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まほろばホテルには神々が住まふ  作者: かこ


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14/14

後夜祭

 大広間の中央には、天井に届くぐらいの巨

大なモミの木が置かれていた。赤い実や金や銀の星を象った飾りが散りばめられ、所々に下げられた蝋燭に照らせれる。

 机の上には見たことのない料理ばかり並んでいた。まるごと出された魚も雉も見慣れないので、食べ物に見えないぐらいだ。

 くりすます、と柚葉は口の中で唱えてみた。異世界に迷い混むための呪文みたい。


「雪でも降れば、ばっちりだけど、寒いからやめとこーか」


 幹を撫でた支配人がモミの木に語りかけるように言った。髭をそり、普段よりも調えられた髪は金色の組紐で結ばれている。濃灰色のフロックコートの前は開かれ、銀糸が縫い付けられたベストが見えた。

 普段のだらしない格好とは違うなと判断した柚葉はすぐに考えを改める羽目になる。

 支配人の両手には、でんとつまれた料理の皿があった。

 山盛りの皿に緑の法被を来た三郎が何かしらの粉をかけているが、粉は料理に振りかからずに三郎の鼻に向かう。

 素知らぬ様子で支配人は、盛大なくしゃみから料理を避けた。

 かける。避ける。かける。避ける。を繰り返す彼らが大人かどうかはわからないが、大人げないなと柚葉は部屋の端に避けて眺めた。

 ホテルに戻った柚葉を三郎が諦める、ということはなく、鼻水混じりの泣き落としでホテルの従業員になったのは二日前の話だ。えぇえと子供じみた声でしっしと手を振っていたのは支配人。

 許したわけではないが、術を解く方法を探すならと言ったのは柚葉だ。実家にいる時も恥ずかしそうではあるが、笑みを向けてくれていたのは彼だけだった。なぜか心の底から嫌うことができなくて、どうしようもない弟ができたような気持ちになったことは秘密にしている。

 強面の料理人二人は入れ替わり立ち替わり、どちらがどちらかわからない感じで大広間の給仕を進め、九十九と零はそうそうに粉の攻防に飽きてツリーに柚も吊るすかと言い始めた。料理長は調理で忙しくしているだろうし、影井は姿はおろか影もない。

 これからクリスマスパーティーをするというのに、忙しない所か騒がしい大広間。まだまだ役立たずの柚葉に取り仕切る技量はない。

 扉が閉まるような音を聞き付けた柚葉の意識が外へ続く窓に向いた。

 粉の舞う空気と三郎を大広間の外に追い出した支配人は、にこにこと料理に手をつけ始める。

 抱える量が明らかに増えているので、柚葉は心配を通り越して呆れてしまった。


「お腹、壊しませんか」

「柚葉くんも気を付けてね」

「いやいやいやいや、支配人がですよ」

料理長(奈津くん)が張り切って作った料理だよ。全部食べないなんて考えられない!」


 そうだとしても、量が尋常ではない。

 客が来る前に会場の全てを食べきらないように祈った柚葉は思い出したように支配人を見た。

 口一杯に食べ物を詰めこんだ支配人の顔は大広間で一番輝いている。支配人、と控えめに声をかけると、彼は口の中の物を飲み込んだ。

 柚葉は努めて軽い調子で話す。


「女将の話、受けなくもないです」


 喜色満面になった支配人に、でも、と釘を指す。


「納得するまで腕を磨いてからですけど」


 すまし顔で言ってのければ、支配人は髭のなくなった顎を撫でた。にんまりと笑った顔は明るい。


「そりゃあ、楽しみだ」

「はい、楽しみにしていてください」


 横目で示しあった二人は、ほぼ同時に息を吹きだした。

連続投稿で失礼しました。

これにて、完結となります。読了ありがとうございました。

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