第一話 召喚されたのに
「ミコさん、赤いジュース2本とアメ10コをちょうだい」
「はーい」
「こんなに可愛いのに回復がすごくて助かるよ」
「毎度ありがとうございます!」
私、ミコこと茅野美琴は聖女召喚されて早々に追放されて辺境のガーランドにやってきた。追放理由は解せないけれど、自由に暮らせて今は幸せだ。
「ミコさん、そのバクチクとカルメ焼きをください」
「僕は青いジュースと、クッキーを」
「私はポコラの実の酢漬け」
実は、私はダンジョンで『駄菓子屋』というお店を開いている。売っているのは駄菓子のように可愛いけれど回復アイテムだったり、ちょっとした武器だったりダンジョン攻略に使えるアイテムだ。
今日もたくさん売れたけど、作成素材が足りなくなってきたから、ギルドに寄ってから帰ろうかしら。
ギルドに寄るとギルド長のガリアーノさんが難しい顔で手招きした。彼は少し長めのプラチナブロンドに緑の目、渋めのお兄さんって感じのイケメンだ。近くに行くと、隣にいる人に気づく。
「ミコト様、お久しぶりです」
「アルベルトさん! どうしてここに?」
アルベルトさんは、追放されたときに、王都の門まで送ってくれた騎士様で、こっそりと今住んでいるガーランドへ向かう手配と資金をくれた恩人。
あら、彼もプラチナブロンドに緑の瞳、タレ目きみの甘いマスクで、前も思ったけれどガリアーノさんと似ているわ。
「どうしてって……あの時、後から行くから待っていてくださいと言ったではないですか? 御者に聞いたらガーランドの領主邸に行かなかったそうで驚きました」
「その説はお世話になりました。おかげさまで生活できてます。お借りしたお金は返したいので……」
「そうじゃなくて! ミコト様、一緒に暮らしませんか?」
「え?」
待っててって、別れるときにそんな話をしたかしら? ガーランドの領主邸? 少し考えようとしていると話が進む。
「ミコは弟の思い人だったんだね」
「ガリアーノさんの弟!?」
似ていたし、やっぱりという気持ちと驚きで頭がいっぱいになる。
「ミコト様は兄貴が好きなんですか? 彼には既に息子が……」
「な、なな、なんの話なんですか?」
気が遠くなりながらも私は、この世界に来てから今に至るまでのことを思い出していた。
◇ ◇ ◇
私がこの世界に召喚されたのは、1ヶ月と少しほど前のことだった。
仕事帰りに、休憩がてら夜の公園にいた時だった。足元から光り始め、気がついたらこの世界の王城にいたのだ。
「黒い髪の女よ、平凡な顔だが歳はいくつだ?」
「……は?」
きょろきょろする間もなく降ってきた言葉があまりにも失礼で、そちらを向くと西洋の王子のようなコスプレをしている人がいた。
「いきなり失礼ね!」
「貴様は聖女なのか?」
「知らないわよ、ここはどこなの?」
公園からなぜここに来たのかが、全くわからない。すると、別の人が言葉を発した。
「申し訳ありません。我々が聖女様を召喚したのです」
「召喚!?」
召喚ってあの物語とかで異世界に行くやつ?
薄水色の長髪で、物語の魔法使いのような格好の男性が続きを説明しようとしてくれたとき、王子コスプレの男が言った。
「もう良い、使用人部屋につれていけ。思ったより年増でつまらん」
「年増ってなによ、まだ28なんだからね!」
「立派に薹が立っているではないか。妃になど無理だ」
「王太子殿下、それはいくら何でもあんまりです」
間に入ろうとした魔法使いっぽい男性を睨みつけ、王太子とやらは部屋をあとにしてしまった。なんで、告白もしてないのに振られたようになってるのよ。
私は魔法使いっぽい男性の後を歩き、豪華とは言えない湿っぽい部屋に案内されて事情を聞いた。
やはりこの世界は異世界だった。この国はレグナード王国で、国王陛下が病で倒れて聖女を召喚したということだ。なんと迷惑な! 腹立たしいことに、召喚は一方通行で元の世界に帰れないらしい。
魔法使いっぽい彼は、見た目のまま『私を召喚した』魔法使いらしく、グリードだと名乗った。お前が元凶かと怒りたかったけれど、神妙で真剣な顔を見るとできなかった。
「聖女様、部屋のご用意が王太子妃の部屋しかありませんでした。しばらくは、ご不便かけますがこちらでお願いします」
グリードがとても恐縮していたが、文句を言いたいのはそこじゃない。とりあえずは受け入れることにした。
私は聖女らしい。本当に?
「こういう時ってステータスオープンとか言うのよね?」
おぉ!?
一人になったときにつぶやくと、目の前にガラス板のような見た目のウィンドウが現れた。パラメーターとステータス、ロックのかかったウィンドウ。わからないことも多いけれど、確かに聖女だった。
翌日、グリードがやってきて魔法の使い方を教えたいと伝えてきた。
魔力を意識して詠唱を唱えると魔法が使えること、国王陛下の病を治してほしいことを聞いた。
問題なく魔法は使えたけれど、ステータスウィンドウのことはグリードに教えないことにした。私の立場が不安定だし、信用できないし、様子見が必要だと思ったから。
王太子から完全に放置されていた私は、グリードと複雑な道を通って、密かに国王陛下が休む部屋に行くことになった。
魔法の詠唱は病気にキュアを使う。でも、横たわる国王に『キュア』と唱えたが変化はなかった。
国王の病は、自然に起きた病気ではないのかもしれない。
「ヒール!」
何か力が抜ける感触がした。よろついた身体をグリードが支えてくれたが、国王陛下から目は離さなかった。目元がピクリとしたからだ。
次第に目を開けた陛下は、天井から目線をこちらに向けて驚いた顔をした。
「その黒髪は、聖女様……」
陛下が声を出すと、グリードが頷いた。
「王太子殿下の許可をもぎ取って召喚しました」
「……して、やつは?」
「えぇっと今は……」
グリードの目が泳ぎ、何かを悟ったらしい陛下は、王太子の実態を知るために、病が治ったことをしばらく伏せることを決めた。
国王陛下の世話をする侍女を、グリードの部下の魔法使いの女性に変え、グリード達が様子を見ていたところだった。
しかし、私はいきなり王太子に追放宣言されたのだ。
新連載はじめました。
楽しんでいただけたら嬉しいです(*´▽`*)
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