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伝心
一体、何を言ったのか分からなかった。距離もないの に声が夜闇に紛れていった心地がする。
そこでふと気付き、俺は少年を怪しんだ。黒闇々とし た中に佇む彼は背は低かろうが顔だけが闇に埋もれて いる。ただ見える手足は灰に塗れたように不健康な色 をしている。
笑ったのであろうか――気味が悪いので早々に帰るこ とにした。彼が一度声を荒げたが、口もきかずに行くと追ってはこなかった。
その後、どういうふうに行ったかはわからないが、街灯に照らされた道に着き、そこを通って駅まで赴いたのは覚えている。
明くる日、小学校の同窓会があった。
いつぞやすっかり忘れていた街に平凡な思い出を重ねていると、あの少年が幼少時の自分に思えてならない。
何故、生きているのかーー今は諭されたようにそれらばかり考えている。