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第18話 魂気

 



「えっと......それでそのまま帰って来たの?」


「......はい」


 あの後結局俺は水浴びせずに帰ってきてしまった。


 辺りはもう夜になっている。

 流石に今から俺だけで行くのは無理だ。



 肝心のシュゼ本人がいない部屋にろうそくの火が揺れている。



「シュゼって、女の子だったんだね......」


 ミーヴが呟く。ミーヴも知らなかったようだ。


 それも当然。

 シュゼの一人称はずっと「オレ」。

 短く切った金髪。あの性格。


 装備を買いに行ったときとか、大会のときとかも「坊主」って呼ばれてた。

 まさか女とは思わない。


「あぁ、とりあえず明日謝ろうと思う」


「そうだね」


 ミーヴはコクッと頷き椅子を立った。




 ▶▷▶▷▶▷




 その翌日、シュゼに謝った。


 水浴びの件だけじゃない。

 会ったときまで振り返ってみれば、結構失礼なことをしてた気がする。


 でもシュゼからすると別に何とも思ってなかったようで、即答で許してくれた。


 なんでも、シュゼは家では男として育てられたとかなんとか。




 さて......


「喰らえっ!」


 シュゼの剣撃が飛んでくる。もちろん木刀だ。

 俺は避けてシュゼの背後をとる。


 振り向かれる前に打ち込......む......



「隙あり!」


「ぐえっ」


 脇腹に木刀が打ち付けられた。

 相当な威力だ。木刀だから死なないだけというのがよく分かる。



「そこまで。シュゼの勝ちだ」


「よっしゃ!」


 ヌィンダの宣言にシュゼが無邪気に喜ぶ。


 ちょっと前まで普通だと思っていたあの笑顔も、

 女と分かれば認識も変わってくる。


 やっぱり、同年代の女子を殴るのは気が引ける。

 今の模擬戦はその隙をつかれた。



「アルタ、お前シュゼの攻撃を避けてばかりだよな」


 ヌィンダがしゃがみこむ俺を見下ろして言った。


「そりゃあ、剣の攻撃は避けないと―――」


 そこまで言って、

 大会では体術使いも、刃術使いの攻撃を受け止めていたのを思い出した。


 でもどうやって......?

 普通にやれば受けた部位が斬られて終わりだ。



「斬られる、と? 刃術の攻撃は魂気である程度防御できるだろう」


 ヌィンダは何を当たり前のことを、といった顔で吐き捨てた。


「すいません。その魂気での防御、知らないです」


 俺がそう言ったときの、ヌィンダとシュゼの「え?」という声と顔は忘れないだろう。




 ▶▷▶▷▶▷




「―――ということだ。分かったか?」


「はい」


 体術使いが刃術使いの攻撃を防ぐ方法。

 それは自分の全ての魂気で体を覆うというものだった。


 体術、刃術使いは当たり前にやってることらしかった。


 ちなみに魂術使いは魂気を超常現象を引き起こすことに回すから、体をあまり防御できない。




「いやしかし、魂気の操作を知らずにこの強さ......やはりお前は伸び代の塊だな」


 ヌィンダが空を見て呟く。

 口元が少し上を向いていて嬉しそうだ。


 俺にはまだまだ伸び代があるようだ。




 ▶▷▶▷▶▷




 そして俺は魂気操作の修行が優先された。

 小屋の外ではシュゼとヌィンダの修行が行われている。


 俺はというと


「自分の魂をさ、何か、こう......う~ん」


 魂気のことなら、とミーヴに教えてもらっている。

 1回はヌィンダに教えてもらった。


 が、ヌィンダは魂気操作をほとんど無意識でやっているらしい。

 コツは掴めなかった。


 だからミーヴが魂気操作における俺の師匠となった訳だ。


「無理そうなら教えてくれなくてもいいよ。自分で頑張るからさ」


 とは言っても、ミーヴも人に教える。しかもこんな当たり前のことをのは初めてらしい。


 上手く伝えられないようだ。


「や、大丈夫だよ。すぐに......」


 ミーヴの声が震えている。

 そんなに俺に教えたいのだろうか。



 ガチャ



「ミーヴ、またシュゼが怪我した。治してやれ」


「あ、はい」


 玄関に傷だらけのシュゼと無傷のヌィンダがいた。



 にしても魂気の操作、か。

 生命神なら分かるのかな。




 ▶▷▶▷▶▷




 天世五魂神の神殿、大体1週間ぶりに来たな。

 いや、2週間だっけ? まぁどっちでもいいか。



 俺の魂の研究は進んでいるのだろうか。

 でも1週間だし、そんなに進むモノでもないか。


 あ、でも興味のあることにはズンズン突き進んだりしてそうだし、大丈夫か、多分。




「―――で〜? 今、どんな感じ?」


 生命神が聞いてくる。

 その手の上には俺の魂が浮いている。


「聞きたいことあったら聞くよ?」


 俺の魂を触りながら聞いてくる。


 聞きたいこと。

 それならちょうど、1つある。


「1つ。魂気の操作って、どうやるんですか?」


 なるべく敬意を込めた言い方で言う。


 何故か?

 この部屋じゃないけど、今タディスがいるからだ。

 少しでも不敬なことを言ったらその瞬間にタディスが飛んでくる。


 という俺の緊張に見向きもせずに生命神は答える。


「魂気かぁ。そっか、冒険者だもんね。う~ん......みんな無意識でやってるしねー......」


 命の神でも教えるのは難しいらしい。

 魂を観察している手が一瞬止まったりしている。


 あれ? 待って、なんか......おかしい。

 不快感と痛みが......込み上げて......



「がっは!」


 痛い。気持ち悪い。体から血の気が引いていく。

 一瞬で鳥肌が立った。呼吸も荒くなる。


「あ、ごめん!」


 俺の叫びを聞いて、生命神らすぐに俺の魂から手を引く。


 何だったんだ、今の。

 いきなり、心の奥底から形容し難いモノが......




「ごめん! ボクなら魂を傷つけずに触れるんだけど、間違えちゃったんだ。嫌な感じだったよね、本当にごめんね」


 生命神が謝ってきた。


「ハァ、ハァ、ハァ。いや、いいんです。観察中に聞いた俺が悪かったです」


 俺はすぐに生命神に取り繕った。


 天世五魂神である生命神が俺に謝っている。

 とんでもない事態だ。


 今一瞬すごい殺気を感じたし。多分タディスの。



「や、ボクも悪かったよ。じゃあ一旦魂は返すね」


「はい」


 魂が生命神の手から離れる。そのまま俺の体に戻ってきた。

 この瞬間は、なんだかしっくりくる。


「で、魂気の操作ね。えっと......キミ、魂がそこにあることは感じる?」


「はい、今返されたので、なんとなく......」


 生命神は少し難しそうな顔をする。

 あんまり似合わない表情だ。


「それなら1回やってみよっか。魂の周りに魂気があるの、分かる?」


 そう言われたので意識してみる。

 さっきまで気づかなかったが、何かが纏わりついているのが分かる。


 これが魂気か?



「はい」


「よし、いいね。じゃあそれを操るんだ。まずは剥がすイメージで」


「分かりました」 


 魂の周り......纏わりつく魂気を剥がす。


「スゥー、ハー......」


 深呼吸をする。

 目を閉じて、集中して魂を視るイメージ。


 魂、魂、魂......。

 これだ。これを剥がす。

 ......。

 ............。



「―――できたね。じゃあ次は剥がした魂気を全身に巡らせてみて」


「はい」


 魂の周りに今、魂気が漂っている。

 これを......まずは両手に......ん?


「―――気づいたかな?」


 今、俺は確かに魂気を両手に運んだ。

 実際、両手が少し硬くなったような気がする。


 しかし、しかしだ。


 魂気がもうない。

 魂の周りにもう漂っていない。


 俺の様子を見て生命神が呟いた。


「キミ、魂気が少ないんだよ。全身覆える量が無い。天使と人間のハーフだからなのかな?」


 どうやら、俺は全身防御できないらしい。




 ▶▷▶▷▶▷




 俺が魂気をある程度操作できるようになってから、神殿を出た。


 ヌィンダの小屋がある森の中にある、ウドレスト領とは反対の位地の門。


 辺りは真っ暗の夜、早いところ戻ろう。



 さて、魂気の話だ。

 もう1度言うが、俺は魂気が少ない。


 全身を覆うことができない。


 否、全身覆うことも一応できるが、

 そうするとほとんど意味の無い防御になる。


 これは......明日から魂気を素早く的確に運ぶ特訓もしないとだな。


 刃の攻撃が来たら、すぐに的確に魂気を集めないといけない。


 うーん、慣れるまで時間も掛かりそうだし、しばらくはシュゼにコテンパンにされそうだ。




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