チームF 2
2日後、まだ朝陽が昇る手前の刻。街外れに聳え立つ山々、その麓にて生徒達が一堂に会する
川を後ろに、生徒達を前に、学園長は眼鏡を拭いていた
早朝すぎてうたた寝をしている者、大きなあくびにだるいと愚痴る者もちらほら
ワザと大きめに咳き込み、こちらに注目させ、間を置いてから口を開く。この大人数、よく届く程の咳き込みができたものだ
「諸君、本日は天候に恵まれたな。今年の生徒達は運が良い」
悪い年でもあったのだろう、毎年上手くいき、天候が味方するとは限らない
学園長は話を続ける。それが耳に入らず上の空になっている全生徒に支給されたベージュ色のリュックを背に、オーベールの横でモトキはまだ夜空に属する空で微かに肉眼に映る雲を眺めていた
「なぁ、モトキ。起きてるかぁー?」
「起きてる。目を開けたまま寝るなんて器用な真似は俺にはできねぇからな。昨夜はちゃんと寝たからバッチリだ」
「けど眠たそうなボーっとの仕方だったぜ」
長くなりそうなので空を眺めるしかない。学園長の声は耳に流れてはいるので重要そうなことを話せばそちらに意識を向けるようにしている
ふと違和感のある気配を察した。周囲を見回す
いた、この大人数の中でもはっきりと存在感がある白い頭巾で顔全体を隠した者
やつの周りにだけ人2人分程のスペースが、不気味さと只ならぬ気配に誰もが近寄り難い
「うーん。支給された服、なーんかゴワゴワして落ち着かない。俺のサイズちゃんと確認したか?学園側」
今日支給されたリュックとは違い、前日に生徒へ支給された濃いめのカーキ色をしたつなぎのような野外活動服を当日に着用するよう義務付けられた
「では諸君らよ、これより5人1組となってもらおう。組み終わり次第、地図を1チームに1枚渡す」
チーム組み、強要である
入学してから1、2ヶ月程もあれば同学年やクラスメイト内でグループができたり、普段行動を共にする者がある程度絞らているだろう。そういった友人同士に各個人、別の知人が連鎖して集まればすぐに5人1チームはできるはずである
呉越同舟しかり、現地でのチームを組み状況を脱しなければならない場面がこの先に訪れるかもしれない、それを踏まえてのチーム作りのつもりなのだろうが、ただの学園にある行事、深く考える必要もなく、理解している者は果たして何人いるだろうか?
急に今からあまりどころか一言すら話したこともないやつとチームを組むより、普段から話したり行動を共にしているやつを選んでチームを組むだろう
モトキは動かないでいた
(タイガもいなけりゃ、オーベールも誘われている最中だし、1人足りない余ったところに入れてもらおう)
オーベールは人当たりが良い、クラスや教室外でも談笑を楽しむ姿を見たことがある
今も誘われている、はずだったのだが謝っている様子。誘ってきた者達に苦笑いしながら手を振り、モトキの元へ
「モトキ!俺と組もうぜ!」
「誘いを蹴って良かったのかよ?俺はけっこう距離置かれてるところあるから下手したら2人仲良く、余り枠だぞ」
「どうにかな・・・っ!」
「どうにかなる」と言う途中、突然彼は硬直した。何か得体の知れないものを見る目で
ふと、モトキの肩に強く手が置かれる。振り向いた視界には、白い頭巾で顔を隠していたやつがもう片方の手の親指で自分を指していた
まるで、俺と組もうと言いたげに
「ずいぶんとお餅のヒーローみたいな人と知り合いなんだな、モトキ」
「いや、俺はこんなやつお餅みたいな白さで顔を隠すやつなんて知らねぇぞ」
一体誰なのだろう?身長はだいたい自分と同じぐらいなのでタイガではない
その被っているものを取って欲しいと頼むと、相手はグッと親指を立て承諾してくれた
嫌がるのかと思ったら、意外に物分かりの良いやつである
被っていた白い頭巾を脱ぎ、地に勢いよく叩き捨てた
「俺だぁーっ!モトキぃ!」
「なっ!ベルガヨル!」
脱ぎ捨てた白い頭巾を踏みつけ、高笑い。とても目立つ
「ベルガヨル!?ベルガヨルだと!!Master The Orderじゃないか!!」
オーベール含めザワつきの始めた。しかし興味本意に近く者は誰もおらず、周りから余計に距離を置かれた気がする
「どうしてお前がここにいる?いや、一応同学年だったな。そういえば」
「そうだ。馬鹿みたいに毎年するこの行事に参加してやったぜ!」
踏みつけた白い頭巾はもはや白さなど程遠く、汚れてしまっている。素顔となり、周りからのヒソヒソ話などお構いなさそうだ
そんなベルガヨルにオーベールが問う
「でも、Master The Orderは参加できなかったのでは?」
「んなこと知るかぁっ!階級特権でどうにでもしてやる」
オーベールに、顔を数倍巨大化させて声を投げつけた。声の声量で仰け反りそう
次にモトキに、親指を立てながらやってやったぜ!と言った顔、何故かキラキラと輝いている
しかし、そんなベルガヨルの背後より不穏な空気が漂い、その先から突き刺す視線が
力強く、ベルガヨルの頭が掴まれた
「なにをしているのだ、ベルガヨル君よ」
「が、学園長!この朽ち果て手前の松木め!俺様に構うな!さっさと進めろ!」
中指で眼鏡のブリッジを下から軽く押し上げ、レンズを光らせるとベルガヨルを連れて行ってしまった
踠きを晒さず、暴れもせず、口だけうるさい
「だーーーっ!離しやがれ精気枯れかけじじい!」
モトキとオーベールはその光景を見送るだけしかできなかった。正体を現し、すぐに去っていった
何がしたかったのだろう?戻されるのはわかっていた節があるので、なら脱がなきゃよかったのに
ベルガヨルのことは一旦忘れよう
「さぁて、1人寂しくいそうなのと2人3人から集まってなさそうなところに当たり次第声をかけていこうぜモトキ」
意気揚々、1人余り適当なところへ組み込まれるのを待っていた自分とは違う
こういった部分は見習うべきだ
走りながら目を配らせるオーベールだったが、彼の前に誰かが立ち塞がる
ベルガヨルが被っていた物と同じ、白い頭巾で顔を隠している。またかよ!と内心でツッコミ
「あの精気枯れかけの学園長から逃げてきたのか?」
無言、からの白い頭巾を破く。「私だよ」と、破れた頭巾の切れ端の先から、ベルガヨルの付き人であった男が
「どちらさまですか?」
「さっき連れてかれたやつの付き人だ」
驚きで瞳孔が縮小したオーベールへお辞儀、しかしそれは彼へ向けてではなく、後ろにいるモトキに向けてである
そうとは気づかず「あ、どうも」と返したオーベールへ、「貴殿ではありませんよ、凡愚野郎」を笑顔でサラリと発言
「失礼な発言を慎みなさい」
そんな彼の頭上より拳骨が落とされた。けっこういい音
痛がらず、蹲り震えてもせず、彼は本心ではなさそうに笑う
拳骨を落としたのはベルガヨルの付き人である女性の方であった。ジョーカーの影に胸を貫かれ入院、一月程で退院するも主よりしばらく大事を取って休みを言い渡されていたが最近復帰したようだ
「つい先ほど、我が主が騒ぎ立てを」
仕返しとばかりに男は彼女の後髪をリュックに入っていた支給のナイフで切断しようと刃を当てるが、肘打ちを撃ち込まれてしまった
さすがに少し効いたのか蹲る
「俺に何の用だ?ベルガヨルが俺に友好的なのが気に入らなくて、あいつに内緒で闇討ちでもするつもりか?」
「だとしたらこうして、面と向かって騒ぎ立ての詫びを入れてません。やるなら、もっと人の密集率が上がったタイミングを見計らって紛れながら喉笛を切り裂くか、今回の行事内で事故死に見せかけますね・・・」
それもそうである。ちょっぴり被害妄想が過ぎたようだ
モトキはゆっくりと、右頬を掻く
しかし、初接触の時もベルガヨルと共に部屋へ訪ねて来た時もバトラー服だったので今回の服装に違和感がある
イメージの定着とは、こうまで見慣れない姿の違和感を覚えさせるのか
「復!活!本当は数秒前からとっくに治っていましたが、お待たせしました」
「いやぁ、別に今は誰も待ってなかったと思うぞ」
そう言ったオーベールをひと睨み、だがすぐに本心からではない笑顔を浮かべる
「ベルガヨル様が連れていかれてしまい、2名様に逆戻りの振り出しになってしまいましたねモトキ殿」
「これから手当たり次第、1人か2人でいるやつに声をかけていこうとしていたところだ」
「これはこれは、では声をかけるべきは誰からも誘われず、自分からも入り込めない1人だけで結構ですね。私達2人がモトキ殿、貴殿の足りない人数の足しとなりましょう」
彼に一筋の光が天より照らす。この必要性はなんなのだろう?
その横で、女性の方はライトグリーンの髪先を指でくるくるいじっていた。先程、切り落とされそうになっていた際に触れられたのが良い気分から遠ざけられてしまったようだ
「この者はさておき、モトキ殿は私達と組むのを快く受け入れますか?深く考えないでいでください。あの時の借りの返しだとお思いならばお捨てに・・・誰にも誘われなくて寂しそうだからの理由で借りを返されるのも嫌でしょう」
「それだとあまりに俺達が惨めだな。わかった、ここでベルガヨルの付き人を断ったら逃した魚が大きい。正直、あまりお前達のことを知らないから不安もあるけど、オーベールはOK?」
「OK」と軽く返事。これで4人、残り1人
待っていても、1人余っている者を入れて来そうだが
「いやぁ、良かったですよ。断られたら急いでベルガヨル様の元に戻り、断られちゃったと報告しなければなりませんからね。連れていかれている最中、ベルガヨル様より承った指令を無駄にならず済みそうです」
「なんだ?ベルガヨルってモトキと仲良いのか?タイガといい、モトキはMaster The Orderに知り合いが2人もいるんだなぁ」
「なり行き先がたまたまだっただけだ」
ここで仲良くなった覚えはないと否定したりすれば失礼になるだろう
必要ない首突っ込みをした結果なのだから




