《追憶》手
小学五年生の頃だ。
夏休みが始まる数週間前に珍しく恵美の提案で恵美と優輝と僕と保護者として優輝の母親の四人で夏祭りに行った。
その日初めて優輝の母親と会ったのだがとても優しくて綺麗な人だと感じた。優輝の母は聞いた話だとハーフとのことだった。たしか金髪で赤い目をしていた。優輝がクォーターだと知ったのもその時だ。まぁ優輝は日本人らしい顔立ちだったし、あまり外見は似ていない。強いて言うならまつ毛の長さが遺伝してたかな。
祭りは近くの神社で行われており、地元民の入れ込みようが凄かったので結構大掛かりだ。大太鼓から発せられる体が震えるように響く音、リズムに合わせて盆踊りをする人々、お面をして綿菓子片手に親と手をつなぎながら歩く子供。初めて祭りに来た僕にとっては全てが新鮮だった。
あの時の記憶は鮮明に覚えている。提案者である恵美に勧められるままに綿菓子に焼きそば、たこ焼き、射的にお面をかってくじを引いた。どれも凄く美味しくて楽しくて、全てが輝いて見えた。優輝の母が写真をたくさん撮ってくれて何度も笑顔でピースサインをした。僕の両親はその時の写真を見て泣いて笑っていた。それほど僕は笑顔の少ない子供だったらしい。
恵美に手を引っ張られながら色々な場所を回っているうちに、初めは赤かった空も次第に黒く染まっていった。時間の経過と共に人も多くなって来てしまい流れに逆らえないまま人の波に流され僕と恵美は優輝と優輝母とはぐれてしまった。
僕は恵美とはぐれないように恵美の手を強く握った。恵美も応えるように手を握ってくれて、何故だか安心できた。無我夢中で人ごみの中を進んで行くと人のいない高台へとたどり着いた。
僕らはそこに座り込み、二人が来るのを待つことにした。しばらくしても二人が来る様子がなく、とうとう恵美は泣きそうになってしまった。僕が大丈夫? と聞くと俯きながら首を振った。僕はなんて声をかけていいのか分からずにただ手を繋ぐことしかできなかった。握ったその手は酷く冷たく感じた。
またしばらくすると恵美が泣きながら僕にゴメンね、と謝った。なにが? と聞くと彼女はこう言った。
本当は君に祭りを楽しんでほしかったのに、こんな事になっちゃった。もっともっと楽しめた筈だったのに。
恵美の手はまるで怯える小動物みたく震えていた。きっと僕を迷子にしてしまった事に責任を感じてしまっていたのだろう。だけど、そんな恵美の様子を見て僕は不覚にも笑ってしまった。何がおかしいの? と涙目で問いかけてくる彼女に、僕は言ったんだ。
今日は今までで一番楽しい一日だったよ。
不思議と、握ったその手が温かくなったように感じた。




