《6日目》屋台
「ごめん待たせちゃったな」
「大丈夫、待ってないよ」
そんなお決まりの台詞を言いながら僕らは約束通り神社の南門に集合した。恵美はお祭り定番の浴衣……ではなく普段着だった。優輝が来ていたら浴衣で来てたんだろうか……だとすると僕は男として意識されてないってことなんだろうな、と心の中で苦笑しつつも笑顔(のつもりの表情)をして言った。
「じゃ行こう」
「うん」
神社は南から北へと縦に長い構造をしていて長い坂になっている。アスファルトで整備されていない道の橋を賑やかな屋台が飾る。
しばらく歩いていると低音の渋りのある声で引き止められた。
「よーそこのカップル! ちょっと射的でもやってかないかい!」
最初は誰が呼び止められてるのか分からなかった。
「そこのあんたらだよ!」
どうやら僕らのことだったようで少し驚いた。周りから見るとカップルに見えたりするのか……などと少し嬉しかったりしたけど表情には出さない。ポーカーフェイス。喜びを悟られないよう冷静に否定する。
「僕たち別に付き合ってませんよ」
「こいつは失礼! まぁ確かに改めて言われてみればそんな感じじゃねえな! ガハハ!」
そんな真正面から言われると流石に傷つく。僕の豆腐メンタルが、ガラスのハートが傷つく。恵美を見ると「冗談が上手いですね」って感じで笑っていた。ブロークンマイハート。
「せっかくだしやってみたら?」
「そうだな、じゃあ一回だけ」
恵美のの提案に乗る。別にカッコいいところを見せたかったわけじゃなくて射的が好きで特に深いわけは以下略。オッちゃんにお金を渡し銃を握る。
狙うのは倒れやすそうな薄い箱のお菓子。射的はできるだけ前のめりになって撃つのがセオリーな気がするけどその姿勢がなんだかダサいので止めておいた。それでもできるだけ近距離で撃ちたいので精一杯腕を伸ばして撃つことにした。
狙いをつけて引き金を引くと、ポンッと情けない音とともに玉が発射された。一発目は残念なことにギリギリお菓子には当たらなかった。
「惜しい! もうちょっと右!」
恵美の言葉に従い少し角度を修正して二発目を撃つ。今度は見事に命中した。
「やった!」
「お、やるね兄ちゃん!」
三発目、四発目と外して最後の一発。僕は恵美に欲しいものを聞いてみることにした。
「そうね、あのストラップがいい」
恵美が指差したのは可愛らしいクマのストラップ。しかしストラップだけにやはり小さい。当たると直ぐに倒れるだろうが当てるのが至難の技だ。
「なかなか、難しいこと言うな…」
つい苦笑いを浮かべてしまったが恵美の頼みを断る理由もなく、じっくりと慎重に狙いを定めてから撃つ。奇跡的にストラップに命中するが玉の威力が思ったより強くクマが勢いよく宙を舞った。
「「クマー!」」
そのまま凄い勢いで後ろの積み重なった細いお菓子の箱に激突する。
「「クマ──!!」」
そしてなんということだろうか。そのお菓子の箱は雪崩のように崩れ落ち、クマが下敷きになった。
「「クマ───!!!」」
「なんか……ゴメン」
ちなみにクマクマ叫んでたのは恵美とおっちゃんである。射的で標的を当てれたのに罪悪感を感じたのは初めてだ。
その後おっちゃんによりクマは無事に救出され、クマは恵美にプレゼントした。恵美は屋台を離れた後も心配そうな顔で小さなクマのストラップを撫でていた。
「ストラップのお礼にあなたには《クマ殺し》の二つ名を授けるわ」
「イラナイ」
奇跡のミラクルショットで得たのは不名誉な二つ名と謎の罪悪感だ。なぜこんなことに。げんなりとする僕を見て恵美は笑った。
「冗談よ、ストラップありがと。大切にするわ」
そう言うと恵美は持っていたカバンにクマのストラップを取り付けた。
またしばらく歩いていると優輝と鈴奈を見つけた。僕は二人の邪魔をしたくない(邪魔されたくないとも言う)ので恵美と一緒に遠くから様子を見てみることにした。なにやら鈴奈がとある屋台を発見してキラキラと目を輝かせていた。
「私あれしたい!」
パタパタと腕を振って体全体でワクワクを体現していた。その輝く瞳に写っていたのは輪投げだ。
「じゃあちょっとやって「おじさん、一回お願いします」はや!」
優輝が話し終わる前にさっさと始めようとする鈴奈。呆れ半分で僕は言った。
「よほど楽しいみたいだな……」
「そうね、二人とも楽しそう……楽しそうだけどなんだか鈴奈ちゃんは危なっかしいわね」
恵美と僕がが不安げに見守る中、鈴奈は輪投げのおじさんに五つ輪を貰うとさっそく景品に向かって輪を投げた。
「ヨイショー!!」
上投げで。
「う〜ん……一つ目は潰れなかったね」
「これそういうゲームじゃねえから!」
どうやら相変わらず鈴奈は鈴奈みたいだった。
「どうして《世界の記憶》があるのにあんな天然ボケができるんだろうか。正しい輪投げの仕方ぐらいわかるだろうに……」
「言われてみればたしかにそうね」
この時の僕は知る由もないが鈴奈の《世界の記憶》は頭の中にアルバムがある感覚らしい。もちろんアルバムを開かなければ記憶を見ることはできないという訳だ。それでも輪投げの正しい仕方が分からないのはどうかと思うけど。
輪投げを楽しむ二人を後にまた僕らはまた歩き出した。その後金魚すくいをしたりスーパーボール救いをしたり焼きそば食べたりりんご飴食べたり焼きそば食べたりお面を買ったり焼きそば食べたり焼きそば食べたりしてお祭りを楽しんだ。恵美も僕もずっと笑っていた気がする。
「焼きそば多くね?」
「いいじゃない別に……好きなのよ」
なんだかんだとしてる間に(ほとんど焼きそばだった気がするが)神社の北端にある広場に着した。ずっと登り坂or階段だったので足を休めるため広場の端のベンチに腰掛ける。
「結構色々回ったな」
「うん、特に二番目の焼きそばが一番美味しかったわね」
「……いや分かんないけど」
「四番目の店も捨てがたかったけど……やっぱり二番だわ。タレが違う」
「うん……そだな」
「……ねぇ」
少し間を空けてから恵美は僕の目をジッと見てから言った。
「今日は楽しかった?」
笑いながら問いかけてきた。
「楽しかったよ」
「うん、私も」
足をパタパタと恵美にしては珍しい子供らしい仕草をしながら彼女は言った。
「もっともっとこれからもみんなで楽しもうよ」
「……」
その言葉に僕は沈黙で答えてしまった。恵美は僕の顔を不思議そうに覗き込んできた。なんとか僕は笑みらしきものを浮かべて───と言った。
「そっか……」
そう言った恵美の顔は笑顔だった。ただその笑顔はたった一色に染め上げられていた。
多分それは悲しみと呼ばれる色だ。




