変化、シテマス
八名の救護隊が加わったとはいえ、空中をのたうち回っている鳥のゴーレムに向かって残った魔追槍を放っても、【風のとりもち】が互いに絡まり魔追槍同士で相打ちになり、さらに隊員たちが単発的に放つ【風のくさび】も同じようになかなか命中せず、鳥のゴーレムを倒す決定打とはならなかった。
「ラクルムだ。各救護隊、ポーションの状況を知らせよ」
『生命力は大丈夫ですが、消魔水によって魔力ポーションの減りが早いです。このままでは帰りの魔力が……』
「了解した」
(やはり諱の相手は諱のモノか……)
何かを決意したラクルムは、風の隊員へ指令を飛ばす。
『総員! 撤退準備! 負傷者を中心に配置し、戦える者がその周りで直掩に当たれ!』
「ええ~! 撤退!?」
「まだあいつはピンピンしているのに~?」
「まだ暴れ足りないぜ!」
「ねぇねぇ、追いかけてきたらどうするの~?」
そんな風の隊員達からの疑問にラクルムは答える。
『敵の、闇の魔術師の狙いは義勇隊と我らを分断させることだ! こうしている今にも、魔物の本隊が義勇隊、そしてヤゴの街を襲うやもしれぬ。安心しろ! 私一人で殿、そしてこいつを抑えてみせる!』
隊員達が動揺する中、救護隊になったカタリーナが手を叩きながら皆を呼び集める。
『はいは~い! あたし達救護隊の周りにみんなしゅ~ご~! ちんたらしている子はポーションあげないわよ~』
帰りのポーションを握っている救護隊の命令には逆らえず、隊員達はカタリーナ達救護隊の周りに集まってくる。
『(すまぬ、カタリーナ)カタリーナ、おまえが帰りの指揮を執れ! 一番武勲を挙げたのだからな。責任は重大だぞ!』
「うえぇ~!」
ラクルムの意地悪を含んだ声にカタリーナの顔はゆがみ、周りの隊員達ははやし立てる。
「よっ! 隊長代理! かっこいい~!」
「ではカタリーナ隊長代理殿! 参りましょう!」
「隊長代理~。ポーションよりおなかすいた~」
『うるせぇ~! 幼年学校の遠足じゃねぇんだぞ!』
『帰りも気をつけるのだぞ。どこに伏兵がいるかもしれぬ』
「はい! 隊長! ご武運を!」
『おう! おまえ達もな』
カタリーナを先頭に風の部隊がヤゴの街方面へ飛んでいくのを見届けたラクルムは、改めて鳥のゴーレムと相対する。
東の園の魔物側の陣では、ようやく痛みが落ち着いたイタチが手を伸ばし、罰当たりぃの投影画面をあちこち触っていた。
「やれやれ、結界破りの為の消魔水を撒き散らしてしまうとは不覚をとりました。それにしても太古人の投影遊技はよくわかりませんね。ちょっと振動が来るだけでこんなに体が反応しては、一体どうやって遊んでいたのやら……」
『あっはぁぁ~~~ん』
突如! イタチの眼前に現れる裸体の女性。
「んなぁ! な、なんと! おっのれ~ラクルム! 我に勝てぬとみるや色仕掛けか! 魔導研究所の魔法師ともあろうモノが、恥を知れぃ!」
憤慨するイタチであったが、ついついその女性を凝視すると、どことなく違和感を覚える。
「いや、これは……ラクルムはこんなに豊満な肉体のはずは……ウェントは……あそこにいるな……ましてやひよっこ共の誰一人にも当てはまらぬ」
イタチは罰当たりぃを外し辺りを見渡すと、再びかぶり、そおっと眼前の女性に手を伸ばす。
『いやあはぁぁん!』
柔らかい感触がイタチの手に伝わり、それは歓楽街のお姉ちゃんの柔らかさとぬくもりそのモノであった。
「ドフ……ヂュフ……」
鼻を伸ばすイタチを周りの魔物は不思議そうに眺める。そしてふと気がつくと
「な、なんと破廉恥な! なんと退廃的な! こんな事にうつつを抜かすから太古人は滅んだのだぁ!」
しかしすぐさま真顔になり、一人呟く。
「後学の為、この戦が終わったらじっくり堪能……いや、研究しよう……ん? 切り替え?」
イタチが投影画面の隅にある矢印ボタンを上下に押すと、いろいろな投影遊技が現れ、最後の『外部入力』に合わせると、鳥のゴーレムの目から見た景色に切り替わった。
「……と言うことはこっちは」
反対側のボタンの下矢印を押すと『同期の強弱』の文字が現れ、最大だったレベルが徐々に下がっていく。
「そういうことでしたか、だから魔追槍や【風のくさび】の衝撃がそのまま私の体に……ならばこれで怖いモノはありませんよ! ……ってあれ? 風の部隊は? また雲の中か! ……あっら~雲一つないきれいな空だこと」
『おい! 聞こえるか《小心者》! そろそろ決着をつけるぞ!』
辺りを見渡す鳥のゴーレムに向かって、ラクルムは【拡声】の術を”唱えず”小さな口から吠える。
『フッフッフ! 《腐れ女》の眷属である《貧乏くじ》……の眷属である《音痴》風情が、よくもまぁでかい口をたたけますねぇ!』
「お、《音痴》って二つ名で呼ぶなぁ! ふん! みずから出陣せぬ《小心者》の《引きこもり》がよく言う!」
『おやおや、ガラガラ声は遠慮して頂きます。貴女の声は分割絵巻に出てくるガキ大将のように、太古の超兵器に匹敵しますからね。……ところで風の部隊は?』
「義勇隊の援護に向かわせた。ゴーレムごときに我ら風の部隊が全力で当たるまでもない! 私一人で十分だ!」
『よくぞ申しました! こちらも鳥のゴーレムの”ちゅーいんがむ”は完了しました。これで心置きなく戦えます!』
「ほざけ! 『サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ』!」
ラクルムが詠唱すると、その体は竜巻のような風に包まれる。
『変化ですか……。まぁそうでなくてはこの鳥のゴーレムには勝てませんからね』
そして風が晴れたラクルムの体は、中折れ帽子やローブ、風のマントを纏った魔法師の姿ではなく、黄金の翼を背中から生やした赤い甲冑姿へと変化した。
『乾闥婆風情が我と戦うなぞ……思い上がるなぁ!』
ラクルムに向かって吼えた鳥のゴーレムは、その口から螺旋状の【風の波動】をラクルムに向かって放つ!




