第18話 魂気
「えっと......それでそのまま帰って来たの?」
「......はい」
あの後結局俺は水浴びせずに帰ってきてしまった。
辺りはもう夜になっている。
流石に今から俺だけで行くのは無理だ。
肝心のシュゼ本人がいない部屋にろうそくの火が揺れている。
「シュゼって、女の子だったんだね......」
ミーヴが呟く。ミーヴも知らなかったようだ。
それも当然。
シュゼの一人称はずっと「オレ」。
短く切った金髪。あの性格。
装備を買いに行ったときとか、大会のときとかも「坊主」って呼ばれてた。
まさか女とは思わない。
「あぁ、とりあえず明日謝ろうと思う」
「そうだね」
ミーヴはコクッと頷き椅子を立った。
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その翌日、シュゼに謝った。
水浴びの件だけじゃない。
会ったときまで振り返ってみれば、結構失礼なことをしてた気がする。
でもシュゼからすると別に何とも思ってなかったようで、即答で許してくれた。
なんでも、シュゼは家では男として育てられたとかなんとか。
さて......
「喰らえっ!」
シュゼの剣撃が飛んでくる。もちろん木刀だ。
俺は避けてシュゼの背後をとる。
振り向かれる前に打ち込......む......
「隙あり!」
「ぐえっ」
脇腹に木刀が打ち付けられた。
相当な威力だ。木刀だから死なないだけというのがよく分かる。
「そこまで。シュゼの勝ちだ」
「よっしゃ!」
ヌィンダの宣言にシュゼが無邪気に喜ぶ。
ちょっと前まで普通だと思っていたあの笑顔も、
女と分かれば認識も変わってくる。
やっぱり、同年代の女子を殴るのは気が引ける。
今の模擬戦はその隙をつかれた。
「アルタ、お前シュゼの攻撃を避けてばかりだよな」
ヌィンダがしゃがみこむ俺を見下ろして言った。
「そりゃあ、剣の攻撃は避けないと―――」
そこまで言って、
大会では体術使いも、刃術使いの攻撃を受け止めていたのを思い出した。
でもどうやって......?
普通にやれば受けた部位が斬られて終わりだ。
「斬られる、と? 刃術の攻撃は魂気である程度防御できるだろう」
ヌィンダは何を当たり前のことを、といった顔で吐き捨てた。
「すいません。その魂気での防御、知らないです」
俺がそう言ったときの、ヌィンダとシュゼの「え?」という声と顔は忘れないだろう。
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「―――ということだ。分かったか?」
「はい」
体術使いが刃術使いの攻撃を防ぐ方法。
それは自分の全ての魂気で体を覆うというものだった。
体術、刃術使いは当たり前にやってることらしかった。
ちなみに魂術使いは魂気を超常現象を引き起こすことに回すから、体をあまり防御できない。
「いやしかし、魂気の操作を知らずにこの強さ......やはりお前は伸び代の塊だな」
ヌィンダが空を見て呟く。
口元が少し上を向いていて嬉しそうだ。
俺にはまだまだ伸び代があるようだ。
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そして俺は魂気操作の修行が優先された。
小屋の外ではシュゼとヌィンダの修行が行われている。
俺はというと
「自分の魂をさ、何か、こう......う~ん」
魂気のことなら、とミーヴに教えてもらっている。
1回はヌィンダに教えてもらった。
が、ヌィンダは魂気操作をほとんど無意識でやっているらしい。
コツは掴めなかった。
だからミーヴが魂気操作における俺の師匠となった訳だ。
「無理そうなら教えてくれなくてもいいよ。自分で頑張るからさ」
とは言っても、ミーヴも人に教える。しかもこんな当たり前のことをのは初めてらしい。
上手く伝えられないようだ。
「や、大丈夫だよ。すぐに......」
ミーヴの声が震えている。
そんなに俺に教えたいのだろうか。
ガチャ
「ミーヴ、またシュゼが怪我した。治してやれ」
「あ、はい」
玄関に傷だらけのシュゼと無傷のヌィンダがいた。
にしても魂気の操作、か。
生命神なら分かるのかな。
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天世五魂神の神殿、大体1週間ぶりに来たな。
いや、2週間だっけ? まぁどっちでもいいか。
俺の魂の研究は進んでいるのだろうか。
でも1週間だし、そんなに進むモノでもないか。
あ、でも興味のあることにはズンズン突き進んだりしてそうだし、大丈夫か、多分。
「―――で〜? 今、どんな感じ?」
生命神が聞いてくる。
その手の上には俺の魂が浮いている。
「聞きたいことあったら聞くよ?」
俺の魂を触りながら聞いてくる。
聞きたいこと。
それならちょうど、1つある。
「1つ。魂気の操作って、どうやるんですか?」
なるべく敬意を込めた言い方で言う。
何故か?
この部屋じゃないけど、今タディスがいるからだ。
少しでも不敬なことを言ったらその瞬間にタディスが飛んでくる。
という俺の緊張に見向きもせずに生命神は答える。
「魂気かぁ。そっか、冒険者だもんね。う~ん......みんな無意識でやってるしねー......」
命の神でも教えるのは難しいらしい。
魂を観察している手が一瞬止まったりしている。
あれ? 待って、なんか......おかしい。
不快感と痛みが......込み上げて......
「がっは!」
痛い。気持ち悪い。体から血の気が引いていく。
一瞬で鳥肌が立った。呼吸も荒くなる。
「あ、ごめん!」
俺の叫びを聞いて、生命神らすぐに俺の魂から手を引く。
何だったんだ、今の。
いきなり、心の奥底から形容し難いモノが......
「ごめん! ボクなら魂を傷つけずに触れるんだけど、間違えちゃったんだ。嫌な感じだったよね、本当にごめんね」
生命神が謝ってきた。
「ハァ、ハァ、ハァ。いや、いいんです。観察中に聞いた俺が悪かったです」
俺はすぐに生命神に取り繕った。
天世五魂神である生命神が俺に謝っている。
とんでもない事態だ。
今一瞬すごい殺気を感じたし。多分タディスの。
「や、ボクも悪かったよ。じゃあ一旦魂は返すね」
「はい」
魂が生命神の手から離れる。そのまま俺の体に戻ってきた。
この瞬間は、なんだかしっくりくる。
「で、魂気の操作ね。えっと......キミ、魂がそこにあることは感じる?」
「はい、今返されたので、なんとなく......」
生命神は少し難しそうな顔をする。
あんまり似合わない表情だ。
「それなら1回やってみよっか。魂の周りに魂気があるの、分かる?」
そう言われたので意識してみる。
さっきまで気づかなかったが、何かが纏わりついているのが分かる。
これが魂気か?
「はい」
「よし、いいね。じゃあそれを操るんだ。まずは剥がすイメージで」
「分かりました」
魂の周り......纏わりつく魂気を剥がす。
「スゥー、ハー......」
深呼吸をする。
目を閉じて、集中して魂を視るイメージ。
魂、魂、魂......。
これだ。これを剥がす。
......。
............。
「―――できたね。じゃあ次は剥がした魂気を全身に巡らせてみて」
「はい」
魂の周りに今、魂気が漂っている。
これを......まずは両手に......ん?
「―――気づいたかな?」
今、俺は確かに魂気を両手に運んだ。
実際、両手が少し硬くなったような気がする。
しかし、しかしだ。
魂気がもうない。
魂の周りにもう漂っていない。
俺の様子を見て生命神が呟いた。
「キミ、魂気が少ないんだよ。全身覆える量が無い。天使と人間のハーフだからなのかな?」
どうやら、俺は全身防御できないらしい。
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俺が魂気をある程度操作できるようになってから、神殿を出た。
ヌィンダの小屋がある森の中にある、ウドレスト領とは反対の位地の門。
辺りは真っ暗の夜、早いところ戻ろう。
さて、魂気の話だ。
もう1度言うが、俺は魂気が少ない。
全身を覆うことができない。
否、全身覆うことも一応できるが、
そうするとほとんど意味の無い防御になる。
これは......明日から魂気を素早く的確に運ぶ特訓もしないとだな。
刃の攻撃が来たら、すぐに的確に魂気を集めないといけない。
うーん、慣れるまで時間も掛かりそうだし、しばらくはシュゼにコテンパンにされそうだ。




