チームF 3
「俺にモトキにベルガヨルの御付き人2人。あとの1人、立ち止まって見渡しているだけでも見つかりそうだな。なんなら大声で叫んでみるか?」
「では金品あげますと付け加えて叫ぶのはいかがでしょう?どうせあと1人、眩だ者で済ませるのもありですね。それとも、私なりの提案になりますが脅すのが手っ取り早いですね。支給ナイフで首にほんのちょっと傷をつけてあげましょう」
「では行ってきます」と意気揚々に、モトキが羽交い締めにして彼を止める
オーベールは金品類は誰が用意して渡すんだ?と羽交い締めにされている最中の彼に尋ねてきた
「ベルガヨル様のお部屋に白金製のリングが4、5個まとめて置かれてあるんです。いつ購入なされたか覚えておりませんが、今は興味すら皆無みたいですのでそれにいたしましょう」
主の部屋にある物を勝手に、入ってくれた者への品として使っていいのだろうか?
モトキは目で女性の方を見るが、彼女は彼に物申す気配すらない
「あ、あの・・・」
本気で叫ぶつもりでいたオーベールに1人の女性が近づき、声をかける
声主の顔を見て、彼は珍しく取り乱している様子。慌てふためくのではなく、「え?え?」と次の言葉が思い浮かぬまま硬直
「どしたオーベール?お前のその様子だと、初めましての相手ではなさそうだな。知り合い?」
「あ、あぁ・・・顔見知りぐらいには」
彼女はむっとしていた。オーベールはすぐに謝る
苦手意識、というものとは違うようだ
「久しぶりじゃないオーベール。同じ学園に通ってるのに全然顔合わせずじまい」
「そんなクラスもちげぇのに、頻繁に会う理由もわざわざ出向く必要も今更無いだろ。耳にしたくなる話題も変わってくるってのによ。な、モトキ」
「どうして俺にふる?」
どうやら顔見知り程度ではなく、そこそこ彼女とは親交があったのだろう
人当たりが良く、普段は陽気なオーベールの態度の変わり様も意外で面白くなってきた
「そこは流されながら、そうだねの一言を言ってくれよ」
オーベールは深く溜息。モトキはなんだか自分が悪いみたいで腑に落ちない
「なに揉めてるの?」
むっとした顔から、膨れっ面へ。置いてかれそうになっているからである
彼女の表情変化にどう対応すべきか悩むオーベールは、困り顔で頸を掻く。痒くもないのに
「揉めてねぇよ」と素っ気なく返答
「なぁオーベール。お前の知り合いだろ、どちら様だ?」
「知り合いというか、腐れ縁になりかけというか。俺の実家の3つ隣に住んでて、朝陽に追いつくそうなぐらい顔を見たというか・・・」
この答え、易々口からは出ない。簡単に言うと幼馴染でいいのだが、親しすぎるかといえばそうでもないので
「わかりやすくすると、幼馴染。オーベールと私は」
「へぇ、学園入学前からの付き合いがある人がいたんだな。オーベールと知り合って2月ぐらい経つけど初耳だ」
「お前がその間柄を言うか!?」を、声に出して言いたかった。でも心で叫ぶ
「はぁ・・・んで?そんな幼馴染をたまたま見かけたので、話題も無いけど一応顔見知りだから声でもかけようかなと?」
「それもあるけど・・・」
口籠っている。後一歩、踏み出せずにいようだ
首を傾げるベルガヨルに、察したモトキが突破口を開く
「オーベールの腐れ縁になりかけさんよ、もし頼めるなら俺達とチームを組んでくれないか?あと1人なんだ。鼻つまみ者の俺と関わったせいで、本来ならとっくに5人集まってそうなオーベールの足を引っ張ってしまってさ」
こちらから誘い活路を作り嬉しそうに目を見開くが、すぐ頬を少し赤らめながら咳を1回
「4人も集まっているじゃない。まだ1人でウロウロしてる人もけっこうな数いるし」
「運がよかったんだ、おかげであと1人。適当に捜すより、チーム内での知り合いの誰かが入ってくれるなら、その方が良いに決まっている。もし都合が合うなら」
彼女は髪を撫でながら、オーベールをチラ見して悩むフリを始める。最初から彼を誘うつもりだったことをモトキは気づき、きっかけを与えてみたのだ
そんなオーベールは、その視線に全く気づかず
「オーベールはどう思う?私が入るの」
「なんで俺に訊くんだよバカタレ!」
彼女はオーベールの両頬を抓り引っ張り、上下に動かす。「ごめんなふぁい」と、彼はすぐに謝った
「くそぉ、今度の夏休みに実家帰ったらお前の家の前に釣り用ミミズを大量に買ってきてばら撒き、栄養満点の土壌にしてやる」
「やれるならやれば?おばさんに言いつけるから」
ギリギリと、歯を噛み締め擦るようにしながら動かし彼女にピリつく視線を送るが無効力である
そもそも、オーベールにはまだ震えや痺れを起こせるほどの睨みなど無理なのだ
「終わりましたか?」
ベルガヨルの付き人である男性が地図を、女性の方は小さな1枚の変哲の無い紙切れを手に
流れから彼女が入りそうだったので、間に貰いに行ってくれていたようだ
男はモトキ、オーベール、そして5人目となった彼女に視線を向けてからその場に地図を広げる。今いる場所からかなりの規模まで囲うように続く山々、圏内全域が記されていた
地図にはコンパスで26ヶ所の円が描かれており、その円内にはAからZまでのアルファベットを炭印している
地図の上に、もう1枚の紙切れを落とす。そこにはFの文字
「紙に書かれたこのFと、地図に印されたアルファベットからある程度察しがつきますか?」
「詳しいルールまでは汲み取れないが、2つの大まかな予想がある。1つはその書かれたFを持つチームは、この地図に印されたFの場所へと向かう。もう1つは行動範囲がそこに限定される」
自分の大まかな考察を述べるモトキの横で、オーベールは首を傾げていた
ちょっと理解が遅れたが、述べた2つの予想を聞いて納得したのか右掌に左拳を打ち付ける
「正解は後述です。我々はこの紙切れに書かれたF、それと同じく地図に印されたFの場所で行動を余儀なくされるのです。ですが、そこで行動をするのは我々だけではありません。他者2人のを盗み見したのですが、J5とT1が書かれていました」
「アルファベットが26、学年の人数からして一単語ごとに6から7ぐらいまでありそうだ。ルールはどうだった?」
「とても簡単に、簡潔に説明されました。それをお教え致しますがその前に・・・」
ベルガヨルの付き人である男は一瞬だけ間を置く、再度口を開くまで長いとは皆無のはずなのに無駄に長く感じてしまう。親指で額を1回つつく動作があったからであろう
「自己紹介でもしましょう。お初目同士もいますので」
「真剣な顔をして何だろな?と思ったら・・・まぁ、いいんじゃないか?俺はお前らとは初めましてじゃないけど、名前は未だにだ。オーベール以外は全くだし」
「俺も賛成!ファーストコンタクトに自己紹介は大切でよな?名前を知らないままチームでいるのも居心地悪い。呼ぶ時も不便しそうだからな」
「偽名でも構いませんよ。呼べればいいですから」
ベルガヨルの付き人である女性の方はハニカムように静かに笑った。むず痒くもあるが、こういう空気も悪くないに浸かり始めている
オーベールの幼馴染である彼女はキョロキョロとチームの人々を見回し、少し緊張気味
「まずはどなたからいきます?モトキ殿は1名を除いて皆、名を存じておりますので。私が今言ってしまいましたのでお好きな食べ物でも言ってください」
「おいおい・・・」
「では、誠悦ながら言い出しっぺである私から。私、ベルガヨル様の元で付き人、役職でいうバトラーをさせていただいておりますメイソン・エバリンズと申します。今日の行事に限り、お知りおきを。はい、次」
退がり、同じ付き人である彼女の背を叩く。睨みつけ、彼の脇腹にまた肘打ち
軽く仕返しではなさそうな音だった
「私もベルガヨル様の元で従者をしております。名はライリー・エバリンズ、お知りおきを」
「あれ、同じ姓?兄妹?それとも姉弟?」
「違いますよモトキ殿、メイソンとはいとこ同士です。彼は私の父の兄の子です」
ジョーカーとの戦い以降、ベルガヨルとはよく偶然なり出会う機会が増え、部屋に遊びに来ることもあった。当然、ライリーは傷で休養をしていたので特にメイソンがいる場面が多かったものの、2人がいとこ同士なのは初耳である
元々、名前すら知らぬままだったのだが
「ベルガヨルだぜ、ベルガヨル。Master The Order内でも他者を喰う態度が酷いって噂の。その近くにいるやつとチーム組んでんだ、驚かないのか?」
「あなたがさっき驚きの大声で喚いたおかげで周知よ」
「そうか・・・」と、少し悲しげな顔。彼女のリアクションが見てみたかったのだろうか?
メイソンが「お次はどなた?」とモトキに尋ねている。じゃあ、自分からいこうかなと前に出た
「はーい!俺だ、俺。俺はオーベール・ボラントル、モトキとはクラスメイトの隣同士だぜ!」
「はい、そうですか」
ものすごく、興味のなさそうな味気ない返事をされた。あれ?とオーベールは固まってしまう
メイソンはそんなの御構い無しに、「そちらのお嬢さんは?」と尋ねる
「は?え?あ、そうだよね。私、ヒナト・カナギといいます」
「なに最後辺り丁寧口調になってんだ。接したことのない人達ばかりで足腰震えたのか?おいモトキ、こいつのことは気軽にバイオレットアイと呼んでいいぞ」
「あだ名の方が長いな」
そのバイオレットアイに覚えがあるのか、しかし手前で思い出せずにいるメイソンは顎に指を当て、喉まで出かけているそれを記憶から絞り出そうとする
その様子に、ライリーは「聖帝直下親衛隊」とさりげなく呟いた
「そうでしたそうでした。バイオレットアイは聖帝直下親衛隊部隊長の1人、クウィーシー・アンビリアンの呼び名ですね。そのバイオレット色の瞳に睨まれたら命を縛り潰されると」
モトキは誰?といった顔。「そうそう」と反応するオーベールに、まさか知らないのこの中で自分だけ?とちょっとだけショックを受けた
「昔、俺とヒナトは遠目からだけど見たことがあるんだ、その人を。こいつは同じ色の瞳をしていたから時折こうしてイジるのが昔の俺達内で定番になってたのにな」
「やられるこっちはいい気分じゃないけど。揶揄い道具にしてるなら、向こうにも失礼だし」
タイガやミナールはその者を知っているのだろうか?時折、聖帝の所へ招かれているようなので
少しは、聖帝や帝といった上の周りを勉強したほうがよさそうだ
「おいモトキ、最後はお前だぞ。名前はもう言われまくってるけど」
「あ?あぁ・・・モトキ、姓はない。基本的に果物も好きだし肉類も好き、魚ならソイが好物だな」
「メイソンに言われた通り好物言うのかよ、変に真面目だなモトキ」
「他になかった。お前と同じクラス、席が隣同士の自己紹介文も無くなったのでな」
オーベールは企むように笑ながら「俺のせいか?ん?」とモトキの背に肘をつけてグリグリ動かす
モトキは、こんなくだらないことで笑ながら揶揄いあえるのがちょっぴり嬉しい
最近、肉体にも精神的にも削がれる敵を戦う事が続いたので
「名前の紹介が終わったことですし、全員支給されたリュックの中を確認しましょう。中身を比べて入れ忘れがないか、または意図的に違う中身にしたのかを確かめておきたいのです」
支給された際、中身は見ていた。中には鉛筆2本。野営ナイフ。消毒液と包帯だけの最低限治療道具。原始的な火打石。そしてあまりにも少なく、ワザとらしくカロリーすら期待できないよう野菜と僅かな穀物を混ぜてから固め、最後に乾燥させて作られた戦地食
全員のリュックにそれらが入っているか、または別の物が入っていないかを確認する為にそれぞれがその場に中身を置いていく
「方位磁針は無しですね。まさか切り株から方位情報を得よといった迷信を実用しろとでも?」
支給された野営ナイフを手癖で右手の指と指の間を移動させるメイソンは、全員の置かれたリュックの中身に目を通してから「隠してる物はないですか?」と尋ねる。この一言で、相手の反応を見て探る
「俺達じゃあまだ、そんな企み思いつかないさ」
「それもそうですね」
モトキの言葉にあっさりと納得してしまい、荷物を片付け、リュックを背負う
「たぶん最も重要となるでしょう食料についてですが、これは現地到着時の話題としましょう。そろそろ、移動に入りたいです。お時間には余裕を持って」
「そうだな・・・」
「同意」
モトキとライリーもそれには賛成である。2人はリュックに取り出した荷物を仕舞い、背負わずに紐を手に持つ
「俺達はどこに行けばいいか、案内できるならしてほしい」
「ではモトキ殿、こちらへ」
メイソンが先導、リュックを手に持つモトキは後を追う。更に後をライリーが付いてくるのだが、その前に手に持っていたリュックを背負い、オーベールとヒナトの2人に「行きましょう」と一言
慌てて出した荷物を片付け、リュックを背負い追いかける




