第10話 真実判明
「あ、降ります」
俺は御者に言った。
直後、御者は何も言わずに馬車を止める。
金を渡して、馬車を降りる。
一定の速さで鳴っていたゴロゴロという音は
だんだん遠ざかっていく。
風に吹かれた雲が、金色の月を隠す。
コツコツと足音を立てて、暗闇に包まれた街を歩く。
......
やはり、前みたいに意識を失うのだろうか。
いや、流石に何か調べたりしてからか。
でもどんな風に調べる? 魂を詳細に観察したりするのだろうか。
命の神だし、もっと神秘的な感じ......いや、神秘的って言葉は似合わないな、あの人。
そんな事を考えながら歩いていたら、森の前まで来ていた。
「......っ」
森は、昼間に見るよりも恐ろしく暗かった。
よーく目を凝らしても、精々少し先までしか見えない。
雲が動いて、月明かりが通ったタイミングで進みだす。
あの門までの道はほぼ直線だったし、少し見えればあとは大丈夫だ。
▶▷▶▷▶▷
あのあとはメイドに案内されて、生命神の家まで来た。
メイドは「ついに来てしまった......」といった顔で生命神のもとまで案内してくれた。
生命神の許可が無ければ追っ払われるな。
「―――思ったより遅かったね」
生命神は、前と変わらない声色で話す。
白髪のサイドテールはほどかれていた。
「はい......悪かったですか?」
「いや? 全然いいよ、別に。むしろ夜が良い。昼は仕事があるからね。じゃ、始めよっか」
そう言って生命神は俺の方に手を伸ばす。
「おぉ!?」
何をされるのかと思ったら、生命神の手の上に、何かが浮いていた。
青色の淡い光を放つ玉。あれが俺の魂か?
「あ、そこ座ってて。離れすぎると死んじゃうから」
死んじゃうという言葉を聞いて、すぐに座る。
サラっと怖いこと言われたな、魂が離れすぎたら死ぬって。
「おー、この部分天使っぽい。あでもこっちは人間―――」
生命神は、興味津々といった様子で俺の魂をまじまじと見ている。
「あの、天世界って、冒険者みたいのあります?」
「......」
「あの、生命神様?」
「......んぇ? あぁ、冒険者ね。あるよ、なりたいの?」
「はい」
あの天使を見つけるために、情報を集める必要がある。
でも、村人たちに聞き回っても、全員知らないと言った。
それなら村の外に出て情報収集すればいいが、その場合、ミーヴの家に定住していると都合が悪い。
だったら、その場に留まらない冒険者が適していると思ったのだ。
「まぁ、アルタくん怠惰級相手に粘ったらしいし、いいと思うよ」
生命神は会話中も、ずっと魂を観察してる。
たまに触ったりしながら「おぉ」とか言ったりしてる。
「―――なーるほどね、こりゃすごいや」
生命神が俺に手を向けて、魂を戻す。
「キミの魂、最初の時より強くなってるよ。心当たりあるんじゃない?」
「あー、あります」
心当たりはある。
悪魔と戦ってたら、なんか動きが少し遅く見えるようになった。
「きっと、天世界に来て魂の天使部分が覚醒し出したんじゃないかな。ホント興味が尽きないや」
おぉー。天世界に来て天使の部分が覚醒......天使の部分?
え? あくまでも天使に似ているって話じゃ......
「天使の部分というのは......?」
「―――あっ」
生命神の目が、右へ左へ揺れだした。
え? 何か悪い話なのか? 待て待て待て。いや、まさか......そんな
「最後に言うつもりだったんだけどね」
ちょっと待って
「キミの親、片方は」
その先は
「天使......だよ」
聞いてしまった。片方は天使。
天使は死後、魂が消滅するから、転生できない。
つまり、父さんと母さん、どっちかは理不尽に殺されて、そのまま消えた。
でも、なんとなくそんな気はしてた。
俺は天使と人間のハーフ。だから魂が似てたんだ。
それくらいでしか説明がつかない。
「......そうですか、分かりました」
目元が熱くなってくるのを感じながら、俺は小さく呟く。
ズボンに1つ、また1つと、水滴が垂れ落ちる。
「―――ごめんね」
▶▷▶▷▶▷
森の冷たい空気が、頬をかすめる。
あの後、生命神から追い討ちを掛けられるように、人間の方の魂はもう消滅したことを聞いた。
1週間して見つからないなら、もう消滅してるとのことだ。
いや、追い討ちなんて言い方は良くない。
生命神に聞く気はあるかと訊かれて、あると答えたのは俺。
生命神は悪くない。
「......」
無言で森を歩き続ける。月明かりは中々通らず、道は暗闇に包まれたまま。
「......殺す」
ふとそんな言葉が飛びだした。
家族皆殺しにされて、俺だけが奇跡的に生き延びた。
あの天使に向けている感情は、憎悪以外すべて消えた。




