第19話 ミーヴ
生命神の元に赴き、魂気操作のコツもなんとなく掴めた翌日。
俺は魂気操作を極めようとしていた。
小屋の向こう側は、シュゼとヌィンダが修行中。
木刀と木槍の打ち付け合う音が聞こえる。
「アルタ、すごいね。今朝言ったばっかりなのに......」
「あー、あぁ、ミーヴが教えてくれたおかげだ」
隣で魂術の特訓をするミーヴが呆気に取られた顔をして言う。
ミーヴは今朝、ずっと考えてくれていたのか
魂気の操作について教えてくれた。
と言ってもやはり魂の専門家には敵わなかったらしい。
そこまで分かりやすくはなかった。
でもずっと考えてくれていたのは嬉しい。
ミーヴのおかげってことにしておこう。
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ヌィンダは師匠としてはそこそこである。
もちろん基礎的なトレーニングもしてくれるし、
言えば模擬戦もしてくれる。
的確なアドバイスもしてくれるし、それはしっかり俺たちの成長に繋がっている。
しかし、しかしだ。師匠としては致命的な欠陥があるのだ。
それは......
「アルタ、ヌィンダのやつカジノ行っちまったし、オレたちだけで模擬戦してようぜ」
修行中にも関わらずカジノに行くことがある、
という点だった。
俺たち3人の資金には手を出さないからいいようなものの、やっぱり修行中に行かれるのは困る。
「あぁ、分かった。やろう」
まぁいないものは仕方ないので、シュゼと模擬戦をすることにする。
2人で反対の位置に立って向き合う。
短い金髪、青い瞳、キッとしたつり目が俺を見ている。
数回木刀を振ってから俺に向ける。
静かな構えだ。
その静かさはヌィンダに教えて貰ったのだろう。
「やろうって言ったけどさ、いいのか?」
「は?」
俺の問いかけにシュゼが首を傾げる。
「いや、その、シュゼって女だろ? 何か殴るのは気が引けるっていうか......」
そうだ、そもそも俺がシュゼの攻撃をずっと避けてたのは、シュゼを殴るかどうか迷っていたからだ。
同年代の女子を殴ったことは無い。
父さんも『女の子には優しくしろ』って言ってたし、気が引ける。
しかしそんな俺の考えとは対極に、シュゼは淡々と答える。
「別に気にしなくていい。ほら、お前もさっさと構えろ」
木刀を手にシュゼが構える。
「ミーヴ、お前が審判でいいな?」
「う、うんっ、いいよ」
横を見ると、離れた場所にミーヴがいた。
その場の空気に圧倒されてるのか、少し怖じ気づいている。
シュゼは完全にやる気だ。
青い瞳が俺を貫き続けている。
まだ迷う所はあるが、仕方ない。
俺も足を開いて片手を突き出し、構える。
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―ミーヴ―
アルタとシュゼは強い。
きっといつまでも、私より上を行き続ける。
目の前で行われている模擬戦はシュゼが優勢。
体術のことも、刃術についても分からないけど、
思考を止めることが敗北を意味するんだと思う。
シュゼはいつも通りの状態で。
アルタは体術と魂気の2つのことを考えて戦っている。
アルタが10ならシュゼは9ってヌィンダさんも言ってたし、アルタが状況次第では全然シュゼが勝つんだろう。
「ごふっ!」
「よっし、1本取ったぞ!」
予想通り、シュゼが勝った。
アルタは魂気の操作が間に合わなかったのか、
打ち付けられた左手をさすってる。
「し、シュゼの勝ち!」
私は審判だ、シュゼの勝ちを宣言する。
同時にアルタに駆け寄って腕を治す。
シュゼは強い。
防御できなかったとなれば、放置したらアザになるだろう。
「魂術『治癒現象』」
魂気を反応させて、アルタの怪我を治す。
力強く、ほんの少しだけ幼さの残る手。
私はこの手に助けられた。
羽が無いのがバレていじめられ始めた頃、
アルタと出会った。
私と同じように羽が無い。
それでいて強くて、それを気にする素振りも見せない。悪魔が出たときも命を張って守ろうとしてくれた。
羽の無いことを恥じて、心に蓋をしていた自分が恥ずかしくなった。
それからなんだろうか。
私がアルタを好きになったのは。