エピローグ 第二準備室のノートは、もう開かない
数日後。
第二準備室の机の引き出しには、黒いノートが眠っている。
その横には、空になった封筒たち。
古いカセットレコーダー。
四人で写った写真。
そして、白く戻った四枚の返却メモ。
ノートはもう開かない。
文字も浮かばない。
けれど、ましろは時々そこへ来て、引き出しを開ける。
何かを読むためではない。
ただ、そこにあることを確かめるために。
その日も、ましろは第二準備室の机の前に立っていた。
栞が図書室の当番を終えてやってくる。
少し遅れて陸も来る。
律はスマホの中で、いつものように何かを観測している。
「また見てたのか」
陸が言う。
「うん」
「ちゃんと閉じてるなって」
「開いたら困るだろ」
「うん」
「だから、閉じててよかった」
ましろはそう言って、そっと引き出しを閉めた。
窓の外には、春の夕方が広がっている。
栞が言う。
「帰ろうか」
ましろが頷く。
「うん」
陸も歩き出す。
律が告げる。
『帰宅を推奨します』
「それ、まだ言うんだ」
『はい』
『日常の維持は重要ですので』
陸は少しだけ笑った。
「まあな」
四人は第二準備室を出る。
扉が閉まる。
古い部屋は、また静かになる。
机の引き出しの中で、黒いノートは眠っている。
もう誰かを導く必要はない。
去年の失敗は、今の四人が受け取った。
届かなかった名前は、ちゃんと届いた。
だから物語は、ここで終わる。
けれど、四人の放課後は続いていく。
名前を呼び合える、何でもない日常の中で。




