗟に召喚できないのは困る」


 今回のDPは必要経費。

 ゲーム的に考えるなら、最初にアンロックしないと召喚できないような感じだろうか。


「……うんっ」


 ナズナは手元にウィンドウを表示させたらしい。しかしそれは俺にみることは出来ない。

 ナズナがそうしたというわけではなく、元々の設定でそうなっており、ナズナが変えることはできないらしい。

 あの神々め……サポートキャラが何かしてるがそれを見ることはできない、なんて疑心暗鬼にさせるようなことしやがって。いつか殺す。


「……ごめんなさい」

「どうした?」

「えっと、私が召喚できるのは、20体までです……」

「それはお前の責任か? そうでないなら謝る必要は無い。……全部召喚するといくらかかる?」


 現在は6184DPが残っている。ナズナに許可を出すと、彼女は再び前ならえのように手を伸ばし、召喚を始めた。





 コック(30DP)

 3回りほど大きくなっただけの鶏だな、どうやって敵を倒すんだろうな? ちなみにこいつは飛ばない。


 スネイル(420DP)

 回復魔法が使える、らしい、カタツムリ。ヒーラーとして分隊に一体入れておくか? 強酸も吐けるらしいので天井からの奇襲とかできそうだな。


 ウルフ(410DP)

 狼。どの異世界でも雑魚扱いされててかわいそうだな、お前。 敏捷特化なようで、数体の群れを作って徘徊させておくか……?


 グレムリン(510DP)

 デフォルメされた悪魔。3頭身で、ふわふわと浮かぶその姿はどこぞのマスコットのようだ。


 バッグワーム(120DP)

 蓑虫、か。天井から糸でぶら下がっては風魔法で敵を倒すらしい。


 石ゴーレム(300DP)

 石でできたゴーレムだな。サイズは3メートルで、その胸部には輝く石が剥き出しにされている。動きも鈍い。


 ドール(350DP)

 ショーケースに入っているようなマネキンがぎこちない動きで動いている。一種のゴーレムだな。もしくはオートマタ。


 ミミック(700DP)

 ド定番のモンスターだが、DPが高い。そんなに強いのか?

 いや、見た目……というか存在そのものが罠だし、その分で加算されている気がしてならない。

 ……俺ってこのダンジョンの宝箱見たことないが、こいつと一緒の木製タイプでいいんだよな?


 シャドウアサシン(570DP)

 シャドウというだけあって、人型をした影だな。片手には影でできたナイフを持っていて、上半身しかない体を揺らしながら進む。

 移動時に音はなく、超々短距離なら転移もできるみたいだし、ほんとうに暗殺者という感じだな。不意打ち要因に追加、っと。


 ロスト・スプライト(100DP)

 名前から予想ができなかったんだが、簡単にいうと無属性のエレメンタル……精霊みたいなやつだな。

 白濁した結晶体がいくつか集まり、幾何学的な模様を形成して、ぷかぷかと浮いている。

 ……エレメンタルは本来、特化した属性魔法を用いる強敵、なんだが……こいつは無属性。つまり魔法が使えない魔法使いだな……。


 スケルトン(60DP)

 理科室にあるような骨格標本のモンスターだな。

 違いは、骨がボロボロのスカスカで、俺が殴っただけでもへし折れてしまいそうな予感をさせることか……

 もう少し耐久性があればよかったが、とりあえず今は雑用でもさせるかな。


 グール・べビィ(250DP)

 屍肉喰い……それがグールのはずなんだが、こいつは6歳児くらいの大きさだし、爪も牙も可愛いもんだ。

 それで敵を倒せるのかは甚だ疑問だが、まあ、期待しよう。


 マシン・プロト(200DP)

 試作品の機械、かな? 主砲のように設置されたクロスボウ。

 ペコちゃん……投石器の弓版、といったところか。

 だがこっちは特攻もないため、そこまで協力ではなさそうだ。


 ローカスト(130DP)

 バッタのモンスターだな。きもい。つぎ。


 スパイダー(220DP)

 蜘蛛のモンスターだな。こいつもこいつで大きい分きもい。つぎ、ラスト。


 リザードマン(1500DP)

 最後にやっとまともなのが来たな……

 二足歩行するトカゲ。得物は分厚い、斬るよりも叩くという表現が近いだろう刀。

 DPの高さから強さが伺えるので頑張ってもらおう。



 合計で5650DP

 残り534DP


「これくらいか?」

「……はい、ごめんなさい」

「別にいい。さて、召喚した眷族たちに『命令』する。指示する部屋に移動しろ」


 針山エリアの隣に新築した5×5の部屋を指示すると、そこへぞろぞろと眷族が集う。

 ゴブリン、スライム、ファンガス、キラーバットも同様の命令を下すと……20体の眷族が一部屋に集う。

 人外の魔物たちが所狭しと部屋に溢れる様子はとてもきもい。


「『命令』する────殺し合え」


 さあ、蠱毒の始まりだ。





 蠱毒についておさらいしておこう。


 蠱毒というのは簡単にいうと虫を殺し合わせて神霊を作り、そいつから毒を取り出す呪術だ。

 本来はムカデとかヘビとかゲジゲジとか……そういったやつらを百匹単位の大量さで集めて壺の中に閉じ込める。

 すると腹を空かした虫たちは捕食を始めていき、最後には1匹だけが生き残る。その一匹は神霊となり、毒を生成する。

 その毒を使って、人を殺したり福を得たりする。


 障気がうんたらで強くなる……なんてのは現代の勘違いや都合のいい解釈で、結局これは『過程はどうあれ毒を摂取した人を殺す』という呪いだ。

 じゃあなぜ俺が危険極まりない蠱毒をやったのかというと……20という少ない頭数でも蠱毒ができるのか、蠱毒によって魔物は神霊になるのか、といった検証をするためだな。

 もし本当に神霊ができるのであれば防衛戦力になり、毒がとれたのだったら厳重に保管して、侵入者に飲ませることができる。ああ、神に飲ませるのもいいかもしれない。

 ……こんだけバラで眷族がいても扱いきれないから処分したかったってのもある。






 涙で滲む視界で、きちんと眷族たちの末路を監視する。

 ナズナは目をそらし、何かから身を守るかのように自分の体を抱いているので放置。変にちょっかいかけて俺が泣いてることがバレてもめんどいし。


 リザードマンの振るう凶刃がコックの体毛を切り裂くが、その鶏モドキは翼をばたつかせて逃げ惑う。

 リザードマンが追撃に振ったがむしゃらな一撃が、死角から飛びかかったウルフの首へと吸い込まれた。


「まず、脱落したのはウルフか。意外だな」


 奇襲をかけようとしたら本人も意図せず返り討ちにしたみたいだな。運がいいのか、注目を集めたから死を早めたか……。


「次の脱落は、ドール。石ゴーレム」


 ドール……ぎこちなく動くマネキンがその腕を振るう……が、石ゴーレムの硬度に負け、プラスチックが砕け散る。

 しかし『命令』されただけあって、退くことなく残る腕を振るう。……同じく砕け散る。

 残るは足による蹴り……と思いきやドールの背中に魔法が叩き込まれ、心臓部にあるらしい核が砕け散る。

 ドールは砕けるもの、っと。


 石ゴーレムは胸元に露出する輝く石……核を守る体制に入っていたが、シャドウアサシンの腕が石の体をすり抜け、核を貫いた。

 タンクが死霊系の即死攻撃で事故死した感じだな。いつかは即死無効完全防御特化のゴーレムを作ってみたいものだ。


 あ、逃げ切れなかったコックがリザードマンに引き裂かれた。

 ポトリと地面に墜ちた鶏の屍肉を貪るリザードマンだが……悠長に飯なんか食ってていいのかなぁ。


「……リザードマンも死亡、っと。ゴブリン並みの知性だな」


 見たくないらしいナズナのために、実況してやると、時々肩が跳ねるのがおもしろい。

 実に胸くそが悪い。


 ローカスト……デカイバッタは蜘蛛に食われた。

 キラーバットは飛来した酸に当たり墜落、その後踏み潰された。

 スケルトンは囲まれ叩かれ、死んだ。

 スネイルは攻撃されても回復し、酸を吐き出していたが……魔力切れだな、回復ができなくなり死んだ。



 およそ5分の間に、20体のうち半分が死亡した。

 残る眷族たちにはいまだ神霊化の兆しは見られない。



 あ、ちなみにナズナは耐えられなくなったのかコアルームへと逃げ出した。俺もそろそろ吐き気を抑えることができなくなってきていたから、ありがたい。

 いや、違う。これは俺じゃない。俺はナズナが嫌がることなんてしない。


「シャドウアサシン。ロスト・スプライト。スパイダー」


 ミミックの外装を透過して攻撃しようとした黒い、影を集めたような人型は逆に食われた。

 無属性の幾何学模様は天井に張り付くように潜み、大気中の魔力(?)を吸い上げていたみたいだが、魔法を撃ち込まれ死亡した。

 そして部屋の隅に蜘蛛の巣を張り、糸で絡めとったゴブリンをなぶっていたスパイダーは、バッグワーム……ミノムシの放った風魔法で真っ二つに切り裂かれた。

 ……流れ弾でゴブリンも死んだな


「スライム……まだ生きてたのか」


 正直こんな長生きするとは思ってなかった第一位。雑魚の代名詞は最初に死んだウルフの死体内に潜み、内側から貪っていたらしい。

 それが今、ようやっと食べ終わったから新しいご飯へと移動しようとして……グール・ベビィに見つかり、丸のみにされた。


 グール・ベビィが次に目をつけたのは天井からぶら下がり、ミミックの外装へ風魔法を撃ち込み続けているバッグワームことミノムシだった。

 背後から奇襲をかけ、その体を掴むと同時に食い千切った。しかしグール・ベビィは一噛みで絶命したと知ると、死体を捨ててすぐにミミックから距離をとった。

 ……変に知性があるな、こいつも。


「グレムリンは……自爆したか」


 動きが鈍くなり、ミミックに食われかけたグレムリン……小悪魔は、半狂乱で火属性の魔法を撃ち込んだ。

 外装が堅いミミックでも、内側から着火されると耐えられないらしく、こんがりと焼けた……が、グレムリンだけは死んでも離すことなく、道連れにした。


 残りは3体

 グール・ベビィ

 マシン・プロト

 ファンガス


 グール・ベビィは大きな傷もなく、元気そうに見える。


 マシン・プロトは主砲のクロスボウを何度も撃っているが、致命傷を与えることもなく……そもそも旋回速度が遅いから当たることも少ない。

 しかしながら、攻撃の優先順位が低いだけではなく、プロトに攻撃しようとした眷族が他の眷族に攻撃されるという豪運を数回起こしていた。


 ファンガスは逃げ回りながら胞子を吐き出していたようだが、効果が出る前には大半が殺されていたわけで。

 一度逃げ切れずに被弾し、致命傷に近い傷を負っていた。


 普通ならグール・ベビィが勝つと思うが……歩き方に若干の違和感が見られる。ファンガスの胞子だろうが、まだ影響は薄いみたいだが……


『ゴアアァァァ!!』


 まだ声変わりのしていない、甲高い咆哮。

 グール・ベビィが自身を鼓舞するためか、威嚇のためか……叫びながら肉薄したのは──マシン・プロト。

 ファンガスを狙っていたらしいマシン・プロトは、否応なしに迎撃するが、主砲の旋回が間に合うかはギリギリといったところか。



 ──ズガンッ



 大きな音が響く。

 もちろん、グールがプロトを主砲ごと粉砕した音だ。

 が、プロトの最後の一矢は、見事にグールの眉間を捉えていた。


 つまり。


「漁夫の利かよ……てかこいつなにもしてねえ」


 ファンガスだけが唯一立っていた。

 攻撃手段もなく、完全に何もせず逃げ回っていたファンガスだけが、奇跡的に生き残った。

 それでもファンガスは、顔なのか腹なのかよくわからない部分に大きく引き裂かれた傷があり、青緑色の汁が流れている。

 ファンガスのテンプレート顔である、悲しげな顔が、よりいっそう悲しげに見える。


「ぅぷっ……こいつを、ここで死なせたくない……!」


 俺は涙を拭う。相変わらず吐き気が酷いし、拭っても涙は溢れてくる。逃げたいし、帰りたい。

 でも、そんなことをしてる時間はないッ

 ウィンドウからファンガスを選択し、少なくなったDPを上限まで注ぎ込む。もちろん注げる最大値を選ぶ。

 強制的に進化させる。そうすれば、きっと体力も戻るはずだ。


 534DPのうち、340DPを注ぎ込む。ファンガスは淡い光を放ちながらその体を融解させていく。

 スライムというか、粘菌のようなよくわからないゲル状に溶けたファンガスは、その部屋全体に薄く粘菌を這わせた。

 さっきまで殺し合っていた眷属たちの死体を覆い、養分を吸い上げているらしい。

 骨も肉も血も何もかも、吸収していくが……マシンプロトの一部である金属や、リザードマンの刀は吸収できなかったらしい。


 その部屋に残ったのは、粘菌と金属だけ。それらが一箇所に集まっていく。




 新しい眷族の誕生だ。

 ステータスによる種族名は『パラサイト・パーティ』

 直訳で寄生虫の祭……?


 見た目は歪なミミックが近いだろう。刀や鉄板、ゴーレムに含まれていたらしい金属、ドールのプラスチック片がキューブ状になっている。

 だが、そのキューブの作成過程を見ていた俺は知っている。あれは殻だ。

 中には様々な死肉を喰らった粘菌が潜んでいる。それぞれが(・・・・・)微生物レベルの寄生虫に進化した元粘菌郡がいる。

 まるで出てこれないように自身を封印したように密閉されている。



 俺にはそれが、けして開けるなと囁くパンドラの箱にしか見えなかった。



────────────

 種族:パラサイト・パーティ


 体力:100/100

 魔力:1/1

 攻撃力:0

 防御力:1000

 敏捷:0

 精神力:0

 幸運:-9999


固有スキル

 自壊

────────────

スキルで心を凍らせないとヒロインと話せない主人公が、またやらかしてくれました


テーマは『狂乱の宴』です

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