《1日目》私たち付き合ってます
「……」
「か、彼女ぉォ!?」
「うん。私たち付き合ってます」
僕は驚きのあまり裏声で叫んでしまった。
恵美は黙っていた。この時の僕にはその表情からは心情は察せなかった。
「そ、そんなに驚くことはないだろ。そもそもお前には話しただろ。俺の好きな人の話」
「え、ああそうだった。けど……」
優輝は好きな人の話はしたが、告白するとは聞いてなかった。つまり優輝の好きな人の話の後、もし僕が恵美が好きなことを言っていたら優輝は告白する事を僕に伝えた、という事だろう。これが《元の世界》と《ifルート》の違いだ。
『《ifルート》はあの時逃げなかった後の《世界》か?』
「そんなに驚くなんて……お前、俺の告白が成功するって微塵にも思ってなかったのか?逆に恵美は驚きもしないし……」
優輝がショボーンした。確かに《ifルート》の状況を理解してないにしても少々驚きすぎた。これじゃそう思われても仕方ない。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「別にいいさ。それにしても帰りに恵美に鈴奈を紹介してビックリさせようとしてたからお前が恵美にこの事バラしたかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
教室で僕にバラしたかどうかを訊いてきたのはこの為だったらしい。
「……」
『マズイな……恵美は優輝の事が好きだったんだ。ショックだろう……』
恵美はずっと黙っていた。間を作るのはマズイのでとにかく話をすることにした。
「えっと、これから二人はどうするの?」
「うーん、考えてなかったな」
「私は今日は一緒に帰りたかっただけし、二人が良ければこのまま四人で帰っていいかな? 二人とはお友達になりたいし」
鈴奈の意見に賛成したかったのだが、恵美の事が心配だった。本当は恵美を慰めるなり励ますなりする為に別々に帰りたかったのだが、元々は三人で帰るつもりだっただけに断りづらかった。とりあえず恵美の意見を聞くことにした。
「恵美はどうする?」
「えっ、あ、うん。いいよ」
これは当時の僕から見てもやせ我慢にしか見えなかった。今思うと『二人の邪魔するのもなんだから〜』とか言った方が良かっただろうか?
「おい恵美。様子が変だぞ」
やはり優輝が突っ込んできた。優輝は人のことよく見てたからな。気づかないわけないと思っていた。
「そ、それは優輝がこんな可愛い彼女できるなんて思ってなかったからね」
「俺ってそんなにモテない様に見えんの……」
「うん。いや、だからこそ嬉しくって! よかったね、優輝! 鈴奈さんを幸せにしてやりなさいよ!」
「お、おう! 任しとけ!」
結局優輝は恵美の異変に気づかなかったんじゃないだろうか? 僕も平気そうだと思ってしまった。それぐらい恵美の演技はうまかった。
「じゃ、帰りましょう」
「うん」
四人で帰ることになった。とりあえず鈴奈のことを知りたかったので適当な質問をする事にした。ただし二人の恋愛事情を聞くと恵美が傷つくかもしれないのであくまでも触れないように質問した。
「そーいや鈴奈さんってどこのクラス?」
「呼び捨てでいいよ。クラスはお隣さんだよ」
「あれ? 気づかなかった…」
「まあ隣のクラスなんてわからなくて当然だよね。合同なのは体育だけ、それも男女別だし」
なんで二人が出会ったのかが気になったがまた後日にしておくことにした。
「私からも質問していい?」
意外にも恵美が鈴奈に向かって質問をした。
「なんでも聞いて」
「得意科目はなに?」
「国語だよ」
「おっ! なら明日さあ三人で国語の勉強会する予定だったんだ! 鈴奈も来ないか?」
優輝が鈴奈を勉強会に誘った。今思うと恵美もそのために得意科目を訊いたのかもしれない。
『《ifルート》でもその約束してたのか…ってそれはまずいんじゃないか?』
僕は恵美が立ち直れてなかったら明日鈴奈が来るのはマズイと考えた。
「いいんじゃない?」
当時の僕の予想とは違って恵美は割と普通に鈴奈と会話してた。
『もしかして《ifルート》の恵美は優輝のことを好きじゃないのか? いや、まだ判断は出来ないか。とにかくここは……』
「そうだな。四人で勉強会するか」
「そうすっか!」
「ありがとう」
明日の約束をした後、僕の家についたので三人と別れて帰宅した。部屋に戻った僕は今までの情報をまとめる事にした。
『さて、とりあえず《ifルート》について考えていくか……ルーシー?』
『なに?』
『僕の推測にYesかNoか答えてくれるかな?』
『答えられる質問は答えるよ』
僕は今日あった出来事を頭の中で思い出し整理してみた。
『まずこの《ifルート》は僕が逃げなかった、優輝が事故に合わなかった《世界》……違うかな?』
『Yesね。でも……』
『そうか……ここは僕の望んだことが叶った《世界》。違いはそれだけじゃないんだね?』
『Yes』
とりあえず僕が望んだ事と思われる事をいってみる事にした。
『恵美が優輝の事が好きじゃない世界、あるいは僕のことを好きになっている世界かな?』
『それは自分で考えなきゃいけないことよ。私は人の考えを読めても誰かに言うことはできるだけしたくない』
『そうか。それもそうだ……』
確かにこの質問はやめておいた方が良かった。僕の願いとしては可能性が高いかもしれなかったが、他人の考えを盗み見るような真似はしない方がいい。
『ありがとう。これからも質問していくと思うけど、いいかな?』
『ええ、いいわ』
『ありがとう』
『……敬語、やめてくれたんだね』
『あ、すみません』
『いや、いいのよ。普通に喋ってくれた方がこっちも話しやすいし』
『じゃあこれからは普通に喋ることにするよ』
ルーシーとの会話を終えた僕は明日の勉強会に備え準備を始めた。部屋の片付け、掃除、教科書の準備にお菓子の用意などやることは多い。普段から片付けができたらいいんだが、なかなかできない。今もそうだが。
しばらくして携帯がなった。
『誰からだ?』
電話は恵美からだった。




