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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
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チームF

最近は蒸し暑さが増し始め、学園にて制服のシャツボタンを上から1、2個外して妙に色っぽい女性生徒が目立つようになってきたこの頃

ジョーカーの参上と革命軍の襲来以降、都市内とモトキの周りで大きな出来事は特に無かった

外での出来事は革命軍と一戦闘があった数日後、バクス・バクトゼアヌという一国の王家が滅んだというニュース

あの日の新聞、不思議とその記事部分をしばらく凝視してしまっていた

そんな着ているジレのせいで、目に暑苦しくなるといちゃもんをつけられたモトキは今、隣にオーベールがおらず喋る相手もいないので席で大人しく顔を伏せる


(帰ったら散乱した肌着達の片付けでもするか・・・)


帰る頃には忘れているであろう予定を考えてから頭を空っぽにして眠りにつこうとしたが、後頭部に軽い衝撃

シンプルに叩かれた。誰じゃワシの眠りを妨げる愚か者は?と、永きに渡り眠りについていた者の真似をしようとするが気力が起きず、内心で呟く

オーベールが隣に座っている。手には筒状にした新聞、それで叩いたのは明白

この新聞は読む為ではなく、ましてやオーベールの物でもない。教室に戻り、自分の席に向かう途中で他の生徒の席に置かれてあった新聞である

伏せているモトキの頭でも叩いてやろうと


「寝不足か?夜の就寝前に、ふと未来について余計に考えてしまって不安で眠れなかったのか?眠れない時は10秒逆立ちすれば良いって祖母ちゃんが言ってた」


「アグレッシブな祖母だったんだな」


寝不足なのは昨夜から今日朝までタイガに刀で、自らは剣を手に相手をしてもらっていたからである

空に青みが色づき、没頭しすぎたと自身に呆れ笑い、そのまま学園に来た

着いた頃は身体の暖まりがまだ高く、湯気が出ていたせいでいつも以上に誰も近づいてこず、それどころか避けられてすらいたようだが自覚なく

顔を洗ったぐらいなので隣の席にいるオーベールは少し汗臭さを感じていた


「勝手に手に取った新聞に目を通してみたけど、聖帝や帝の活動、代替わりしたり亡くなった国の王族に政ばかりだな。さっぱり分からんし、興味もねぇ」


「何気にジョーカーがこの街に現れたのがこの2ヶ月で1番のニュースだったな」


最近、自分の周りが平和すぎる。良いことなのだが、そのはずなのだが・・・

時折、意識と関係無しに自分の奥の奥から本能と抑制に挟まれ捻り抜け出そうとしているもう1人の飢えた獣の如く自分が囁いているような、ふとした時にほんのちょっと、髪に優しく触れられたぐらいのように刺激してくる。闘争本能という蓋を

やはり、これもあの治癒する力が目覚めてからの影響なのだろうか?


「話題変えるけどさ、2日後に野外演習あるじゃん」


「前々から言われてたな、そういえば・・・」


2週間程前より報された高等部1年が行う、この学園毎年の伝統行事らしい

精細は当日だが、大方これからの為に1度経験しておくのとしないでは全然違うや、外や自然に触れることで健康の増進を図る処置の為と毎年同じに言い慣れた内容を言うのだろう

欠席したら成績に響き、留年の一歩手前立たされるらしい。ただでさえモトキは山へ老婆を送り届け、生の川魚にあたったり、ジョーカーとの戦闘後に入院したおかげで入学してからけっこうな頻度で休んでいるので参加せざるを得ない

タイガとミナールらは来年かと、ふと2人が浮かんだ


「去年経験した先輩方に聞くのもありだと思ったんだけどさ、そこは当日に触れてみるのが1番じゃん?」


「お前、そこそこ楽しみにしてんだな」


昨夜もタイガと山の木々に囲まれる場所にいたのに、今更野外での演習に新鮮味が皆無。幼少の頃から遊び場となってくれていたからもある

虫捕りに、見つけた洞窟に入ってみたりと危険は考えすらしなかった。遅くまで駆け回り、そのまま川近くの茂みに寝転がり朝まで寝てしまったたこともあるが今思えばよく狼等の餌にならず済んだなと

あの時は3人だった。でもタイガの兄と2人の時の方が多かった気もする

まだ定まらぬ、想像もできずにいた将来について眠ってしまうまで幼くも語ったものだ。その魅力と美しさに気づけないでいた星空を見上げながら


(早いな・・・)


時の流れ、あの時は確かにゆっくりと遅ずぎる経過であったが、思い返すとなるとこうも早い

オーベールから新聞を取り上げるような形で、何気なく適当な一行に目を通すが興味が掻き立てる記事ではなかった。返そうとするが、「あっ!」と突然に隣の彼が叫ぶ

どう見たって怒った顔のクラスメイトである女性がこちらにのしのしと向かってきており、着いた時に一撃をおみまいされてしまう予感がする。オーベールは新聞を指さしていた

たかが新聞ごときにと言いたくなるものだが、もしまだ読んでいた途中であって、それに勝手に拝借したものなのでそうは言えない。100オーベールが悪い、だが新聞は自分の手にある


「べ、弁明させて」


モトキ、弁明できず。その流れのまま、言い返せなかった

そして放課後、学園に残る用事も理由も無く、そそくさ帰路につく。今日の陽の傾きは遅め

なんだか、もの凄く甘い物が食べたい。タルトにしよう

あの生地が好き。あの生地を邪魔せず、相性の良いものにしよう。ラズベリーやストロベリーは定番、キャラメルアーモンドやチョコレートも良い。しかし数種類のフルーツを使ったり、柑橘類のものは除外


「こういった時に、店を知ってそうなやつがいればな。ミナールとかは・・・!って、なに当たり前のように聞こうとしているんだ俺は」


「呼んだ?」


ギクッ!と背筋に電流のようなものが走った。何故か恐る恐る、たぢろぐ様子で振り返るとまごう事なきミナールの姿が。噂をすれば影をさされた

暑いのかシャツ上の制服は袖を腰に巻き、前で結んでいる


「ど、どうも」


「なによ、刺客を送って第三者に殺されたように見せかける為に裏で手回ししたはずなのにどうして生きている?みたいな裏切り者の顔して」


「喩えがよくわからんな」


久しぶりに顔を見た気がする。互いに

元々1学年違い、普段彼女とは気軽に会える関係ではないことを忘れかけてしまう

それ以前に、タイガも同じはずなのだが


(最近はベルガヨルともよく顔を合わせるな・・・)


あの日から、学園でベルガヨルがよく声をかけてくれる

この前なんてどうやって突き止めたのか自分が住む寮の部屋へ遊びに来た。帰れと摘み出すわけにもいかなかったので、3人分のコーヒーをテーブルに無言の過ごし

彼の付き人である男性がお手製のシフォンケーキを、しかしベルガヨルは手をつけずコーヒーだけを飲み終えて帰ってしまった。本当に、何をしに来たのだろう?


「暇してるの?」


「そこそこに暇だな、目的はあるけど。無性に甘いものが食べたくなってさ、予定の無かった放課後にうまいタルトがある店を捜す目的ができた」


「あんた見た目に似合わず・・・」


クスクスと、口を手で隠しながら笑う


「見た目はどうでもいいだろ。それより、もし良い店を知っていたら教えてほしい」


ミナールは考えた。自分も放課後、暇である

実家の祝い事にいつもお世話になっている高級店、そこのパティシエの兄弟弟子がいるお店がこの街にある。知ってはいるが今すぐに教えるべきか?


「私も一緒に捜してみよっか?暇だし」


「おぉ、それは助かる」


彼女は右肘をモトキの胸部へぐりぐりと押し付けてから「さ、行こ」と先導に。機嫌が良さそうだ

やっぱり年頃なのだろうと、初めて会った時とは印象と雰囲気が違って微笑ましい

そんなミナールの後を付いて行こうとした時だった


「おーい、モトキ君じゃない」


呼び止められた。誰だ?という頭の中に浮かびはなく、聞き覚えのある声

彼の名を呼ぶ声に、ミナールの足も止まる


「チセチノさんじゃないですか」


彼女は街の憲兵が全員殺害され、その代理として配属されていたエモンが隊長を務める部隊に属する

憲兵も新しく配属され、1ヶ月の任期は終了のはずだったのだが、前憲兵達の不祥事を報告したらしく見張りを兼ねての延長させられてしまったようだ

革命軍との戦闘があってから、チセチノからモトキへの少しピリついた視線は綺麗に取り除かれている


「帰りかしら?」


「えぇ、暇を持て余す放課後です。チセチノさんは見回りに?」


「当番じゃないんだけど、隊長がね・・・訊ねるけど隊長をお見かけしなかった?」


「いやぁ、今日はエモンをお見かけしていませんね。また仕事を放ったらかしにして消えたのですか?困った隊長さんだな」


「もういっそのこと、隊長を蹴落としてあなたを隊長に着任させるのもありね」


冗談であろう、冗談であってくれ。そういった人を束ね、指揮する立場には向いていないことを自分が他の目線以上に自覚している

もし本気だとしたら、タイガに応援要請してでもエモンを全力で探し出す。ケツを蹴ってでも戻らせよう


「探しましょうか?自分も」


「本当に?お言葉に甘えて協力してもらおうかしら?」


突然けられた、太腿辺りを

「ちょっと・・・!」と、怒り気味


「すみません、協力したかったのですが先約がありまして・・・途中見かけたり自分のところに訪ねてきたら戻るように言っておきます。逃げたり嫌がったらぶん殴りますので」


ここで一緒にどうですか?と誘ったらダメなような気がする。今日の本能は冴えていた

いつもどおりの普通だったら無理だったであろう


「あら、そう・・・あなたも生徒同士の付き合いが大変ね」


チセチノはモトキの肩に手を置き、「では、これにて失礼」と一言述べてから去っていった

ミナールはむっとした顔をしている。去り際、チセチノはチラリとこちらに顔を向け一瞬だけ笑みを覗かせてきたのが引っかかっており、気に入らない


「さ、行こうか。タルトだ、タルト」


傾く陽が照らす街に、2つの影。並び歩む影の片方が、肩に掲げていた鞄で片方の肩をビシビシと軽く叩き続けていた



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