夏休みの終わり
無事に、悠先輩の別荘から送り届けられ、自宅で宿題を終わらせにかかる。
途中、類の勉強を教えつつ、家族で日帰りで旅行に行ったり。
夏休みの終わりの日まで私は忙しかった。
此処迄充実した夏休みで良いのかと思う程、充実して居た。
闇落ちする暇も無いくらい、楽しい日々だった。
中学の時のアニメ好きな友人とも数ヶ月ぶりに会って、お茶をしてアニメの話に花を咲かせた。
と言っても、会うのが久々なだけで、メッセージアプリでやり取りはしていた。
私が貴族の通う学校に通っても彼女達は、変わらず接してくれて有り難い。
…変わって居るのかも知れないけれど、そう言う部分を見せずに接してくれるのがとても嬉しい。
「小次郎様のグッズ出過ぎじゃない?」
私がそう言うと
「ほんそれ!(本当に其れな!の略。同意する時に使う事が多い)」
ブラウンの髪色、ショートカットの友人のカンナが言う。
「逆に信長様は出ないんだよ」
「信長様は大変なんだよ」
翡翠色のロングヘア、ぱっと見お嬢様風な彩里が言うと、カンナが
「大変って何が」
と返す。
「ほら、信長様って色んな作品に居るじゃない?歴史ものと言えば信長様!!!!!みたいな。其れの棲み分け?」
彩里はアイスレモンティーをストローでかき混ぜる。カラカラと涼やかな音が鳴る。
「たしかに。」
納得行ったか行って無いかは判らないが、何となく腑に落ちた様な声色で、カンナが言う。
「でも、私は全信長様が好きな訳じゃなくて武士恋の信長様が好きな訳よ。ツン多めのくせに、実は一番手助けしてくれているってのが萌えポイントで!!!!!!」
そう言って、カンナはミルクカフェオレを一気飲みすると立ち上がり、新たな飲み物を注文に行く。
「相変わらず、カンナが強火で安心する」
そう言うと
「分かる。でも、カンナは壁になりたい派の子だから、武士恋の乙女ゲーム(コンシューマーゲーム)はプレイしないんだよね」
(購入はしているらしい)
「解らないでも無いけど、私は思う存分小次郎様と逢引きさせて頂いております」
と言って微笑む、璃々那。
「逢引き」
クスクスと笑う、彩里。
カンナがホイップクリーム増し増しのアイスココアを持って来る。
「何の話?」
「武士恋の乙女ゲームの話」
「カンナが壁になってる間に、私は小次郎様と逢引きしてるって」
「ああ。あれね。私も始めたよ」
「始めたの!?」
驚く彩里と璃々那。
「そう。別にヒロインイコール私じゃないし?」
「キャラメイクできるのに?」
「うん。SNSで別作品の推し風にキャラメイクした人の見てたら、つい」
「なるほど……別作品での推しと恋愛させると」
「そうそう。飽くまでも私は壁だけど」
「……壁が選択肢を選んでいるの?」
「選択肢は天の声的な事だと思い込んで」
「え、壁ドンとかあったら壁、接近しちゃうじゃん」
そう言ってから三人で笑う。
「その場合は別の壁に移動してる設定で」
「壁自由過ぎる」
「まあ、信長様壁ドンしないけどね」
「暴君なのに」
「壁ドンは案外別のキャラに持って行かれるよねぇ」
カンナが激甘ホイップの乗ったココアを一口飲んだ後
「別のキャラ?」
「土方さんとか」
「ああ、ツンデレ属性」
「デレ…までが長いあの人!」
彩里が嘆く。
「お、流石新選組箱推しの彩里さん」
生暖かい視線で、彩里を見るカンナ。
「別に箱推しでは無いが!?」
「え、違うの?私も彩里は新選組箱推しかと」
「土方さんと沖田と斎藤さんは好きだけど、他には興味が無いと言うか」
なぜ沖田だけ呼び捨て。
「3人推してたら箱推しでは?」
「違うと思う!」
「箱推しの定義とは。」
冷静を装い、璃々那が問うと
「派閥のモブさえも愛せる人」
「派閥」(カンナ)
「モブ」(璃々那)
「新選組で言うと、史実にすら余り出てこないような隊士1、2、3みたいな?」
「ひど」
「うん、知ってる。所謂歴女の人達からは懸念されるだろうけど、私みたいな二次元での新撰組、幕末維新?みたいなのは好きだけど詳しくない人からすれば新選組の局長、総長、副長、筆頭局長、参謀、何となくの組長は知ってるけど…みたいな?」
「創作物に余り出ない人達は知らないと」
「それ!」
「だから箱推しは違うと思う」
「飽くまでも武士恋に出てくる新選組メンバーは全員推してるじゃん?」
「まあね。でも今以上に増えられてもキャラ覚えきれない」
「あ~ね…」
深く頷くカンナ。
パタパタと足音が近づいて来る。
「あ~!やっぱり、璃々那ちゃんだぁ!」
振り返ると伊織ちゃんが、黒いタンクトップの上に半袖位の長さのワイシャツを肩出しで着てる風の服装で居た。
「伊織ちゃん!?」
ウィッグ付けてない
「すごぉい、偶然だねぇ。お友達?」
「あ、うん。昔からの友達」
「カンナです」
「彩里だよ。あ、もしかして、りりの話によく出てくる、伊織ちゃんくん?」
「何、ちゃんくんって」
「ん、初めましてだし?」
はじめましてだし?は答えになってないと思われる。
「ボク自身は何て呼ばれても良いよぉ?」
「今日は髪長くないんですね」
淡々と言う、カンナ
「あぁ、うん。ウィッグ夏は熱いから。」
「今日は、伊織ちゃん1人?」
そう訊くと、伊織ちゃんは面倒臭そうな表情で
「いや今日は奏太と一緒……」
「え、五十嵐先輩と?あの人忙しいんじゃ」
「その筈なんだけどね?偶々オフだから、カフェ巡り付き合えって。」
「イガラシ」
「いがらし」
「りりの話には出た事が無い名字」
カンナと彩里は首を傾げる。
「あ、うん、特に名前を出すほど仲良くないし」
「璃々那ちゃん、酷いなぁ」
後ろから声が聞こえる。
「初めまして、レディたち。今はオフだから何のサービスも出来ないけど、璃々那ちゃんの友達の五十嵐奏太です」
帽子とマスクをしている五十嵐先輩がマスクを外す。
「あ、ども、りりの中学時代の友人です」
塩対応のカンナ。
「同じく、りりの友人です」
作り笑いの彩里。
「?????あれ?俺の事知らない?」
困惑気味の五十嵐先輩。
「はい」
カンナと彩里は声を揃える。
「まじかー…俺結構有名になって来たんだと思ったんだけどなぁ…」
「有名な人なんですか?」
彩里は作り笑顔を崩さずに言う。
「大丈夫、ボクも今の学校入る前まで知らなかったから」
伊織ちゃん辛辣。
「あー…私は知ってたよ。弟が好きで見てる番組に出ていたし」
「璃々那ちゃん…!!!」
嬉しそうな表情の五十嵐先輩。
「私は別にファンとかじゃないけ…ど」
あからさまに拗ねてる表情をされると少しだけ良心が痛む。(少しだけ)
「ああ、うちら、アニメと漫画とゲームしか興味ないから…なんかすみません」
何となく謝らないと思ったらしいカンナが謝る。
「あ、此方こそごめんなさい…そうだよな…少し人気が出てきた気がするからって、知らない人が居る事が当たり前なのに…」
あれ、闇落ち五十嵐奏太?来る?
「俺、もっと仕事頑張らなきゃな!」
あ、違ったやる気出た、五十嵐奏太になった(?)
「何のお仕事をなさっているのですか?」
綺麗な愛想笑いをを崩さずに彩里が訊く。
「オールマイティーな芸能活動かな。歌うたったり、レポーターしたり、バラエティーで体張ったり、踊たり、演技したり」
「バラエティーで体張ったり?」
カンナが訝しむ。
「上から目線キャラとか、クールキャラは苦手だし、まだ凄い売れてるアイドルでも無いからね。爪痕残す為に色々な仕事をしてるんだよ」
珍しく真面目な事を言って居る、五十嵐奏太。(何故かずっとフルネーム呼び)
「芸能人って大変なんですね」
カンナ、納得する。
「でも好きでやってるから、其れなりのプライドは持って居るんだよ」
何か急に眩しい気がする。
…あ。カフェの中に西日が差しただけだった(五十嵐奏太、不憫枠?)
「貴族なら其れなりに、家の権力振り翳して仕事取ったりは出来ないんですか」
カンナ、えぐい質問…
「あー…俺の家其処まで上位じゃないし。」
上級貴族ならやったのか?
「其れに、貴族だろうが、平民だろうが、本当の人気って買えないんだよ。」
…深い事を言って居る様で当たり前の事を言ってる気がする。
芸能界よく解らない。
と思う。璃々那。
「ねぇねぇ、璃々那ちゃん、明日から学校再開だねぇ…夏休み…終わっちゃうねぇ」
「そうだね。」
璃々那は楽しみにしていた。学校内の図書館は夏休み期間は使えなかったから。
…まぁ、独りクラスの事がどうなって居るのかは知らないけれど。
カンナ、彩里と別れ、
伊織ちゃんと、五十嵐先輩とも別れ
家に帰る。
…そう言えばと思う。
二学期も、“本当の姫花”は学校に来ないのだろうか。
本物の方が強そうだったな。圧が。




